文献情報
文献番号
199700394A
報告書区分
総括
研究課題名
予防接種の効果的実施と副反応に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
竹中 浩治(予防接種リサーチセンター理事長)
研究分担者(所属機関)
- 平山宗宏(母子愛育会・日本子ども家庭総合研究所)(総括担当)
- 山崎修道(国立感染症研究所)(第1班担当)
- 千葉修三(札幌医科大学)(第2班担当)
- 神谷斉(国立療養所三重病院)(第3班担当)
- 磯村思无(名古屋大学医学部)(第4班担当)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 ワクチン・予防接種対策総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
34,687,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
予防接種法の改正により予防接種は義務接種から努力義務となり、国民の予防接種の意義に対する意識や接種率の低下が懸念されている。このため、行政的、医学的努力により、対象疾患の流行を抑制し、予防接種の社会防衛上の意義を周知させる必要がある。また、ワクチンの改良によって副反応の程度と頻度は減少してきているが、ワクチン成分或いは添加物によると考えられる副反応等の新たな問題も生じているので、新しい課題の解決も迫られている。また、予防接種に際し注意すべき事項の判断基準、内容についても医師向けマニュアルの改訂に備えて検討しておく必要がある。予防接種副反応の疑われる症例は報告のシステムがあるが、その症状と予防接種との因果関係については医学的に慎重な検討が行われ、副反応の軽減に繋げる必要がある。以上を検討する目的で本研究が行われた。
研究方法
臨床医、基礎医学者、疫学者、行政関係者等からなる全国的規模の研究班を構築し、予防接種全般にわたる総合的研究を実施した。研究協力者は、各都道府県及び日本医師会から推薦された臨床医並びに基礎医学、疫学等の専門研究者の百余名に依頼して全国組織で研究を実施した。研究は次の4班がそれぞれ分担した。
第1班 予防接種の効果と副反応発症要因並びに機序に関する基礎的研究
第2班 予防接種の効果と感染症の発生状況に関する調査研究
第3班 予防接種副反応に関わる臨床的並びに疫学的研究
第4班 予防接種の効率的実施と健康教育に関する研究
第1班 予防接種の効果と副反応発症要因並びに機序に関する基礎的研究
第2班 予防接種の効果と感染症の発生状況に関する調査研究
第3班 予防接種副反応に関わる臨床的並びに疫学的研究
第4班 予防接種の効率的実施と健康教育に関する研究
結果と考察
1)予防接種の効果と副反応発症要因並びに機序に関する基礎的研究によれば、生ワクチンのみならず不活化ワクチンにも添加されてきたゼラチンが原因で、接種後にアナフィラキシーを含む即時型アレルギー反応が起きることが免疫学的に確認された。安定剤としてのゼラチンを抜いたワクチンにおいては、明らかに副反応が減少している。2)現行麻疹ワクチンと流行麻疹株の抗原性のずれによるワクチン効果の低下が懸念されたが、現在のところその怖れはない。また一部麻疹ワクチンの有効率が低いことが指摘されたが、一方、中和抗体を鋭敏に測定できるB95a細胞による検査法が確立された。3)インフルエンザウイルスの表面の糖蛋白の5つの成分の遺伝子を組み込んだプラスミドDNAを用いてそれぞれの防衛上の役割が検討され、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)成分が防御免疫誘導上最も重要と判明した。自然界のインフルエンザウイルスの変異に対抗できる新ワクチンの作出に有力な手段が得られたと考えられる。4)強化された不活化ポリオワクチンの開発が昨年より一段と進められ、世界的ポリオ根絶に備えて経過的に不活化ワクチンを使用する見通しが立てられた。また、ロタウイルスのワクチン作成に備え、ウイルスの変異や血清型の調査が進められた。5)予防接種の効果と感染症の発生状況に関する調査研究によれば、麻疹の流行に際しての疫学調査により、予防接種の接種率と罹患状況の比較からワクチンの有効性が示された一方、接種率の低迷から年長児や成人の麻疹罹患、流行の減少から成人の抗体価の低下、そして乳児への移行抗体価の低下が認められ、乳児期(10月)での麻疹予防接種、年長児への二回目の予防接種が検討されるべきとの意見が強まった。風疹については、接種率が低いこと、とくに中学生での接種率が低いことから、近い将来に妊婦の風疹罹患、先天性風疹症候群の増加を強く懸念する意見が多く出された。6)DPTワクチンの接種率は現在でも高く保たれ、百日咳の発生は低く、罹患者はほとんど未接種者に限られること、接種済み者には家族内罹患のないことなどから、メーカーによる百日咳ワクチンの含有成分割合に相違があっても、現行各ワクチンの有効性は確実である。また、年長児や青年層でジフテリアや破傷風の抗毒素が発病阻止レベル以上に保たれていることから、現行DPTワクチンの有効性が確認された。7)ポリオの抗体保有率は、流行予測事業の成績と同様に、全般的に3型が低く、1型では20歳代前半の年代で低いことが報告されたが、WHOによるポリオ根絶計画が順調に進行していることから生ワクチンの大規模な追加接種は必要なく、不活化ワクチンの実用化を急ぐべきことが要望された。8)1996-97,97-98年のインフルエンザ流行期に、小児の脳炎・脳症などの重症合併症の頻度が調査された。脳炎脳症の予後は不良であるが、その合併率は従来に比して特に高いものではなく、ウイルスの悪性化や臨時接種の中止の影響はこれまでのところ認められなかった。しかしハイリスク者への予防接種は積極的に勧められるべきである。9)水痘ワクチンの前方視的効果調査が継続的に行われ、効果は他の生ワクチンに比してやや劣り、ロット別の調査では調査精度に問題はあるものの、接種者での罹患率は10-40%と報告された。接種後罹患者の症状の軽いことは今回も確認された。10)ワクチンの副反応では接種後の発熱が問題となるが、ワクチン接種と関係なく乳幼児での発熱頻度を調査した報告によれば、育児相談に来院した児のその後の発熱頻度(累積)は、来院後2日以内で4%、7日までに10%、35日までに37%であった。また、副反応に紛らわしい急性神経系疾患の頻度調査も各地で行われて報告された。小児期には予防接種と無関係に発熱や神経系疾患の罹患が起こることに留意する必要がある。11)予防接種副反応に関わる臨床的並びに疫学的研究によれば、ゼラチンによるアレルギー感作の原因として、離乳食等の食品、微量のゼラチンを含むワクチンを疑う成績が得られ、またアレルギー患児にはゼラチン特異的IgE抗体陽性
例が多いなどの報告があった。今後なお詳細な疫学的、臨床的、免疫学的研究が必要である。12)各ワクチンについての副反応を疑う症例、並びに他の偶発疾患が副反応の現れやすい時期に発症した症例(混入事故例)について各地から報告され、検討された。13)けいれん性疾患、心身障害児など、ハイリスク者への予防接種基準、規則に言う「予防接種に際して注意を要する者」の「注意の仕方」について検討された。14)予防接種の効果的な実施方式に関する研究としては、前年に引き続いて、都道府県を通じて全国の市町村における平成8年度の接種状況を調査した。42都道府県3133市町村から報告が寄せられ、全国の小児の90%以上を把握できた。接種率算出の基本となる接種予定者(対象者)数としては、ほとんどの市町村で「その年に新規に接種年齢に達した者」に「未接種者」を加えた数を以て算定している。15)DPT三種混合ワクチン、ポリオ生ワクチンの接種率はほぼ良好であるが、麻疹ワクチンの接種率は約75%に止まり、風疹と日本脳炎ワクチンでは就学後の接種率が低いのが心配である。
例が多いなどの報告があった。今後なお詳細な疫学的、臨床的、免疫学的研究が必要である。12)各ワクチンについての副反応を疑う症例、並びに他の偶発疾患が副反応の現れやすい時期に発症した症例(混入事故例)について各地から報告され、検討された。13)けいれん性疾患、心身障害児など、ハイリスク者への予防接種基準、規則に言う「予防接種に際して注意を要する者」の「注意の仕方」について検討された。14)予防接種の効果的な実施方式に関する研究としては、前年に引き続いて、都道府県を通じて全国の市町村における平成8年度の接種状況を調査した。42都道府県3133市町村から報告が寄せられ、全国の小児の90%以上を把握できた。接種率算出の基本となる接種予定者(対象者)数としては、ほとんどの市町村で「その年に新規に接種年齢に達した者」に「未接種者」を加えた数を以て算定している。15)DPT三種混合ワクチン、ポリオ生ワクチンの接種率はほぼ良好であるが、麻疹ワクチンの接種率は約75%に止まり、風疹と日本脳炎ワクチンでは就学後の接種率が低いのが心配である。
結論
本研究班は、予防接種の社会防衛上の重要性から、予防接種の安全性と効果の確認とさらなる向上のために、絶えず浮上してくる諸問題に即応する研究を進めつつある。また、本研究班は、全国規模で予防接種に関する専門家をほぼ網羅する構成で研究を実施してきており、この組織を維持しつつ、わが国子どもの健康を感染症予防の面から守っていく重大な使命を持つものである。今後とも研究活動を展開し、使命を遂行する必要がある。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-