高齢者の身体的活動能力水準別運動プログラムの開発に関する研究

文献情報

文献番号
199700376A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の身体的活動能力水準別運動プログラムの開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
荒尾 孝(財団法人・明治生命厚生事業団体力医学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木英夫(広島原爆障害対策協議会健康管理増進センター)
  • 竹島伸生(名古屋市立大学)
  • 木村みさか(京都府立医科大学医療技術短期大学)
  • 種田行男(財・明治生命厚生事業団体力医学研究所)
  • 松林公蔵(高知医科大学)
  • 辻博明(岡山県立短期大学)
  • 藤原孝之(信州大学医療技術短期大学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康増進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
7,275,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の身体活動能力を維持増進することは高齢者保健活動の重要な目標であり、積極的かつ効果的な対策の推進が求められる。高齢者の身体活動能力は極めて個人差が大きく、安全かつ有効に運動を実施するためには高齢者の身体活動能力に応じた運動プログラムが必要となる。そこで、本研究は高齢者の身体活動能力水準に応じた健康体力の維持増進を図る運動プログラムを開発することを目的とした。 
研究方法
高齢者の身体活動能力水準を高・中・低の3段階に分け、それぞれの能力水準に応じた健康・体力の維持増進を図る運動プログラムを開発するために、以下の内容の介入研究を実施した。
1.高活動能力を有する高齢者のための運動プログラムの開発
健康増進センターの健康増進コースを受診した高齢者を運動群と対照群とに分け、1年間の介入研究を実施した。運動プログラムはゲーム性に富んだ種々の球技を主運動とし、その前後に約30分づつのストレッチ体操を加えたものとし、1回2時間の運動を1週間に2日、監視下で実施した。
運動習慣を有さない高齢者を運動群と対照群に分け、12週間の介入研究を実施した。運動プログラムは室内プールを利用し、10分間の準備運動、20分間の水中歩行、20分間のリズム運動、10分間の筋力強化運動、10分間のリラグゼーションと整理運動とし、1回70分、1週間に3日実施した。
2. 地域高齢者の運動プログラムの開発
保健センターの健康づくり教室に参加した地域高齢者を対象として、3カ月間の介入研究を実施した。運動群は歩行あるいは筋力トレーニングを行う2群とし、対照群は高齢者向けの教養講座に参加した者とした。運動プログラムは歩行群では1回15~30分の歩行を1週間に3回、筋力トレーニング群ではハーフスクワット、カーフレイズ、足挙げをそれぞれ1日に1~3セット、1週間に3回を目標に各自が自宅で実施した。その間、両群とも健康教室(1~2回/月)にて健康及び運動に関する指導を行った。
老人福祉センターの利用者を対象として 5カ月間の介入研究を実施した。運動群は健康教室受講者であり、対照群は体力測定会に参加した者である。プログラムは健康教室で行う指導プログラムと自宅で行う自主プログラムからなる非監視型の運動プログラムである。指導プログラムは教室(1回/2週)で運動指導、運動量の確認と目標設定、個別相談を行った。自主プログラムは教室にて指導した体操と歩行を各自が自宅で実施するものとした。体操は4種類の準備体操(全身のリラックス、肩・大腿前部・股関節のストレッチ)と6種類の筋力強化体操(座位での膝関節伸展・股関節屈曲、立位での膝関節屈曲・足関節底屈、腹・背筋)とし、歩行運動は歩幅をやや広げて歩く「元気歩行」とした。
保健センターの運動教室に4年間登録している高齢者を運動群、性と年齢をマッチングした非登録高齢者を対照群として、QOLやADLに対する効果について検討した。運動プログラムは監視型であり、有酸素運動(歩行、リズム運動)、無酸素運動(腹・背筋、上肢筋の強化)、柔軟運動(各関節のストレッチング)、神経筋協応運動(バランスゲーム、集団ゲーム)、水中運動とした。
3. 低活動能力を有する高齢者のための運動プログラムの開発
老人施設入居者で、活動制限を有する高齢者を対象として、1カ月間の介入研究を実施した。運動プログラムは登山用のトレッキングポールを両手で持ち、身体を安定させたうえで上肢と下肢の運動を中心とした8種類の動的運動からなるストック体操である。各運動の反復回数は5回程度、運動全体の所要時間は10分程度とした。
老人ケアマンションに入居している高齢者で、日常生活活動を自立もしくは一部介助を必要とする者を対象として、2~3年間個別的・集団的介入指導を実施した。プログラムは身体的、社会的、文化的な活動が施設内で毎日提供され、入居者が自主的に選択し、参加するものである。
結果と考察
身体活動能力水準別の運動プログラムを用いた介入研究の結果と考察は以下の通りである。
1. 高活動能力を有する高齢者のための運動プログラムの開発
健康増進センター受診高齢者に対する介入により有意な変化が認められたのは余暇時の運動量、HDLコレステロール、最大酸素摂取量であり、いずれも対照群では不変あるいは減少であった。これらの結果はいずれも、前年度の疫学研究の結果を裏付けるものであり、循環器疾患の発症に対し予防的な意義を有するものと考えられる。また、生活体力では起居動作にのみ有意な改善が認められた。このことは、本研究対象者が前期高齢者であり比較的活動能力が高い者であったために、運動の効果が現れにくかったことによるものと推察される。
水中運動プログラムを用いた介入では、生活体力の歩行時間に有意な短縮が認められたが、対照群では変化が認められなかった。また、活力年齢において運動群は69.5歳から61.2歳へ有意に若返ったが、対照群では有意な変化がなかった。これらの結果はいずれも全身持久性の向上を背景とした変化であり、有酸素性運動を中心としたプログラム内容が効果に反映されたものと思われる。なお、下肢機能を背景とする起居動作時間に有意な改善が認められなかった点については、動作様式の変化を含めた再検討が必要と思われる。
2. 地域高齢者の運動プログラムの開発
保健センターの健康づくり教室を利用した介入研究により、歩行群では開眼片足立ち、ステッピング、長座位体前屈、シャトルスタミナ歩行に、筋力トレーニング群では開眼片足立ち、長座位体前屈、息こらえにそれぞれ有意な向上が認められた。なお、対照群はいずれの項目にも有意な変化を認めなかった。従って、本プログラムは高齢者の身体活動能力の維持改善に有効と思われる。精神的及び生活行動的な状況については、各運動群とも改善傾向がみられたものの、明らかな変化は認められなかった。高齢者は身体的機能と精神的機能がより密接に相互に関連し合っており、今後精神面についての検討も必要と思われる。
老人福祉センター利用者に対する介入により、運動群では生活体力と運動機能の全ての項目で有意な向上を認めた。一方、対照群でも一部の項目に有意な向上がみられたが、これは対照群が体力測定会参加者であり健康や体力に興味関心が高く、運動習慣を有する者が多かったことによるものと推察される。このことを考慮すると、本プログラムは地域高齢者に対する非監視型プログラムとして有効と思われる。プログラムの有用性は有効性と参加率や継続率で示される実行可能性によって決定される。本研究の健康教室への参加率は入院、死亡、転居の者を考慮すると84.8%であり、比較的高い参加率と思われる。また、介入期間における各運動種目の実施状況も良好であった。これらのことはこの非監視型プログラムの実行可能性が高いことを示唆するが、さらに教室終了後の継続性について検討することが必要と思われる。
運動教室に長期登録した運動群は、非登録対照群に比べて、4年後のADLと手段的ADLが有意に高く、QOL指標である生活満足度や主観的幸福度についても有意に高い結果が認められた。従って、地域施設を利用した運動プログラムを長期継続することは高齢者のADLやQOLを維持するのに有効と思われる。
3. 低活動能力を有する高齢者のための運動プログラムの開発
身体活動に制限のある高齢者に対する介入では、男性のFunctional ReachとUp and Goの歩数にのみ有意な向上が認められた。この結果は、介入期間が1カ月と短期間であったことによるもので、一部の項目で改善傾向がみられたことから介入を継続することにより明らかな改善が期待できるものと思われる。なお、対象者の行動や動作などに変化が認められており、活動制限を有する高齢者ではこのような面での効果を評価することが必要と思われる。
老人ケアマンション入居者に対する個別的・集団的指導により、危険回避能力、転倒予防能力、巧緻動作能力、全身持久力の加齢に伴う低下を予防することが可能であった。このことは、身体的活動のみならず、社会・文化的な活動を含む種々の活動プログラムを通じた積極的な生活指導が運動機能を中心とした日常生活活動能力の維持に有効であることを示唆しているものと考えられた。今後は、介入の質や量と効果の関係及び評価項目についての検討が必要と思われる。
結論
高い身体活動能力を有する高齢者においては、室内施設やプールを使った全身持久力及び筋力の運動を中心とした監視型運動プログラムが健康・体力の維持増進に有効である。地域高齢者を対象とした健康教室型のプログラムとしては、高齢者が運動を主体的かつ長期的に実施することを目的とした非監視型の運動プログラムが有用である。低活動能力を有する施設入居高齢者に対しては、身体を安定に保った状態で簡単に実施できるストック体操や種々の活動からなる活動プログラムが有効である。

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