ライソゾーム酵素欠損症の病態解析と新しい経口治療薬の開発

文献情報

文献番号
200730015A
報告書区分
総括
研究課題名
ライソゾーム酵素欠損症の病態解析と新しい経口治療薬の開発
課題番号
H17-こころ-一般-019
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 義之(国際医療福祉大学 大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 松田 潤一郎(医薬基盤研究所生物資源研究部)
  • 難波 栄二(鳥取大学生命機能研究支援センター)
  • 黒澤 美枝子(国際医療福祉大学基礎医学研究センター)
  • 大野 耕策(鳥取大学医学部)
  • 酒井 規夫(大阪大学大学院医学系)
  • 石井 達(帯広畜産大学畜産学部)
  • 榊原 康文(慶應義塾大学理工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
神経遺伝病に対する新しい分子治療法(ケミカルシャペロン療法)の確立を目的とする。新規化合物NOEV (N-オクチル-4-エピ-β-バリエナミンとNOV(N-オクチル-β-バリエナミン)をそれぞれGM1-ガングリオシドーシスとゴーシェ病の治療実験に用いた。有効性と毒性を検討後、ヒト患者に対する治療薬開発を最終目標とする。他の関連疾患にも同じ手法による新しい治療薬の開発を試みる。
研究方法
新規に開発した軽症型GM1-ガングリオシドーシスモデルマウスにNOEVを投与し、新しい神経学的モニタリング法により効果を判定した。実験期間中、組織採取、採血、採尿により、副反応・毒性の有無を調べた。動物実験は国際医療福祉大学研究倫理委員会の指針に従い承認を受けた。ゴーシェ病、ファブリー病、ポンペ病患者由来の培養細胞に対する特異的なシャペロンを開発し、治療実験を行った。
結果と考察
GM1-ガングリオシドーシスモデルマウスへのNOEV投与実験で、早期治療により神経症状の進行が軽減した。NOEVが経口投与により腸管で吸収され、血流に入り、血液脳関門を通過して神経組織に到達し、シャペロン活性を発現したことを確認した。シャペロンの組織内蓄積傾向はなかった。治療実験中、特異的な副作用を認めなかった。このモデルマウスの脳、培養細胞でオートファゴゾーム亢進、チトクロームCオキシダーゼ活性低下、ミトコンドリア形態異常と膜電位低下を認めた。分子モデリングにより、NOEVが酵素に強く結合し、ライソゾームの酸性条件で結合強度が低下することが分かった。ゴーシェ病でシャペロン効果のある新しい変異が発見された。ファブリー病とポンペ病に対するシャペロン化合物の分子機構が解明された。
結論
中枢神経系には血液脳関門が存在するため、神経遺伝病一般を対象とする治療実験はこれまで極めて困難であった。低分子化合物によるケミカルシャペロン療法は、この問題の解決に大きな意味を持つ。今後ケミカルシャペロン療法が多くの他の遺伝病に適用されることを期待する。対象疾患の拡大により、心身障害児・者への予防・治療的対応が可能になる。

公開日・更新日

公開日
2008-03-26
更新日
-

文献情報

文献番号
200730015B
報告書区分
総合
研究課題名
ライソゾーム酵素欠損症の病態解析と新しい経口治療薬の開発
課題番号
H17-こころ-一般-019
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 義之(国際医療福祉大学 大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 松田 潤一郎(医薬基盤研究所 生物資源研究部)
  • 難波 栄二(鳥取大学 生命機能研究支援センタ-)
  • 伊藤 雅之(国立精神・神経センター 神経研究所)
  • 黒澤 美枝子(国際医療福祉大学 基礎医学研究センター)
  • 大野 耕策(鳥取大学 医学部)
  • 衛藤 義勝(東京慈恵会医科大学)
  • 酒井 規夫(大阪大学 大学院医学系)
  • 石井  達(帯広畜産大学 畜産学部)
  • 榊原 康文(慶應義塾大学 理工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
神経遺伝病に対する新しい分子治療法(ケミカルシャペロン療法)の確立を目的とする。新規化合物NOEV (N-オクチル-4-エピ-β-バリエナミン)と NOV(N-オクチル-β-バリエナミン)をGM1-ガングリオシドーシスとゴーシェ病の治療実験に用いた。有効性と毒性を検討後、ヒト患者に対する経口治療薬として開発する。他の関連疾患にも同じ手法による新しい治療薬の開発を試みる。
研究方法
GM1-ガングリオシドーシス、ゴーシェ病、ファブリー病、クラッベ病、ポンペ病のシャペロン治療実験を行った。変異解析、シャペロン効果の分子機構解析、細胞内動態観察、病態解析により、その分子機構を解明した。新しい神経検査法により、GM1-ガングリオシドーシスモデルマウスに対するNOEVの臨床効果を判定した。新薬開発のためにβ-ガラクトシダーゼの構造予測を行ない、シャペロン化合物との結合強度を計算した。動物実験は国際医療福祉大学研究倫理委員会の指針に従い、承認を受けた。
結果と考察
GM1-ガングリオシドーシス、ゴーシェ病、ファブリー病の新しい型のモデル動物作出に成功した。NOEVのマウスの早期治療によりGM1-ガングリオシドーシスマウスの神経症状進行が抑制された。治療実験中、特異的な副作用を認めなかった。マイクロアレイ発現解析により、NOEV投与後ヒト線維芽細胞で6,684遺伝子、マウス線維芽細胞で4,889遺伝子、マウス脳で867遺伝子の発現が正常化した。分子モデリングにより、NOEVがヒトβ-ガラクトシダーゼに高い結合強度を示し、ライソゾームの酸性環境条件で結合強度が弱くなることが分かった。正常マウスにゴーシェ病シャペロンNOVを投与したところ、肺、脾臓、腎臓で酵素の活性が上昇した。ファブリー病、ポンペ病でもシャペロン効果を確認した。
結論
ケミカルシャペロン療法がGM1-ガングリオシドーシスの脳病変に有効であった。NOEVは腸管から吸収され、血液脳関門を通過し、中枢神経系で形態的化学的臨床的にシャペロン効果を発現した。早期治療が有効であった。これまで不可能であった多くの神経遺伝病の予防治療が可能になることを期待する。対象疾患の拡大により、心身障害児・者への予防・治療的対応が可能となる。

公開日・更新日

公開日
2008-03-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200730015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ケミカルシャペロン療法の概念を確立した。試験管内の酵素阻害剤が、細胞内で変異蛋白質の機能発現を誘導する現象(シャペロン効果)を発見し、ライソゾーム病治療への応用を試みた。新規シャペロン化合物をGM1-ガングリオシドーシス、ゴーシェ病の細胞実験、モデル動物実験に用い、この概念の妥当性を確認した。シャペロンは腸管で吸収され血液脳関門を通過し、酵素活性の発現、蓄積物の消化、臨床効果を発現した。その分子機構を化学分析、形態観察、分子モデリングにより解明した。















臨床的観点からの成果
遺伝病患者細胞に潜在的に存在する変異蛋白質の機能をシャペロン効果により発現させることは、遺伝子病の診療に大きな意味を持つ。本研究で、GM1-ガングリオシドーシスマウスの治療効果を確認した。しかも大きな副作用を認めない。今後大動物に対する毒性試験を行い、最終的にヒト患者の臨床試験に進む予定である。ヒト患者に対する治療効果確認予定であり、さらに現在治療困難な多くの神経遺伝病に対する画期的な治療法の開発を期待する。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
一般向けの成果公表は行っていない。
過去3年間の専門研究機関、国際学会での招待講演は11回:オーストラリア、フランス、スウェーデン、英国、カザフスタン、ロシア、米国、エジプト、スロベニア、スペイン、日本。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
16件
ケミカルシャペロン療法、対象疾患の病態解析
その他論文(和文)
9件
ケミカルシャペロン療法ならびに関連治療法の解説
その他論文(英文等)
4件
ケミカルシャペロン療法解説
学会発表(国内学会)
31件
ケミカルシャペロン療法実験データ公開
学会発表(国際学会等)
33件
ケミカルシャペロン療法実験データ公開
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計4件
その他成果(特許の取得)
0件
ケミカルシャペロン構造・機能特許
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takamura A, Higaki K, Kajimaki K, et al.
Enhanced autophagy and mitochondrial aberrations in murine GM1-gangliosidosis
Biochemical and Biophysical Research Communications , 367 (3) , 616-622  (2008)
原著論文2
Shimotori M, Maruyama H, Nakamura G, et al
Novel mutations of the GLA gene in Japanese patients with Fabry disease and their functional characterization by active site specific chaperone
Human Mutation , 29 (2) , 331-331  (2008)
原著論文3
Suzuki Y, Ichinomiya S, Kurosawa M, et al
Chemical chaperone therapy: clinical effect in murine GM1-gangliosidosis
Annals of Neurology , 62 (6) , 671-675  (2007)
原著論文4
Ichinomiya S, Watanabe H, Maruyama K, et al
Motor and reflex testing in GM1-Gangliosidosis model mice
Brain & Development , 29 (4) , 210-216  (2007)
原著論文5
Lei K, Ninomiya H, Suzuki M, et al
Enzyme enhancement activity of N-octyl-beta-valienamine on beta-glucosidase mutants associated with Gaucher disease
Biochimica et Biophysica Acta , 1772 (5) , 587-596  (2007)
原著論文6
Kono S, Shirakawa K, Ouchi Y, et al
Dopaminergic neuronal dysfunction associated with parkinsonism in both a Gaucher disease pateint and a carrier
Journal of Neurological Sciences , 252 (2) , 181-184  (2007)
原著論文7
Saito T, Usui N, Asai O, et al
Pseudo-Gaucher cell proliferation associated with myelodysplastic syndrome
International Journal of Hematology , 85 (4) , 350-353  (2007)
原著論文8
Fan J-Q, Ishii S
Active-site-specific chaperone therapy for Fabry disease: Yin and Yang of enzyme inhibitors
FEBS Journal , 274 (19) , 4962-4971  (2007)
原著論文9
Ishii S, Chang H-H, Kawasaki K, et al
Mutant alpha-galactosidase A enzymes identified in Fabry disease patients with residual enzyme activity: biochemical characterization and restoration of normal intracellular processing by 1-deoxygalactonojirimycin
Biochemical Journal , 406 (2) , 285-295  (2007)
原著論文10
Suzuki M, Sugimoto Y, Ohsaki Y, et al
Endosomal accumulation of Toll-like receptor 4 causes constitutive secretion of cytokines and activation of signal transducers and activators of transcription in Niemann-Pick diseases type C (NPC) fibroblasts
Journal of Neuroscience , 27 (8) , 1879-1891  (2007)
原著論文11
Ohsaki Y, Sugimoto Y, Suzuki M, et al
Cholesterol depletion facilitates ubiquitylation of NPC1 and its association with SKD1/Vps4
Journal of Cell Science , 119 (13) , 2643-2653  (2006)
原著論文12
Shin I-S, Nishikawa K, Maruyama H, et al
Histidine-tagged Shiga toxin B subunit binding assay: simple and specific determination of Gb3 content in mammalian cells
Chemical and Pharmaceutical Bulletin , 54 (4) , 522-527  (2006)
原著論文13
Iwasaki H, Watanabe H, Iida M, et al.
Fibroblast screening for chaperone therapy in beta-galactosidosis
Brain & Development , 28 (8) , 482-486  (2006)
原著論文14
Xu C, Sakai N, Taniike M, et al
Six novel mutations detected n GALC gene in 17 Japanese patients with Krabbe disease and new genotype-phenotype correlation
Journal of Human Genetics , 51 (6) , 548-554  (2006)
原著論文15
Gordillo M, Vega H, Sakai N, et al
Characterization of the sensitivity of lymphoblastoid cell lines to various stress agents in Roberts syndrome
Medical Journal of Osaka University , 49 , 29-41  (2005)
原著論文16
Eto Y, Ohashi T, Utsunomiya Y, et al
Enzyme replacement therapy in Japanese Fabry disease patients: the results of a phase 2 bridging study
Journal of Inhetited Metabolic Disease , 28 (4) , 575-583  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-