文献情報
文献番号
202006014A
報告書区分
総括
研究課題名
東京地下鉄サリン事件等におけるカルテ等の救護・医療対応記録のアーカイブ化とレファレンス機能構築に向けた実証研究
課題番号
20CA2014
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
奥村 徹(公益財団法人日本中毒情報センター)
研究分担者(所属機関)
- 前川 和彦(社会医療法人 東明会 原田病院)
- 石松 伸一(学校法人聖路加国際大学 聖路加国際病院)
- 那須 民江(中島 民江)(中部大学 生命健康科学研究所)
- 山末 英典(浜松医科大学 精神医学講座)
- 横山 和仁(国際医療福祉大学大学院 医学研究科公衆衛生学専攻)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
東京地下鉄サリン事件の風化は残念ながら確実に進んでいる。そのため被害者の診療録が廃棄されるなど貴重な記録が散逸しつつある。本研究では、東京地下鉄サリン事件における医療・救護情報のアーカイブ化及びその活用に関する基本構想を研究した。
研究方法
地下鉄事業者(帝都高速度交通営団(現東京メトロ))、地区医師会、消防(搬送記録)、警察(被害届)、検察、裁判所(裁判記録)、被害者団体、被害者支援団体、防衛省、科警研、メディア等(NHK、新聞各社、通信社、テレビ局、ラジオ局等)、著述家、出版社、地方公共団体等関係機関へアーカイブ化について広範にアンケート調査を行った。また、事件に関わったキーパーソン(松本サリン事件医療関係者、東京地下鉄サリン事件医療関係者、防衛省関係者)のオーラル・ヒストリーを聴取開始した。これは30年後に公開すると言う条件で忌憚ない教訓を語っていただいた。
結果と考察
昨年度に行った医療機関の調査では低い回答率が目立ったが、公的機関では一部に、調査の法的根拠が明らかにされない限り、回答できないとした機関はあったものの概ね広範にご回答を頂けた。アーカイブ化のための情報提供には、情報公開法の不開示に該当するのでは、との懸念も寄せられた。一方、報道機関は14機関のうち、ご回答を頂けたのは3機関(21.4%)のみであったが、回答いただけた機関の反応は良く、アーカイブ化への関心、理解に濃淡が分かれた。また、市民団体からは数々の疑問点が寄せられ、現状ではアーカイブ化に協力できないとの回答もあった。法的には診療録の保存期間、公文書の保存に関して、現行法で定められた枠組みではアーカイブ化に支障をきたす事が明らかとなった。オーラル・ヒストリーでは、事件に関わる貴重な証言を得る事ができた。また、本研究班の取り組みは新聞、テレビ、webなどで取り上げられ、社会的関心も高まった。
結論
疑義にひとつひとつ答えてゆくことが、市民の納得するアーカイブ化のためには必要かつ重要だと思われた。法的には、存命被害者の数が膨大であること、事件から既に二十余年もの長年月を経ていることからすると、本人の承諾を得るという手段には限界があるため、匿名化の手段を積極的に検討せざるを得ない。しかし、個人情報を完全に消去してしまうと多機関の情報を紐付けできなくなってしまう。その意味では、情報を保持する関連各機関で個人情報まで含めた完全な0次情報をそのまま機関内で保存して頂き、50−100年後に個人の利益を害しない状況下での分析を待つのも一手かもしれない。いずれにしてもまずは、各機関で関連情報が散逸、逸失、廃棄されないことが第一段階であると思われた。その一方でオーラル•ヒストリーが本格的に収集されれば、アーカイブの重要な柱の一つとなるものと期待された。
公開日・更新日
公開日
2021-07-03
更新日
-