中皮腫発生に関わる職業性石綿ばく露の研究

文献情報

文献番号
200733015A
報告書区分
総括
研究課題名
中皮腫発生に関わる職業性石綿ばく露の研究
課題番号
H18-労働-一般-001
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
岸本 卓巳(独立行政法人労働者健康福祉機構岡山労災病院 内科)
研究分担者(所属機関)
  • 大西 一男(独立行政法人労働者健康福祉機構神戸労災病院)
  • 井内 康輝(広島大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 木下 博之(兵庫医科大学医学部)
  • 三上 春夫(千葉県がんセンター)
  • 玄馬 顕一(独立行政法人労働者健康福祉機構岡山労災病院)
  • 山崎 浩一(北海道大学病院)
  • 瀧川 奈義夫(岡山大学医学部・歯学部附属病院)
  • 青江 啓介(独立行政法人国立病院機構山陽病院)
  • 加藤 勝也(岡山大学医学部・歯学部附属病院)
  • 丸山 理一郎(新日鐵八幡記念病院)
  • 豊岡 伸一(岡山大学医学部・歯学部附属病院)
  • 平木 章夫(愛知県がんセンター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中皮腫発生に関わる職業性石綿ばく露の関連性とともに中皮腫の診断精度について検討する。一方、肺内石綿小体数が一般住民あるいは肺がん患者においてどの程度であるかコントロールとして算定し、日本における職業性石綿ばく露以外の基礎的なばく露濃度を調査することを目的とする。
研究方法
平成17年に全国で死亡した中皮腫911例について、遺族の同意を得た上で、死亡診断書を作成した病院からカルテ、画像フィルム、病理組織を得た。そして、その診断精度について内科、放射線科、病理医で検討した。肺組織の石綿小体算定については、石綿ばく露の状況を客観的に判断するため、中皮腫症例のみならず肺がんおよび一般住民を対照とした肺内石綿小体数を算定した。
結果と考察
平成17年の中皮腫死亡例は男性722例、女性189例で平均年齢は70.6歳(18~101歳)であった。臨床経過および画像と組織標本が得られた中皮腫306例の中で確定診断できた例は260例(85%)であった。23例は肺がん、卵巣癌等で中皮腫以外の疾患であった。また、その他の23例は診断根拠が画像のみや胸水ヒアルロン酸値のみで組織診断や細胞診が行われておらわず、中皮腫疑いにとどまった。
一方、職業歴を調査することが可能であった248例中職業性ばく露(間接ばく露を含む)によって発生した症例は188例(75.8%)であった。職種別では、建設業、造船所内での作業が多かった。石綿ばく露期間の中央値は25年で、潜伏期間の中央値は41年であった。石綿小体を検討できた31例中25例は肺乾燥重量1gあたり1000本以上の石綿小体を得た。解体作業や電気工事業など石綿ばく露作業であっても100本程度の石綿小体数である症例もあった。一方、一般住民では、100本以下の症例が300例中222例(74%)であった。また、肺がん症例では69例中53例(77%)が1000本以下であり、一般人では、石綿ばく露者が多くないことが判明した。
結論
中皮腫の診断は難しく、病理組織学的には検討ができていた症例であっても診断が誤っており、診断精度を向上される必要があった。また、一般人や肺がん症例では石綿ばく露量は少なく、石綿小体数が1000本以下の症例では職業性石綿ばく露者は少ないものと思われる。一方、中皮腫症例では職業性石綿ばく露による症例が75.8%あることから、職業歴の詳細調査を行うことが重要であると思われた。

公開日・更新日

公開日
2008-06-02
更新日
-

文献情報

文献番号
200733015B
報告書区分
総合
研究課題名
中皮腫発生に関わる職業性石綿ばく露の研究
課題番号
H18-労働-一般-001
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
岸本 卓巳(独立行政法人労働者健康福祉機構岡山労災病院 内科)
研究分担者(所属機関)
  • 大西 一男(独立行政法人労働者健康福祉機構神戸労災病院)
  • 井内 康輝(広島大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 木下 博之(兵庫医科大学医学部)
  • 三上 春夫(千葉県がんセンター研究局疫学研究部)
  • 玄馬 顕一(独立行政法人労働者健康福祉機構岡山労災病院)
  • 山崎 浩一(北海道大学病院)
  • 瀧川 奈義夫(岡山大学医学部・歯学部附属病院)
  • 青江 啓介(独立行政法人国立病院機構山陽病院)
  • 加藤 勝也(岡山大学医学部・歯学部附属病院)
  • 丸山 理一郎(新日鐵八幡記念病院)
  • 豊岡 伸一(岡山大学医学部・歯学部附属病院)
  • 平木 章夫(愛知県がんセンター研究所疫学・予防部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成16、17年死亡の中皮腫患者に15年に死亡した症例を加えた3年間の中皮腫死亡者(2742例)について、その診断の信憑性、治療とその効果、および職業性石綿ばく露との関連について調査した。
研究方法
上記の3年間に死亡した症例を死亡診断書ベースでの生存解析を行った。また、遺族の同意を得てカルテ、レントゲン画像、病理組織標本を取り寄せて、中皮腫の確定診断を行った。診断の誤った例については正しい診断名を記載した。職業性石綿ばく露に関してはカルテと遺族からのアンケートによって判断した。
結果と考察
死亡診断書ベースで症例数は2742例で、性別では、男性2106例、女性636例、平均年齢は70.1歳であった。原発部位別では、胸膜1881例、腹膜253例、心膜17例で、部位不明が591例であった。生存期間の中央値は9ヶ月で胸膜は9ヶ月、腹膜は6ヶ月、心膜は5ヶ月であった。
カルテが得られた541例について、442例(81.7%)は確定診断できたが、49例は臨床診断のみで、50例では中皮腫以外の疾患であった。職業性石綿ばく露があった症例は421例中316例の75.1%であった。さらに、12例では近隣ばく露があり、5例では家庭内ばく露が示唆された。そして、合計で333例(79.1%)に石綿ばく露との関連性が示唆された。ばく露期間の中央値は27年で、潜伏期間の中央値は41年であった。
石綿小体数を計測できた47例中37例(79%)では、肺乾燥重量1gあたり1000本以上の石綿小体を認めた。特に腹膜中皮腫では7例中6例が20000本以上の高濃度ばく露者であった。
病理組織と画像をともに再検討できた382例中271例(71%)は中皮腫であると診断できたがその他の111例については、中皮腫以外が66例、中皮腫疑いが26例、診断困難が19例であった。臨床経過を検討できた749例中51例では、診断確定に3ヶ月以上を要しており、予後がよくなかった。
結論
中皮腫症例の79.1%は何らかの石綿ばく露によって発生し、そのうち75.1%には明らかな職業性石綿ばく露によって発生していることが判明した。しかし、病理組織と画像をあわせて診断すると確定診断率は70%であり、それ以外の疾患も中皮腫であると診断されていた。また、胸水貯留で発生する胸膜中皮腫が80%であるが、早期診断が行われていない症例が存在することも判明した。

公開日・更新日

公開日
2008-06-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200733015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
中皮腫診断率は80%であり、他の20%は中皮腫以外の疾患(肺がん、卵巣癌)であり、特に女性では腹膜中皮腫と卵巣癌の鑑別が重要であることが判明した。肺内石綿小体数の検討では、一般人の石綿小体数は概ね100本/1g肺内乾燥重量以下で全体の74%に相当する。ところが、肺がん患者の7.2%には5000本以上の石綿肺がん症例が交じることが判明した。中皮腫では、47例中21例(45%)が5000本以上であり、石綿高濃度ばく露者が約半数であった。
臨床的観点からの成果
職業性石綿ばく露によって中皮腫を発症している症例は76%であったが、臨床医が詳細な職歴調査を行っておらず、遺族からのアンケート調査により、石綿ばく露歴が明らかとなった症例が大半であった。1年以上の職業性石綿ばく露があれば労災対象となることから、臨床医に対して石綿ばく露作業に関する情報提供が必要と思われた。また、中皮腫診断における腫瘍組織診断が労災補償あるいは救済される際に重要であることを紹介する。
ガイドライン等の開発
胸膜および腹膜中皮腫の確定診断を行うためのガイドラインとして、レントゲン画像および病理組織の典型像と読影の方法を示す必要があると思われる。また、鑑別診断を要する疾患として、多形型肺がん、線維性胸膜炎、pseudomesotheliomatous adenocarcinoma、卵巣癌の診断症例も比較対照として紹介する必要がある。職業性石綿ばく露を来たした作業内容も紹介する必要がある。石綿肺の新たなる診断ガイドライン作成を行う。特に石綿小体数とHRCT所見についての項目を追加する。
その他行政的観点からの成果
どのような職業において職業性石綿ばく露を来たすか、中皮腫を発症した症例における頻度を紹介する必要がある。また、中皮腫診断における画像および病理組織像のエッセンスを紹介するとともに臨床医と病理医が確定診断を行う上で十分な討議をする必要性があることを紹介する。
その他のインパクト
職業性石綿ばく露によって中皮腫が発生する頻度が欧米並みであることが確認さたことから、中皮腫と診断されると労災もしくは救済されることを一般人および臨床医に普及すべきである。そのためには公開シンポジウムを開いて、石綿ばく露を来たす職種やばく露期間、潜伏期間を広く紹介すべきである。また、年間7万人が死亡している肺がんについては、その一部には石綿肺がん患者が存在するという事実も公表すべきである。

発表件数

原著論文(和文)
1件
岸本卓巳:アスベスト肺の診断 日本内科学会雑誌 96:9, 232-238, 2007.
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
Toyooka S, et al. Acta Med Okayama 62:1-7, 2008.
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-