上位運動神経優位ALSの分子病態解明と治療薬の開発

文献情報

文献番号
200730014A
報告書区分
総括
研究課題名
上位運動神経優位ALSの分子病態解明と治療薬の開発
課題番号
H17-こころ-一般-018
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
池田 穰衛(東海大学 医学部・基礎医学系)
研究分担者(所属機関)
  • 祖父江 元(名古屋大学 大学院医学系研究科 神経内科学)
  • 岩倉 洋一郎(東京大学 医科学研究所 ヒト疾患モデル研究センター )
  • 青木 正志(東北大学 大学院医学系研究科 神経内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、選択的な上位・下位運動ニューロンの変性を病因とする難治性神経疾患である。長年にわたる研究にも関わらず未だ分子病態は不明であり、よって有効な治療法もない。本研究は、一群の上位運動ニューロン疾患の原因遺伝子であるALS2遺伝子に注目し、その遺伝子産物であるALS2タンパク質(ALS2)およびその関連因子の分子・細胞・個体レベルでの機能解析を基軸にして、ALSにおける選択的な運動ニューロン変性の分子機序の解明を目指す。併せて、ALSの治療薬および治療法の開発を試みる。
研究方法
平成19年度は、1)ALS2分子機能および病態メカニズムの解析。2)神経細胞死抑制新規低分子化合物のALSモデルマウスへの治療効果の解析。3)ALS新規疾患モデルの開発。4)ALSラットモデルにおける細胞外微小環境の検討、の5項目の研究を遂行した。
結果と考察
本年度の成果は、以下のように要約される。1)ALS2が神経細胞選択的にマクロピノサイトーシスを制御していることの発見。2)ALS2の細胞内挙動異常がALS2の機能喪失と相関することの証明。3)神経細胞死抑制因子(NAIP)を選択的に発現誘導する低分子化合物(L-745,870)の変異SOD1発現ALSモデルマウスへの発症後投与での治療効果の確認。4)当該低分子化合物がALSモデルマウス脊髄におけるミクログリアの活性化を抑制することの発見。5)dynactin1を標的としたALS新規疾患モデル開発。6)MC2R遺伝子を欠損した(Mc2r-/-)マウスを遺伝子ターゲティング法による樹立とマウス表現型の解析。7)ALSラットモデル脊髄の病変の主座である前角とその周囲白質におけるCSPGの発症前からの沈着亢進の同定。
結論
本研究により、ALS2遺伝子変異による運動ニューロンの機能障害・細胞死は、ALS2が担う細胞内物質輸送系あるいはシグナル伝達系の異常により引き起こされている可能性が新たに提示された。さらに、低分子化合物によるALSの新たな治療法開発の試みに関しては、ALS治療候補ヒット化合物の同定という大きな成果が得られた。今後、細胞死抑制低分子化合物、異常蛋白質分解、および神経栄養因子を標的とした治療法開発をさらに推進することにより、ALS治療法開発への道が開かれるものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2008-03-17
更新日
-

文献情報

文献番号
200730014B
報告書区分
総合
研究課題名
上位運動神経優位ALSの分子病態解明と治療薬の開発
課題番号
H17-こころ-一般-018
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
池田 穰衛(東海大学 医学部・基礎医学系)
研究分担者(所属機関)
  • 祖父江 元(名古屋大学 大学院医学系研究科 神経内科学)
  • 岩倉 洋一郎(東京大学 医科学研究所 ヒト疾患モデル研究センター )
  • 青木 正志(東北大学 大学院医学系研究科 神経内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、選択的な上位・下位運動ニューロンの変性を病因とする難治性神経疾患である。ALSの発症・進行に係わると思われる幾つかの危険因子は知られているものの、確固たる生化学的情報も少なく、分子病態も未だ不明で、分子レベルでの確定診断法ならびに治療法も確立されていない。本研究では、一群の上位運動ニューロン疾患の原因遺伝子であるALS2遺伝子に注目し、個体レベルでのALS2分子機能解析を軸に、ALSにおける選択的な運動ニューロン変性の分子機序の解明と治療薬開発、ALS治療法・治療薬開発の具体化につながる知見と素材を得ることを目的としている。
研究方法
我々の先行研究成果であるALS2およびその関連因子、Als2 遺伝子欠損マウス、変異SOD1発現マウス、神経細胞死抑制低分子化合物を用いて、ALSの選択的な運動ニューロン変性の解明と治療薬の開発を目指して研究を遂行した。
結果と考察
本研究の遂行により、Als2-KOマウスにおける加齢性の神経構造・機能的異常が明らかにされた。また、ALS2の分子機能に関しては、その上流活性化因子の同定に成功するとともに、ALS2がマクロピノサイトーシスというこれまでに全く注目されていなかった生理的機能の調節を担っていること、神経細胞での軸索伸長調節因子であること等の着実な成果が得られた。ALS治療薬の開発に関しては、独自の低分子化合物スクリーニングにより得られたL-745,870が、H46R変異SOD1発現ALSモデルマウスへの発症前のみならず発症後投与においても治療効果を示すことが確認された。これは、当初の目標であるALS治療法・治療薬開発の具体化につながる知見と素材の獲得に結びつく重要な成果であるとともに、NAIPを標的分子とするALS治療薬開発のpreclinical proof-of-conceptが得られたことを意味するものと考えられる。
結論
本研究により、ALS2が有する新たな分子・生理機能が解明され、さらに新規のALS治療候補薬を同定することに成功した。今後、ALS治療薬開発への具体化に向けて、同定された化合物の詳細な薬効分子機序の解明が必要と考えられる。また、同定されたALS2の分子・生理的機能を手掛かりとして、ALSにおける選択的な運動ニューロン機能障害・変性の分子背景についての理解が進み、ALS2分子機能をターゲットにした新たなALS治療への展開も可能となると期待される。

公開日・更新日

公開日
2008-03-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2009-01-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200730014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の遂行により、Als2-KOマウスにおける加齢性の神経構造・機能的異常が明らかにされた。また、家族性ALSの原因遺伝子産物であるALS2の分子機能に関しては、その上流活性化因子の同定に成功するとともに、ALS2がマクロピノサイトーシスというこれまでに全く注目されていなかった生理的機能の調節を担っていること、ならびに神経細胞での軸索伸長調節因子であること等の新たな成果が得られた。
臨床的観点からの成果
ALS治療薬の開発に関しては、独自の低分子化合物スクリーニングにより得られたL-745,870が、H46R変異SOD1発現ALSモデルマウスへの発症前のみならず発症後投与においても治療効果を示すことが確認された。これは、当初の目標であるALS治療法・治療薬開発の具体化につながる知見と素材の獲得に結びつく重要な成果であるとともに、NAIPを標的分子とするALS治療薬開発のpreclinical proof-of-conceptが得られたことを意味するものと考えられる。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
本研究によるマクロピノサイトーシス機能異常を背景にした新たな神経変性疾患発症メカニズムの提唱は、今後の疾患研究行政施策策定に対する新しい科学的根拠を提供しているものと考える。一方、本研究成果により具体化されたNAIPを標的分子とするALS治療薬開発については、更なる低分子化合物のスクリーニング、ヒット・リード化合物をはじめとするALS治療候補薬の(前)臨床試験への展開、および治療薬としての実用化推進に向けての行政施策的支援が期待される。
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
49件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
18件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Okada Y, Sakai H, Kohiki E, et al.
A Dopamine D4 receptor antagonist attenuates ischemia-induced neuronal cell damage via upregulation of neuronal apoptosis inhibitory protein
J Cereb Blood Flow Metab , 25 , 794-806  (2005)
原著論文2
Hadano S, Benn SC, Kakuta S, et al.
Mice deficient in the Rab5 guanine nucleotide exchange factor ALS2/alsin exhibit age-dependent neurological deficits and altered endosome trafficking
Hum Mol Genet , 15 (2) , 233-250  (2006)
原著論文3
Sato E, Kimura N, Yokoo M, et al.
Morphodynamics of ovarian follicles during oogenesis in mice.
Microsc Res Tech , 69 (6) , 427-435  (2006)
原著論文4
Tanaka K, Miyamoto N, Shouguchi-Miyata J, et al.
HFM1, the human homologue of yeast Mer3, encodes a putative DNA helicase expressed specifically in germ-line cells
DNA Seq , 17 (3) , 242-246  (2006)
原著論文5
Suzuki-Utsunomiya K, Hadano S, Otomo A, et al.
ALS2CL, a novel ALS2-interactor, modulates ALS2-mediated endosome dynamics
Biochem Biophys Res Commun , 354 (2) , 491-497  (2007)
原著論文6
Kunita R, Otomo A, Mizumura H, et al.
The Rab5 activator ALS2/alsin acts as a novel Rac1 effector through Rac1-activated endocytosis
J Biol Chem , 282 (22) , 16599-16611  (2007)
原著論文7
Tanaka K, Okada Y, Kanno T, et al.
A dopamine receptor antagonist L-745,870 suppresses microglia activation in spinal cord and mitigates the progression in ALS model mice
Exp Neurol  (2008)
原著論文8
Otomo A, Kunita R, Suzuki-Utsunomiya K, et al.
ALS2/alsin deficiency in neurons leads to mild defects in macropinocytosis and axonal growth
Biochem Biophys Res Commn  (2008)
原著論文9
Jiang YM, Yamamoto M, Kobayashi Y, et al.
Gene expression profile of motor neurons in sporadic amyotrophic lateral sclerosis
Ann Neurol , 57 , 236-251  (2005)
原著論文10
Tanaka F, Niwa J, Ishigaki S, et al.
Gene expression profiling toward understanding of ALS pathogenesis
Ann N Y Acad Sci , 1086 , 1-10  (2006)
原著論文11
Yamada S, Niwa J, Ishigaki S, et al.
Archaeal proteasomes effectively degrade aggregation-prone proteins and reduce cellular toxicities in mammalian cells
J Biol Chem , 281 , 23842-23851  (2006)
原著論文12
Jiang YM, Yamamoto M, Tanaka F, et al.
Gene expressions specifically detected in motor neurons (dynactin 1, early growth response 3, acetyl-CoA transporter, death receptor 5, and cyclin C) differentially correlate to pathologic markers in sporadic amyotrophic lateral sclerosis
J Neuropathol Exp Neurol , 66 , 617-627  (2007)
原著論文13
Matsuki T, Nakae S, Sudo K, et al.
Abnormal T cell activation caused by the imbalance of the IL-1/IL-1R antagonist system is responsible for the development of experimental autoimmune encephalomyelitis
Int Immunol , 18 , 399-407  (2006)
原著論文14
Komiyama Y, Nakae S, Matsuki T, et al.
IL-17 plays an important role in the development of experimental autoimmune encephalomyelitis
J Immunol , 177 , 566-573  (2006)
原著論文15
Chida D, Imaki T, Suda T, et al.
Involvement of CRH- and IL-6-dependent proopiomelanocortin induction in the anterior pituitary during hypothalamic-pituitary-adrenal axis activation by IL-1α
Endocrinology , 146 , 5496-5502  (2005)
原著論文16
Chida D, Nakagawa S, Nagai S, et al.
Melanocortin receptor 2 is required for adrenal gland development, steroidogenesis and neonatal gluconeogenesis
Proc Natl Acad Sci USA , 104 , 18205-18210  (2007)
原著論文17
Aoki M, Kato S, Nagai M, et al.
Development of a rat model of amyotrophic lateral sclerosis expressing a human SOD1 transgene
Neuropathology , 25 , 365-370  (2005)
原著論文18
Ishigaki A, Aoki M, Nagai M, et al.
Intrathecal delivery of hepatocyte growth factor from amyotrophic lateral sclerosis onset suppresses disease progression in rat amyotrophic lateral sclerosis model
J Neuropathol Exp Neurol , 66 (11) , 1037-1044  (2007)
原著論文19
Matsumoto A, Okada Y, Nakamichi M, et al.
Disease progression of human SOD1 (G93A) transgenic ALS model rats
J Neurosci Res , 83 , 119-133  (2006)
原著論文20
Mizuno H, Warita H, Aoki M, et al.
Accumulation of chondroitin sulfate proteoglycans in the microenvironment of spinal motor neurons in ALS transgenic rats
J Neurosci Res  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-