農作業におけるストレッサーの解析と健康管理に関する研究

文献情報

文献番号
199700375A
報告書区分
総括
研究課題名
農作業におけるストレッサーの解析と健康管理に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
上田 厚(熊本大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 角田文男(岩手医科大学医学部)
  • 酒井一博(労働科学研究所)
  • 井沢敏(長野県厚生農協連佐久総合病院)
  • 山根洋右(島根医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康増進研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
4,550,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、現代の農業従事者の作業負担と健康水準の様態を解析、評価するためにストレスの概念を導入した新たな普遍的な調査手法を開発し、それを用いて農業労働や農村生活の持つ様々な健康阻害要因(ストレッサー)を抽出し、それらの作業者への関与(ストレス)と作業者の対処(ストレス コーピング)の様態を解析し、それに対応した農業従事者の安全と健康増進のあり方を提言することを目的としている。
研究方法
本年度研究として以下のように企画した。
?共通の調査票「生活と健康に関する調査票-普及版-」の完成。
?アンケート調査の実施。
?調査データの解析:ストレスの実態とその要因の構造解析。
○なお、作成した統一調査票(普及版)の内容/構成は以下の通りであった。
I.フェースシート(選択解答):家族の要素/農業経営・家族経営協定/個人の要素
II.ストレスおよび健康状態の評価
(1)ストレスの自己評価、(2)生活満足度 (QOL):?生活と農業の要素/?総合的評価、(3)自覚症状:ストレス症状/バーンアウト症状、(4)健康状態:自己評価/年間  の受療状況
III.ストレッサーを抽出するための項目
(1)農作業の特性とストレス:Demand/Conntrol Model、(2)作業態様・作業環境・
作業編成の要素出現とストレス、(3)ライフイベントとストレス
IV.ストレスを修飾する内的および外的因子
(1)タイプA行動、(2)社会的支援度、(3)昨日の行動 :睡眠時間
V. 経験した重大なストレスとその対処法(自由記述)
VI.これまで農業をやっててやってきて良かったこと(自由記述)
結果と考察
1)各研究機関対象集団のストレスの様態
角田ら(岩手医科大学)は、JA岩手県厚生連主催のホームヘルパー養成講習会参加者およびJAいわい東藤沢支所主催の骨粗しょう症予防教室参加者の 221 名(女性)について、農業と非農業(農業年間60日未満を含む)に群別し、本調査票およびエゴグラム質問調査を実施した。酒井ら(労働科学研究所)は、栃木県、埼玉県下の専業的農家世帯の
351名(うち、男性 176名)について、調査票調査を実施した。伊澤ら(佐久総合病院)は、高原野菜の産地として知られる長野県南佐久群K村の農業従事者764 名(うち、男性274 名)について調査票調査および総合健診(ヘルススクリーニング)を実施した。対象者を3群(農業日数60日未満、60~150日、150日)に群別し、得られた成績を各群間で比較検討した。山根ら(島根医科大学)は、出雲農業改良普及センター管内で、農業改良資金導入により多目的生活共同施設を建築した3地域(斐川町、出雲市)の生活改善組合(各コミュニテイの全戸が参加)世帯の世帯主と配偶者、後継者のうち、265 名を対象に調査票調査を実施し、農村コミュニテイと農業形態の違いによるストレス要因を明らかにするとともに、当教室においてこれまで取り組んできた「健康なまち・むらづくり」について評価を試みた。
上田ら(熊本大学)は、5 研究機関より回収された計1783名分の調査票をデータベース化し、農作業従事者の生活満足度およびストレスを規定する要因構造を明らかにするため、2つの重回帰モデルを設定しその妥当性を検討した。モデルAは、「生活満足度」、「ストレス感」、「作業特性」と「作業態様・作業環境・作業時間」によるストレスをそれぞれ従属変数、「ライフイベント」、「社会的ネットワーク」、「自覚症状」、「作業特性」と「作業態様・作業環境・作業時間」によるストレス、「仕事の自由度」と「仕事の要求度」、「作業態様・作業環境・作業時間」を説明変数とし、モデルBは、「生活満足度」を従属変数とし、「作業特性」と「作業態様・作業環境・作業時間」によるストレス、「仕事の自由度」と「仕事の要求度」、「家庭生活に伴うライフイベント」と「農業経営に伴うライフイベント」、「社会的ネットワーク」、「自覚症状」を説明変数としたものである。その結果、モデルAは、「生活満足度」並びに「ストレス感」、「作業特性」と「作業態様・環境・時間」によるストレスを規定する要因とその性差や地域差を明らかにする上で有用なモデルとして活用できることが示唆された。また、モデルBは、栽培作目、農業経営、或いは、農村生活を取りまく環境の異なる地域において、「生活満足度」を規定する要因の構造に関する地域差を明らかにし、地域の諸特性に応じたストレス対策を呈示していく上で、非常に有用なモデルであることが確かめられた。
結論
本年度調査により以下のことが明らかにされた。
?農作業従事者のストレスとその要因を、農業や生活における地域の特性に対応して解析し、健康づくりにつながる農業の良い面を引き出すことのできる調査票(生活と健康調 査票-普及版-)を完成させ、この調査票を用いて、農業従事者のストレスの実態とそ の関与因子と因子間の相互関連の様相を解析した。
?この調査の結果、農業従事者の健康の様態を明らかにするために「生活満足度(QOL)」および「ストレス」が極めて有効な指標であることが確かめられた。
?一般に、ストレスは、女性が男性に比し、若年者が高年層に比して強い傾向が見られ、その要因構造は農業と他産業それぞれ異なった特性が見られ、経営作目や地域による比 較的明瞭な差異が認められたた。
?生活要素別に不満の多い項目は、男女共通の項目として「農業政策」「農業収入」が、女性では「家事」「自由時間」が、男性では「農協の支援」「情報」があげられた。
?強いストレッサー因子として、仕事の性質 (Demand/Control Model)としては「時間に追われる」「困難なしごと」が、仕事の要素(作業態様/作業環境/作業編成)とし ては「時間が長い」「炎天下作業」「重量物の運搬」「立ち作業」が、ライフイベント としては「減収」「ケガや病気」「借金」「子供の教育」「老人介護」などであった。
?農作業従事者のQOL の向上につながるストレス関与因子の構造モデル (A/B) を作成 し、その妥当性と地域健康活動における有用性を確認した。この結果、「生活満足度 (QOL)」を阻害する最も大きい、直接的な要因は「ストレス」であり、それを緩和し、QOLを高める最も大きな要因は「社会的支援度」であることが明らかにされた。
?これからの効果的な農村地域健康活動を構築するためには、この調査票を使った比較的小さな地域集団における介入研究の手法を開発し、それを実施して行くことが効果的か つ不可欠のものになってくるのではないかと思われる。

公開日・更新日

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