文献情報
文献番号
202001011A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模データを用いた漢方製剤のアウトカム評価および費用分析に関する研究
課題番号
20AA2001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
康永 秀生(東京大学 大学院医学系研究科公共健康医学専攻臨床疫学・経済学)
研究分担者(所属機関)
- 小川純人 (東京大学大学院医学系研究科加齢医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
4,062,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、漢方製剤に関する基礎研究・臨床研究は少しずつ増加しており、その効果に関するエビデンスは徐々に増えているものの、いまだ十分とは言えない。大規模データを用いることにより、多くの症例数を用いた効果比較研究、費用分析、プラクティス・パターン分析を実施可能であり、それらは漢方診療の実態把握やその改善に向けて重要である。本研究は大規模医療データベースを用いて、(1)漢方製剤のアウトカム評価及び費用分析、および(2)漢方製剤に関する医療現場におけるプラクティス・パターン分析を行うことを目的とする。
研究方法
本年度は、漢方製剤のアウトカム評価及び費用分析として、(i) ICUにおいて人工呼吸・経腸栄養を受けている患者に対する大建中湯の効果、 (ii) 不育症に対する漢方薬の効果について分析した。また、漢方製剤に関する医療現場におけるプラクティス・パターン分析として、(i) 外来漢方製剤使用患者の背景分析、(ii) 心不全に対する漢方製剤のプラクティス・パターン分析、(iii) 妊娠うつに対する漢方薬治療の安全性、について分析を実施した。
結果と考察
(1)漢方製剤のアウトカム評価及び費用分析
(i) ICUにおいて人工呼吸・経腸栄養を受けている患者に対する大建中湯の効果
1対1の傾向スコアマッチングにより、8,701の一致するペアが作成された。経腸栄養不耐性の発症から28日以内に経腸栄養を受けた合計日数は、大建中湯群の方が対照群よりも有意に長かった(リスク差、0.9日; 95%信頼区間、0.5〜1.3日)。 28日間の院内死亡率、院内肺炎、ventilator-free days、ICU滞在期間に有意差は認められなかった。大建中湯の使用が経腸栄養不耐性の人工呼吸器装着患者の経腸栄養を受ける総日数を増加させる可能性があることを示唆した。
(ii) 不育症に対する漢方薬の効果
5517人の適格患者のうち、漢方薬使用群は1652人、非使用群は3865人であった。傾向スコアマッチング後、2年時点の出生率は漢方薬使用群で15.7%、非使用群で11.2%となった。全体的な出生率は、両群間で有意差を認めた(ハザード比1.32、95%信頼区間1.13–1.53; P <0.001)。漢方薬は不育症患者の出生率を改善する可能性があることが示唆された。
(2)漢方製剤に関する医療現場におけるプラクティス・パターン分析
(i)外来漢方製剤使用患者の背景分析
代表的な漢方製剤について、漢方開始前の病名と薬剤および受診状況を調査することにより、各製剤に特徴的な患者背景を明らかにした。
(ii) 心不全に対する漢方製剤
心不全で入院した患者では、入院中の五苓散等の漢方製剤の使用割合は1%以下であった。
(iii)妊娠うつに対する漢方薬治療の安全性
妊娠うつに対し、漢方薬治療は新生児の先天奇形、低出生体重または早産といったアウトカムとは関連がなく、安全に使用できる可能性が示唆された。
(i) ICUにおいて人工呼吸・経腸栄養を受けている患者に対する大建中湯の効果
1対1の傾向スコアマッチングにより、8,701の一致するペアが作成された。経腸栄養不耐性の発症から28日以内に経腸栄養を受けた合計日数は、大建中湯群の方が対照群よりも有意に長かった(リスク差、0.9日; 95%信頼区間、0.5〜1.3日)。 28日間の院内死亡率、院内肺炎、ventilator-free days、ICU滞在期間に有意差は認められなかった。大建中湯の使用が経腸栄養不耐性の人工呼吸器装着患者の経腸栄養を受ける総日数を増加させる可能性があることを示唆した。
(ii) 不育症に対する漢方薬の効果
5517人の適格患者のうち、漢方薬使用群は1652人、非使用群は3865人であった。傾向スコアマッチング後、2年時点の出生率は漢方薬使用群で15.7%、非使用群で11.2%となった。全体的な出生率は、両群間で有意差を認めた(ハザード比1.32、95%信頼区間1.13–1.53; P <0.001)。漢方薬は不育症患者の出生率を改善する可能性があることが示唆された。
(2)漢方製剤に関する医療現場におけるプラクティス・パターン分析
(i)外来漢方製剤使用患者の背景分析
代表的な漢方製剤について、漢方開始前の病名と薬剤および受診状況を調査することにより、各製剤に特徴的な患者背景を明らかにした。
(ii) 心不全に対する漢方製剤
心不全で入院した患者では、入院中の五苓散等の漢方製剤の使用割合は1%以下であった。
(iii)妊娠うつに対する漢方薬治療の安全性
妊娠うつに対し、漢方薬治療は新生児の先天奇形、低出生体重または早産といったアウトカムとは関連がなく、安全に使用できる可能性が示唆された。
結論
大規模データベース研究という新たな手法を用いて漢方製剤のエビデンスの確立に貢献するとともに、入院医療等で用いられる漢方製剤の有効性について分析し、日常臨床における漢方製剤の役割やその位置づけを明確にした。
公開日・更新日
公開日
2022-06-29
更新日
-