前庭機能異常に関する調査研究

文献情報

文献番号
200731020A
報告書区分
総括
研究課題名
前庭機能異常に関する調査研究
課題番号
H17-難治-一般-020
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
竹田 泰三(高知大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 池園哲郎(日本医科大学 医学部)
  • 伊藤壽一(京都大学 医学部)
  • 土井勝美(大阪大学 医学部)
  • 鈴木衞(東京医科大学 医学部)
  • 工田昌也(広島大学 医学部)
  • 武田憲昭(徳島大学 医学部)
  • 古屋信彦(群馬大学 医学部)
  • 山下裕司(山口大学 医学部)
  • 渡辺行雄(富山大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臨床経験より、メニエール病の発症と病期の進行にストレスが関与している可能性が高いが、その機序は不明である。本研究目的はこの機序を解明してメニエール病の本態をより深く理解することにより新しい治療法を解明することにある。
研究方法
1)メニエール病例のストレスに対する対処行動にターゲットを絞ってストレス調査を多施設間、多国籍間で施行した。
2)内耳のAQP及びV2-receptorの発現様式を検討した。
3)メニエール病確実例の内リンパ嚢のストレス関連遺伝子及びV2-の発現量を検討した。
4) 内耳における侵害受容体(TRPV)の発現様式をマウスで調べた。
結果と考察
以前の調査でも,メニエール病症例は自己抑制行動と熱中行動,勝気が強い性格を持ち,各種ストレッサーに影響を受けやすい気質を持つことが判明していたが、今回の検査で気分の転換や発散が下手なストレスに対する対処行動特性に大きな問題があることが分かった.この傾向は国内外を問わず共通する特徴で、メニエール病患者は自分を抑えて事に励み、発散が少なく、この結果イライラが身体症状を誘発する、典型的なストレス病と結論された.メニエール病と遅発性内リンパ水腫の疫学的調査は、人口の高齢化に伴い高齢者のメニエール病が増加する傾向にあった.特に、女性にその傾向が強く、介護等の社会負担がおおきいことが一因になっている可能性が高いと予測された。
メニエール病では、ストレスホルモンの1つである血漿ADHの上昇が関与すると考えられるが、一側内リンパ嚢にV2遺伝子が過剰発現していることより、ストレスの非常に多い生活環境下で血中抗利尿ホルモンの上昇を来たした際,一側メニエール病を発症する可能性がより高くなる可能性が示唆された.
内耳には多種のAQPが発現することが分かった.また、vasopressin type 2 receptor がAQP2の発現部位と同部位に発現し、内耳水代謝はvasopressin-aquaporin2系によって制御されていることが確認された.さらに、VP-AQP2系を制御するものとして重要な侵害受容体(TRPV)も内耳に多数発現することが分かった。メニエール病に見る内リンパ水腫形成にはこの内耳の水代謝が重要な鍵を担っていることが分かった
結論
メニエール病の病態を理解するには、VP-AQP2系を介した内耳水代謝を考慮する必要があることが判明した。

公開日・更新日

公開日
2008-04-08
更新日
-

文献情報

文献番号
200731020B
報告書区分
総合
研究課題名
前庭機能異常に関する調査研究
課題番号
H17-難治-一般-020
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
竹田 泰三(高知大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 池園哲郎(日本医科大学 医学部)
  • 伊藤壽一(京都大学 医学部)
  • 土井勝美(大阪大学 医学部)
  • 鈴木 衞(東京医科大学 医学部)
  • 工田昌也(広島大学 医学部)
  • 武田憲昭(徳島大学 医学部)
  • 古屋信彦(群馬大学 医学部)
  • 山下裕司(山口大学 医学部)
  • 渡辺行雄(富山大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
メニエール病の本態である内リンパ水腫の形態学的特徴より、メニエール病の成因に内耳水代謝機構の破綻が考えられる。本研究班のメインとなるテーマは、ストレスがメニエール病発症に関与するという臨床経験より、ストレスが内耳水代謝に及ぼす機序を解明することである
研究方法
1)本研究班の班員と研究協力者の13 施設にストレスアンケート紙をを配布し、調査を依頼した. 同様のアンケートを翻訳して、Finland, Sweden, Italy, Spain, Czech , Chinaの6カ国で調査した。
2)4施設で分担し、ADHの日内変動、血漿浸透圧との関連、めまい発作との関連、内リンパ嚢減荷術の術後成績との関連について検討した。
3)メニエール病例の手術標本、ヒト内リンパ嚢より抽出したtotal RNAを用いて、DNAマイクロアレイ法で、カリウムチャネル遺伝子、ストレス関連遺伝子、V2-receptor遺伝子に注目して解析した.4)現在入手可能なラット用aquaporin (AQP) 抗体を用いて、血管条、内リンパ嚢でのAQPの発現様式を検討した。
4)水チャネルを制御する可能性のある侵害受容体(TRPV)のマウス内耳での局在を組織科学的に検討した。
結果と考察
メニエール病患者は、地域・国籍を問わず、自分を抑えて事に励み、発散が少なく、この結果イライラが身体症状を誘発する、典型的なストレス病と結論された.実際、メニエール病症例では、代表的なストレスホルモンであるvasopressinが高値を示すが、血漿ADHは臨床症状とも符合するところが多いことがわかった。さらに、メニエール病症例では、内リンパ液の吸収の場である内リンパ嚢がvasopressinへの感受性が亢進している可能性を示唆する所見が得られた.基礎的には、AQP1-9が血管条、または、内リンパ嚢で豊富に発現することが分かった。また、V2-receptorがAQP2の発現部位と同部位に発現し、内耳水代謝はvasopressin-aquaporin2(VP-AQP2)系によって制御されていることが確認された.内耳水代謝機構の制御系として、侵害受容体が内耳に豊富に発現し、この受容体の役割は、内耳水代謝を考えるに無視できないことがわかってきた。
結論
メニエール病はストレスによるVP-AQP2系を介した内耳水代謝の破綻が一因であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2008-04-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2009-01-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200731020C

成果

専門的・学術的観点からの成果
Aquaporinを中心とした内耳水代謝機構を解明すると同時に、メニエール病の本態である内リンパ水腫の成因がvasopressinを介した内耳水代謝機構の破綻であることを立証した点で大きな成果があっと考えられる。
臨床的観点からの成果
内耳水代謝の側面からメニエール病の病態を見ると、今まで見過ごされてきた治療面での問題点が明らかになった。例えば、浸透圧利尿剤の長期投与は血漿浸透圧の上昇をきたす問題があること、適度な水分補給は血漿vasopressin(VP)値を下げることで推奨できること、ストレスコントロールがメニエール病治療に奏功を呈するのはストレスホルモンであるVPの上昇を抑えることが背景にあることが解明されたことなどである。VPを介した水代謝機構を制御する新しい治療薬を提起できたことも大きな成果と考える。
ガイドライン等の開発
特記すべきことなし
その他行政的観点からの成果
疫学調査より、高齢者のメニエール病罹患者が増えた。特に、女性の罹患者が有意に増加し、介護など高齢女性に加わるストレスの増大を反映しているものと考えられた。
その他のインパクト
国際学会に、厚労省の班研究の成果が数回取り上げられたが、国内で積極的にシンポジウム等を開催することはなかった

発表件数

原著論文(和文)
63件
原著論文(英文等)
72件
その他論文(和文)
19件
その他論文(英文等)
8件
学会発表(国内学会)
208件
学会発表(国際学会等)
77件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計4件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Fukushima K, Takeda T. Kakigi A, et al.
Effects of lithium on endolymph homeostasis and experimentally induced endolymphatic hydrops
ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec , 67 (5) , 282-288  (2005)
原著論文2
Takeda T, Takeda S, Kakigi A, et al
A comparison of dehydration effects of V2-antagonist (OPC-31260) on the inner ear between systemic and round window applications
Hearing Res , 218 (1) , 89-97  (2006)
原著論文3
Li L, Ikezono T, Watanabe A, et al
Expression of full-length Cochlin p63s is inner ear specific
Auris Nasus Larynx , 32 (3) , 219-223  (2005)
原著論文4
Ikezono T, Shindo S, Ishizaki M, et al
Expression of cochlin in the vestibular organ of rat
ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec , 67 (5) , 252-258  (2005)
原著論文5
Takumida M, Anniko M
Isosorbide delays gentamicin-induced vestibular sensory cell death
ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec , 67 (5) , 276-281  (2005)
原著論文6
Takumida M, Takeda T, Takeda S, et al
Protective effect on edaravone against endolymphatic hydrops
Acta Otolaryngol , 127 (11) , 1124-1131  (2007)
原著論文7
Takenouchi T, Suzuki M, Furuya M, et al
Contribution of endolymphatic fluid shift to caloric response in plugged semicircular canals
ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec , 67 (5) , 266-271  (2005)
原著論文8
Doi K, Sato T, Kuramasu T, et al
Meniere's disease is associated with single nucleotide polymorphisms in the human potassium channel genes, KCNE1 and KCNE3
ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec , 67 (5) , 289-293  (2005)
原著論文9
Kitahara T, Takeda N, Nishiike S, et al
Prognosis of inner ear periphery and central vestibular plasticity in sudden deafness with vertigo
Ann Otol Rhinol Laryngol , 114 (10) , 786-791  (2005)
原著論文10
Onuki J, Takahashi M, Odagiri K, et al
Comparative study of the daily lifestyle of patients with Meniere’s disease and controls
Ann Otol Rhinol Laryngol , 114 (12) , 927-933  (2005)
原著論文11
Takahashi M, Odagiri K, Sato R, et al
Personal factors involved in onset or progression of Meniere’s disease and low-tone sensorineural hearing loss
ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec , 67 (5) , 300-304  (2005)
原著論文12
Sekine K, Morita K, Masuda K, et al
Microarray analysis of stress-related gene expression in patients with Meniere’s disease
ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec , 67 (5) , 294-299  (2005)
原著論文13
Sekine K, Imai T, Sato G, et al
Natural history of benign paroxysmal positional vertigo and efficacy of Epley and Lemtert maneuvers
Otolaryngol Head Neck Surg , 135 (4) , 529-533  (2006)
原著論文14
Hara H, Takeno K, Shimogori H, et al
CGRP expression in the vestibular periphery after transient blockage of bilateral vestibular inpu
ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec , 67 (5) , 259-265  (2005)
原著論文15
Shojaku, H, Watanabe Y, Fujisaka M, et al
Epidemiologic characteristics of definite Meniere’s disease in Japan
ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec , 67 (5) , 305-309  (2005)
原著論文16
Masumura C, Horii A, Mitani K, et al
Unilateral vestibular deafferentation-induced changes in calcium signaling-related molecules in the rat vestibular nuclear complex
Brain Res , 1138 , 129-135  (2007)
原著論文17
Akizuki H, Uno A, Arai K, et al
Effects of Immersion in virtual reality on posture control
Neurosci Lett , 379 (1) , 23-26  (2005)
原著論文18
Takumida M, Akagi N, Anniko M
A new animal midel for Meniere’s disease.
Acta Otolaryngol , 128 (3) , 263-271  (2008)
原著論文19
Takumida M, Kubo N, Ohtani M, et al
Transient receptor potential channels in the inner ear: presence of TRPV1 and TRPV4 in the guinea pig inner ear
Acta Otolaryngol , 125 (9) , 929-934  (2005)
原著論文20
20) Robertson NG, Cremers CW, Huygen PL, et al
Cochlin immunostaining of inner ear pathologic deposits and proteomic analysis in DFNA9 deafness and vestibular dysfunction
Hum Mol Genet , 15 (7) , 1071-1085  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-