間脳下垂体機能障害に関する調査研究

文献情報

文献番号
200731008A
報告書区分
総括
研究課題名
間脳下垂体機能障害に関する調査研究
課題番号
H17-難治-一般-008
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
千原 和夫(神戸大学大学院医学系研究科内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 石川三衛(自治医科大学附属さいたま医療センター内分泌代謝科)
  • 苛原 稔(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部発生発達医学講座女性医学分野)
  • 大磯ユタカ(名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座糖尿病・内分泌内科学)
  • 長村義之(東海大学医学部基盤診療学系病理診断学)
  • 島津 章(国立病院機構京都医療センター臨床研究センター)
  • 須田俊宏(弘前大学医学部内分泌・代謝・感染症内科)
  • 巽 圭太(大阪大学大学院医学系研究科臨床検査診断学)
  • 田中敏章(国立成育医療センター内分泌代謝科)
  • 寺本 明(日本医科大学脳神経外科学教室)
  • 橋本浩三(高知大学医学部内分泌代謝・腎臓内科学)
  • 肥塚直美(東京女子医科大学第二内科)
  • 平田結喜緒(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子内分泌内科学分野)
  • 森 昌朋(群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科)
  • 横山徹爾(国立保健医療科学院技術評価部研究動向分析室)
  • 有田和徳(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科先進治療科学専攻神経病学脳神経病態制御外科学)
  • 置村康彦(神戸大学医学部保健学科医療基礎学)
  • 清水 力(北海道大学病院検査部)
  • 菅原 明(東北大学大学院医学系研究科先端再生生命科学(江東微生物研究所)寄附講座)
  • 高野幸路(東京大学医学部腎臓・内分泌内科)
  • 柳瀬敏彦(九州大学大学院医学研究院病態制御内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
31,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
間脳下垂体疾患の病因、病態を把握し、有用な診断治療法を確立する。
研究方法
A)基礎研究、B)臨床研究、およびC)疫学研究が各分担研究者によって行なわれた。それぞれ手法は異なるので詳細は結果と考察の項に併せて記載する。
結果と考察
A) SIADHラットモデルの解析から、デキサメサゾンの早期投与が橋中心髄症崩壊の抑制に有用であることが明らかになった。ヒト下垂体腺腫の病理組織学研究から、下垂体腺腫の機能分化におけるNOTCHシグナル伝達の関与が示唆された。クッシング病における受容体発現の検索から、SSTアナログの治療効果が期待されるが、ドパミン作動薬の有用性は低いと考えられた。散発性下垂体腺腫では、MLL-p27経路の異常が腫瘍発症の一因となっていることが示唆された。GH産生腺腫で、自発性の活動電位の発火がGH過剰分泌のもととなっている可能性が考えられた。GHRP-2投与は筋萎縮を抑制する可能性が示唆された。
B) 感染症患者における検討から、炎症性サイトカインによってもAVP分泌が修飾される可能性が示された。A)の動物実験成績を受けて、SIADHの低Na血症に対して積極的治療を施行する場合のプロトコールが提案された。多嚢胞性卵巣症候群の診断におけるLHの至適測定時期が特定された。若年健常人の血中IGF-1濃度の基準範囲が再設定された。小児期発症GH分泌不全症患者(GHD)で成人期以降のGH補充を必要とする例を選択するために有用である。小児におけるGHRP試験のカットオフ値が設定された。これをもとに、成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断の手引きが改訂された。成人におけるインシュリン低血糖試験、アルギニン試験とGHRP試験のGH反応性が対比され、おおむね良好な相関が見られることが明らかとなった。成人GHDにおいて、GHRP-2にある程度反応する(1.8 ng/ml以上)症例では、低反応群と臨床像が異なっていることが判明した。先端巨大症治療におけるオクトレオチドLARの投与間隔は4週毎の投与から延長できる可能性が示唆された。医療経済的効果・患者負担の軽減が期待される。深夜唾液中コルチゾール測定のPre(Sub)-clinical Cushing 症候群の診断・スクリーニングにおける有用性が明らかとなった。ラトケ嚢胞の治療成績から、治療方針が決定された。
C) 東北大学におけるクッシング病、クッシング症候群の長期予後が解析された。間脳下垂体機能障害データベースへの登録が開始され、一部の基本集計を試みた。
結論
以上の成果は、間脳下垂体機能障害の新たな診断治療法を開発するうえで有用であると考える。

公開日・更新日

公開日
2008-04-08
更新日
-

文献情報

文献番号
200731008B
報告書区分
総合
研究課題名
間脳下垂体機能障害に関する調査研究
課題番号
H17-難治-一般-008
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
千原 和夫(神戸大学大学院医学系研究科内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 石川三衛(自治医科大学附属さいたま医療センター内分泌代謝科)
  • 苛原 稔(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部発生発達医学講座女性医学分野)
  • 大磯ユタカ(名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座糖尿病・内分泌内科学)
  • 長村義之(東海大学医学部基盤診療学系病理診断学)
  • 島津 章(国立病院機構京都医療センター臨床研究センター)
  • 須田俊宏(弘前大学医学部内分泌・代謝・感染症内科)
  • 巽 圭太(大阪大学大学院医学系研究科臨床検査診断学)
  • 田中敏章(国立成育医療センター内分泌代謝科)
  • 寺本 明(日本医科大学脳神経外科学教室)
  • 橋本浩三(高知大学医学部内分泌代謝・腎臓内科学)
  • 肥塚直美(東京女子医科大学第二内科)
  • 平田結喜緒(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子内分泌内科学分野)
  • 森 昌朋(群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科)
  • 横山徹爾(国立保健医療科学院技術評価部研究動向分析室)
  • 有田和徳(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科先進治療科学専攻神経病学脳神経病態制御外科学)
  • 置村康彦(神戸大学医学部保健学科医療基礎学)
  • 清水 力(北海道大学病院検査部)
  • 菅原 明(東北大学大学院医学系研究科先端再生生命科学(江東微生物研究所)寄附講座)
  • 高野幸路(東京大学医学部腎臓・内分泌内科)
  • 柳瀬敏彦(九州大学大学院医学研究院病態制御内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
種々の間脳下垂体疾患の病因、病態を把握し、その有用な診断治療法を確立する。
研究方法
A)基礎研究、B)臨床研究、およびC)疫学研究が各分担研究者によって行なわれた。研究者によりその手法は異なるので、方法は結果と考察の項に併せて記載する。
結果と考察
A) 遺伝子組換えマウスを用いた病態解析より、家族性中枢性尿崩症の発症には異常蛋白の蓄積、エストロジェンおよび脱水が関与しており、発症予防に脱水の回避が有効であることが示唆された。SIADHラットモデルの解析から、lovastatinおよびデキサメサゾンの早期投与が橋中心髄鞘崩壊の抑制に有用であることが明らかになった。機能性下垂体腫瘍に対するソマトスタチン(SS)アナログの効果に関して次の成績が示された。血管新生因子発現抑制を介した腫瘍増生阻害作用、開口分泌機構に対する直接抑制作用、腺腫縮小機構におけるS6キナーゼ不活化の関与。さらに、SS受容体発現解析より、非機能性下垂体腺腫の中にもSSアナログの効果が期待できる症例が存在する可能性が示唆された。散発性下垂体腺腫発症におけるMENIN-p27系の抑制の関与、GH産生腺腫で自発性の活動電位がGH過剰分泌のもととなっている可能性が示唆された。
B) 1118例のデータから、日本人成人IGF-I基準値が再設定された。GHRP2試験の成長ホルモン分泌不全症(GHD)診断法としての有用性が確認され、カットオフ値が設定された。GH測定法が標準化された。これらの成績を基に、次の手引きが改訂された。先端巨大症および下垂体性巨人症の診断治療、成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断、成人GHDの診断治療、クッシング病の診断治療、Pre(Sub)-clinical Cushing 病の診断治療、ACTH分泌低下症の診断治療、プロラクチン分泌過剰症の治療、中枢性思春期早発症の診断、バゾプレシン分泌過剰症の治療。また、治療経過、自然歴の検討から、下垂体偶発腫、ラトケ嚢胞の治療方針が明確化された。間脳下垂体腫瘍によるGHDの発生数(1200人/年)が推定された。成人GHDの病態(NAFLD発症リスクが高い)が明確になった。先端巨大症治療におけるSSアナログの投与間隔について検討された。これにより医療経済的効果、患者負担の軽減が期待される。
C) 下垂体機能低下症特異的QOL質問紙を開発した。間脳下垂体疾患データベースの患者登録が開始された。下垂体機能障害、クッシング病・症候群の長期予後解析が行われた。
結論
間脳下垂体機能障害の診断治療を行なう上で有用な成績が得られた。

公開日・更新日

公開日
2008-04-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200731008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
遺伝子組換えマウスを用いた病態解析より、家族性中枢性尿崩症の発症には異常蛋白の蓄積、エストロジェンおよび脱水が関与しており、発症予防に脱水の回避が有効であることが示された。SIADHラットモデルの解析から、lovastatinおよびデキサメサゾンの早期投与が橋中心髄鞘崩壊の抑制に有用であることが明らかになった。散発性下垂体腺腫発症におけるMENIN-p27系抑制が関与している可能性、GH産生腺腫で自発性の活動電位がGH過剰分泌のもととなっている可能性が示唆された。
臨床的観点からの成果
1118例のデータから日本人成人IGF-I基準値が再設定された。GHRP2試験の成長ホルモン分泌不全症(GHD)診断法としての有用性が確認され、カットオフ値が設定された。GH測定法が標準化された。中でもGHRP2試験は世界に先駆けて我が国で確立したものであり、この試験に関してはNature Clin Prac Endocrinol Metab 4(2):68-69,2008でも、これまでのゴールドスタンダードであったインスリン低血糖刺激試験に代わる安全で信頼できる検査法であると評価されている。
ガイドライン等の開発
次の手引きを改訂した。先端巨大症および下垂体性巨人症の診断治療、成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断、成人GHDの診断治療、クッシング病の診断治療、Pre(Sub)-clinical Cushing 病の診断治療、ACTH分泌低下症の診断治療、プロラクチン分泌過剰症の治療、中枢性思春期早発症の診断、バゾプレシン分泌過剰症の治療。また、治療経過、自然歴の検討から、下垂体偶発腫、ラトケ嚢胞の治療方針が明確化された。下垂体機能低下症特異的QOL質問紙を開発した。
その他行政的観点からの成果
これまで、種々の臨床的検討を行ってきた薬物が、実際に臨床の場でも使用できるようになった。成人成長ホルモン分泌不全症に対するGH補充療法の保健適応が認可された。先端巨大症の治療薬として、GH受容体拮抗薬ペグビソマントの保健適応が認められた。異所性バゾプレシン産生腫瘍によるSIADHに対して、バゾプレシンV2受容体拮抗薬モザバプタンの使用が認可された。
その他のインパクト
成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD)の治療が、読売新聞(2007年2月11日(日))に取り上げられ、「日本でのAGHD治療は遅れていたが、厚生労働省間脳下垂体機能障害調査研究班が治療・診断の指針を作り、2006年から保健適応となった」と報道された。Nature Clin Prac Endocrinol Metab 4(2):68-69, 2008に開発した検査法(GHRP試験)が取り上げられ、評価された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
301件
その他論文(和文)
105件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
240件
学会発表(国際学会等)
38件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
特許出願中:アクアポリン2遺伝子を保持する腎性尿崩症治療用組換えベクター
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
D. Chida, T. Imaki, T. Suda et al.
Involvement of corticotropin-releasing hormone- and interleukin (IL)-6-dependent proopiomelanocortin induction in the anterior pituitary during hypothalamic-pituitary-adrenal axix activation by IL-1a.
Endocrinology , 146 , 5496-5502  (2005)
原著論文2
T. Moriyama, K. Kageyama, Y. Kasagi et al.
Differential regulation of corticotropin-releasing factor receptor type I (CRF1 receptor) mRNA via protein kinase A and mitogen-activated protein kinase pathways in rat anterior pituitary cells.
Molecular and Cellular Endocrinology , 243 , 74-79  (2005)
原著論文3
M.Hayashi, H.Arima, M.Goto et al.
Vasopressin gene transcription increases in response to decreases in plasma volume, but not to increases in plasma osmolality, in chronically dehydrated rats.
Am J Physiol Endocrinol Metab , 290 , 213-217  (2006)
原著論文4
J. Yasufuku-Takano, K. Takano, K. Morita et al.
Does the prevalence of gsp mutations in GH-secreting aenomas differ geographically or racially? Prevalence of gsp mutations in Japanese patients revisited.
Clinical Endocrinology , 64 , 91-96  (2006)
原著論文5
Kageyama K, Hanada K, Moriyama T et al.
G Protein-coupled receptor kinase 2 involvement in desensitization of corticotropin-releasing factor (CRF) receptor type 1 by CRF in murine corticotrophs.
Endocrinology , 147 , 441-450  (2006)
原著論文6
Taguchi T, Takao T, Iwasaki Y et al.
Suppressive effects of dehydro- epiandrosterone and nuclear factor-κB inhibitor parthenolide on corticotroph tumor cell growth and function in vitro and in vivo.
J Endocrinol , 188 , 321-331  (2006)
原著論文7
Itoh E, Hizuka N, Fukuda I et al.
Metabolic disorders in adult growth hormone deficiency: a study of 110 patients at a single institute in Japan
Endocr J , 53 , 539-545  (2006)
原著論文8
Oh-I S, Shimizu H, Satoh T et al.
Identification of nesfatin-1 as a satiety molecule in the hypothalamus.
Nature , 443 , 709-712  (2006)
原著論文9
Hidesuke Kaji, Keiji Iida, Yutaka Takahashi et al.
Hormone Replacement Therapy and Vascular Risk Disorders in Adult Hypopituitarism.
Endocrine Journal , 54 (2) , 239-245  (2007)
原著論文10
Kazuo Chihara,Akira Shimatsu,Naomi Hizuka et al.
A simple diagnostic test using GH-releasing peptide-2 in adult GH deficiency.
European Journal of Endocrinology , 157 (1) , 19-27  (2007)
原著論文11
Takefuji S. Murase T. Sugimura Y et al.
Role of microglia in the pathogenesis of osmotic-induced demyelination.
Experimental Neurology , 204 (1) , 88-94  (2007)
原著論文12
Kageyama K, Hanada K, Iwasaki Y et al.
Pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide stimulates corticotropin-releasing factor, vasopressin and interleukin-6 gene transcription in hypothalamic 4B cells.
J Endocrinol , 195 , 199-211  (2007)
原著論文13
Yoshida D, Teramoto A
Enhancement of pituitary adenoma cell invasion and adhesion is mediated by discoidin domain receptor-1.
J Neurooncol , 82 (1) , 29-40  (2007)
原著論文14
Chihara K, Shimatsu A, Hizuka N et al.
A simple diagnostic test using GH-releasing peptide-2 in adult GH deficiency.
Eur J Endocrinol , 157 , 19-27  (2007)
原著論文15
Tateno T, Izumiyama H, Doi M et al.
Differential gene expression in adrenocorticotropin (ACTH) -secreting and non-functioning pituitary tumors.
Eur J Endocrinol , 157 , 717-724  (2007)
原著論文16
Chida D, Nakagawa S, Nagai S et al.
Melanocortin receptor 2 is required for adrenal gland development, steroidogenesis and neonatal gluconeogenesis.
PNAS , 104 , 18205-18210  (2007)
原著論文17
Yamada Y, Sekihara H, Omura M et al.
Changes in serum sex hormone profiles after short-term low-dose administration of dehydroepiandrosterone (DHEA) to young and elderly persons.
Endocr J , 54 , 153-162  (2007)
原著論文18
Iwashima F, Yoshimoto T, Minami I et al.
Aldosterone induces superoxide generation via Rac1 activation in endothelial cells.
Endocrinology , 149 (3) , 1009-1014  (2008)
原著論文19
Morita K, Takano K, Yasufuku-Takano J et al.
Expression of pituitary-tumor-derived isoform of fibroblast growth factor receptor 4 (ptd-FGFR4) in human GH-secreting pituitary adenomas correlates with tumor invasiveness, not with gsp mutation.
Clin Endocrinol , 68 (3) , 435-441  (2008)
原著論文20
Kurimoto M, Fukuda I, Hizuka N et al.
The prevalence of benign and malignant tumors in patients with acromegaly at single institute.
Endocr J , 55 (1) , 67-71  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-