栄養士が地域の保健医療福祉水準の向上に及ぼす経済効果に関する研究

文献情報

文献番号
199700381A
報告書区分
総括
研究課題名
栄養士が地域の保健医療福祉水準の向上に及ぼす経済効果に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
二見 大介(女子栄養大学)
研究分担者(所属機関)
  • 大江秀夫(北里大学付属保健衛生専門学院)
  • 小松茂彦(埼玉県健康福祉部)
  • 佐藤文代(十文字学園女子短期大学)
  • 新階敏恭(埼玉県吉川保健所)
  • 竹内文生(川崎市立看護短期大学)
  • 前田秀雄(府中小金井保健所)
  • 宮城重二.西村早苗(女子栄養大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康増進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国民医療費や老人医療費は急増し、その対策は緊急な課題となっている。そのためには健康づくり事業を総合的に推進する必要がある。したがって生活習慣病の観点から栄養改善事業等の実態や栄養士の配置状況を把握し、その経済効果を評価することが必要不可欠になる。特に栄養改善事業に限定したその経済効果に関する研究は、広く健康づくり事業の評価のあり方に大きな示唆を与えるものである。以上の観点から?.市町村栄養改善事業の実態と栄養士の関わり方について、?.市町村栄養士の活動による経済効果についてを明らかにすることを目的に調査を実施した。
研究方法
本研究は、埼玉県内全市町村保健事業及び栄養改善事業の担当主務課を対象に、栄養士の配置状況及び事業の実施状況などについて、郵送留置法により実施し、人口規模別に、栄養士の配置状況を医療費などの健康指標との関連で経済的効果を評価する。
結果と考察
?.市町村栄養改善事業の実態と栄養士の関わり方について
1.市町村での栄養士配置率は、人口規模が大きいほど高く、複数配置率も高くなっている。
2.健康づくり・栄養改善事業の企画・調整等の実態について、独自施策の立案は、人口規模5~10万人未満の市町村において他に比べて低く、人口規模が大きいほど立案率が高い。独自施策に対する栄養士の参画状況も人口10万人以上の全ての市町村で栄養士が参画しており、小市町村では参画率が低い。なお、5~10万人未満の市町村は他市町村に比べて健康・食生活実態調査の実施率は高く、すべて栄養士が参画している。
3.健康づくり・栄養改善活動における人材の育成と活用は、在宅栄養士では、10万人以上の市町村の育成率は他の市町村に比べて高い傾向にあり、食生活改善推進員の育成率は人口規模の大きい市町村が、小さい市町村に比べて多少高い傾向にあった。また、保健・健康づくり推進員の育成率は2~5万人未満で最も低く、栄養士も育成に関わっていなかった。ホームヘルパーは5~10万人未満で育成率が高く、栄養士も50%が関わっていた。
4.母子保健及び成人・高齢者保健事業の実施状況と栄養士の関わり方は、母子保健事業の各事業では、個人栄養指導や集団栄養指導などの業務について常勤、雇い上げいずれでも行われる傾向にあるが、資料作成など事前の準備は雇い上げの栄養士が関わる比率が少ない傾向にあった。これは、常勤栄養士がいることで、事業全体の企画・調整などが行われ、その実施の機会を増やし、質的水準を高めるなど事業が総合的に展開されることが窺われた。また、成人・高齢者保健事業においては、法的に義務づけがない事業では常勤栄養士が「いる」方が、「いない」方より実施率が高かった。特に、市町村独自の成人・高齢者保健事業の実施状況を見ると、全体では57.7%と6割弱の実施率であり、人口規模別では、人口規模が大きくなるほどその実施率は高率となる。この市町村独自事業の実施率を常勤栄養士の有無別にみると、いづれの人口規模でも常勤栄養士の「いる」方が「いない」方より高い実施率になっている。常勤栄養士の設置を促進することで、地域住民のニーズに沿った市町村独自の事業展開が図られるものと期待される。
5.健康づくり・栄養改善事業に関する啓発・普及は、人口規模が大きいほど実施率は高く、栄養士の関わりを勤務形態別にみると、人口規模が小さいほど雇い上げ栄養士の関わる割合が高く、人口規模が大きくなるほど、常勤栄養士の関わる割合が高くなっている。
?.栄養士の活動による経済効果について
1.栄養士(集団)の活動(労働)による「経済効果」を考えるために、まず栄養士の活動形態をその経済主体、市町村に注目し検討を行った。市町村は栄養士を含め職員を雇用し、住民に対して何らかの行政サービスや財を提供している。住民から徴収した租税は、住民に対する行政サービスや財、職員の賃金、土地・施設・設備の賃借料・償却費、投資などに分配されるが、分配される予算額そのものがその経済的効果であるといえる。一方、栄養士の関与する事業の支出額は、保健婦などの他職種の寄与している部分との相互関係から、純粋に栄養士の寄与する額のみを抽出することは困難であった。
2.栄養士にかかる費用と、それによって生ずる経済効果について、本研究は埼玉県内各市町村の保健部局に雇用されている栄養士の多寡と、平成8年度における保健・栄養関係サービスの実績(量)との関連を検討した。このため、人口規模による偏りを除き、栄養士以外の職種の事業への参画状況を考慮しつつ、「市町村保健部局の栄養士雇用状況(人数×雇用年数)→保健・栄養関係サービスの実績(参加人数/対象人口)」について栄養士の活動による予防医科学的な投資及びその波及効果から横断的に分析した。予想される以下の関係について、調査結果や既存の統計資料をもとに、?「市町村保健部局の栄養士雇用状況(人数×雇用年数)→保健・栄養関係の独自施策の有無 」?「保健・栄養関係の独自施策の有無→保健・栄養関係サービスの実績」?「保健・栄養関係サービスの実績(参加人数/対象人口)→疾病(生活習慣病)の罹患率(基本健康診査の異常発見率で代用)」?「疾病の罹患率→(世帯あたりの国民健康保険)医療費」について検討した。結果、常勤栄養士を過去10年間で15(人・年)以上雇用している5市では、比較的保健事業の実施率が高く、時に、重点健康教育、重点健康相談においてはその実施率のうち、高血圧、貧血の発見率との間に弱相関が認められた。これは基本健康診査で疾病が発見された受診者に重点的に健康教育、健康相談を実施しているものと考えられ、将来の悪化防止、再発防止等の観点から経済効果に寄与する可能性を示唆するものと考えられる。又、試みに、一加入世帯あたり国民健康保険医療費を、前述した市町村保健部局の栄養士雇用状況区分、人口区分別に、循環器疾患と内分泌・代謝疾患に分けて集計した。概ね、人口が多い市町村ほど、又常勤栄養士を長い期間、多く雇用している市町村ほど、一加入世帯当たり国民健康保険医療費が低い傾向がみられた。
結論
1.公的機関における市町村栄養士の役割は基本的にはその目的は変化していない。しかし、近年の保健医療福祉各分野における住民ニーズ等から効率的行政への要求の高まりの中で、単に住民に対する直接サービスばかりでなく、ヘルスプロモーションの理念に基づいた支援型環境づくりが求められている。すなわち、ヘルスプロモーションのシステム構築にその活動目的を純化させていくこと。また市町村は、栄養士を雇用する意義を、直接サービス実施から総合的対策の構築について、ヘルスプロモーションの進展をその評価モデルにしなければならないこと。
2.ヘルスプロモーションの理念は、「人々が自らをコントロールし、改善することができるようにするプロセスである。」これを市町村栄養士活動に適用すると以下のようになる。
?健康な公共政策の重視=市町村行政における健康づくり活動の優先性、保健計画策定等
?健康を支援する環境づくり=健康な食生活を支援する食品流通、食環境、情報流通等
?地域活動の強化=食生活改善の健康づくり活動、食品安全の消費者活動、食品衛生組合等の成分表示等の健康な食生活支援活動?個人の健康技術の開発=健康な食生活のための知識、意識、行動?保健部門の役割の転換=各種教室、相談等の直接サービスの提供から地域の支援的環境づくりの整備への転換、事業実施から対策構築への転換等を推進していくこと
以上の結果、市町村栄養士の経済的効果は、常勤職員として市町村の公共的健康施策へ従事することで、ヘルスプロモーションの効果的効率的推進に資することと考えられる。

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