文献情報
文献番号
199700391A
報告書区分
総括
研究課題名
弱毒生ウイルスワクチンの安全性確保に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
田代 眞人(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
- 倉田毅(国立感染症研究所)
- 棚林清(国立感染症研究所)
- 吉井孝男(国立感染症研究所)
- 海野幸子(国立感染症研究所)
- 小浜友昭(国立感染症研究所)
- 菱山美智子(国立感染症研究所)
- 高山道子(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 ワクチン・予防接種対策総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
12,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ウイルス性疾患の対策としては、現在のところワクチンによる予防が最も効果的である。生ウイルスワクチンの製造は、有効かつ安全と認められて製造承認を受けたウイルスの原株に由来するものを生産用シードとして用い、再現性のある製剤を生産する体系、いわゆるシードロットシステムによる行うことが合理的である。そのためには、継代に伴う原株の安定性、再現性が保証されなければならない。特に、生ワクチンの品質管理について、生物製剤GMPの導入により製造過程における品質の再現性を確保しようとするためには、その出発材料である製造用ウイルス株の適正な管理が不可欠である。
現在わが国においては、法律上は、製造承認をうけたワクチン株に由来していれば、様々な継代歴を持つウイルスを原材料としてワクチンの製造が可能であり、その結果として製造されたワクチンに関しては、製造ロット毎の国家検定が行われている。しかし、ウイルスは継代によって遺伝子の変異が起こるので、現行の制度では製造用ウイルス株の均一性、再現性を確保することは到底困難であり、限られた検定項目のみからでは、最終製品の安全性を保証することも出来ない。この様な状況から、シードロットシステムの導入は10年以上に亘って検討されてきたが、具体的な進展は無く、最近では国際的な趨勢から取り残されつつある。一方、昨年度からの生物製剤GMPの導入に伴って、このシステムへ可及的速やかに移行することが強く要求されている。本研究では、現行の生ウイルスワクチンのシードロットシステムへの移行を目的として、各ワクチンの原株について、それぞれに必要な生物学的及び遺伝学的な性質の安定性に関する詳細な検討を行う。
一方、生ウイルスワクチンは、その本質上、製造過程において複雑な操作が加えられる。従って、製造管理、品質管理、及びそれらのバリデーションの体系を確立することも急務である。そこで、本研究では、ワクチンの品質管理を体系化するための基礎研究も併せて行う。
現在わが国においては、法律上は、製造承認をうけたワクチン株に由来していれば、様々な継代歴を持つウイルスを原材料としてワクチンの製造が可能であり、その結果として製造されたワクチンに関しては、製造ロット毎の国家検定が行われている。しかし、ウイルスは継代によって遺伝子の変異が起こるので、現行の制度では製造用ウイルス株の均一性、再現性を確保することは到底困難であり、限られた検定項目のみからでは、最終製品の安全性を保証することも出来ない。この様な状況から、シードロットシステムの導入は10年以上に亘って検討されてきたが、具体的な進展は無く、最近では国際的な趨勢から取り残されつつある。一方、昨年度からの生物製剤GMPの導入に伴って、このシステムへ可及的速やかに移行することが強く要求されている。本研究では、現行の生ウイルスワクチンのシードロットシステムへの移行を目的として、各ワクチンの原株について、それぞれに必要な生物学的及び遺伝学的な性質の安定性に関する詳細な検討を行う。
一方、生ウイルスワクチンは、その本質上、製造過程において複雑な操作が加えられる。従って、製造管理、品質管理、及びそれらのバリデーションの体系を確立することも急務である。そこで、本研究では、ワクチンの品質管理を体系化するための基礎研究も併せて行う。
研究方法
わが国の生ウイルスワクチンの各製品について、シードロットシステム導入のための条件を再確認する作業を進めた。麻疹、風疹、ムンプスの各ワクチン株の遺伝子全塩基配列の決定、水痘ワクチンウイルスの長PCR産物についての特異的制限酵素切断地図の解析、各ワクチン株の遺伝的安定性、変異の程度、弱毒性、病原性、免疫原性に関する基礎研究を進展させ、シードロットシステム導入に必要な条件と安全確保のための指標、およびその検出方法、確認方法の確立を検討した。一方、ポリオ生ワクチンに関しては、ポリオウイルスレセプターを発現しているトランスジェニックマウスを用いた神経毒力試験を行い、サルにおける成績と比較検討した。また、製造中に混入しうる外来性病原体やアレルギー物質などの検出法とその除去・不活化法の開発を行った。更にワクチンの力価、ワクチン効果判定法を確立するための基礎研究を進めた。
結果と考察
研究結果=
1)麻疹ワクチンに関する研究
麻疹ワクチンは温度感受性変異株であるが、熱抵抗性ウイルスも含まれている。これを選択的に回収して、その性状を検討する方法を進めた。
2)風疹ワクチンに関する研究
風疹ワクチンは温度感受性であるが、この性状の安定性を検討するために、高温、低温におけるプラック形成能を検討した結果、ウイルス株間に温度感受性に違いが存在した。風疹ウイルスの胎児感染率を年代毎に検討した結果、ウイルス自身が変異して胎児感染率が低下していることが示唆された。風疹ワクチンTCRB19株、松浦株の全塩基配列を決定し、野生株との識別が可能となった。
3)ムンプスワクチンに関する研究
ムンプスワクチン製剤におけるウイルスの均一性または混在等を的確に検出するための遺伝子マーカーを確立するために、ムンプスワクチンSH遺伝子を対象に多数のcDNAクローンの塩基配列の解析を行った。今回解析したTorii株においてはかなり均一なウイルス液であると判断されたが、解析に用いたRTーPCR法を含む操作中に導入された変異と考えられる塩基置換も認められ、今後の解析の必要性がある。ムンプスワクチンM46株、鳥居株の遺伝子全塩基配列を決定し、SH領域に遺伝子変異が集中していることがわかった。ムンプスワクチン接種後の副反応例から分離したウイルスについて、遺伝子塩基配列を決定し、原株との比較検討を進めた。
4)ポリオワクチンに関する研究
ポリオウイルスの神経毒力試験法について、サルの変わりにトランスジェニックマウスを用いるための検討を行った。PVPーTg21を用いたところ、1、2、3型についてはヒトの神経毒性を反映すると考えられたが、3型については、問題点も指摘された。
5)水痘ワクチン関する研究
乾燥弱毒化水痘生ワクチンは、1986年の認可以来、シードロットシステムが導入されて生産されているが、ワクチン株の弱毒化を規定する遺伝子マーカーは不明であり、ウイルス株の同定鑑別に有用な遺伝子マーカーも明確ではない。そこでこれらの遺伝子マーカーを決定する目的で、野生株とワクチン株の遺伝子を長鎖PCR法で増幅し、RFLP解析で変異部位を検索した結果、G領域に特異的な制限酵素切断点を見い出した。今後より多くの株について検討を重ねる必要がある。
6)生ワクチンの品質管理上の手技に関する研究
生ウイルスワクチン製剤中に混入している可能性のある宿主細胞由来のレトロウイルスを高感度で検出する方法を検討した。従来のRSVのフォーカス干渉法に代えて、感度の良いRTase法を検討したところ、微量のウイルスを検出するには、検体を2、3回継代が必要であることがわかった。
考察=昨年度から生物製剤GMPが導入されたことから、生ウイルスワクチンの安全性を確保するためには、わが国における生ウイルスワクチン生産体制について、シードロットシステムの導入が不可欠であろう。そこで、この為に必要な具体的な条件に関して各ワクチン毎に検討し、早急に関連法案等を整備する必要がある。引き続き、本研究班を中心として、シードロットシステム確立のための基礎資料を作る必要がある。
一方、長年にわたってシードロットシステム導入が検討されてきたにも拘わらず、その実現に向けた具体的な動きがなかったことを反省し、その理由とそれを克服するための検討も必要であり、本研究班においては厚生省医薬安全局と連絡を取りながら、この件に関しても積極的に活動していきたいと考えている。
1)麻疹ワクチンに関する研究
麻疹ワクチンは温度感受性変異株であるが、熱抵抗性ウイルスも含まれている。これを選択的に回収して、その性状を検討する方法を進めた。
2)風疹ワクチンに関する研究
風疹ワクチンは温度感受性であるが、この性状の安定性を検討するために、高温、低温におけるプラック形成能を検討した結果、ウイルス株間に温度感受性に違いが存在した。風疹ウイルスの胎児感染率を年代毎に検討した結果、ウイルス自身が変異して胎児感染率が低下していることが示唆された。風疹ワクチンTCRB19株、松浦株の全塩基配列を決定し、野生株との識別が可能となった。
3)ムンプスワクチンに関する研究
ムンプスワクチン製剤におけるウイルスの均一性または混在等を的確に検出するための遺伝子マーカーを確立するために、ムンプスワクチンSH遺伝子を対象に多数のcDNAクローンの塩基配列の解析を行った。今回解析したTorii株においてはかなり均一なウイルス液であると判断されたが、解析に用いたRTーPCR法を含む操作中に導入された変異と考えられる塩基置換も認められ、今後の解析の必要性がある。ムンプスワクチンM46株、鳥居株の遺伝子全塩基配列を決定し、SH領域に遺伝子変異が集中していることがわかった。ムンプスワクチン接種後の副反応例から分離したウイルスについて、遺伝子塩基配列を決定し、原株との比較検討を進めた。
4)ポリオワクチンに関する研究
ポリオウイルスの神経毒力試験法について、サルの変わりにトランスジェニックマウスを用いるための検討を行った。PVPーTg21を用いたところ、1、2、3型についてはヒトの神経毒性を反映すると考えられたが、3型については、問題点も指摘された。
5)水痘ワクチン関する研究
乾燥弱毒化水痘生ワクチンは、1986年の認可以来、シードロットシステムが導入されて生産されているが、ワクチン株の弱毒化を規定する遺伝子マーカーは不明であり、ウイルス株の同定鑑別に有用な遺伝子マーカーも明確ではない。そこでこれらの遺伝子マーカーを決定する目的で、野生株とワクチン株の遺伝子を長鎖PCR法で増幅し、RFLP解析で変異部位を検索した結果、G領域に特異的な制限酵素切断点を見い出した。今後より多くの株について検討を重ねる必要がある。
6)生ワクチンの品質管理上の手技に関する研究
生ウイルスワクチン製剤中に混入している可能性のある宿主細胞由来のレトロウイルスを高感度で検出する方法を検討した。従来のRSVのフォーカス干渉法に代えて、感度の良いRTase法を検討したところ、微量のウイルスを検出するには、検体を2、3回継代が必要であることがわかった。
考察=昨年度から生物製剤GMPが導入されたことから、生ウイルスワクチンの安全性を確保するためには、わが国における生ウイルスワクチン生産体制について、シードロットシステムの導入が不可欠であろう。そこで、この為に必要な具体的な条件に関して各ワクチン毎に検討し、早急に関連法案等を整備する必要がある。引き続き、本研究班を中心として、シードロットシステム確立のための基礎資料を作る必要がある。
一方、長年にわたってシードロットシステム導入が検討されてきたにも拘わらず、その実現に向けた具体的な動きがなかったことを反省し、その理由とそれを克服するための検討も必要であり、本研究班においては厚生省医薬安全局と連絡を取りながら、この件に関しても積極的に活動していきたいと考えている。
結論
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-