異常蛋白蓄積による運動系神経変性疾患の治療法開発にむけた病態解明

文献情報

文献番号
200730019A
報告書区分
総括
研究課題名
異常蛋白蓄積による運動系神経変性疾患の治療法開発にむけた病態解明
課題番号
H17-こころ-一般-024
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 良輔(京都大学大学院医学研究科・臨床神経学)
研究分担者(所属機関)
  • 三澤 日出巳(共立薬科大学・薬理学)
  • 鈴木 泰行(国立精神・神経センター神経研究所 疾病第四部)
  • 武田 俊一(京都大学大学院医学研究科・放射線遺伝学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ミトコンドリアのセリンプロテアーゼであるHtrA2の機能低下が線条体黒質変性症(SND)の原因になるとの作業仮説を分子、細胞、動物レベルで検証する。またALSが26Sプロテアソームの機能低下によって発症しうるかどうかを運動ニューロン特異的プロテアソームノックアウトマウスを作製・解析することで検証する。
研究方法
In vitro 転写/翻訳とcDNAライブラリーを組み合わせたIn vitro発現クローニング法の手法により、HtrA2の基質となりうる候補タンパク質をクローニングした。HtrA2機能喪失マウス脳サンプルのウェスタンブロッティングを行い、それらの蓄積の有無の検討を行った。また、HtrA2機能喪失マウス脳でのオートファジー活性の評価を行った。一方、プロテアソームサブユニットpmsc4の運動ニューロン特異的コンディショナルノックアウトマウス作製に関してはB6マウスで19SプロテアソームサブユニットRpt3/psmc4のATPase活性部位をloxで挟んだfloxed mouseを作製し、これと運動ニューロンに特異的にCreを発現するVAChT-Creマウスを掛け合わせて、運動ニューロン特異的にプロテアソームを欠損するマウスを作製し、運動ニューロン変性が生じるかどうか検討する。
結果と考察
1.POLG、2.MTHFD1L、3.UQCRFS1の3つのミトコンドリアタンパクをHtrA2の基質候補タンパク質として同定した。HtrA2機能喪失変異マウスであるmnd2マウスの脳サンプルにおいてミトコンドリアマーカータンパク量で補正を行うと、POLGに関しては機能喪失変異体の皮質と線条体で増加を認めた。オートファジー活性のマーカーであるLC3-IIは、機能喪失変異体の皮質、小脳で増加を示し、HtrA2欠損によって損傷されたミトコンドリアのオートファジーが亢進しているものと考えられた。一方、ALSモデルマウス作製の手段となるfloxed Rpt3マウスの作製に成功した。
結論
HtrA2機能喪失による神経細胞変性の原因として、基質タンパクの蓄積によるミトコンドリア機能障害が推定された。神経変性に至るまでの生体の応答として、オートファジーの関与が示唆された。また運動ニューロン特異的26Sプロテアソームノックアウトを行う準備が整った。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200730019B
報告書区分
総合
研究課題名
異常蛋白蓄積による運動系神経変性疾患の治療法開発にむけた病態解明
課題番号
H17-こころ-一般-024
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 良輔(京都大学大学院医学研究科・臨床神経学)
研究分担者(所属機関)
  • 三澤 日出巳(共立薬科大学・薬理学)
  • 鈴木 泰行(国立精神・神経センター神経研究所 疾病第四部)
  • 武田 俊一(京都大学大学院医学研究科・放射線遺伝学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は2種類の異常蛋白質の分解に関わると考えられるプロテアーゼ、26SプロテアソームとミトコンドリアのセリンプロテアーゼであるHtrA2の機能低下がそれぞれALSと線条体黒質変性症(SND)の原因になるとの作業仮説を分子、細胞、動物レベルで検証することを目的とする。


研究方法
我々が樹立したVChAT-Creマウスによる運動ニューロン特異的ノックアウトシステムを検証するとともに、このシステムを用いて新たにプロテアソームサブユニットRpt3のfloxed mouseを作製し、運動ニューロン特異的なプロテアソームノックアウトによりALS類似の病態が生じるかどうか検討する。HtrA2に関してはメダカおよびショウジョウバエでノックアウトまたはノックダウンモデルを作製し、パーキンソン病のモデルとなるかどうか検討する。さらにHtrA2の基質蛋白質を発現クローニングにより同定し、これらがHtrA2ノックアウトまたはノックダウン動物において蓄積するかどうか、またHtrA2がヒトの線条体黒質変性症の神経病理に関与するか否かを検討する。
結果と考察
運動ニューロンノックアウトシステムを用い、運動ニューロンにおけるMnSOD活性低下は運動ニューロンの生存に影響がないこと、また家族性ALSの原因となる変異SOD1の運動ニューロン内への蓄積が発症時期に影響することを明らかにした。floxed Rpt3マウスの作製に成功した。また、HtrA2ノックダウンショウジョウバエは細胞死刺激に対して抵抗性であることが判明したが、神経変性を起こすかどうかは行動学的には明らかでなかった。HtrA2ノックアウトメダカはまだ得られていない。HtrA2の基質として3種類のミトコンドリア基質蛋白質を同定し、変異マウスにおいて蓄積傾向の認められるものも存在した。HtrA2は線条体黒質変性症の病理学的特徴であるGCIに高頻度に強陽性になることが判明した。
結論
1)運動ニューロン特異的プロテアソームノックアウトマウス作製の準備が完了した。
2)運動ニューロンがミトコンドリア由来の活性酸素障害には高い抵抗性を有することが明らかになった。
3)運動ニューロンで発現する変異SOD1の作用は、病気の発症過程に関与するが、病勢進行に対する関与は限定的であることが判明した。
4)HtrA2のミトコンドリアの基質を3種類同定した。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200730019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
異常蛋白質の蓄積がさまざまな神経変性疾患の原因になるという考えは、遺伝性の疾患に関しては、変異蛋白質の蓄積が細胞死を引き起こすことに関して多くの実験的証拠が挙げられ、コンセンサスになりつつある。一方、より一般的な孤発性疾患については、蛋白質の蓄積は認められるものの、その原因は全く不明である。本研究は蛋白質分解システムの障害が原因であるとの仮説にたち、ALSとSND(MSA)に関して、その実験的証拠を得ようとするもので、一部その仮説を支持する証拠が得られ、病因解明に前進できたと考えられる。
臨床的観点からの成果
本研究は疾患の基礎研究であり、直接患者の診療に貢献できる段階のものではない。しかしながら、神経難病の患者の多くは基礎研究でもよいから、疾患解明に向けて研究が前進していることを知るとそれを希望として喜ばれることを代表者は臨床医として経験している。神経変性疾患の根本的治療が現実化するには時間がかかると思われるが、研究成果をわかりやすく広報することにより、患者に希望を与えるとともに着実に病因解明・治療法開発にむけて前進するという点で臨床的意義があると考えている。
ガイドライン等の開発
該当しません。
その他行政的観点からの成果
該当事項ありません。
その他のインパクト
該当事項ありません。

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
29件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
65件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Moriwaki, Y. et al.
L347P PINK1 mutant that fails to bind to Hsp90/cdc37 chaperones is rapidlydegraded in a proteasome-dependant manner.
Neurosci. Res.  (2008)
原著論文2
Imai, Y. et al.
Pael receptor is involved dopamine metabolism in the nigrostriatal system.
Neurosci.Res. , 59 (4) , 413-425  (2007)
原著論文3
高橋良輔,王華芹,小林芳人
プログラム細胞死と神経変性疾患
細胞死・アポトーシス集中マスター  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-