文献情報
文献番号
199700377A
報告書区分
総括
研究課題名
社会マーケティングと政策科学から見た健康政策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立医療・病院管理研究所医療政策研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康増進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
迫りくる超高齢社会準備に向け国民の健康疾病の予防は、再び重要な行政課題として注目されている。しかもこれまでアクティブエイティや老人保健事業を通して政策として推進されてきた。しかしこれまでの方法では21世紀社会に対応するに不十分と考えられる。そこでもう一度、健康や予防の概念を検討し、政策科学や社会マーケティング等新たな方法によって日本の健康政策を検討した。社会マーケティングの手法によって国民各層の健康や予防に対する意識を調査し,行動変容につながる情報伝達の方法を検討し、これまでの日本の健康政策や米国,ヨーロッパなどのHealthy People, Healthy Cityなどの政策をNew Public Health Movement, Management By Objectiveなどの新しい政策科学の観点から分析することが目的である。
研究方法
1.疾病による負担(burden of disease)と健康決定要因の分析
近年の公衆衛生学的知見を文献的にレビューすることにより、広く健康の因果関係を捉え、その介入の可能性を検討する。更に疾病による日本人口に対する負担とその変遷を人口動態統計による死亡と患者調査による受療で測定した。
2.公衆衛生の歴史的転換のレビュー文献及びインタビューにより公衆衛生の方法論、活動を18世紀から今日まで歴史的にレビューし、特にNew Public Health Movementを中心に今日の公衆衛生の諸潮流を分析した。
3.外国の各種保健計画レビュー
米国のHealthy People, Healthy Communityについて文献レビュー及び現地調査を行う。
ヨーロッパのCINDI Healthy City、などについてその背景、目的、手法を比較分析する。これらの諸対策と近年拡がりつつあるNew Public Health Movement、Essential Public Health Functionとの関係を歴史的かつ方法論的に研究した。
4.疾病管理(Disease Management)の手法による高血圧及び関連疾患管理法の研究
国民栄養調査1993、患者調査1993、国民生活基礎調査1994をもとに高血圧患者数と未治療者及び患者の流れを分析した。治療の費用について国民医療費1993などを用い、高リスク介入法と、集団リスク削減法の費用対効果を比較した。
5.インターネットやデータベース調査による国民の保健意識の調査
これらの手法によりメディアにあらわれた健康に対する意識、保健行動の内容と差を浮き彫りにした。
近年の公衆衛生学的知見を文献的にレビューすることにより、広く健康の因果関係を捉え、その介入の可能性を検討する。更に疾病による日本人口に対する負担とその変遷を人口動態統計による死亡と患者調査による受療で測定した。
2.公衆衛生の歴史的転換のレビュー文献及びインタビューにより公衆衛生の方法論、活動を18世紀から今日まで歴史的にレビューし、特にNew Public Health Movementを中心に今日の公衆衛生の諸潮流を分析した。
3.外国の各種保健計画レビュー
米国のHealthy People, Healthy Communityについて文献レビュー及び現地調査を行う。
ヨーロッパのCINDI Healthy City、などについてその背景、目的、手法を比較分析する。これらの諸対策と近年拡がりつつあるNew Public Health Movement、Essential Public Health Functionとの関係を歴史的かつ方法論的に研究した。
4.疾病管理(Disease Management)の手法による高血圧及び関連疾患管理法の研究
国民栄養調査1993、患者調査1993、国民生活基礎調査1994をもとに高血圧患者数と未治療者及び患者の流れを分析した。治療の費用について国民医療費1993などを用い、高リスク介入法と、集団リスク削減法の費用対効果を比較した。
5.インターネットやデータベース調査による国民の保健意識の調査
これらの手法によりメディアにあらわれた健康に対する意識、保健行動の内容と差を浮き彫りにした。
結果と考察
以下の番号は研究方法で掲げた各テーマに対応している。
1.疾病による負担を分析すると、特定の社会機能並びに身体状況を有するライフステージが浮かび上がった。しかしそれらは人生の完成、すなわち死に至る諸段階であり、むしろライフコースの中に捉える必要があることが判明した。例えば年齢別死亡は、死因はライフステージ毎に大きく異なっていり、また若年期のライフスタイルは更年期の疾病リスクとつながっている。ライフステージとコースをあわせたライフシナリオの重要性が示唆された。
2.公衆衛生の歴史は19世紀中頃からのチャドウィックや衛生運動に象徴される黄金時代を経て、20世紀は臨床の黄金時代を迎えるも1970年代から新たに公衆衛生の復権が唱えられた。1970年のラロンド報告により新たな病因論と、保健医療界を越えた活動の重要性、さらに健康増進からなる新公衆衛生運動が展開し、アメリカでは1979年のHealthy People Projectに、ヨーロッパでは1986年のHealthy City Projectにつながった。新公衆衛生運動の特徴はリスクと疫学の重視、学際的かつセクターを越えた取り組み等であり、その背景には疾病の慢性疾患への転換、経済成長の鈍化、公衆衛生の研究の成果などが考えられる。これらは現在、様々な形をとり、各国で展開されている。
3.Healthy Cities Project(HCP)は、ヨーロッパを中心とした健康戦略で、第1期(1987―1992)、第2期(1993―1998)に引き続き、第3期が1998年よりスタートする。第1期は35都市、第2期は36都市が直接プロジェクトに参加し、ヨーロッパ以外を含め500を超える都市が何らの形でHCPに関わっている。HCPは、“Health For All 2000"(1977年)およびヘルスプロモーション(オタワ憲章、1986年)が中心的概念となっている。健康都市という新しいコンセプト、従来のヘルスケアシステムの枠組みを超えたマルチセクトラスなアプローチの強調、市民とコミュニティ・社会環境との関係など、いわゆる新しい公衆衛生活動の色調が強い。
米国で進行しているHealthy Peopleと呼ばれる健康政策は、1976年の「Healthy People」の発表に始まり、1990年の「Healthy People 2000」で本格化した。その特徴は、ベースラインデータをもとにした300におよぶ2000年までに達成すべき健康増進と疾病予防の目標値の設定である。米国厚生省、米国公衆衛生局、科学アカデミー医学研究所が1987年より策定に取り掛かり、約300の組織が参加した協議会、地域公聴会、専門部会等の過程を経て発表された。最終目標は、健康寿命の延長、健康格差の是正、予防サービス普及の3つで、22の優先分野が示されている。この計画は、連邦政府、州および地方自治体政府の各レベルで実行にうつされ、1995年に中間評価と若干の修正がなされ、「Healthy People 2010」に受け継がれた。
4.高血圧の日本人を国民栄養調査によって推計すると1400万人、境界域が2000万人であった。薬物治療中の患者は500万人に過ぎず、白衣高血圧や非薬物療法を受けている患者を除外しても約数百万人の未治療者が存在することが判明した。現在既に診療所外来の20%が高血圧患者であり、国民医療費から計算した1年間の外来治療費が約25万円であることを勘案すると、経済的には7000億円から場合によっては2兆円までの負担増となり、診療所でこれらを引き受けることも難しい。国民栄養調査を使ったコホートの脳卒中発生率を利用して、未治療分を追加治療した場合と、この集団全体の血圧を1g下げるのを比較すると集団リスク管理法からみて3倍の予防効果があることが判明した。集団リスク管理法の費用推計は困難であるものの高リスク介入法よりも安価と考えられる。高血圧は脳卒中、虚血性心疾患等重篤な疾病を引き起こすので、未治療者の疾病管理は健康政策の重要政策といえよう。
5.4大新聞の12月1ヶ月間の健康関連主要記事は799にのぼり、主要雑誌を含むと1日約40件の健康情報が提供されている。双方向メディアとしてのインターネットでも健康は関心のある課題で、内容的には健康不安、健康づくりのための手段、基礎知識と豊富である年代別に見ると若手では健康と美容と医療がボーダーレス化が顕著であり、ダイエットや機能性食品のブームが拡大傾向にある。年代があがるにつれ疾病や介護の問題が関心事となる。これらにより、メディアの健康対策の重要性、年代別のセグメンテーションが重要と考えられる。
1.疾病による負担を分析すると、特定の社会機能並びに身体状況を有するライフステージが浮かび上がった。しかしそれらは人生の完成、すなわち死に至る諸段階であり、むしろライフコースの中に捉える必要があることが判明した。例えば年齢別死亡は、死因はライフステージ毎に大きく異なっていり、また若年期のライフスタイルは更年期の疾病リスクとつながっている。ライフステージとコースをあわせたライフシナリオの重要性が示唆された。
2.公衆衛生の歴史は19世紀中頃からのチャドウィックや衛生運動に象徴される黄金時代を経て、20世紀は臨床の黄金時代を迎えるも1970年代から新たに公衆衛生の復権が唱えられた。1970年のラロンド報告により新たな病因論と、保健医療界を越えた活動の重要性、さらに健康増進からなる新公衆衛生運動が展開し、アメリカでは1979年のHealthy People Projectに、ヨーロッパでは1986年のHealthy City Projectにつながった。新公衆衛生運動の特徴はリスクと疫学の重視、学際的かつセクターを越えた取り組み等であり、その背景には疾病の慢性疾患への転換、経済成長の鈍化、公衆衛生の研究の成果などが考えられる。これらは現在、様々な形をとり、各国で展開されている。
3.Healthy Cities Project(HCP)は、ヨーロッパを中心とした健康戦略で、第1期(1987―1992)、第2期(1993―1998)に引き続き、第3期が1998年よりスタートする。第1期は35都市、第2期は36都市が直接プロジェクトに参加し、ヨーロッパ以外を含め500を超える都市が何らの形でHCPに関わっている。HCPは、“Health For All 2000"(1977年)およびヘルスプロモーション(オタワ憲章、1986年)が中心的概念となっている。健康都市という新しいコンセプト、従来のヘルスケアシステムの枠組みを超えたマルチセクトラスなアプローチの強調、市民とコミュニティ・社会環境との関係など、いわゆる新しい公衆衛生活動の色調が強い。
米国で進行しているHealthy Peopleと呼ばれる健康政策は、1976年の「Healthy People」の発表に始まり、1990年の「Healthy People 2000」で本格化した。その特徴は、ベースラインデータをもとにした300におよぶ2000年までに達成すべき健康増進と疾病予防の目標値の設定である。米国厚生省、米国公衆衛生局、科学アカデミー医学研究所が1987年より策定に取り掛かり、約300の組織が参加した協議会、地域公聴会、専門部会等の過程を経て発表された。最終目標は、健康寿命の延長、健康格差の是正、予防サービス普及の3つで、22の優先分野が示されている。この計画は、連邦政府、州および地方自治体政府の各レベルで実行にうつされ、1995年に中間評価と若干の修正がなされ、「Healthy People 2010」に受け継がれた。
4.高血圧の日本人を国民栄養調査によって推計すると1400万人、境界域が2000万人であった。薬物治療中の患者は500万人に過ぎず、白衣高血圧や非薬物療法を受けている患者を除外しても約数百万人の未治療者が存在することが判明した。現在既に診療所外来の20%が高血圧患者であり、国民医療費から計算した1年間の外来治療費が約25万円であることを勘案すると、経済的には7000億円から場合によっては2兆円までの負担増となり、診療所でこれらを引き受けることも難しい。国民栄養調査を使ったコホートの脳卒中発生率を利用して、未治療分を追加治療した場合と、この集団全体の血圧を1g下げるのを比較すると集団リスク管理法からみて3倍の予防効果があることが判明した。集団リスク管理法の費用推計は困難であるものの高リスク介入法よりも安価と考えられる。高血圧は脳卒中、虚血性心疾患等重篤な疾病を引き起こすので、未治療者の疾病管理は健康政策の重要政策といえよう。
5.4大新聞の12月1ヶ月間の健康関連主要記事は799にのぼり、主要雑誌を含むと1日約40件の健康情報が提供されている。双方向メディアとしてのインターネットでも健康は関心のある課題で、内容的には健康不安、健康づくりのための手段、基礎知識と豊富である年代別に見ると若手では健康と美容と医療がボーダーレス化が顕著であり、ダイエットや機能性食品のブームが拡大傾向にある。年代があがるにつれ疾病や介護の問題が関心事となる。これらにより、メディアの健康対策の重要性、年代別のセグメンテーションが重要と考えられる。
結論
過去20年間に世界の公衆衛生手法や知見は大きく変化し、かつ進歩しており、世界各国で種々の健康政策が展開され、また米国のHealthy Peopleや欧州のHealthy Cityはその好例であり、New Public Health運動の影響を深く受けている。日本でも人生の完成即ち死に向かっての生涯の諸段階を支援する健康づくりが必要であること、そのためには疫学的手法、行動科学的手法、マネジメント手法が必要である。各国の経験や日本での各年代別問題分析はそのために有用と考えられる。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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