ホルモン受容機構異常に関する調査研究

文献情報

文献番号
200731007A
報告書区分
総括
研究課題名
ホルモン受容機構異常に関する調査研究
課題番号
H17-難治-一般-007
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
松本 俊夫(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 茂明(東京大学分子細胞生物学研究所)
  • 森  昌朋(群馬大学医学部 第一内科)
  • 妹尾 久雄(名古屋大学環境医学研究所分子細胞適応部門内分泌・代謝分野)
  • 中村 浩淑(浜松医科大学第二内科)
  • 赤水 尚史(京都大学医学部附属病院探索医療センター)
  • 大薗 惠一(大阪大学大学院医学系研究科生体統合医学小児発達医学)
  • 田中 弘之(岡山済生会病院 小児科)
  • 福本 誠二(東京大学医学部腎臓内分泌内科)
  • 井上 大輔(帝京大学ちば総合医療センター第三内科)
  • 皆川 真規(千葉大学大学院医学研究院小児病態学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
26,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
偽性・特発性副甲状腺機能低下症、ビタミンD抵抗性くる病と類縁疾患、甲状腺ホルモン不応症、TSH受容体(抗体)異常症等のホルモン受容機構異常に基づく難病を取り上げ、患者実態を把握し原因・病態の解明、診断基準の作成、治療法の確立を行う。
研究方法
 病態モデル動物やin vitro解析を用いた原因・病態の解明と共に、症例の病態・遺伝子解析やホルモン濃度測定系の開発を行った。
結果と考察
①副甲状腺機能低下症の鑑別診断指針:続発性を除く分泌低下型副甲状腺機能低下症を4群に分類すると共に、原因遺伝子異常を明記しその他を特発性とした。②カルシウム感知受容体(CaSR)活性化変異による病態の診断:CaSR遺伝子活性化変異による副甲状腺機能低下症の多くが低Mg血症を示し診断に応用できる。③偽性副甲状腺機能低下症(PHP)に関する検討:PHPIa型では全身Gsα障害で低身長となるがGsα遺伝子インプリンティング異常によるIb型でも男性で低身長が見られる。④血中FGF23測定によるFGF23異常症の診断: 低リン血症性くる病・骨軟化症等のFGF23異常症では血中FGF23濃度30 ng/ml以上を示し他疾患と鑑別できる。⑤FGF23の作用機序: FGF23はFGF受容体I型とKlotho蛋白を共受容体とすることを示し受容機構を解明した。⑥ビタミンD受容体による負の遺伝子転写制御機構: ビタミンDの標的遺伝子上の転写抑制領域と結合する因子VDIRとこれを含む染色体再構築因子複合体WINACを同定した。⑦甲状腺クリーゼの診断基準の策定:致死的であるが疫学データに乏しいバセドウ病による甲状腺クリーゼの診断基準を策定し、全国疫学調査の計画を進めた。⑧甲状腺ホルモン不応症における甲状腺ホルモン受容体(TR)を介する転写制御異常:変異TRβを発現するモデルマウスを用い発症機序の一端を明らかにした。⑨バセドウ病眼症の診断・治療指針:バセドウ病眼症の診断・治療指針の策定に向け検討を開始した。
結論
副甲状腺機能低下症の鑑別診断法の改訂は早期診断や治療選択に貢献できる。新規ビタミンD・リン代謝調節因子FGF23の作用不全病態の解明は新疾患概念の創出と治療法の開発に繋がる。甲状腺クリーゼの診断指針の策定で実態の解明が進めば早期診断・治療と予後改善も可能となる。

公開日・更新日

公開日
2008-05-13
更新日
-

文献情報

文献番号
200731007B
報告書区分
総合
研究課題名
ホルモン受容機構異常に関する調査研究
課題番号
H17-難治-一般-007
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
松本 俊夫(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 茂明(東京大学分子細胞生物学研究所)
  • 森  昌朋(群馬大学医学部 第一内科)
  • 妹尾 久雄(名古屋大学環境医学研究所分子細胞適応部門内分泌・代謝分野)
  • 中村 浩淑(浜松医科大学第二内科)
  • 赤水 尚史(京都大学医学部附属病院探索医療センター)
  • 大薗 惠一(大阪大学大学院医学系研究科生体統合医学小児発達医学)
  • 田中 弘之(岡山済生会病院 小児科)
  • 福本 誠二(東京大学医学部腎臓内分泌内科)
  • 井上 大輔(帝京大学ちば総合医療センター第三内科)
  • 皆川 真規(千葉大学大学院医学研究院小児病態学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
偽性・特発性副甲状腺機能低下症、ビタミンD抵抗性くる病と類縁疾患、甲状腺ホルモン不応症、TSH受容体(抗体)異常症等のホルモン受容機構異常に基づく難病を取り上げ、患者実態を把握し原因・病態の解明、診断基準の作成、治療法の確立を行う。
研究方法
病態モデル動物やin vitro解析を用いた原因・病態の解明と共に、症例の病態・遺伝子解析やホルモン濃度測定系の開発を行った。
結果と考察
1)偽性副甲状腺機能低下症と関連疾患:原因遺伝子異常等が解明された分泌低下型副甲状腺機能低下症の診断指針を策定した。カルシウム感知受容体(CaSR)遺伝子活性化変異による病態の多くで低Mg血症を認めた。特発性副甲状腺機能低下症孤発例の中で刺激性抗CaSR抗体の陽性例はなかった。
2)ビタミンD抵抗性くる病およびその類縁疾患:血中FGF23濃度を用いた低リン血症性くる病・骨軟化症等のFGF23異常症の診断指針を策定した。血中FGF23は急性血清リン濃度変化では変化しない。FGF23はFGF受容体I型とKlotho蛋白を共受容体として作用する。ビタミンD受容体転写抑制エレメント(nVDRE)を介する転写抑制制御におけるDNAメチル化・脱メチル化酵素の重要性を示した。
3)TSH受容体(抗体)異常症:バセドウ病による甲状腺クリーゼの診断基準を策定し、全国疫学調査の準備を始めた。バセドウ病眼症の診断・治療指針の策定に向け検討を開始した。TSH受容体異常症モデルマウスの褐色脂肪組織に野生型TSH受容体を強制発現させTSHが直接体温保持に関与することを示した。
4)甲状腺ホルモン不応症:甲状腺ホルモン受容体(TR)β(Δ337T)変異ではTRβ欠損と異なりTRHに依存しないTSH不適切分泌を来す。TRβ (G182E)変異はTSHβ遺伝子の転写抑制に対しドミナントネガティブ作用を発揮しTSH不適切分泌を来す。

結論
副甲状腺機能低下症の鑑別診断法の改訂により適切な診断・治療法の選択に貢献できる。ビタミンD標的遺伝子のエピジェネティックな転写制御機構の解明、FGF23の作用機序や分泌調節機構の解明と濃度測定法の確立はビタミンD・リン代謝異常症の病態解明に大きく貢献する。甲状腺クリーゼの診断指針の策定により早期診断・治療や予後改善が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2008-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200731007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
低Ca血症、FGF23異常症の診断指針および甲状腺クリーゼの診断基準を策定した。偽性副甲状腺機能低下症のGNAS1インプリンティング異常およびCa感知受容体異常の病態解析、VDRを含む新規染色体再構成因子複合体(WINAC)同定とこれによる1α(OH)ase遺伝子の負の制御機構の解明、FGF23産生調節・作用機序の解明、甲状腺ホルモン不応症動物モデルの解析、バセドウ眼症と遺伝子多型の関連など、基礎・臨床双方で成果を収めた。成果はNature等に掲載され、国内外から大きな反響があった。
臨床的観点からの成果
低Ca血症の鑑別診断フローチャートの作製により、これらの病態の疾患概念の理解が進むとともに適切な治療法の選択にも貢献できる。また、血中FGF23濃度に明確なカットオフ値を設定し、FGF23過剰症とそれ以外の原因による低リン血性疾患の鑑別が可能となった。さらに、いまだ致死率が高いにもかかわらず、明確な診断基準が存在しなかった甲状腺クリーゼに関して診断基準を策定した。これら疾患の診断・治療指針の策定とその普及が進むことにより、当該疾患の予後の改善が見込まれ、多大な社会的効果が期待される。
ガイドライン等の開発
低Ca血症惹起疾患のうち遺伝子異常等が解明された副甲状腺ホルモン分泌低下に基づく疾患を特発性副甲状腺機能低下症から独立させ、新たな診断指針を策定した。FGF23異常症の診断指針については、低リン血症性くる病・骨軟化症の診断に寄与し、今後、治療法の開発をすすめる上で重要な成果と考えられる。甲状腺クリーゼに関しては、我が国初の診断基準の策定に続き、全国疫学調査を予定している。さらに治療が困難であるバセドウ病悪性眼球突出症の診断・治療指針の策定も内分泌学会等と連携し開始した。
その他行政的観点からの成果
本研究班が対象としている副甲状腺機能低下症、ビタミンD受容体異常症、低リン血症性疾患、甲状腺ホルモン不応症、TSH受容体(抗体)異常症などは、早期発見や適切な治療により良好な予後が得られる。したがって、これら疾患における診断指針の策定や基礎的検討成果は医療費の削減のみならず、国民の健康・福祉の向上にも重要な役割を果たすものと思われる。また、FGF23 測定は現時点では保険適応はないが、本研究班による測定系の普及から、FGF23過剰症の診断が日常診療でも可能となることが期待される。
その他のインパクト
本研究班員が明らかにした、FGF23がKlotho蛋白を共受容体として作用を発揮すること、VDRを介する負の転写調節機構にDNAメチル化が関与すること、さらに脱メチル化により可逆的に転写促進がもたらされることなどはホルモン受容体や遺伝子の転写調節における全く新しい制御機構の存在を示すものであり、画期的な成果であるといえる。これらの成果は他の広範なホルモン受容機構異常症にも応用が可能であり、ホルモン受容機構異常症に起因する難病とその関連疾患の病態解明・治療法確立への寄与が期待できる。

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
182件
低Ca血症の診断指針、FGF23異常症の診断指針論文を含む
その他論文(和文)
26件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
226件
学会発表(国際学会等)
74件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
特願2007147866 日本大学
その他成果(施策への反映)
3件
診断基準あるいは診断指針の策定。
その他成果(普及・啓発活動)
15件
第18回臨床内分泌up-date,その他教育講演などにおいて、低Ca血症の改訂診断指針、FGF23異常症の診断指針を発表

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Endo I, Fukumoto S, Matsumoto T. et al
Clinical usefulness of measurement of fibroblast growth factor 23 (FGF23) in hypophosphatemic patients - Proposal of diagnostic criteria using FGF23 measurement-
Bone  (2008)
原著論文2
Seiji Fukumoto, Hiroyuki Namba, Toshio Matsumoto et al
Classification and differential diagnosis of hypocalcemia and hypoparathyroidism -Recommendation proposed by an expert panel supported by Ministry of Health, Labour and Welfare, Japan -
Endocrine J  (2008)
原著論文3
Kato, S., Fujiki, R., Kitagawa, H. et al
Ligand-induced transrepressive function of VDR requires a chromatin remodeling complex, WINAC
J. Steroid Biochem. Mol. Biol.  (2007)
原著論文4
Nakamura H, Noh JY, Itoh K, et al
Comparison of methimazole and propylthiouracil in patients with hyperthyroidism caused by Graves' disease.
J Clin Endocrinol Metab.  (2007)
原著論文5
Urakawa I, Fukumoto S, et al
Klotho converts canonical FGF receptor into a specific receptor for FGF23.
Nature  (2006)
原著論文6
Mukai T, Hiromatsu Y, Ichimura M, et al
Lack of association of Interleukin-18 gene polymorphism with Graves’ disease or Graves’ ophthalmopathy.
Thyroid  (2006)
原著論文7
Endo, T. and Kobayashi T.
Thyroid stimulating hormone receptor in brown adipose tissue is involved in the regulation of thermogenesis.
Endocrinology  (2008)
原著論文8
KJA. Davies, G. Ermark, H. Seo, et al
Renaming the DSCR1/Adapt78 gene family as RCAN: regulators of calcineurin.
The FASEB Journal  (2007)
原著論文9
Tobimatsu T, Sugimoto T , et al
Parathyroid hormone increases b-catenin levels through smad3 in mouse osteoblastic cells in osteoblasts.
Endocrinology  (2006)
原著論文10
Koshi Hashimoto, Ronald N., Masatomo Mori, et al
Cross-talk between Thyroid Hormone Receptor and Liver X Receptor Regulatory Pathways Is Revealed in a Thyroid Hormone Resistance Mouse Model
J Cell Biol  (2006)
原著論文11
Ishizawa M, Matsunawa M, Makishima M,et al
Lithocholic acid derivatives act as selective vitamin D receptor modulators without inducing hypercalcemia
Journal of Lipid Research  (2008)
原著論文12
Kinoshita K, Minagawa M, Anzai M, et al
Characteristic height growth pattern in patients with pseudohypoparathyroidism: comparison between type 1a and type 1b.
Clin Pediatr Endocrinol  (2007)
原著論文13
Kavvoura FK, Akamizu T, Hiromatsu Y, et al
CTLA-4 Gene Polymorphisms and Autoimmune Thyroid Disease: A Meta Analysis
J Clin Endocrinol Metab.  (2006)
原著論文14
Yamamoto T, Michigami T, Ozono K. et al
Hereditary hypophosphatemic rickets with hypercalciuria: a study for the phosphate transporter gene IIc and osteoblastic function.
J Bone Miner Metab  (2007)
原著論文15
Hirofumi Tomiyama, Ryo Okazaki, Daisuke Inoue, et al
Link between obstructive sleep apnea and increased bone resorption in men
Osteoporos Int  (2007)
原著論文16
Yamada, T., Kawano, H., Kato, S. et al
Carminerin contributes to chondrocyte calcification during endochondral ossification.
Nat. Med.  (2006)
原著論文17
Ma, Y., Khalifa, B., Kato, S., et al
Identification and characterization of noncalcemic, tissue-selective, nonsecosteroidal vitamin D receptor modulators.
J. Clin. Invest.  (2006)
原著論文18
Matsumoto T, Kubodera N.
ED-71, a new active vitamin D3, increases bone mineral density regardless of serum 25(OH)D levels in osteoporotic subjects.
J Steroid Biochem Mol Biol  (2007)
原著論文19
Araya K., Fukumoto S., Fujita T et al
a novel mutation in fibroblast groeth factor (FGF) 23 gene as a cause of tumoral carcinosis
J Clin Endocrinol Metab.  (2005)
原著論文20
Matsumoto T., Shiraki M., Hagino H., et al
Daily nasal spray of hPTH (1-34) for 3 months increases nbone mass in osteoporotic subjects: a pilot study.
Osteoporos Int  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-