わが国におけるゲノム編集技術などを用いたヒト受精胚等の臨床利用のあり方に対する関係者の意識調査~Web調査による横断的研究~

文献情報

文献番号
202006005A
報告書区分
総括
研究課題名
わが国におけるゲノム編集技術などを用いたヒト受精胚等の臨床利用のあり方に対する関係者の意識調査~Web調査による横断的研究~
課題番号
20CA2005
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
竹原 健二(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 研究所 政策科学研究部 研究開発研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 浦山 ケビン(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 社会医学研究部)
  • 小林 徹(国立成育医療研究センター 臨床研究センター データサイエンス部門)
  • 武藤 香織(国立大学法人東京大学 医科学研究所 ヒトゲノム解析センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究目的:近年、遺伝子改変に係る技術の進歩はめざましく、特にCRISPR/Cas9を代表とするゲノム編集技術が開発され様々な分野で利用され始めている。わが国では内閣府や厚生労働省の専門調査会・委員会によって、当該技術を用いたヒト受精胚の臨床利用の課題を整理するとともに、法規制のあり方について検討がおこなわれてきた。一方で、当該技術は、難治性疾患に対する根本的治療になりうる可能性もあることから、法整備を進める一方で、将来的に技術的な安全性や十分な体制が担保された場合に利用可能となることも視野に含めながら議論がおこなわれている。
本研究班では、わが国おけるヒト受精胚へのゲノム編集技術の臨床利用に対する意見・認識を把握することを最大の目的としつつ、人々の認識をより適切に収集・評価するために、ゲノム編集技術に関する課題や論点、可能性や問題点などの理解を助けるための教育的な動画資材の開発もおこなった。
研究方法
研究方法:文献や厚生労働省の専門委員会の資料などの関連資料をもとに、①ゲノム編集技術の概要、②ゲノム編集技術の臨床利用と問題点、③ゲノム編集技術がもたらす懸念、の3つの動画を作成した。
 本研究では、①患者団体(日本難病・疾病団体協議会および難病の子ども支援全国ネットワーク)の会員、②一般市民、③医療従事者(ゲノム編集技術の利用や難治性疾患の患者の診療に携わると想定された医療従事者)の3つの集団を対象に、Webアンケートを用いた横断調査を実施した。調査票は全28問(選択式設問27問と自由記述式1問)で構成した。ゲノム編集技術の安全性や社会倫理的な課題および論点について情報を整理した上で回答を得るために、調査票の中に上記3点の動画視聴を含めた。対象者にはWebアンケートシステム上で「同意」の意思を確認し、回答の送信を持って同意が得られたとみなした。動画および調査票は、当該技術の利用について賛成・反対のいずれにも誘導することがないよう、専門委員会などで提示されていた課題や検討事項を整理して提示できるよう努めた。研究実施に先立ち、国立成育医療研究センターの倫理審査委員会の一括審査によって承認を得た(承認番号:2020-039)。
結果と考察
結果と考察:合計3,491名の有効回答を得た(一般市民2,060名、患者関係者496名、医療従事者935名)。回答者全体で50.5%(1,756人)が男性、女性は49.5%(1,739人)であった。回答前の知識について尋ねた質問では「(ゲノム編集について」聞いたことがあり、その意味や中身についても説明できる」と答えたのは、一般市民6%、患者関係者15%、医療従事者50%に留まった。
ヒト受精胚へのゲノム編集技術の利用を強く希望している家族を想定した4つの事例のうち、「成人期発症の遺伝的疾患」「小児期発症の遺伝的疾患」「胎生致死」については、各対象集団で賛成が36-60%、反対が15%-42%であった。どちらとも言えないはいずれも20-30%程度であった。一方、「エンハンスメント」の事例では、反対が70-95%と高い割合を占めた。ヒト受精胚へのゲノム編集技術の臨床利用を許容する際の安全性や有効性、代替不可能などに対する判断基準については、医療従事者の約30%が条件に関係なく利用すべきではないと回答した一方で、患者関係者ではそうした回答は16%であった。一般市民は「判断できない・答えたくない」の回答が他の集団と比べ多かった。当該技術の臨床利用を規制する法律が必要であると回答した者の割合は一般市民、患者団体、医療従事者でそれぞれ76%、93%、96%であった。一般市民は16%が「判断できない・答えたくない」と回答しており、法規制を望む声が多数を占めた。対象者から得られた自由記述からは、当該技術に対する安全性や社会的・倫理的観点から反対をする意見や、難治性疾患に対する治療法としての可能性、患者やその家族の心情を汲む意見、こうした科学技術の導入よりも、疾患や障がいを受け入れる社会の成熟を求める声、非常に難しい課題で容易に是非を示すことができないといった意見が多くみられた。今後も様々な立場の人を巻き込んで継続して慎重に議論すべきと考えられる意見が多くみられた。
結論
結論:本研究では、自由記述の意見を概観すると、当該技術の利用についての論点や課題は理解した上での回答を得ることができたと考えられる。それでもなお、判断が難しい課題であり、対象集団によっても意見が分かれる課題であることが示された。一方で、法整備ついては高い割合で必要だと回答が得られた。ヒト受精胚へのゲノム編集技術の臨床利用については、法整備を進めるとともに、国民に幅広く、理解をより促しうる形で情報や議論の場の提供をおこなうことが重要だと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2021-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202006005C

収支報告書

文献番号
202006005Z