イギリス・カナダの私的年金における確定給付型及び確定拠出型共通の限度額の設定・管理方法等についての調査研究

文献情報

文献番号
202001010A
報告書区分
総括
研究課題名
イギリス・カナダの私的年金における確定給付型及び確定拠出型共通の限度額の設定・管理方法等についての調査研究
課題番号
20AA1001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
清水 信広(一般社団法人年金綜合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐野 邦明(一般社団法人 年金綜合研究所 研究所)
  • 藤澤 陽介(年金綜合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
2,304,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、確定給付年金(DB)と確定拠出年金(DC)全体で限度額を管理しているイギリスとカナダを調査対象とし、両国の仕組みを実務的取扱い含めて詳細に調査し、我が国においてDB・DC共通の非課税拠出枠を設けるとした場合のポイントを、基礎となる数理的な考え方を含め整理することにより、今後の検討に資することを目的とする。
研究方法
各種文献調査及び現地有識者に対するヒアリング調査により、両国において共通限度額が導入された背景、改正の変遷、拠出限度額設定の考え方・計算方法、DB拠出額の取扱い(税制上の取扱いを含む)を明らかにした上で、我が国において共通の限度額を設定する場合の考え方・計算方法、実務上の限度額管理の方法等について課題及び留意点を整理した。
結果と考察
カナダでも企業年金のDC移行は徐々に進行している。1992年当時、登録企業年金加入者の90%がDB制度に加入していたものが、1999年には85%強まで減少している。DBとDCを税制上公平に扱っていることが、DC移行が米国ほどには進んでいない要因との見解もあるが、共通限度額の導入によりDB制度の相対的な優位性が低下した、との調査結果もある。
イギリスの場合、企業年金のDC移行は既に著しく進行しており、民間のDB制度では、新規加入者を受け入れているような制度はほとんど存在しない。2004年の共通限度額導入は、個々人に対する税制上の取扱いの簡素化・統一化を図るものであり、DB制度の普及を図るといった政策的意図は全く存在しなかったと考えられる。イギリスにおいては、自動加入の導入によりDC型の退職貯蓄制度の普及が進んでいるが、共通限度額の導入は、職域年金制度のDC移行を加速する要因の1つになった可能性がある。
結論
課題として挙げられるのは、第1に、年金発生額の計算対象をどうするかという点である。カナダでは、つなぎ年金などは対象にしていない。我が国においても、70歳現役社会を目指すのであれば、70歳以降の年金給付のみを対象とすべきであろう。
第2に、DBの年金発生額をDCの掛金拠出額に換算する倍率が長期にわたり安定的に設定できるのか、また、DBとDCが数理的に公平に扱われるのかという点である。共通限度額の設定にもよるが、これらのポイントが確保されなければ、非課税の積立方法を各人がそれぞれ選択できる仕組みとすることは困難であろう。
第3に、共通限度額の水準をどう設定するかである。中長期的にみて、高齢期における充分な所得の確保には不十分な水準で設定されたとすれば、DBの存在自体がDCの給付水準充実の障害となり、更には退職金に由来する我が国DBの給付水準の引き下げ(退職金水準の引き下げ)や制度終了に繋がる恐れもある。この点において、カナダ・イギリス両国とも、共通限度額は、我が国のDC掛金拠出上限の5~10倍近い非常に高い水準で設定されていること、とりわけカナダにおいては、私的年金に対する十分なインセンティブと公平性の確保を図る広範な政策パッケージの一環として導入されたことには、特に留意する必要がある。
所得代替率でみた公的年金の給付水準が、繰下受給等を選択しない限り今後次第に低下していくと見込まれるなかで、我が国において今一番求められているのは、非正規労働者を含めた企業年金等の私的年金の一層の普及と給付水準の充実(給付の充分性の確保および企業年金等における長生きリスクのカバー)である。したがって、共通限度額を本格導入する場合には、それが退職金に由来するDBの存続とDCの普及をトレードオフの関係にするようなものとならないようにすることが求められる。
そのためには、高齢期のディーセントな生活水準の確保の観点に基づく、所得水準毎の(公的年金・企業年金及び自助努力を含めた)所得代替率の目標値の検討・設定が不可欠と考えられる。この点を巡り、社会保障審議会年金部会の議論を参照すると、モデル年金額と消費支出とを比較した資料ですら、2012年11月まで遡らねばならない。
また、高齢期の就労も検討対象に含めた上、現役期間と年金受給期間の適切なバランスの観点や、寿命が伸長するなか何をもって世代間の公平と考えるのか等、様々な観点から、バランスの取れた議論を行っていく必要がある。
共通限度額の導入を巡っては、こうした人生100年時代を見据えた大局的かつ中長期的な検討に基づき、まずは我が国における議論のベースとなっているDC制度の掛金拠出上限を大幅増額することが望まれる。DC制度の掛金拠出上限は、イギリスやカナダに倣えば、現行の5~10倍程度の水準となるかもしれないが、こうした政策パッケージの下でなら、共通限度額の導入がDB型年金をクラウディングアウトするなど、我が国企業年金の普及・充実に対し意図せざる影響を招くような事態は生じないのではないかと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2022-06-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-06-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202001010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
カナダおよびイギリスの両国における確定給付型年金および確定拠出型年金の両方に共通の拠出限度額を巡って、① 制度導入の経緯等、② 個人の拠出限度額及び共通の限度額の考え方、③ 共通の限度額による調整の具体的な仕組み
④ DB制度における事業主掛金の税制上の取扱い等、⑤ 共通限度額の実務上の管理方法と限度額を超過した場合の取扱い、⑥ 共通の限度額の制度設計上のポイント、⑦ 共通の限度額導入が制度普及に与えた影響等を、現地有識者からの未公開情報の提供を含め、明らかにすることができた。
臨床的観点からの成果
該当なし
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
本研究の成果のうちカナダの仕組みについては、2020年11月20日開催の社会保障審議会企業年金・個人年金部会(第17回)において、藤澤研究員から報告を行い(藤澤委員提出資料 同部会資料3参照)、イギリスの仕組みについては、2020年12月23日開催の同部会(第18回)において、佐野研究員から報告を行った(外部有識者提出資料、同部会資料3参照)。
その他のインパクト
本研究の成果のうちカナダに関する部分については、藤澤研究員が公益社団法人シニアプラン総合研究機構の「年金と経済」(2020年10月、Vol.39 No.3、23~29頁)に寄稿するとともに、2021年3月に開催予定の公益社団法人日本年金数理人会の研修会において、報告した。そのほか、論文発表については、本調査研究の正式報告後、年金綜合研究所機関誌による発表のほか、日本アクチュアリー会、日本年金数理人会等の専門誌への寄稿を積極的に行っていく考えである。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
公益社団法人シニアプラン総合研究機構「年金と経済」(2020年10月、Vol.39 No.3、23~29頁)
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
2020年11月20日および同年12月23日の政府審議会で報告(社会保障審議会企業年金・個人年金部会)
その他成果(普及・啓発活動)
1件
2021年3月の公益社団法人日本年金数理人会研修会にて発表

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2022-05-27
更新日
2023-06-19

収支報告書

文献番号
202001010Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,880,000円
(2)補助金確定額
48,000円
差引額 [(1)-(2)]
2,832,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 48,000円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 0円
間接経費 0円
合計 48,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2022-06-29
更新日
-