A型肝炎ウイルスの検出方法等に関する調査研究

文献情報

文献番号
199700403A
報告書区分
総括
研究課題名
A型肝炎ウイルスの検出方法等に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
武田 直和(国立感染症研究所腸管感染ウイルス第一室長)
研究分担者(所属機関)
  • 戸塚敦子(国立感染症研究所ウイルス製剤部主任研究官)
  • 西尾治(国立公衆衛生院衛生微生物学部ウイルス室長)
  • 杉枝正明(静岡県環境衛生科学研究所微生物部主幹)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 食品衛生調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
A型肝炎ウイルス(HAV)は経口伝播型肝炎の病囚ウイルスで、糞口感染によりA型肝炎をひきおこす。ヒト体内でのHAVの主な増殖の場は肝細砲であり、増殖したウイルスは胆汁中に分泌され、糞便によって大量のウイルスが排他される。HAVは格段に熱安定性の高いウイルスであるため環境中、例えば河川水や海水で長期間感染性が保たれる。二枚貝の生での喫食、最近ではイチコの摂取によるA型肝炎の集団発生例が報告されている。HAVは培養細胞に感染するが、ウイルス増殖は極めて遅いため、細胞培養でのウイルス分離同定は実用的ではない。またELISA RIA等の免疫学的検出には108/ml以上のウイルス濃度が必要となる。したがって食品や汚水中に含まれる極めて微量のウイルスを証明するためには、RT‐PCRによるHAV RNAの検出が不可欠である。本研究ではPCR法の検出感度を高めること、およびHAV による環境の汚染状況を調査把糧することを目的とした。
研究方法
HAVデータベスの構築とブライマーの設計:HAVは血清型が1種類ではあるが、塩基相同性85%を基準として1から 7型までの7遺伝子型に分類される。4、5、6型はサルからのみ検出されており、2、7型の検出例も少ないので、実用上は塩基相同性80%程度の1型と3型 HAV 遺伝子が共に検出可能なPCR プライマーが必要とされる。1型と3型は92.5%を基準としてAとBの亜型に分類され、IA型遺伝子のHAVが最も多く報告されている。GenBankとEMBLに登録されている HAV株の塩基配列を抽出しデータベースを構築した。これらを並列編集して相同性が高く、各塩基の配列に偏りが少なく、かつ他の部位との相同性が出来る限り少ない個所を検出して(1)5・非コード領域(SNCR)の増幅用(1回目、2回目 PCRとも)、(2)VPI/2A領域1回目PCR用(3)VPI/2A領域nestedPCR用の3組のプライマーを設計した。
検査材料およびRNAの抽出:1995年1月~1997年12月に某市内のスーパーで「生食用」として、むき身の状態でバック詰めさ.れ、10℃以下に保存されていた生力キ(産地A,B,C県の海域で養殖)150検を供試した。市販生力キの1バック中の 5個を1検体として、中腸腺を分離して検査対象に用いた。試料はSRSV 遺伝子検出用ブロトコルに準じ前処理(電顕試料作成方法による濃縮)、RNA 抽出(CTAB法)を行って-80℃に保存した。また、上記HAV遺伝子検出用プライマーとSRSV遺伝子検出用ブライマーを混合して検出が可能かを試みた。増幅産物はHinflを用いて切断を試み、A型肝炎患者糞便由来のHAV遺伝子との切断パターンを比較した。
結果と考察
結果=1)5・NCR領域増幅用ブライマーの選定と反応条件の検討
5'NCR領域は異なる遺伝子型 HAV 株間でも塩基相同性の高い部位であるが、高次構造が多いこと、ビリミジンリッチの繰り返し配列が多いことなどがPCR プライマー設定の問題点である。種々の条件を検討した結果lst PCRのみでIB型、38型テンプレートの100分子相当まで増幅が確認され、10分子相当でも薄いバンドを認めた。同じプライマーセットを用いてlst PCR液lulを加えてnestedPCRを同条件で30回行うと、10分子相当まで強陽性と判定された。
2)VPI/2A領域のnestedPCRのためのプライマーの設定と反応条件の検討 VPI/2A領域は遺伝子型の解析が行われた部位であり、非常に沢山のHAV株の塩基配列が報告されている。増幅cDNAの塩基配列を比較すれば、株の同定や遺伝子型の決定が可能となる。今回はIB型と3B型cDNAをテンプレートとしてPCR条件を比較検討した。その結果、nestedPCRで3B型だは10分子テンプレートで強腸性を、IB型でも弱陽性の結果が得られた。
3)市販生食用力キからのHAV遺伝子検出
1995年1月~1997年12月の期間に某県内で市販されていた「生食用力キ」の中腸腹材料からHAV遺伝子を検索したところ、150検体中13検体(8.7%)からHAV遺伝子が検出された。産地別ではA、B、C県産のうち 2カ所から、月別では生力キが市販されていた調査期間中(12月~翌年の 2月)を通じ遺伝子が検出された。
4)混合ブライマーによるHAVおよびSRSV 遺伝子の同時検出
HAV遺伝子検出用プライマ-とSRSV遺伝子検出用プライマ-を混合して2種類の遺伝子が同時に検出できるかを検討したところ、それぞれ目的とする位置に DNAバンドが確認された。また市販生食用力キから検出されたHAV のPCR産物とA型肝炎患者の糞便由来PCR産物は同じ制限酵素切断パターンを有していた。一方、生食用牡松として市販されているD県魔1996年8月から1998年1月の間に採取された13 件、E県産で1996年10月から1998年2月の間に採取された12件、およびD県産のホタテ貝で1995年10月から1996年7月までの11件は全てHAV陰性であった。
考察=逆転写反応の後、5'NCR部位とVPI/ZA部位の両方のFCRを行うことにより、少ない量のHAVでもcDNA を増幅し、遺伝子型の分析による疫学解析が可能になると思われる。51NCR部位のほうがPCRは容易であるが、遺伝子型間の塩基の違いが少ないためHAV株の同定には不向きであろう。VPI/2A部位のPCRプライマーを挟む領域はHAV遺伝子中で最も変異の多い部位であるため、分子疫学的解析には最適である。今回のPCRでは1回目ではVPI/2A領域の増幅が遺伝子型特異的で必ずしも満足のいく結果が得られなかった。nestedPCRは感度はよいが、コンタミネーションによる偽賜性で混乱を来すことがある。遺伝子検出だけが目的であれば、標識プローブを使用して1回目のPCR産物の検出感度を上げる試みを行った方がよいと思われる。
A型肝炎は感染から発病までの潜伏期間が約1カ月とかなり長く、感染源を特定することは難しいといわれている。従来より食品の中でも力キが感染源として最も重要視されているが、その実態は把握されていない。今回、某県内で流通している生食用貝類のうち市販生食用力キの中腸眼材料を用いて RT‐PCR法によるHAVの検出を試みたところ、市販生食用力キの8.7%からHAV遺伝子を検出し、検出された遺伝子増幅産物の制限酵素による解析結果もA型肝炎患者糞便と同様なパターンであることが確認された。市販生食用力キの一部は明らかにHAVによる汚染を受けていることが示された。食中毒の病因ウーイルスであるSRSVとの混合プライマーで 2種類の遺伝子を同時に検出することが可能であり、市販生食用力キのウイルス汚染を把握するための検索方法として有用であることが示唆された。
結論
5'NCR部位のプライマーセットを用いることによってにより、ほとんどの遺伝子型のHAV 株で cDNAのPCR 増幅が可能と思われる。VPI/2A部位ではcDNA増幅効率はHAV株により多少の開きはあるものの、nestedPCRで増幅可能であり、分子疫学的解析に有用である。市販生食用力キの8.7 %からHAV遺伝子が検出され、市販生食用力キの一部は明らかにHAV による汚染を受けていた。 SRSVとの漣合プライマ-で2種類の遺伝子を同時に検出することが可能であった。

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