文献情報
文献番号
202003003A
報告書区分
総括
研究課題名
レセプトデータベースにおける健康寿命を規定する重症イベント精密捕捉技術の確立・正確性検証とその社会実装を通じたEBMと政策立案に貢献できるエビデンス創出
課題番号
19AC1001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
曽根 博仁(新潟大学大学院医歯学総合研究科 血液・内分泌・代謝内科)
研究分担者(所属機関)
- 松山 裕(東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 生物統計学)
- 赤澤 宏平(新潟大学医歯学総合病院 医療情報部)
- 山崎 達也(新潟大学 工学部)
- 加藤 公則(新潟大学大学院医歯学総合研究科生活習慣病予防検査医学講座)
- 藤原 和哉(新潟大学医歯学総合研究科)
- 児玉 暁(新潟大学大学院医歯学総合研究科 血液・内分泌・代謝内科)
- 谷内 洋子(千葉県立保健医療大学 健康科学部 栄養学科)
- 堀川 千嘉(新潟県立大学 人間生活学部 健康栄養学科)
- 石澤 正博(新潟大学医歯学総合病院 臨床研究推進センター)
- 森川 咲子(徳島文理大学 人間生活学部)
- 鈴木 浩史(新潟大学 研究推進機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
健康寿命に多大な影響を与える心血管疾患とその発症を促進する糖尿病、高血圧などのNon-communicable diseases (NCD)は、がんと並び、先進国の死亡と健康寿命短縮の主因疾患である。病理検体で確定診断可能で、すでに全国登録システムが稼働済みのがんとは異なり、NCDは発症・診断・重症化の過程が複雑で経過が長く、予後も多様性に富むため、同様のシステム構築は困難であり、リアルワールドの医療ビッグデータ利活用が最も期待される疾患領域である。
とりわけレセプトデータは、外来入院を問わず収集基盤が構築済みで医療費調査も容易な上、電子カルテと比較し、データがコード化され情報もコンパクトで扱いやすい。それに加え、受診を要する重症NCDアウトカム(心筋梗塞、脳卒中、腎透析など)をほぼ全例漏れなく捕捉できる悉皆性が最大の強みである。しかし弱点もあり、その最大のものは、いわゆる「レセプト病名(保険病名)」の不正確さである。実際の医療現場では、保険請求しやすい病名や、請求漏れを避けるための仮病名などをレセプト病名とする傾向があるため、病名と最終診断が一致しないことは少なくない。したがって、「レセプト病名」を統計や研究にそのまま用いると、それらの結果の質や信頼性の低下につながる。この最大の弱点を乗り越えるために我々は、現場診療と報酬請求の現状を熟知し、疫学・データサイエンスにも精通する臨床専門医と医療情報専門家のチームを立ち上げた。そして、健康寿命ならびに寿命に影響する重要疾患イベントについて「確定診断の下でしか実施されない診療行為」のみを厳選し、その処置コードの組合せにより「確実な疾患イベント発症」を捕捉する新手法を確立し、臨床疫学研究に応用する。
本研究ではこの手法を確立した上、妥当性検証を行う。さらに地域のレセプト/検診/介護保険を、個人突合・匿名化した統合長期縦断データベースに適用・解析し、どのような検診結果の者が、どのような重大イベント発症を経て、介護保険給付に至るのか(=どの程度健康寿命が損なわれているのか)、を解明することにより、要介護者を減らし、健康寿命延伸と医療費抑制を実現するためのエビデンスを確立する。
とりわけレセプトデータは、外来入院を問わず収集基盤が構築済みで医療費調査も容易な上、電子カルテと比較し、データがコード化され情報もコンパクトで扱いやすい。それに加え、受診を要する重症NCDアウトカム(心筋梗塞、脳卒中、腎透析など)をほぼ全例漏れなく捕捉できる悉皆性が最大の強みである。しかし弱点もあり、その最大のものは、いわゆる「レセプト病名(保険病名)」の不正確さである。実際の医療現場では、保険請求しやすい病名や、請求漏れを避けるための仮病名などをレセプト病名とする傾向があるため、病名と最終診断が一致しないことは少なくない。したがって、「レセプト病名」を統計や研究にそのまま用いると、それらの結果の質や信頼性の低下につながる。この最大の弱点を乗り越えるために我々は、現場診療と報酬請求の現状を熟知し、疫学・データサイエンスにも精通する臨床専門医と医療情報専門家のチームを立ち上げた。そして、健康寿命ならびに寿命に影響する重要疾患イベントについて「確定診断の下でしか実施されない診療行為」のみを厳選し、その処置コードの組合せにより「確実な疾患イベント発症」を捕捉する新手法を確立し、臨床疫学研究に応用する。
本研究ではこの手法を確立した上、妥当性検証を行う。さらに地域のレセプト/検診/介護保険を、個人突合・匿名化した統合長期縦断データベースに適用・解析し、どのような検診結果の者が、どのような重大イベント発症を経て、介護保険給付に至るのか(=どの程度健康寿命が損なわれているのか)、を解明することにより、要介護者を減らし、健康寿命延伸と医療費抑制を実現するためのエビデンスを確立する。
研究方法
まず各重症イベントについて、確定診断がつけばほぼ実施される処置、確定診断がつかないうちに踏み切られることはまずない処置を厳選し組み合わせることにより「イベント定義コード」を作成し、真のアウトカムを精密に判別・抽出する。さらにその妥当性検証を、レセプトと電子カルテの突合により行う。そしてこれを実際の特定健診/レセプト/介護保険データベースに適用し、有用なエビデンスを確立する。
結果と考察
本研究により非常に多くの成果が得られ、それらはPDF版報告書の研究発表の項にまとめられている。そのうち、とりわけ現場診療・保健指導上、あるいは厚生労働行政におけるEBPM上、特に有用と考えられる成果としては、1)冠状動脈疾患、心不全、脳血管疾患、透析などの健康寿命に直結する重要アウトカムの定義コードを確立し、その妥当性検証を行い論文化したこと
2)耐糖能別にみた収縮期血圧(SBP)が冠動脈/脳血管疾患(CAD/CVD)に及ぼす影響が明らかになったこと
3)経口血糖降下薬(OHA)の服薬アドヒアランス(Ad)と血糖コントロールとの関係を解明したこと
4)糖尿病患者における下肢切断のリスク因子が解明されたこと
などが挙げられる。各項目の詳細についてもPDF版を参照されたい。
2)耐糖能別にみた収縮期血圧(SBP)が冠動脈/脳血管疾患(CAD/CVD)に及ぼす影響が明らかになったこと
3)経口血糖降下薬(OHA)の服薬アドヒアランス(Ad)と血糖コントロールとの関係を解明したこと
4)糖尿病患者における下肢切断のリスク因子が解明されたこと
などが挙げられる。各項目の詳細についてもPDF版を参照されたい。
結論
レセプト病名のみならず診療内容に着目したイベント精密捕捉技術を確立し、これを用いることにより、健康寿命と寿命に直結する重症疾患イベントを、レセプトデータ上で高精度に捕捉し、それを用いて様々な解析が可能であることがわかり、保険病名のみに依存していた従来の研究や行政業務とそのエビデンスの質と信頼性を大きく改善できることが示された。今後、すでに確立した健康寿命を規定する多くのイベント定義、ならびに介護イベントについて、それらの組み合わせや、生活習慣との関連なども含めて多くの解析、論文化が予定され、実地診療、自治体の保健活動、厚生労働行政に役立つ多くのエビデンスを確立する予定である。
公開日・更新日
公開日
2021-06-02
更新日
2021-07-06