難治性疾患による涙腺の障害に対する新規治療法の開発

文献情報

文献番号
200731044A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性疾患による涙腺の障害に対する新規治療法の開発
課題番号
H17-難治-一般-045
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
坪田 一男(慶応義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 斎藤 一郎(鶴見大学歯学部)
  • 後藤 英樹(鶴見大学歯学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治性疾患であるスティーブンス・ジョンソン症候群やシェーグレン症候群などにより消失または著しく障害された涙腺の分泌機能を回復するために再生医療を応用することが本研究の目的である。これまでの検討により、SP細胞を用いた細胞治療が涙液分泌障害の治療法として奏効する可能性が明らかとなり加えてSP細胞に高い発現を示すクラステリンが活性酸素種による細胞障害を抑制することが示された。本研究ではクラステリンの臨床応用の可能性について検討している。
研究方法
1)涙腺・唾液腺組織から採取したSP細胞における幹細胞活性の検討

2)SP細胞の治療効果がクラステリン蛋白を介しものである可能性を検証

3)組み換えクラステリン蛋白を用いた治療実験
結果と考察
本研究において当該腺組織におけるSP細胞は腺組織再構築能を有していないことより、幹細胞を多数含む分画とは異なる可能性が示唆されている。この可能性を検証する目的で、当該腺組織由来のSP細胞におけるBrdU長期保持細胞の割合を検証した結果、その割合は極めて低く5%程度であったこれらのことより涙腺・唾液腺におけるSP細胞は幹細胞を多数含む分画とは考えにくく、SP細胞の性格は採取された組織あるいは臓器により異なる可能性が考えられた。また、SP細胞が分泌しているクラステリンが活性酸素種を介した細胞障害を抑制する可能性が示唆されたのは極めて興味深い。造血幹細胞における。したがって、当該腺組織ににおけるSP細胞が幹細胞の恒常性維持に働いている可能性も考えられ、クラステリンなどの因子を応用することにより幹細胞の機能不全を防ぐことが可能となるかもしれない。
結論
スティーブンス・ジョンソン症候群やシェーグレン症候群などの難治性疾患により障害された涙腺の分泌機能を回復するために組織幹細胞を用いた再生医療を新規治療法として確立することを目的に当該研究は遂行される。これまで、これらの難治性疾患による涙液分泌障害の治療法としては点眼、涙点プラグ、投薬などが試みられ、部分的に奏効しているものの重症例では未だ、その効果的治療法が認められないのが現状である。さらに重症例において涙液分泌障害が持続すれば乾燥性角結膜炎から失明へ至る可能性も生じ、本研究では当初、涙液分泌障害に対する根治療法としてSP細胞を用いた細胞治療の応用の可能性が検討されてきたが、その過程でSP細胞から分泌されるクラステリンが酸化ストレスによる細胞障害を抑制することが明らかとなり、本因子が重篤な角膜障害や酸化ストレスを介した疾患に対する治療法として臨床応用への可能性が考えられ現在検討中である。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200731044B
報告書区分
総合
研究課題名
難治性疾患による涙腺の障害に対する新規治療法の開発
課題番号
H17-難治-一般-045
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
坪田 一男(慶応義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 斎藤 一郎(鶴見大学歯学部)
  • 後藤 英樹(鶴見大学歯学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治性疾患であるスティーブンス・ジョンソン症候群やシェーグレン症候群などにより消失または著しく障害された涙腺・唾液腺の分泌機能を回復するために組織幹細胞をもちいた再生医療を応用することが本研究の目的である。この目的のため、マウス涙腺・唾液腺から幹細胞を多数含む分画として採取されたSP細胞および、その分泌蛋白であるクラステリンの機能の詳細を解析した。
研究方法
1.涙液・唾液分泌障害マウスを用いた治療実験
2.SP細胞に特異的な発現遺伝子の機能解析
3.幹細胞マーカーとしてのクラステリンの応用可能性を検討
4.涙腺・唾液腺組織から採取したSP細胞における幹細胞活性の検討
5.クラステリンを介したSP細胞の治療効果を検証
6.組み換えクラステリン蛋白を用いた治療実験
7.in vitroにおける組み換えクラステリン蛋白の機能解析
8.in vivo におけるクラステリン蛋白の機能解析
結果と考察
本研究結果において涙液・唾液分泌障害マウスの涙腺・唾液腺にSP細胞を移入することにより、その分泌機能の改善が認められたことはヒトの涙液・唾液分泌障害の治療法として細胞治療の応用可能性を示唆するものであり極めて有用と思われる。これまで細胞治療の目的は移入した細胞による失われた組織の再構築にあったが、本研究により移入細胞が分泌する細胞保護因子の存在が明らかとなり、残存する組織の機能回復に少なからず関与している可能性が示唆されたことは極めて興味深く治療適応の拡大につながると考えられる。本研究においても当該腺組織におけるSP細胞は腺組織再構築能を有していないことより、幹細胞を多数含む分画とは異なる可能性が示唆されている。この可能性を検証する目的で、当該腺組織由来のSP細胞におけるBrdU長期保持細胞の割合を検証した結果、その割合は極めて低く5%程度であった。したがって、それぞれの臓器においてもその性格を詳細に調べる必要があると考えられる。また、SP細胞が分泌しているクラステリンが活性酸素種を介した細胞障害を抑制する可能性が示唆されたことも興味深い。造血幹細胞における最近の報告でも、活性酸素種は幹細胞ニッチの破綻を誘導し幹細胞の枯渇をもたらすということが明らかにされた。したがって、当該腺組織ににおけるSP細胞が幹細胞の恒常性維持に働いている可能性も考えられ、クラステリンなどの因子を応用することにより幹細胞の機能不全を防ぐことが可能となるかもしれない。
結論
涙腺・唾液腺のSP細胞は幹細胞を多数含む分画とは異なると思われるが、その分泌蛋白であるクラステリンなどを介して当該腺組織恒常性維持に働いている可能性が考えられた。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200731044C

成果

専門的・学術的観点からの成果
マウスの涙腺・唾液腺組織から幹細胞を多数含んだ分画として知られるside population(SP)細胞を採取し、その治療効果と機能の詳細について検討した。その結果、放射線照射により涙液・唾液分泌障害を誘導したマウスを用いた移入実験により、SP細胞を用いた細胞治療が奏効することが明らかとなった。
臨床的観点からの成果
本蛋白の治療効果を検討するために、 UV照射によるラットの角膜障害モデルを作製し、クラステリン蛋白の点眼による治療実験を行った結果、クラステリン蛋白点眼群ではBSA点眼群と比較して角膜障害の抑制傾向が認められた。したがって、今後さらに詳細な検討が必要であるが、本研究によりクラステリン蛋白の投与が酸化ストレスを介した疾患の治療法となる可能性が示唆された。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
16件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
123件
学会発表(国内学会)
18件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Dogru M,Goto E,Tsubota K. et al.
Lactoferrin in Sjögren's syndrome
Ophthalmology , 114 , 2366-2367  (2007)
原著論文2
Goto E,Tsubota K. et al.
Tear Evaporation Rates in Sjögren Syndrome and non-Sjögren Dry Eye Patients
Am J Ophthalmol , 144 , 81-85  (2007)
原著論文3
Nishiyama T,Tsubota K, Saito I. et al.
Amelioration of lacrimal gland inflammation by oral administration of K-13182 in Sjogren's syndrome model mice
Clin. Exp. Immunol , 149 , 586-595  (2007)
原著論文4
Nishiyama T,Tsubota K, Saito I. et al.
Functional analysis of established mouse vascular endothelial cell line
J Vasc Res , 44 , 138-148  (2007)
原著論文5
Nishiyama T, Mishima K, Saito I. et al.
Upregulated PAR-2-mediated salivary secretion in mice deficient in muscarinic acetylcholine receptor subtypes
J Pharmacol Exp Ther , 320 , 516-524  (2007)
原著論文6
Sotozono C,Tsubota K, Kinoshita S. et al.
New Grading System for the Evaluation of hronic Ocular Manifestations inPatients with Stevens-Johnson Syndrome
Ophthalmology , 114 , 1294-1302  (2007)
原著論文7
Tsuzaka K,Tsubota K, Takeuchi T.et al.
Down-regulation of Fas-ligand mRNA in Sjögren's syndrome patients with enlarged exocrine glands
Autoimmunity , 40 , 497-502  (2007)
原著論文8
Uchida A, Goto,Tsubota, K. et al.
Non-invasive interference tear meniscometry in dry eye patients with Sjögren syndrome
Am J Ophthalmol , 144 , 232-237  (2007)
原著論文9
Hara T,Saito I, Mizushima N. et al.
Suppression of basal autophagy in neural cells causesneurodegenerative disease in mice
Nature , 441 , 885-889  (2006)
原著論文10
Ishimaru N, Saito I, HayashiY. et al.
A Novel Role of RbAp48 for Tissue-specific Apoptosis in the Exocrine Glands Depending on Estrogen Deficiency
Mol. Cell. Biol , 26 , 2924-2935  (2006)
原著論文11
Kaido M, Tsubota K. et al.
Functional visual acuity in Stevens-Johnson syndrome
Am J Ophthalmol , 142 , 917-922  (2006)
原著論文12
Obara K,Mishima K,Saito I.et al.
Biological and oncogenic properties of p53-deficient salivary gland epithelial cells with particular emphasis on stromal-epithelial interactions in tumorigenesis
Pathobiology , 73 , 261-270  (2006)
原著論文13
Ryo K,Mishima K, Saito I. et al.
Possible involvement of oxidative stress in salivary gland of patients with Sjogren’s syndrome
Pathobiology , 73 , 252-260  (2006)
原著論文14
Hara T,Saito I, Mizushima N. et al.
Suppression of basal autophagy in neural cells causes neurodegenerative disease in mice.
Nature , 441 , 885-889  (2006)
原著論文15
Ishimaru N, Saito I, Hayashi Y. et al.
A Novel Role of RbAp48 for Tissue-specific Apoptosis in the Exocrine Glands Depending on Estrogen Deficiency.
Mol. Cell. Biol. , 26 , 2924-2935  (2006)
原著論文16
Kaido M, Dogru M, Tsubota K.et al.
Functional visual acuity in Stevens-Johnson syndrome.
Am J Ophthalmol. , 142 , 917-922  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-