医療機関と保健所の連携による耐糖能異常者を対象とした効果的な運動療法に関する研究

文献情報

文献番号
199700378A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関と保健所の連携による耐糖能異常者を対象とした効果的な運動療法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
葛谷 英嗣(国立京都病院)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤祐造(名古屋大学総合保健体育科学センター)
  • 島岡清(名古屋大学総合保健体育科学センター)
  • 柏木厚典(滋賀医科大学第3内科)
  • 辻井悟(天理よろづ相談所病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康増進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)は、生活習慣病の代表的なものであり、生活習慣の改善により発症が予防しうることあるいは遅らせることができるといわれている。最近の我が国の糖尿病の実態を考えると、糖尿病の早期発見と早期管理について基本健診とその後の指導に至る制度の見直し、地域・職域における糖尿病一次予防のための体制強化が急務であると考えられる。そこで本研究は地域における医療機関と保健所の共同作業による糖尿病の一次予防に対する取り組みのひとつとして、地域におけるハイリスク者を対象とした運動療法の効果的な方法を明かにすることを目的に企画された。
研究方法
地域・職域を舞台とした大規模な介入研究を企画するための基礎データを得るため、・辻井・葛谷は保健所で行う運動教室の有用性や問題点について検討を加え(study 1)、・佐藤・島岡はどの程度の運動で有効な結果がえられるか(study 2)、・柏木は運動教室に参加して獲得された運動習慣が長期にわたって継続されるかの検討(study 3)をおこなった。
Study 1: 京都府京田辺市にある田辺保健所において実施した。35名の職員が地域保健業務に従事し、保健婦9名、栄養士1名、健康運動療法士4名(全て他職種と兼務)が含まれている。田辺保健所管轄内の平成8年度の健診対象者は計29,870人で、健診の受診率は32.4%であった。健診は自治体からの委託で地区医師会により行われ、健診受診者中の糖尿病要医療・要指導者数は983名にのぼった。今回の研究対象者は65歳までの住民で、・糖尿病予備軍といわれたことのある者で、治療は必要ないが指導を必要とする者、または・平成8年度の基本健診で空腹時血糖値が100~120mg/dlまたはHbA1c 5.5~6.0%の条件を満たしている者とした。リクルートの方法は保健所所員による直接の勧誘、広報誌・回覧板・ポスター・ビラなどによる一般公募、医師や市町からの紹介によった。30名をリクルートの目標とした。先ず、基礎調査として、ブドウ糖負荷試験を含む血液検査、体格測定、体力測定、運動負荷試験、生活習慣調査を実施した。基礎調査の結果に基づいて、栄養と運動の処方提示を行い、1年にわたって毎月1回運動講習会(1回につき約3時間)を開催し、運動実技(ストレッチ、筋力トレーニング、ウォーキング、水中運動、エアロビクス、ハイキング)の指導、グループワーク、個別相談を行った。講習会には病院から医師1名、保健所から、保健婦2名、栄養士1名、健康運動指導士1名、健康運動実践指導者1名が担当した。参加者には万歩計をわたし、毎日の歩数を記録してもらうとともに、食事と運動に関して毎日自己評価をしてそれを記録してもらった。
Study 2: 四日市市保健センターが実施した地域健診受診者のうち、肥満傾向の見られた住民を対象とした健康増進プログラムに参加したものの中で、空腹時血糖値が110mg/dl以上の女性25名(平均年齢55歳、平均BMI27.7kg/m2)を対象に、7月から11月までの
4か月間、約2週間に1回の頻度で、計8回運動指導と栄養指導をおこなった。運動指導はおもにウォーキングを行うことで毎日の身体活動量を増やすように指導し、万歩計を用いて1日の歩数を記録させた。
Study 3: 平成2年から4年度にかけて滋賀県草津市における20-59歳の一般住民検診対象者のうち、肥満度20%以上の対象者から心肺機能異常者を除く53名(26-62歳、47 ± 9歳)の女性を対象に、草津保健所で「健康づくりレディース教室」を開設した。自転車エルゴメーターと呼気中の酸素、炭酸ガス濃度の分析から嫌気性作業閾値(ATポイント)を算出し、それに基づいて個人にみあった運動実技指導、食事指導を含む健康教育を6カ月に渡って合計13回開催した。今回は「健康づくりレディース教室」に参加した全員を対象に、平均4.7年を経過後再調査し健康教育の長期有用性を検討した。
結果と考察
Study 1:計25名(男4名、女21名)が参加の呼びかけに応じ、75gブドウ糖負荷試験を受けた。その結果、13名が糖尿病、IGTが5名、その他が7名であった。平均年齢58±7歳で65歳を超えるものが5名含まれた。毎回の出席率は60-88%であり、平成9年6月に開始後本年3月までの脱落者は4名(入院2名、病気療養1名、就職1名)にとどまった。運動プログラムは参加者から好印象の評価が得られた。4月末にブドウ糖負荷試験等血液検査を予定しており、1年間の介入効果の検討が行われる。ただいくつかの問題点も浮き彫りにされた。健診実施主体が市町にあること、医師会委託の健診であること、プライバシーの尊重の理由等から、保健所を通して行ったリクルートの段階で基本健康審査の結果と耐糖能異常者の名簿を利用できなかった。従って、耐糖能異常者を公募で募る以外に方法がなく、リクルートに応じた参加者の割合を見ても、糖尿病に対する認識が強い、すでに糖尿病と診断されている対象者が多くなった。また今回のようなプログラムで介入を保健所で行うとなると、多人数を扱うことは困難で、健診で異常が指摘されたもののうちほんの一部を対象にしうるにすぎない。さらに運動教室を平日に開催するとなると利用できるものは自ずと限られてしまう。今後、健康対策を支えるシステム間の柔軟な連携が住民の健康教育事業を推進するために欠かせないし、多人数の住民が利用しえるプログラムの開発が必要である。
Study2:平均体重は健康増進プログラムにより64.6kgから62.2kgへと有意に低下した。各人のエネルギー摂取目標値に対する実際の摂取量はプログラム前が113.3%、後が95.8%と低下、平均1日歩数は6657歩/日から8296歩/日へと増加した。プログラム後、血糖値に改善を見られたものは、25名中18名(改善群)、見られなかったものは7名(非改善群)であった。改善群と非改善群で比較すると、体重の減少には差がなかったが、改善群ではエネルギー摂取量は減少し(114.6%から92.8%へ)、1日歩数は2000歩近く増加していた。一方、非改善群ではエネルギー摂取量の減少はなく(108.4%から106.9%へ)、1日歩数の増加も1000歩弱にとどまった。
Study3:肥満度BMI(kg/m2)は指導前(Pre)27.4±0.3 (means±SE)、6カ月指導後(短期)26.8±0.3、平均4.7年後(長期)26.1±0.4と、平均4.7年後でも依然として有意の改善(p<0.025)を維持していた。(Pre)に比べて1.5kg以上体重が低下している対象者が54%あった。75gブドウ糖負荷試験による耐糖能異常をWHO分類で評価した結果、NGT/IGT/DMの割合は、各々(Pre)27/9/3人(69/23/8 %)であったが、(長期)では33/4/2人(85/10/5 %)と耐糖能異常(DM+IGT)者の割合は50%減少していた。空腹時血糖値、ブドウ糖負荷後2時間血糖値、ブドウ糖負荷後2時間血漿インスリン濃度とも(Pre)に比し、(長期)で有意に低下していた。
結論
ハイリスク者を対象とした保健所における運動に重点をおいた健康増進プログラムが、糖尿病の発症予防に有効であることが示唆された。プログラムによって獲得された運動習慣やその効果は4年以上にわたって継続した。身体活動量の目標値としては日常生活において少なくとも1500~2000歩/日程度歩数を増加させ、トータルで9000歩/日前後になることを目安とすることが妥当と考えられた。今後、健診でみつかったハイリスク者を運動習慣を獲得のため、いかにしてこれら地域で行われるプログラムに参加させていくか、多数例を扱うための効率のよい方法はなにか等の検討が必要である。

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