神経移動障害を伴う筋疾患の病態解明と治療法実現に向けた技術集約的研究

文献情報

文献番号
200730022A
報告書区分
総括
研究課題名
神経移動障害を伴う筋疾患の病態解明と治療法実現に向けた技術集約的研究
課題番号
H17-こころ-一般-027
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
萬谷 博(財団法人東京都高齢者研究・福祉振興財団東京都老人総合研究所老化ゲノム機能研究チーム)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
福山型先天性筋ジストロフィー症(FCMD)、muscle-eye-brain病(MEB)、Walker-Warburg症候群(WWS)は中枢神経系の障害を伴う先天性筋ジストロフィー症である。これらの疾患はジストロフィン糖蛋白質複合体の構成分子であるα-ジストログリカンのO-マンノース型糖鎖不全を起因とする。MEBとWWSの原因遺伝子産物POMGnT1とPOMT1及びPOMT2はO-マンノース型糖鎖合成酵素である。FCMDの原因遺伝子産物fukutinの機能はまだ分かっていない。本研究では、これらの疾患の原因遺伝子産物の機能を明らかすることで、病態の解明から診断・治療法への応用を目指している。
O-マンノシル化される蛋白質はこれまでにα-ジストログリカンしか分かっていないため、O-マンノース型糖鎖の機能はほとんど理解できていない。そこで本年度は、O-マンノース転移酵素の基質特異性から蛋白質のO-マンノシル化機構について検討した。

研究方法
α-ジストログリカンのムチン様領域およびムチンのタンデムリピート領域のアミノ酸配列に基づいて20残基程度の合成ペプチドを作製し、これらの合成ペプチドを基質とした時のO-マンノース転移活性を比較した。
結果と考察
α-ジストログリカン由来の2つのペプチドが効率良くO-マンノシル化されることが分かった。興味深いことに、これら2つのペプチドのアミノ酸配列の相同性は高く、特にプロリンとスレオニンの配置がほぼ一致していた。さらに、これらのペプチドのアミノ酸を置換した時の影響を調べた結果、両ペプチドで保存されているアミノ酸配列がO-マンノシル化において重要であることが分かり、O-マンノシル化のコンセンサス配列である可能性が考えられた。
結論
α-ジストログリカンのアミノ酸配列から蛋白質O-マンノシル化のコンセンサス配列を見出し、α-ジストログリカンが特異的にO-マンノシル化されるメカニズムを明らかにした。コンセンサス配列の発見は、α-ジストログリカン以外のO-マンノシル化蛋白質を探索する上で重要であり、O-マンノース型糖鎖の機能解明に繋がることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2008-03-31
更新日
-

文献情報

文献番号
200730022B
報告書区分
総合
研究課題名
神経移動障害を伴う筋疾患の病態解明と治療法実現に向けた技術集約的研究
課題番号
H17-こころ-一般-027
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
萬谷 博(財団法人東京都高齢者研究・福祉振興財団東京都老人総合研究所老化ゲノム機能研究チーム)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
福山型先天性筋ジストロフィー症(FCMD)、muscle-eye-brain病(MEB)、Walker-Warburg症候群(WWS)はジストロフィン糖蛋白質複合体を構成するα-ジストログリカンの糖鎖不全を起因とする。MEBとWWSの原因遺伝子産物POMGnT1とPOMT1、POMT2はO-マンノース型糖鎖合成酵素であり、FCMDの原因遺伝子産物fukutinの機能はまだ分かっていない。本研究では、これらの疾患の原因遺伝子産物およびO-マンノース型糖鎖の機能を明らかにし、病態の解明から診断・治療法に応用することを目的とした。
研究方法
各原因遺伝子産物および関連分子を強制発現した培養細胞や遺伝子改変動物を解析し、相互作用や変異による細胞内局在と酵素活性への影響を検討した。α-ジストログリカンに基づく合成ペプチド用いてPOMTが特異的に認識するアミノ酸配列を調べた。EBウイルスで不死化した患者由来リンパ球を用いて酵素活性測定による診断の可能性を検討した。
結果と考察
fukutinとPOMGnT1は結合してゴルジ体に局在していた。FCMD変異型fukutinのノックインマウスではPOMGnT活性が減少しており、fukutinとPOMGnT活性との関与が示された。POMT1とPOMT2は小胞体に局在しPOMT1-POMT2複合体を形成していた。複合体形成が活性発現に必要であった。α-ジストログリカン由来の2つのペプチドが効率良くO-マンノシル化された。両ペプチドのアミノ酸配列は相同性が高く、O-マンノシル化のコンセンサス配列と考えられた。内在性POMGnT1およびPOMT活性の測定法を確立し、検体採取が簡便なリンパ球から酵素活性の検出を可能にした。MEBとWWS患者リンパ球では各酵素活性が消失しており、酵素活性測定法による診断の有効性が示された。
結論
FCMDの原因遺伝子産物fukutinはMEBの原因遺伝子産物POMGnT1と結合し酵素活性に影響することを示した。WWSの原因遺伝子産物POMT1とPOMT2の酵素活性にはPOMT1-POMT2複合体の形成が必要であることを示した。蛋白質O-マンノシル化のコンセンサス配列を見出し、α-ジストログリカンの特異的O-マンノシル化メカニズムを示した。リンパ球細胞から高感度に酵素活性を検出する方法を開発し、MEBとWWSの簡易診断を可能にした。

公開日・更新日

公開日
2008-03-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200730022C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまで機能が不明だったfukutinがPOMGnT1の酵素活性の制御に関与することと、WWSの原因遺伝子産物POMT1とPOMT2の酵素活性には複合体の形成が必要であることが明らかとなった。これらの知見はO-マンノース型糖鎖の生合成が複数の分子複合体による厳密な制御下にあることを示している。コンセンサス配列の発見は、α-ジストログリカン以外のO-マンノシル化蛋白質を探索する上で重要であり、O-マンノース型糖鎖の機能解明に繋がることが期待される。
臨床的観点からの成果
酵素活性測定による診断法の確立により、遺伝子診断の必要が減少し、診断時間の短縮、コスト削減が期待される。少量の血球系細胞を検体とすることにより患者さんの負担が軽減できる。原因遺伝子産物や関連酵素の機能を解明していくことで新たな診断・治療法開発への応用が期待できる。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
特記事項なし
その他のインパクト
2005年12月1日付 日経産業新聞「筋ジスの原因糖鎖解明」掲載

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
18件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
日経産業新聞(2005.12.1)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Endo, T., Manya, H.
O-Mannosylation in Mammalian Cells.
Protocol for Methods in Molecular Biology , 347 , 43-57  (2006)
原著論文2
Saito, F., Blank, M., Schröder, J., et al.
Aberrant glycosylation of α-dystroglycan causes defective binding of laminin in the muscle of chicken muscular dystrophy.
FEBS Letter , 579 (11) , 2359-2363  (2005)
原著論文3
Toda, T., Chiyonobu, T., Xiong, H., et al.
Fukutin and α-dystroglycanopahties.
Acta Myologica , 16 (2) , 60-63  (2005)
原著論文4
Xiong, H., Kobayashi, K., Tachikawa, M., et al.
Molecular interaction between fukutin and POMGnT1 in the glycosylation pathway of α-dystroglycan.
Biochemical and Biophysical Research Communications , 350 (4) , 935-941  (2006)
原著論文5
Akasaka-Manya, K., Manya, H., Nakajima, A., et al.
Physical and functional association of human protein O-mannosyltransferases 1 and 2.
Journal of Biological Chemistry , 281 (28) , 19339-19345  (2006)
原著論文6
Manya, H., Chiba, A., Margolis, R.U., et al.
Molecular cloning and characterization of rat Pomt1 and Pomt2.
Glycobiology , 16 (9) , 863-873  (2006)
原著論文7
Manya, H., Suzuki, T., Akasaka-Manya, K., et al.
Regulation of mammalian protein O-mannosylation: Preferential amino acid sequence for O-mannose modification.
Journal of Biological Chemistry , 282 (28) , 20200-20206  (2007)
原著論文8
Manya, H., Bouchet, C., Yanagisawa, A., et al.
Protein O-mannosyltransferase activities in lymphoblasts from patients with α-dystroglycanopathies.
Neuromuscular Disorders , 18 (1) , 45-51  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-