感染症対策をうたう家庭用除菌剤等の実態、健康被害及び規制状況調査

文献情報

文献番号
202006024A
報告書区分
総括
研究課題名
感染症対策をうたう家庭用除菌剤等の実態、健康被害及び規制状況調査
研究課題名(英字)
-
課題番号
20CA2026
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 良明(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
研究分担者(所属機関)
  • 河上 強志(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 吉岡 敏治(公益財団法人日本中毒情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)により、我が国も新型コロナウイルス感染症のまん延防止等のため、東京都などで緊急事態措置が実施されている。感染防止のためにはマスク着用、手洗い、うがい等の基本的な感染対策の実践のほか、手指や物品の消毒が有効とされており、新型コロナウイルス感染防止対策と称する様々な除菌剤製品が市場に出ている。一方で、有効性が低い製品使用による感染拡大や、安全性の確認が取れていない成分を配合した、あるいは危険な製品設計に基づき製造された製品の使用、さらに、消費者の想定外の使用方法による健康被害事故の発生が懸念されている。本研究は、感染症対策をうたって販売されている、家庭用製品や室内空間に使用される除菌剤等について、使用方法に関する注意喚起や規制基準の策定、及び適切な製品設計に資することを目的として調査した。
研究方法
1. 市場流通品の実態調査
除菌効果等をうたうスプレー製品、ジェル製品、加湿器用製品等、135製品を購入し、使用している成分や使用方法に関する表示を調べ、それぞれの有効成分を分析した。次亜塩素酸類製品は有効塩素濃度を、二酸化塩素類製品は、二酸化塩素、亜塩素酸イオン及び塩素酸イオン濃度を測定した。アルコール類製品はethanolのほか、不純物である揮発性有機化合物(VOCs)12化合物などを分析した。界面活性剤類は陽イオン界面活性剤9化合物及び非イオン性界面活性剤3化合物、一部製品はポリマー系抗菌剤3種についても分析した。必要に応じてpHを測定した。
2. 健康被害症例報告調査
 日本中毒情報センター(JPIC)に問い合わせのあった除菌剤・消毒剤による事故事例を物品用除菌剤、空間除菌をうたう製品、人体用消毒剤、COVID-19対策で使用した除菌剤・消毒剤以外の製品(漂白剤など)に分けて収集し、過去の発生状況(件数/事故状況/年齢階層/経路/症状の有無/受診率)と比較した。国内外の家庭用除菌剤等の使用に伴う健康被害症例等に関する論文を、国内誌はJ-global、海外誌はPubMedを用いて検索した。
3. 諸外国規制等調査
 諸外国の家庭用除菌剤等に対する規制内容(法律・基準値・根拠)について調査した。また、米国疾病対策センター(CDC)、世界保健機構(WHO)等が発出した消毒剤等に関する注意喚起についても調査した。
結果と考察
製品表示について、消毒や手指に使用できるなどの記載等、薬機法に抵触するおそれがある製品が認められた。加湿器用製品や空間除菌と記載のある製品が認められた。有効塩素濃度が表示よりも低い製品や表示pHと異なっている製品が確認された。エタノール濃度については表示と大きな差異は認められなかった。VOCsについては、いくつかの成分が検出されたが全体として低濃度であった。界面活性剤類は主に塩化ベンザルコニウム類が検出され、製品には陽イオン界面活性剤、除菌剤や抗菌剤と表示されているが、製品によっては何の表示もされていないものもあった。一部pH の高い製品があった。
除菌剤・消毒剤による事故は、COVID-19感染症の流行により著しく増加しており、誤飲や不適切な使用、また誤った情報に基づく誤用による事故が起こっていた。原因となった物品用除菌剤はアルコール製品、次亜塩素酸類製品が多く、刺激作用による症状であった。海外ではメタノール含有の粗悪なアルコール手指消毒剤の経口摂取に関する報告や、店舗のディスペンサーの使用時にアルコールが幼児の目に入った事例があった。各国、Poison Control Centre(PCC)への問い合わせ状況などをもとに注意喚起がなされていた。
欧州連合(EU)、米国及び韓国の規制体制や対応状況を調査した。EUでは、バイオサイド規制(BPR)でヒト用途と環境表面用途を一括して管理し、米国及び韓国では環境表面用途は連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法(FIFRA)及び化学製品安全法、ヒト用途は医薬品法となっている。パンデミック発生時の対応では、BPRでは製品認可を迅速に実施できるプロセスを、米国ではアウトブレイクを引き起こしているウイルス以外で実施した有効性試験結果を基に時限的な緩和措置を導入することができる仕組みが存在していた。
結論
家庭用製品や室内空間に使用される除菌剤等による事故の問い合わせは、COVID-19感染症の流行により著しく増加しており、小児の誤飲や不適切な使用、また誤った情報に基づく誤用による事故が発生している。また新たな成分や使用法の製品の登場も予想され、それに伴う健康被害の発生が懸念される。今後も国内外の事故の発生状況を把握し、継続的な注意啓発など産官が連携した事故防止対策が求められる。

公開日・更新日

公開日
2022-03-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-03-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202006024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
感染症対策をうたった家庭用製品や室内空間に使用される除菌剤等に、消毒や手指に使用できるなどの表示記載等で、薬機法に抵触する恐れがある製品が認められた。有効塩素濃度が表示よりも低い製品や表示pHと異なっている製品が確認されたが、エタノール濃度は表示と大きな差異は認められなかった。除菌剤・消毒剤による事故が増加しており、誤飲や不適切な使用、誤った情報に基づく誤用によっていた。各国において注意喚起や時限的な緩和措置を導入することができる仕組みがなされていたことがわかった。
臨床的観点からの成果
なし
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
除菌剤・消毒剤の使用は日常化しており、継続的な注意啓発が必要であると考えられた。新たな成分や使用法の製品の登場も予想され、それに伴う健康被害の発生が懸念されることから、今後も国内外の事故の発生状況を把握し、産官が連携した事故防止対策が求められる。
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
河上強志,田原麻衣子,五十嵐良明:家庭用除菌剤等による健康被害及び諸外国規制状況.中毒研究2021; 34: 68-72.
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
日本薬学会第142年会(2022.3), 第58回全国衛生化学技術協議会年会(2021.11), 第43回日本中毒学会総会・学術集会(2021.10)
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
中毒情報センターホームページ,2021年2月17日.除菌剤・消毒剤が眼に入る事故に注意しましょう. https://www.j-poison-ic.jp/report/eyeexposure20210

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
森家 望, 飯田 薫, 三瀬 雅史, 他
中毒情報センターから COVID-19に関連する除菌剤・消毒剤等による健康被害 日本における発生状況および海外の注意喚起状況
中毒研究 , 35 (1) , 60-65  (2022)

公開日・更新日

公開日
2022-03-03
更新日
2025-05-23

収支報告書

文献番号
202006024Z