食中毒予防方策のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199700401A
報告書区分
総括
研究課題名
食中毒予防方策のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
七野 護(社団法人日本食品衛生協会)
研究分担者(所属機関)
  • 七野護(社団法人日本食品衛生協会)
  • 柳川洋(自治医科大学公衆衛生学教室)
  • 高杉豊(全国衛生部長会)
  • 小沼博隆(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 竹田美文(国立国際医療センター)
  • 品川邦汎(岩手大学農学部)
  • 神沼二眞(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 食品衛生調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
分担研究1:HACCPシステムすなわち総合衛生管理製造過程を普及推進するためには、専門家を養成するための教育訓練や適切な情報の整備などの施策が必要であることから、諸外国において、どのような取り組みがなされているかを調査し、わが国におけるHACCPの普及推進に役立てることを目的に調査を行った。
分担研究2:食中毒の疫学調査に関する、(1)散発的集団發性の疫学調査の必要性、(2)中小規模の事例における疫学調査の徹底、(3)さかのぼり調査(積極的疫学調査)の徹底、を念頭においた対応について、わが国の現状と問題点を考察する。
分担研究3:食品保健行政においては、その性質上、一定のレベル以上の行政サービスが広く国民に提供されることが必要であるが、地方自治体における実施レベルは質的、量的に一様でない。このため、本研究では自治体の食品保健行政の改善、向上および効率化を目的とし、地方自治体における食品保健行政の評価指標の検討および関係情報の収集を行った。
分担研究4:フローズン・チルド食品に関して、解凍処理を含めた保存温度と微生物の増殖との 関係を調べることを目的として、大腸菌と食中毒菌であるサルモネラおよび黄色ブドウ球菌を接種した食品(鶏そぼろ、オムレツおよびとろろ)を数種の条件で解凍処理した後、保存試験を行った。
分担研究5:平成9年3月に愛知県および神奈川県を中心とする腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒が發生し、その原因食材としてカイワレ大根が疑われ、該当食品から腸管出血性大腸菌O157が検出された。また、平成8年7月の大阪府堺市での腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒においても厚生省による広範な疫学調査によって、カイワレ大根が原因食材であるという報告が行われている。以上の結果から、腸管出血性大腸菌O157集団食中毒とカイワレ大根との関連性を重要視し、カイワレ大根種子由来の培養液から腸管出血性大腸菌0157を検出することを目的として実験を行った。
分担研究6:カンピロバクー腸炎および本菌感染後發性するギラン・バレー症候群の疾病が注目されてきている。そこで、本菌による腸脇およびGBSに関し、(1)発生原因、(2)発生疫学、(3)動物・家禽の保菌状況、(4)食肉およびその他の食品の汚染状況、(5)予防対策および(6)本菌腸炎・GBSにつ いて衛生対策上要項(菌の生残性、増殖性、抵抗性等)について文献学的調査を行った。
分担研究7:全国集計された食品事故の発生に関するデータは、できるだけ速やかに保健行政の関係者や一般の人々に見やすく、かつ、利用しやすい形で提供することが求められている。食品事故の發生データとそれを地域別に地図としてインターネット(www)で提供できる地図作成システムについて具体的に検討した。
委託業務:食中毒等食品事故関連データベースに絞り、この情報の集計、統計、傾向等多面にわたる分析、またその結果を迅速且つ正確に広い範囲に展開することが求められており、この分析展開を食中毒等食品事故関連データベースに施すための調査をする。
研究方法
分担研究1:国連食糧農業機関(FAO)および世界保健機関(WHO)などが発行しているHACCPに関する教育訓練に関するテキスト、諸外国における教育訓練マニュアルなどの調査を行った。さらに米国で、活動しているHACCPアライアンスのトーニーグ内容や、HACCPに関する国際シンポジウム等で、どのような議論がなされているかの調査を行った。
分担研究2:これまでの食中毒發性の認知方法を確認し、散発的集団發性の認定に必要な条件について比較した。調査方法については、米国CDCが、実施している調査マニュアルおよび各事例を収集し検討した。
分担研究3:食中毒の発生時対策の評価、検討を行うため、各自治体の食中毒対策要綱に関する調査研究および各自治体から提出された食中毒発生詳報に基づく原因の究明状況に関する調査研究を行った。
分担研究4:試験菌株は、Escherichia coli IFO 3301(大腸菌)、Salmonella enteritidis IFO 3313(サルモネラ:ゲルトネル菌)Salmonella typhimurium IFO 12529 (サルモネラ:ネズミチフス菌)、Staphylococcus aureus IFO 12732(黄色ブドウ球菌)を用いた。供試食品は、鶏そぼろ、オムレツおよびとろろを用いた。
供試食品のそれぞれに各試験菌を接種し、冷蔵および冷凍保存して一般細菌数、大腸菌群数および各試験菌の経日変化を調べた。また、各供試食品の中心分に温度センサーを取り付け、凍結時および解凍時の温度変化についても調べた。
分担研究5:検査材料は、平成9年3月に愛知県および神奈川県を中心として、發性した腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒事例の際、原因食材と疑われたカイワレ大根の種子のうち、当該生産施設から返品されたとする14袋350?を用いた。腸管出血性大腸菌O157の存在を確認および存在の割合を推定するためにカイワレ大根種子の培養液について、PCR-southern法を用い、O157のO抗原合成遺伝子DNA(orf2)ならびにベロ毒素1とベロ毒素2遺伝子DNAの検出を行った。
分担研究6:(1)食中毒発生と疫学調査 わが国の食中毒発生状況および発生要因等の疫学調査については、全国食中毒事件録を、また諸外国の発生状況については、WHO Surveillance Programme for Control of Foodborne Infect-ions and lntoxcations in Europe(Sixth.Reports1990-1992)およびこれらの関連文献を参考にした。(2)その他の調査項目 腸炎およびGBSに関して、各調査項目から、key wordsを設定しMedlineで1995年以降の文献を索引した。
分担研究7:健康や疾病に関連したデータを地図化するために、地理情報システムで作成した画像としての地図をインターネツト/(www)で提供する方式、およびその更新方法を検討する。
委託業務:食中毒等食品事故関連データベースについて、データ登録、データ検索、データ出力の3点から調査する。
また、データ入力元になる食中毒事件票が変更されたときの変更内容と帳票出力機能を有するためにどんな方法をとるのが良いかテーブル設計の点から調査する。
結果と考察
結果と考察、結論
分担研究1:主要各国、国際機関等で、公的なHACCPトレーニングに必要な各種テキストを発行しており、効果的なトレーニングのあり方について、国、地方行政機関だけでなく、民間企業や、大学の専門家等による各種トーニングや情報提供がなされており、中小企業においても適切なHACCPが導入されよう、業態や製造規模、受講者層に応じたトレーニングが実施されていることなどが明らかになった。
我が国におけるHACCP普及施策として、食品の種類や、施設の規模、対象者の食品衛生に関する修得度の度合いに応じたトレーニングカリキュラムやテキストが作成される必要があり、諸外国において指摘されている問題点などを十分に踏まえ、今後我が国におけるHACCP普及方策にこうした点を取り入れるべきであろうと思われる。
分担研究2:食中毒散発發性の場合、ほとんどが認知されずに埋没している現状が危惧 される。
米国で食物および水関連疾患に関する報告システムができたのは、50年以上も前に遡る。その目的は、疾病予防とコントロール、疾病原因の同定、行政の指導指針策定である。食中毒事件における国や州政府の積極的な関与の結果、調査報告の質が改善した。
散発例の場合、原因食材は、様々な流通経路を巡り、広範な地域で、消費されるので、報告された患者発生数は、実際の発生数のごく一部である。よって疾例・対照研究が主な調査方法である。流行調査は、必ず事件發性後に行われることから、情報収集は、可能な限り迅速でなければならない。
我が国でも、食中毒に関するサーベイランスシステムなどの情報伝達と有効利用のための組織を整備し、食中毒対策の第一線機関である保健所担当者(所長を含む)の資質の向上を図るための施策が必要である。
分担研究3:食中毒対策要綱に関する調査研究においては、対策要綱に必要な事項の整理を行うとともに、今後の課題として、大規模食中毒発生時の自治体間の協力体制の確立、調査結果の公表を行うか否かの基準、広報内容の明確化、原因究明委員会への外部専門家の参画の検討が必要であることを明らかにした。
また、食中毒原因の究明状況に関する調査研究においては、食中毒發性詳報の提出率が低いこと、原因献立又は食品が特定されていない事例が半数以上あり、調査不足であること、必要な病因物質の検索が行われていない事例があること、探知の迅速化について医師、学校関係者および患者関係者に早期の通報の必要性を周知する必要があること、喫食調査は一般に全数調査により実施されているが、患者数が多数に上る際には抽出調査を行うことが可能であり調査方法の検討が必要であること、および遡り調査の実施が定着していないことが判明した。さらに、病原大腸菌およびカンピロバクー 食中毒は、食品からの菌の検出が困難であることから疫学調査を入念に実施するとともに、新たな試験法の開発が必要であること、遡り調査の内容、受診者数、入院者数、平均潜伏時間等、疫学上重要な情報が食中毒発生詳報の記載事項となっていないものがあるので、これらの情報を記載内容に追加するべきであることが確認された。
分担研究4:
1冷蔵保存
1)鶏そぼろおよびオムレツは、保存開始時点での各菌群の生菌数は、103~104/gであり、保存2日後においても顕著な菌数の増加は、認められなかった。
2)とろろは、保存開始時点での各菌群の生菌数は、103~104/gであり、一般細菌および大腸菌群は保存2日後には、明らかな菌数の増加が認められた。これは、もともととろろに介在していた菌群(低温細菌等)が増殖したものと推測された。一方、サルモネラおよび黄色ブドウ球菌は保存2日後においても顕著な菌数の増加は認められなかった。
2冷凍保存
保存開始時点(凍結直後)での各菌群の生菌数は、いずれの供試試料とも103~104/gであり、凍結による顕著な菌数の減少は認められなかった。また、冷凍保存2日後においても菌数の増加は認められなかった。
3冷凍・冷蔵保存(解凍処理)
1)鶏そぼろは、いずれの解凍条件(10℃2回.10℃および25℃.25℃2回)においても、いずれの菌群とも菌数の増加 は認められなかった。また、解凍後10℃に保存した結果、いずれの解凍条件においても保存2日後では、顕著な菌数の増加は認められなかった。
2)オムレツは、10℃で2回解凍した場 合では、いずれの菌群とも菌数の増加は、認められなかつた。1回目が10℃、2回目が25℃で解凍の場合では、いずれの菌群とも明らかな菌数の増加が認められた。10℃で1回解凍した場合の結果では顕著な菌数の増加は認められなかったことから、2回目の解凍時に菌数が増加したものと考えられた。また、25℃で2回解凍した場合では、いずれの菌群とも明らかな菌数の増加が認められた。ただし、25℃で、1回解 凍した場合の結果では、すでにに顕著な菌数の増加が認められたことから、1回目の解凍で増加した菌数が2回目の解凍でも維持されていたものと考えられた。解凍後10℃に保存した結果、いずれの解凍条件においても保存2日後では顕著な菌数の増加は認められなかった。
3)とろろは、10℃で2回解凍した場合では、大腸菌群の菌数が多少高めに計測されたものの、その他の菌群では、顕著な菌数の増加は認められなかった。1回目が10℃、2回目が25℃で解凍した場合では、いずれの菌群とも明らかな菌数の増加が認められた。10℃で1回解凍した場合の結果では、顕著な菌数の増加は認められなかったことから、2回目の解凍時に菌数が、増加したものと考えられ、オムレツと同様の傾向が認められた。また、25℃で2回解凍した場合もオムレツと同様、明らかな菌数の増加が認められた。解凍後10℃に保存した結果、解凍時に顕著な菌数の増加が認められなかった。10℃で2回解凍した場合では、一般細菌および大腸菌群で明らかな菌数の増加が認められた。一方、サルモネラおよび黄色ブドウ球菌では保存2日後では、顕著な菌数の増加は認められなかった。また、その他の解凍条件では、解凍時にすでにすでに明らかな菌数の増加が認められており、10℃での保存では顕著な菌数の増加は認められなかった。
4供試試料の温度変化
凍結状態の供試試料を10℃で解凍した場合には、約3~3.5時間で10℃に達した。
また、25℃で解凍した場合には、約2.5時間で、25℃に達したた。10℃で解凍した供試試料を再凍結した場合には、約2.5~3時間で-20℃に達した。また、25℃で解凍した供試試料を再凍結した場合には、約2.5~3時間で-20℃に達した。
(4)結論
1)冷蔵保存の場合、保存2日後では食中毒菌であるサルモネラおよび黄色ブドウ球菌の顕著な増殖は認められなかった。一方、とろろにおいては一般細菌および大腸菌群の菌数増加が認められ、もともととろろに介在していた菌群(低温殺菌等)が、増殖したものと推測された。
2)冷凍保存の場合、保存2日後ではいずれの菌群とも菌数の増加は認められなかった。なお、凍結による顕著な菌 数の減少は認められなかった。
3)冷凍・冷蔵保存(解凍処理)の場合、10℃での解凍では、解凍1および2回ともに顕著な菌数の増加は、認められなかった。また、解凍後の食品を10℃で保存した場合には、1)の冷蔵保存(解凍処理なし)と同様の傾向が認められた。一方、25℃での解凍(25℃1回、10℃および25℃.25℃2回)では解凍の時点ですでに著しい菌数の増加が認められた。なお、その後の10℃での保存においては、顕著な菌数の増加は認められなかった。
以上の結果から、フローズン・チルド食品の保存温度に関しては特に解凍時の温度管理が重要であり、10℃以下(冷蔵下)で、解凍するか、常温で解凍する場合には、解凍後、食品の品温が10℃を超える前に速やかに冷蔵保存することが必須であると考えられた。
分担研究5:カイワレ大根種子より調整した一部の培養液より腸管性出血大腸菌が保持しているベロ毒素遺伝子をPCR-southern法によつて検出した。また、大腸菌O157に特異的な遺伝子である0157の0抗原合成遺伝子(orf2)も同様な方法で検出した。両方が検出された試料も存在し、それらの試料は培養することによつて、PCR-southern法でのシグナルは増強した。また、PCR-southern法での検出感度から考えると、試料 5-3中において、106~107cfuの内、数個程度腸管出血性大腸菌O157が存在していることが確認でれた。これらの結果からカイワレ大根種子の一部は腸管出血性大腸菌O157に汚染されていることが明らかとなり、その菌が集団食中毒の原因だと考えられた。
分担研究6:本菌による腸炎およびGBSに関し、(1)発生状と発生疫学(2)C・jejuni/coli以外の菌種による食中毒(下痢症)、(3)C・jejuniの血清型、(4)病原因子(定着因子、毒素、組織侵入因子等)、(5)家禽の保菌状況および(6)本菌腸炎とGBSの関連性について文献学的調査を行い現在まで明らかにされていることを整理した。本菌は、家畜や家禽など動物に広く分布し、ヒトに少量で感染することから、その対策は他の食中毒に比べて、困難である。それゆえ、今日食品の安全確保として広く活用されているHACCP方式による家畜・家禽の飼育から消費にいたる各過程における衛生管理が必要である。他方、ギラン・バレー症候群の感染症と腸炎感染との関連については、今後さらにデータを収集することが重要である。
分担研究7:今回地図の対象として想定した食中毒などの事例は、厚生省生活衛生局食品保健課が「全国食中毒事件録」として、毎年発行している報告書で扱っている、サルモネラ、病原性大腸菌、カンピロバクター、腸炎ビブリオ、その他病因物質不明による食中毒、の5種類である。地図作製の立場からすれば、具体的な食品事故が何であるかは関係がなく、どのような形式(構造)のデータを扱うかが問題となる。そこでこれを(食中毒)發症集計データを一般化して呼ぶこととする。発症集計データは発症場所域(市町村などの行政区、ないし保健所)、患者数、時期などの情報である。中間集計されて各都道府県から送られ厚生省でさらに集計される発生集計データ(食中毒速報)から地図を作成するために以下の検討を行った。
(1)地図を作成する地理情報システム(GIS)は何を使用するか。
(2)地図データとしては何を使用するか。
(3)地理的な特性の把握
(4)インターネットでの提供
(5)地図更新の頻度と方法
(6)地図以外なデータ表示
(7)システム設計および処理方式
このシステムは、データの追加、修正が容易であるところに特徴がある。地理情報システムで作成した地図画像をwwwのファイルに変更する部分は技術改良が必要である。
委託業務:食中毒等食品事故関連データベースについてデータの入力をガイドを用いて行っているが、食中毒事件票が変更された時にそのガイド拡張性に限界がある。
また、帳票を出力させるなどデータの出力機能が備わっていない。データベースから検索したデータを加工する機能もない。調査分析をするにあたってデータを再度入力する等手間がかかっている。また、食中毒事件票が変更される場合、プログラム開発を必要とせずに対応させるには、ガイドテーブルの設計上、ガイド登録プログラムを用いると簡単に変更できる。しかしガイドテーブルの設計上、ガイド管理番号の振り方と限界を考慮しなくてはならない。また、帳票出力をする際にはデータの加工という点から表計算ソフトに出力し統計、傾向を簡単にできるのが望ましい。食中毒等事故関連データベースを食中毒事件票の変更にも対応できるようにし、また帳票出力等を可能にすることで、食中毒情報の統計や傾向を研究することができるよう開発することが望ましい。
結論

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)