パラミクソウイルスの弱毒化の機構解析と病原性の評価方法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
199700390A
報告書区分
総括
研究課題名
パラミクソウイルスの弱毒化の機構解析と病原性の評価方法の確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
山田 章雄(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 網康至(国立感染症研究所)
  • 伊藤康彦(三重大学医学部)
  • 竹内薫(国立感染症研究所)
  • 山田靖子(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 ワクチン・予防接種対策総合研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現行のムンプスウイルスワクチンは副反応としての無菌性髄膜炎の発生が認められ、早急なワクチンの改良が求められている。現行ワクチンはいずれも経験的な弱毒化の過程を経てはいるが、弱毒化の機構には未だ不明な点が多く、本ウイルスの神経病原性の発現の機構に対して理解を深めること、ウイルスの弱毒化の機構解析は極めて重要である。またこれらの解析には病原性を的確に評価するシステムの確立が不可欠である。本研究ではムンプスウイルスを中心とするパラミクソウイルスの弱毒化の機構を分子レベルで明らかにすることおよび神経病原性の発現機構の解明を目的とする。そのために本ウイルスの神経病原性を判断することの出来るin vivoおよびin vitro評価システムの確立をめざす。
研究方法
リスザルへの感染実験:3頭のリスザル脳内に検定と同様の方法に従って、ムンプスウイルス大館株(10の5.7乗PFU/ml)を各接種部位に0.25ml接種した。接種後3日に1頭、7日に2頭を麻酔下で全採血、安楽殺の後剖検を行い、脳脊髄を含む主要臓器を採材、常法に従って切片を作製、HE染色を行い、病理組織学的検索を行った。また末梢血リンパ球、血漿および髄液についてVero細胞でウイルス分離を試みると同時にRT-PCR法によるウイルス遺伝子の検索も行った。抗FRP-1モノクローナル抗体の作製:免疫原としてC3H/Heマウス由来のL細胞を用い、ラットを免疫した。SP2/0細胞とラットの脾臓細胞を融合させハイブリドーマを作製した。スクリーニングにはHeLa細胞とマウスFRP-1を発現させたHeLa細胞を用い、後者にだけ反応するクローンを選択した。
結果と考察
リスザルへの感染実験では接種後3日で脳室に病変が認められた。病変は脈絡叢上皮細胞の膨化、同部間質および脳室壁への好中球を主体とする細胞浸潤であった。接種7日目では3日目と同様の病変が認められるものの、接種部位近傍に限局し強度が増す傾向が認められた。ウイルス分離を試みた結果、接種後3日の全リスザルの末梢血リンパ球、1頭の血漿、1頭の髄液、接種後7日の2頭の末梢血リンパ球、1頭の髄液からムンプスウイルスが分離された。ウイルスのRNAは髄液、接種後7日の末梢血リンパ球で検出することが出来た。マウスFRP-1に関する研究では、マウスFRP-1を認識する19個のモノクローナル抗体を樹立することができた。ヒトにおいてはFRP-1は単球系細胞に選択的に発現しているが、マウスでは脾臓細胞やリンパ球でも発現が認められた。マウスにおいてはFRP-1は抗原性の相違が存在し、アロ抗原であることがわかった。この抗原性の違いはマウスFRP-1の129番目のアミノ酸がアルギニンかプロリンかの違いによることがわかった。これらの抗体によるウイルスの細胞融合への影響を調べた。マウスFRP-1発現HeLa細胞にNDVウイルスを感染させモノクローナル抗体を加えると全面に細胞融合が起きた。モノクローナル抗体を加えない限り細胞融合は起きないので、これらのモノクローナル抗体には細胞融合を促進する働きがあることが判明した。リスザルへのムンプスウイルス脳内接種で病変が認められ、ウイルスが分離され、ウイルスRNAが検出されたことは、リスザルがムンプスウイルスに対して感受性があることを示している。病変はマカカ属サルと同様であった。感受性については今回の結果だけでは単純に比較できない。FRP-1はパラミクソウイルスによる細胞融合を調節するのみならず、単球系細胞の凝集や細胞増殖に関与することが判明し、多彩な生物活性を持つ重要な分子であることが明らかとなった。ムンプスウイルスの神経病原性と
の関わりに興味が持たれる。
結論
今回のリスザルへの接種実験の病理所見およびウイルス分離、ウイルスRNA検出等を総合すると、リスザルはムンプスウイルスに対して感受性があると判断できる。ムンプスウイルス弱毒株あるいは強毒株をリスザルに接種し比較すること、定量性を検討すること等が必要であるが、髄膜炎を含むムンプスウイルスの神経病原性を評価する動物として魅力的な系であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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