骨格筋増殖抑制因子myostatinの活性阻害による筋ジストロフィー治療薬の開発

文献情報

文献番号
200730021A
報告書区分
総括
研究課題名
骨格筋増殖抑制因子myostatinの活性阻害による筋ジストロフィー治療薬の開発
課題番号
H17-こころ-一般-026
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
砂田 芳秀(川崎医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 野地 澄晴(徳島大学 工学部)
  • 土田 邦博(藤田保健衛生大学 医学部)
  • 濃野 勉(川崎医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、骨格筋増殖抑制因子であるmyostatin活性阻害による筋ジストロフィー治療薬を開発することにある。Myostatin活性阻害の戦略として(1)myostatinに結合しその活性化を阻害する組換えタンパクあるいはペプチド医薬、(2)RNA干渉によるmyostatin発現抑制を柱と位置づけ、多面的なアプローチにより治療薬を開発するとともに、筋ジストロフィーモデル動物を用いてその治療効果を解析し、至適なdrug delivery systemを構築する。
研究方法
1.レポーター遺伝子アッセイ系を用いてprodomain内のmyostatin阻害活性部位を同定し、相当する合成ペプチドを細胞培養系に添加してmyostatin阻害活性を解析した。
2.FSI-I遺伝子導入で改善したmdxマウス骨格筋における遺伝子発現プロファイリング解析を行い、表現型改善の分子機序を検討した。
3.アテロコラーゲンと混和したsiRNAを野生型マウスに経静脈性に投与して、myostatin阻害効果を解析した。
4.Wnt4組換えタンパクをニワトリ胚では複製可能型レトロウイルスベクター(RCAS)に組み込んで、ニワトリ胚の肢芽にWnt4発現ウイルスベクターを注射して、筋芽細胞の増殖、分化および骨格筋形態形成について解析した。
結果と考察
1.myostatin阻害活性部位を約30アミノ酸領域に特定し、合成ペプチドが細胞培養系で用量依存性にmyostatin活性を阻害することを確認した。
2.FSI-I遺伝子導入により筋肥大と脂肪量低下が生じ、骨格筋へのマクロファージの動員作用、脂肪酸代謝酵素の誘導、脂肪細胞でのミトコンドリア量の増加作用があることを解明した。
3.siRNAをアテロコラーゲンと混和してマウスに全身投与(静注)することで、筋肉量を増大させることに成功した。
4.Wnt4シグナルがmyostatinの下流でSmadリン酸化に拮抗して筋分化を促進することを見いだした。
結論
1.Myostatin阻害薬として、prodomain由来合成ペプチドとfollistatin改変体FSI-Iを開発した。今後臨床応用に向けたさらなる研究が期待される。
2.siRNA全身投与による筋ジストロフィー治療の可能性が示された。
3.Wnt4は筋ジストロフィー治療の新たな標的分子と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2008-04-03
更新日
-

文献情報

文献番号
200730021B
報告書区分
総合
研究課題名
骨格筋増殖抑制因子myostatinの活性阻害による筋ジストロフィー治療薬の開発
課題番号
H17-こころ-一般-026
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
砂田 芳秀(川崎医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 野地 澄晴(徳島大学 工学部)
  • 土田 邦博(藤田保健衛生大学 医学部)
  • 濃野 勉(川崎医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
myostatinは骨格筋特異的なTGF-bファミリー分子で骨格筋量を負に制御している。本研究では、多面的なアプローチによりmyostatin活性を阻害する治療薬の開発を行い、筋ジストロフィーの新たな治療基盤の確立を目指した。
研究方法
1. myostatin活性阻害分子(prodomainおよびfollistatin改変体)の過剰発現トランスジェニックマウスを作出し、筋ジストロフィーモデルマウスと交配し治療効果を検討した。
2. myostatin阻害による治療効果発現の分子基盤を精査した。
3. TGF-b 1型受容体阻害薬の治療効果を解析した。
4. siRNAを野生型マウスに投与して、myostatin阻害効果を解析した。
5. Wnt4発現ベクターをニワトリ胚の肢芽に注射して、筋芽細胞の増殖、分化および骨格筋形態形成について解析した。
結果と考察
1.prodomain遺伝子導入によりLGMD1Cモデルマウスの筋萎縮と筋力がほぼ正常に回復した。 myostatin阻害活性部位を特定し、合成ペプチドが細胞培養系で用量依存性にmyostatin活性を阻害することを確認した。
2. caveolin-3はmyostatin受容体と結合すると活性化を抑制し、myostatinシグナルをnegativeに制御することを解明した。
3. myostatin阻害特異性を有するFSI-I遺伝子導入により筋肥大と脂肪量低下が生じ、骨格筋へのマクロファージの動員作用、脂肪酸代謝酵素の誘導、脂肪細胞でのミトコンドリア量の増加作用があることを解明した。さらにmdxマウスとの交配で治療効果があることを示した。
4. TGF-β 1 型受容体阻害薬をLGMD1Cモデルマウスに投与し、myostatin活性の抑制、筋重量と筋線維径の有意な増加を明らにした。
5.アテロコラーゲンと混和したsiRNAの全身投与により、マウス筋肉量の増大に成功した。
6. Wnt4シグナルはmyostatinの下流でSmadリン酸化に拮抗して筋分化を促進する。
結論
1.Myostatin阻害薬として、prodomain由来合成ペプチドとfollistatin改変体FSI-Iを開発した。
2.TGF-b 1型受容体の低分子阻害薬は筋ジストロフィー治療に応用可能である。
3.siRNA全身投与による筋ジストロフィー治療の可能性が示された。
4.Wnt4は筋ジストロフィー治療の新たな標的分子と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2008-04-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200730021C

成果

専門的・学術的観点からの成果
筋ジストロフィー治療への臨床応用に向けて、4つの異なるアプローチによりmyostatin阻害薬の開発を行った。この研究過程でcaveolin-3による新たなmyostatinシグナルの分子調節機構を解明した。これらの成果はJournal of Clinical Investigation等の雑誌に掲載され、国際的にも高く評価された。
臨床的観点からの成果
独自に開発した治療分子(myostatinプロドメイン由来ペプチドおよびフォリスタチン誘導体)は今後筋ジスモデルマウスでの治療効果を検討できる。またsiRNAを用いた治療法はより安全で効率的な担体の開発へと発展する道筋がついた。TGF-b受容体阻害薬も条件がクリアされれば臨床治験が可能な段階にある。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
筋ジストロフィーは未だに有効な治療法のない難病であるが、myostatin阻害薬は臨床症状の改善が期待できる新規薬物である。こうした薬剤開発が実現すれば難病医療に画期的な成果が期待できる。また、筋ジストロフィー以外のミオパチーや高齢者における骨格筋量減少症sarcopeniaに対する効果も期待できる。
その他のインパクト
myostatin阻害薬による筋ジストロフィー治療法の開発については、新聞(一般紙と専門紙)にも掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
15件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hagiwara H, Ohsawa Y, Asakura S, et al.
Bone marrow transplantation improves outcome in a mouse model of congenital muscular dystrophy.
FEBS Lett , 580 (18) , 4463-4468  (2006)
原著論文2
Ohsawa Y, Hagiwara H, Nakatani M, et al.
Muscular atrophy of caveolin-3-deficient mice is rescued by myostatin inhibition.
J Clin Invest , 116 (11) , 2924-2934  (2006)
原著論文3
Tsuchida K, Sunada Y, Noji S, et al.
Inhibitors for the TGF-beta superfamily and their clinical applications.
Mini Rev Med Chem , 6 (11) , 1255-1261  (2006)
原著論文4
Takata H, Terada K, Oka H, et al.
Involvement of Wnt4 signaling during myogenic proliferation and differentiation of skeletal muscle.
Dev Dyn , 236 (10) , 2800-2807  (2007)
原著論文5
Nakatani M, Takehara Y, Sugino H, et al.
Transgenic expression of a myostatin inhibitor derived from follistatin increases skeletal muscle mass and ameliorates dystrophic pathology in mdx mice.
FASEB J , 22 (2) , 477-487  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-