健康保養医学の健康増進効果に関する精神・神経・内分泌・免疫学的評価に関する研究

文献情報

文献番号
199700387A
報告書区分
総括
研究課題名
健康保養医学の健康増進効果に関する精神・神経・内分泌・免疫学的評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
神庭 重信(山梨医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 石束嘉和(山梨医科大学)
  • 坂本玲子(山梨県立女子短期大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康増進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
4,625,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
芳香療法(アロマテラピー)は、疲労軽減・環境改善効果の面で近年注目されており、作業環境や治療環境でのストレス低減に有効と考えられている。この有用性を科学的に測定
し、その機序及び医学的裏付けを明示していく必要がある。このため、生理学的、内分泌・免疫学的指標を用いて、芳香療法のストレス低減効果・作業能率改善効果を中心に実証していく。
研究方法
香りによる休憩効果、作業能率への影響の測定を中心に実験を行った。
被験者は、47人の嗅覚異常の無い男子学生で、平均年齢は23歳であった。実験前3日間は規則正しい生活とし、禁酒・禁煙・禁薬物としは香辛料の強い食事を避けてもらった。また前日から香りのあるもの(整髪剤、制汗剤など)は使用せず、当日はカフェイン入りの飲み物もとらないこととした。さらに性格検査として、YGテスト・CMIテストを事前に実施しておいた。
実験で使用する香りは一般に覚醒系といわれるジャスミン、鎮静系とされるラベンダーの2種とし、100ccの蒸留水にそれぞれの精油を0.1ccを加えたビーカー2種を、別々の恒温漕(37度に設定)に設置して香りを拡散させることとした。設置した2つの部屋はそれぞれ6m四方で、日照条件も同様にした。室温は一日をとおして、17度から22度、湿度は50%から65%であった。
被験者は、?作業せずに過ごす群(11名)、?作業はするが休憩時には香りの無い部屋で過ごす群(12名)、?作業前の休憩時にジャスミンの香りの部屋で過ごす群(12名)、?作業前の休憩時にラベンダーの香りの部屋で過ごす群(12名)、の4群に分けた。
作業はコンピューターを用い、パフォーマンステスト(作業能率判定ソフト)に一回につき60分間取り組むもので、30分の休憩をはさみながら一日5回行った。作業能率判定ソフトは簡単なテレビゲーム様のもので、画面に出る球体の不規則な動きを正確に追い、変化に速やかに反応することを要求するものである。これにより各被験者の作業能率の変化は自動的に記録される。また、練習効果を減じるために、実験前日、全被験者を一定時間このソフトに取り組ませた。
実験開始前に香りの好き嫌い、日頃どの程度使用しているか、その日の体調などを記入させた。また、休憩後・作業後にはその都度、Visual Analogue Scale(VAS)に記入させ(全部で10回)、「元気-疲れている」、「リラックスしている-苛々している」、「覚醒している-眠い」、「わくわくしている-沈んでいる」の対について程度を表現してもらった。実験の開始時と、実験後にPFテストも実施している。
さらに、全作業前、全作業後、そしてその中間の3回、採血を行い、コルチゾール・サイトカイン・免疫グロブリンサブクラスなどを測定している。また自律神経機能測定のために、携帯型心電図R-R間隔測定器を各被験者に装着してもらった。
結果と考察
Visual Analogue Scale(VAS)の結果では、時間経過に伴う10回の施行で、「リラックス度」、「元気さ」は、コントロール群(作業はしているコントロール群)とラベンー群、ジャスミン群の3群でほぼ同じ動きを示した。「覚醒度」についてはコントロール群とジャスミン群ではほぼ同じ動きであったが、ラベンダー群では二者を下まわる傾向があった。「わくわく度」については、いずれの群も一定の傾向を示さなかった。香りを比べると、ジャスミンは影響を及ぼさず、ラベンダーは全体に覚醒度を落としている可能性があった。
次にパフォーマンステストについて述べる。作業の始め5分間、中間5分間、終了前5分間を第一施行から第五施行まで比べたところでは、コントロール群・ジャスミン群・ラベンダー群のあいだの変化のしかたに大きな差はみられなかった。しかし、作業の第1試行(9:30~10:30)と第5試行(16:00~17:00)を比較したところ、追跡誤差に関しては、コントロール群とジャスミン群が第5試行に至って第1試行の2倍以上の誤差距離を記録したのに対して、ラベンダー群では第1試行と第5試行に全く変化が無かった。一方、反応時間は3群ともほぼ違いが無かった。作業能率の低下を防止する面では、ジャスミンにはその効果が見られず、ラベンダーでは低下を抑制する傾向を認めた。
また、血液検査では、ジャスミン群でTリンパ球の低下を抑えている傾向、ラベンダー群でナチュラルキラー細胞の若干の増加傾向をみた。
結論
香りの鎮静作用については、脳波を用いた研究でジャスミンの興奮作用、ラベンダーの鎮静作用が指摘されている。特に、事象関連電位を用いての実験では、香りが感覚入力を処理する過程を促進し、作業能率の向上に貢献する可能性が指摘されている。また香りの比較ではラベンダーが認知機能の処理能力を抑制していることも指摘された。しかし、これらの実験では、香りは作業時に呈示されたものであった。これに対し、休憩時に香りを呈示した場合、それが休憩効果にどう影響し、作業能率にどう反映するのかを明らかにすべく今回の実験を行った。実験の所要時間は朝9時から夕方の5時までと、実際の労働時間に近似したものとした。人間の生活は労働と休養の組み合わせとくりかえしでできておりいかに効率よく休養をとるかが、健康維持の要の一つと考えられるからである。
VASによれば、ラベンダーは休憩後、作業後とも覚醒度を下げているが、作業能率の解析ではラベンダーは疲労による能率低下を抑制していることが明らかになった。すなわち、休憩時に香りによって鎮静されたほうが、作業時時の効率を維持できる可能性が考えられる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)