ICD-11に新たに導入された生活機能評価に関する補助セレクション「Ⅴ章」の活用及び普及に向けた研究

文献情報

文献番号
202006004A
報告書区分
総括
研究課題名
ICD-11に新たに導入された生活機能評価に関する補助セレクション「Ⅴ章」の活用及び普及に向けた研究
課題番号
20CA2004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
向野 雅彦(藤田医科大学 医学部リハビリテーション医学Ⅰ講座)
研究分担者(所属機関)
  • 山田 深(杏林大学 医学部)
  • 大夛賀 政昭(国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
3,088,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ICD(国際疾病分類)-11が2019年5月に世界保健総会で採択されて以降、適用に向け準備が進められている。ICD-11は、疾病に関する分類に加え、生活機能評価に関する補助セクションである「第V章」が追加された。生活機能の評価は元来国際生活機能分類(ICF)が担っているが、1600を超える項目数の多さ、分類項目の説明のわかりにくさ等により課題が多く、これまでの研究により概念の普及や活用例の検討は進んだものの、国レベルの標準的な評価手法の確立や統計への活用には至っていない。そこで、本研究では、まずICFのダイジェスト版ともいえるICD-11の第V章の活用の検討を通じ、生活機能の評価を臨床に取り入れていくための仕組みづくりに取り組んだ。
本研究では、ICD-11の「V章」の活用に向けて、1) WHO-DAS2.0およびMDSに基づく項目群に対し、WHOが用意している質問文の仮訳、2) ICD-11の第V章の採点リファレンスガイドの作成、3)評価者間信頼性の検討、4) 分類についての教育資料の作成、5)開発、翻訳したツールを使用したフィールドテストの実施、6) 既存の評価スケールを使用したICFのリコードの仕組みの検討、に取り組んだ。
研究方法
まず、ICD-11の「V章」のうち、WHO-DAS2.0およびMDSに基づく項目群に対し、WHOが用意している質問文の仮訳を実施した。質問文の翻訳案を作成するため、9名のICF専門家からなる検討グループを形成し、ICDの他章とICFとの整合性に配慮した上で、WHOが提供している質問文に対して翻訳を実施した。
ICD-11「V章」のうち、WHOから質問文が公開されていない、一般的機能の構成要素の項目については、採点リファレンスガイドの作成を行った。リファレンスガイドの作成は、臨床における採点セッション、採点者の思考方法を分析する認知インタビューとその結果に基づく素案の作成、ICF専門家のレビューによる修正、というプロセスで作成した。また、ICFの概念だけでなく、分類としてのICFの構造についての基本的な知識の共有のための説明資料の作成を行った。さらに、前述のリファレンスガイド を用いた採点の検者間信頼性の検討、採点リファレンスガイドおよび翻訳した質問紙を用いた多施設フィールドテストを実施した。既存の臨床評価スケールをICFの分類項目に紐付け(リコード)するための基本的なルール案についての検討も実施した。
結果と考察
ICD-11の第V章の質問文部分の日本語訳の作成および採点リファレンスガイド の作成を実施し、ICD-11の第V章のすべての項目に対し、評価ツールを準備することができた。さらに、採点リファレンスガイド については検者間信頼性を重み付けκ係数を用いて検討し、良好な信頼性があることを確認した。また、基本的な知識と採点方法についての教育資料を作成した。さらに、翻訳した質問文と作成したリファレンスガイドを用いて、フィールドテストを実施した。フィールドテストにおいては、20病院計1102名の採点データを収集した。。「問題あり」(WHODAS2.0及びMDSにおいて2点以上、一般的機能の構成要素において1点以上)と評価される患者が半数を超える項目は全体の83.3%を占めており、通常日常生活活動の評価対象となる歩行や更衣、排泄などの項目だけでなく、活力及び欲動の機能、睡眠機能、日課の遂行など、これまで評価対象となっていなかった項目においても問題が存在することが明らかとなった。また、一般的機能の構成要素の評価(入院患者において欠損値の少ない項目の合計値)は、FIM及びWHO-DAS2.0とよく相関しており、生活機能評価としての妥当性を有していることが示された。また、疾患や年齢のグループ別検討において、グループごとに生活機能プロファイルに様々な違いがみられることが示された。これらの結果は、ICFやICD-11V章を用いて生活機能の問題を広く評価することの意義を支持する結果と解釈し、さらに普及への取り組みとしてコンピューターアプリケーションの作成も行った。また、既存のスケールの情報を共通言語としてのICFやICD-11第V章に読み替えるためのルール作りも行い、生活機能情報をICD11第V章やICFを利用して集約していく素地を作ることができた。
結論
本研究により、ICD-11第V章の全ての項目に評価ツールを用意することができ、信頼性・妥当性も確認することができた。今後は、普及を推進するための教育ツールを作成するとともに、臨床で活用していくための簡単なデータセットの作成など、より実際の活用を想定した仕組み作りを行い、さらなる普及を図る。

公開日・更新日

公開日
2021-07-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202006004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ICD-11において新しく導入されたV章については、WHOでもその活用方法については未だ提示がなされていない。この取り組みはV 章の全項目について情報収集方法を定義する初めての取り組みであり、ICD-11V章を用いた生活機能収集を実施していく上で基礎となる成果を挙げることができた。
臨床的観点からの成果
本研究事業においては、成果として実際に臨床における患者の評価に直ちに使うことができるリファレンスガイド、教育資料、アプリケーションを作成することができた。
ガイドライン等の開発
本研究事業では採点に利用できるリファレンスガイドおよび既存の評価表のリコード(点数換算)の基礎となる項目の紐付けルールを作成することができた。
その他行政的観点からの成果
このような仕組みの作成により、ICD-11「V章」に基づいた情報収集が可能となれば、ICD-11の普及に合わせて生活機能の情報を収集することに役立つことが期待される。このような評価の軸を作ることにより、ICD-11を用いた疾患統計に重症度の情報を追加することができるだけでなく、患者が実際に抱える生活機能の情報を加えることによって、疾患統計が国民生活に及ぼす意味についてより多くの具体的な情報を提供することを可能にする。
その他のインパクト
第9回厚生労働省ICFシンポジウムにおいて成果の発表を行った。また、WHO-FIC協力センター会議において日本における生活機能評価への活用事例として発表を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
第4回日本リハビリテーション医学会秋季学術集会およびリハビリテーション連携科学学会第22回大会
学会発表(国際学会等)
1件
WHO-FIC network annual meeting2020
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
第9回厚生労働省ICFシンポジウム

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-07-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
202006004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,014,000円
(2)補助金確定額
4,014,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,711,024円
人件費・謝金 950,560円
旅費 39,980円
その他 386,436円
間接経費 926,000円
合計 4,014,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2021-07-01
更新日
-