必須アミノ酸製品等による健康影響に関する研究

文献情報

文献番号
199700397A
報告書区分
総括
研究課題名
必須アミノ酸製品等による健康影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
合田 幸広(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 食品衛生調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、バイオテクノロジー等の新しい製造・加工技術により製造された必須アミノ酸製品等の安全性を評価し、L-トリプトファン製品の摂取により実際に発生した食中毒等の類似の食中毒の発生を事前に防止し、もって国民の保健衛生に寄与することを目的として、平成3年から7年間にわたり実施された。本研究班で行われた研究成果については昨年(平成8年度)の研究班報告書に詳細に記載した。本年度は、最近の文献を基に、EMSに関する現在までの情報をまとめ、その原因について現段階における結論を演繹することとする。
研究方法
1997年までに印刷された,84報の論文(総説を含む)を参考にした。また,EMS研究を行っている研究者と直接口頭で意見交換を行った。
結果と考察
1995年以降では, EMS(Spanish toxic oil症候群を含む)関連の原著論文は28報確認された。そのうち,21報(化学・分析系が6報,皮膚系が4報,生化学免疫系が7報,動物実験系が4報)が入手できた。論文は,1990年以降,4, 11, 24, 11, 17, 7, 13, 8と減少傾向があるものの毎年,一定数投稿印刷されている。これらの論文より,L-トリプトファン事故の概要,化学分析に関する概要,不純物含有トリプトファン及びトリプトファン不純物の生体影響に関する概要をまとめた。化学分析及び生体影響の概要における重要部分を以下に示す。
1)化学分析
EMS関連トリプトファンロットのHPLCによる化学分析の結果、60種もの数多くの微量混入物が含まれていることが明らかにされている。これらの不純物のうち, 6成分について、EMSと有意に相関していることを明らかにされている。その6成分とは、EBT、2-(3-indolymethyl)-L-tryptophan(peak 200)、3-anilino-alanine(PAA,本研究で解明)及び3種未知化合物であったが、残りの3化合物のうち、peakCは、6-hydroxytryptophanであることが、最近になって本研究の結果明らかになっている。なお、EMSを伴わない若干のトリプトファンロット中のこれらの不純物量は、EMSを伴う若干のロット中の物より多い。また、一般にEMSを伴うロットのEBT含量はより高いが、EMS関連ロットと非関連ロットとのEBT含量の差は有意な差の0.05に達しない(p=0.12)という結果が報告されている(患者の使用量を考慮しない分析)。
不純物で残る問題点は、HPLCでトリプトファンピークに重複する成分の存在の可能性であり、3日間トリプトファナーゼ処理することにより、70~80%のトリプトファンが除去され、そのHPLCパターンからトリプトファンより速く溶出する2ピークの存在が明らかとなっている。本酵素は活性が低い弱点があり、今後更に検討が必要である。
2)生体影響
好酸球性の筋膜炎は、混入物含有トリプトファンの製造以前にもトリプトファンを使用していた人々に起こり得ることが示されている。多くのEMS患者は、不眠症や月経前症候群や鬱病の自己治療にL-トリプトファンを摂取していたことを考慮すると、これら多くの人がEMSの発症前に繊維筋肉痛症を示していた可能性がある。
EMS症患者では、血液中の好酸球が増加するのにかかわらず、組織中では、好酸球は増加せず、リンパ球や単核球が増加し、CD8+リンパ球が肺生検で証明されている。しかし、好酸球の脱顆粒生成物である好酸球由来神経毒(EDN)及び主塩基性蛋白質(MBP)の増加が観察されている。またサイトカインのIL-8及び成長因子のTGFβも増加している。
一般に化学物質の曝露による疾病の発生は、原因または病因となる物質の特性によるのみならず、宿主の曝露後の病理学的反応にも依存している。昭和電工製のトリプトファンを摂取した全ての人にEMSが起こっている訳ではない。不純物混入L-トリプトファンを摂取した人の場合でも、僅かな%の人が病気になり、病気の発生には宿主の要因も重要であることが示唆されている。またトリプトファンの摂取量が重要な要因であり、曝露量が1日当たり4g以上の場合EMSが50%以上発現するという報告もある。
トリプトファンと同時に他の医薬品を摂取している場合の影響も考慮する必要があり、実際に医薬品のベンゾチアゼピンはトリプトファン代謝に影響し、ベンゾチアゼピンレセプターは関連トリプトファンや不純物のPAAにより影響され、結果的に免疫反応系に影響し得ると考えられている。ドイツでは、トリプトファンは薬物として取り扱われたため、EMS患者の医学的情報入手が容易であるが、その解析では、EMSの発生率と、発症前のトリプトファン服用量、若しくは摂取期間の間に統計的関連性がみられていない。また、他の薬物との併用においても、統計的な関連が見られていない。
臨床データに基づいたEMSの病因の可能性についての混乱は、実験動物研究によっても明らかとならない。これまでのところ、動物実験で、EMS像を再現できていない。
結論
トリプトファン中に存在する単一の不純物がEMSを引き起こしたとする考えは,これまでの研究で既に否定され,現在のところ,EMSはトリプトファンを大量摂取した患者において,その際含まれていた一定の不純物(EBT,PAA等)が,患者のもつ特異的な免疫,代謝系異常の引き金を引き,生じたとする,考え方が一般的で,世界の研究者から支持をうけている。 しかし,明確な原因と発生機序は,EMSの動物モデルが開発されていないこともあり,未だ不明である。

公開日・更新日

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