急性脳炎のグルタミン酸受容体自己免疫病態の解明から新たな治療法確立に向けた研究

文献情報

文献番号
200730013A
報告書区分
総括
研究課題名
急性脳炎のグルタミン酸受容体自己免疫病態の解明から新たな治療法確立に向けた研究
課題番号
H17-こころ-一般-017
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 幸利(独立行政法人国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 森寿(国立大学法人富山大学医学薬学研究部分子神経科学)
  • 森島恒雄(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科病態機構学 小児医科学)
  • 犬塚 貴(岐阜大学大学院医学研究科 神経内科・老年学分野)
  • 岡本幸市(群馬大学医学部神経内科学講座、神経内科学,神経病理学)
  • 田中惠子(独立行政法人国立病院機構 西新潟中央病院)
  • 庄司紘史(国際医療福祉大学)
  • 古川 漸(山口大学医学部生殖・発達・感染医科学講座、小児科学、アレルギー学)
  • 熊本俊秀(大分大学医学部脳・神経機能統御講座(内科学第三))
  • 中島健二(鳥取大学教授医学部附属脳幹性疾患研究施設脳神経内科部門)
  • 細矢光亮(福島県立医科大学医学部小児科)
  • 梶 龍兒(徳島大学医学部付属病院高次脳神経診療部)
  • 栗山 勝(福井大学第2内科(神経内科))
  • 湯浅龍彦(国立精神神経センター国府台病院、神経内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳炎症状で発病する急性脳炎・脳症には複数の病態が存在し、個々の病態の正確解明、鑑別診断の確立、病態ごとの固有の治療法の開発が望まれている。
研究方法
3年目にあたる今年度は、種々の病態により急性脳炎症状を呈する症例を、当研究班で作成した多施設共同研究のための症例登録基準に合わせて幅広く集積し、血清・髄液の自己抗体の測定、サイトカイン・ケモカイン等を経時的に測定し、多施設共同研究により自己免疫病態を検討する。
結果と考察
【抗GluRepsilon2抗体】成人NHALEでは、血清抗GluRepsilon2抗体が急性期?慢性期に約55%の症例で陽性であった。髄液抗GluRepsilon2抗体は急性期(51.8%)、回復期(41.4 %)、慢性期(28.6%)と、徐々に陽性率が低下し、全例N末エピトープを含んでいた。抗GluRepsilon2抗体陽性NHALEの74.5%は15-34歳が占め、抗GluRe2抗体は主として若年成人の脳炎に関与していた。抗GluRe2抗体陽性NHALEの初発神経症状は、精神症状が主体で、抗GluRe2抗体陰性NHALEに比べてけいれんが有意に少なかった。抗GluRe2抗体陽性NHALEでは陰性NHALEに比べて、急性期症状のけいれん・けいれん重積の出現が遅く、髄液細胞数が多かった。
【抗VGKC抗体】非ヘルペス性辺縁系脳炎・脳症(NHLE)の20%で抗VGKC抗体が高値を呈し、抗VGKC抗体陽性NHLE症例は平均54.8±12.2歳で発病、亜急性の記憶障害・見当識障害、胸腺腫合併、ステロイド反応性などを特徴とした。
【サイトカイン】傍感染性のNHALEの髄液では、IL-6とIL-10が上昇、IFN-γが正常であり、炎症の原因はウィルスが主役ではないことを示した。
【診断スキームの作成】急性辺縁系脳炎等の自己免疫介在性脳炎・脳症の診断治療を迅速に進め、病態研究を加速するために、「急性辺縁系脳炎等の自己免疫介在性脳炎・脳症」の診断スキームを作成した。このスキームはホームページに掲載され(http://www.hosp.go.jp/~szec2/06/06-1-2.htm)、幅広く臨床家がアクセスできるようにした。
結論
急性脳炎・脳症の中には、かなりの頻度で抗NMDA型GluR抗体(抗GluRe2抗体)、抗VGKC抗体、抗NAE抗体(橋本脳症)などが陽性の自己免疫介在性脳炎・脳症が存在することが判明した。これらの研究結果は、学問的に検討過程にあり即臨床応用できる段階ではないことに、ご注意願いたい。

公開日・更新日

公開日
2008-04-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2009-01-22
更新日
-

文献情報

文献番号
200730013B
報告書区分
総合
研究課題名
急性脳炎のグルタミン酸受容体自己免疫病態の解明から新たな治療法確立に向けた研究
課題番号
H17-こころ-一般-017
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 幸利(独立行政法人国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 森寿(国立大学法人富山大学医学薬学研究部分子神経科学)
  • 森島恒雄(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科病態機構学 小児医科学)
  • 犬塚 貴(岐阜大学大学院医学研究科 神経内科・老年学分野)
  • 岡本幸市(群馬大学医学部神経内科学講座、神経内科学,神経病理学)
  • 梶 龍兒(徳島大学医学部付属病院高次脳神経診療部)
  • 熊本俊秀(大分大学医学部脳・神経機能統御講座(内科学第三))
  • 栗山 勝(福井大学第2内科(神経内科))
  • 庄司紘史(国際医療福祉大学リハビリテーション学部)
  • 田中惠子(独立行政法人国立病院機構 西新潟中央病院)
  • 中島健二(鳥取大学教授医学部附属脳幹性疾患研究施設脳神経内科部門)
  • 古川 漸(山口大学医学部生殖・発達・感染医科学講座、小児科学、アレルギー学)
  • 細矢光亮(福島県立医科大学医学部小児科)
  • 湯浅龍彦(国立精神神経センター国府台病院、神経内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳炎症状で発病する急性脳炎・脳症には複数の病態が存在し、個々の病態の正確な解明、鑑別診断の確立、病態ごとの固有の治療法の開発が望まれている。
研究方法
急性辺縁系脳炎・脳症の多施設共同研究を立ち上げ、症例を集積し、各種ウィルス検索、臨床データ解析、神経画像評価に加えて、血清・髄液の自己抗体の測定、サイトカイン・ケモカイン等の測定を行なう。
結果と考察
【疫学】日本の成人における急性脳炎罹患率は19.0/100万人年、小児の罹患率は?56.4 /100万人年と推定した【抗GluRe2抗体】成人NHALEでは、血清抗GluRe2抗体が急性期-慢性期に約55%の症例で陽性であった。髄液抗GluRe2抗体は急性期(51.8%)、回復期(41.4 %)、慢性期(28.6%)と、徐々に陽性率が低下し、全例N末エピトープを含んでいた。抗GluRe2抗体は主として若年成人の脳炎に関与していた。抗GluRe2抗体陽性NHALEの初発神経症状は、精神症状が主体で、抗GluRe2抗体陰性NHALEに比べてけいれんが有意に少なかった。【抗VGKC抗体】NHLEの20%で抗VGKC抗体が高値を呈し、抗VGKC抗体陽性NHLE症例は平均54.8±12.2歳で発病、亜急性の記憶障害・見当識障害、胸腺腫合併、ステロイド反応性などを特徴とした。
【抗NAE抗体】抗NAE抗体陽性の橋本脳症では平均発病年齢は53歳(23-83歳)で、急性脳症型が73%(辺縁系脳炎型=9%)を占めた。
【サイトカイン】傍感染性のNHALEの髄液では、IL-6とIL-10が上昇、IFN-γが正常であり、炎症の原因はウィルスが主役ではないことを示した。【傍腫瘍性神経症候群(PNS)】免疫寛容に重要な働きをするCD4+CD25high制御性T細胞(Treg)は、PNSでは癌のみで神経症状なしのコントロール担癌患者群に比べ機能の低下が認められた。
【診断スキームの作成】急性辺縁系脳炎等の自己免疫介在性脳炎・脳症の診断治療を迅速に進め、病態研究を加速するために、「急性辺縁系脳炎等の自己免疫介在性脳炎・脳症」の診断スキームを作成した。(http://www.hosp.go.jp/~szec2/06/06-1-2.htm)
結論
【結語】急性脳炎・脳症の中には、かなりの頻度で抗GluRe2抗体、抗VGKC抗体、抗NAE抗体などの自己抗体が陽性の脳炎・脳症が存在することが判明した。これらの自己抗体が陽性となる急性脳炎・脳症は、サイトカインなどの免疫機構が関与し、ステロイド治療が有効である共通性を持つことが分かり、早期診断・治療が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2008-04-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2009-01-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200730013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
急性脳炎・脳症の中には、抗GluRe2抗体・抗VGKC抗体・抗NAE抗体などの抗神経関連分子自己抗体がかなりの頻度で陽性の脳炎・脳症が存在することが判明した。非ヘルペス性急性辺縁系脳炎・脳症(NHALE)急性期には血液脳関門機能の低下が示唆され、感染等の刺激により血清中に産生された抗GluRe2抗体が、血管透過性の亢進した脳炎急性期に中枢神経系に至り、GluRe2分子の細胞外ドメインと何らかの反応を起こし、脳炎病態形成に何らかの役割を果たしている病態仮説を見出した。
臨床的観点からの成果
急性脳炎・脳症の中には神経分子等に対する自己免疫、サイトカイン、血液脳関門の破綻が病態に関与し、ステロイドに反応する一群が存在することが分かった。これまで対症療法的に治療されてきた急性脳炎・脳症の病態に基づいた新たな治療法が確立できそうである。これらの研究結果は、学問的に検討過程にあり即臨床応用できる段階ではないことに、ご注意願いたい。
ガイドライン等の開発
急性辺縁系脳炎等の自己免疫介在性脳炎・脳症の診断治療を迅速に進め、病態研究を加速するために、「急性辺縁系脳炎等の自己免疫介在性脳炎・脳症」の診断スキームを作成した。このスキームはホームページに掲載され(http://www.hosp.go.jp/~szec2/06/06-1-2.htm)、幅広く臨床家がアクセスできるようにした。
その他行政的観点からの成果
日本の成人における急性脳炎罹患率は、19.0/100万人年(年間2114例)と推計され、小児の罹患率は?56.4 /100万人年と推定した。後方視的研究ではあるが成人・小児合計すると、急性脳炎・脳症は日本では年間3100人が罹患しているものと推定され、ウィルス直接侵襲が証明できない傍感染性の病態が多いと推測された。
その他のインパクト
臨床神経学(神経内科学会誌)のinvited reviewを依頼され、2007年の日本神経学会のシンポジュウムに取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
71件
原著論文(英文等)
47件
その他論文(和文)
146件
その他論文(英文等)
8件
学会発表(国内学会)
328件
学会発表(国際学会等)
47件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計4件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takahashi Y, Kazumi Matsuda, Yuko Kubota, et al.
Vaccination and infection as causative factors in Japanese patients with Rasmussen syndrome: Molecular mimicry and HLA class I
Clinical & Developmental Immunology , 13 (2) , 381-387  (2006)
原著論文2
Takahashi Y
Infections as causative factors of epilepsy
Future Neurology , 1 (3) , 291-302  (2006)
原著論文3
Fujima A, Shoji H, Yoshikawa Y, et al.
Discrimination of antibody to herpes B virus from herpes simplex virus types 1 and 2 in human and macaque sera
J Clin Microbiol , 46 (1) , 56-61  (2008)
原著論文4
Kimura A, Ichiyama T, Inuzuka T, et al.
Longitudinal analysis of cytokines and chemokines in the cerebrospinal fluid of a patient with neuro-Sweet disease presenting with recurrent encephalomeningitis
Internal Medicine , 47 , 135-141  (2008)
原著論文5
Kimura A, Takemura M, Inuzuka T, et al.
Proteomic analysis of autoantibodies in neuropsychiatric systemic lupus erythematosus patient with white matter hyperintensities on brain MRI
Lupus , 17 , 16-20  (2008)
原著論文6
Okamoto K, Yamazaki T, Banno H, et al.
Neuropathological studies of patients with possible non-herpetic acute limbic encephalitis and so-called acute juvenile female non-herpetic encephalitis
Internal Medicine  (2008)
原著論文7
Kimura A, Takahashi Y, T. Inuzuka, et al.
Autoantibodies against glutamate receptor ε2 subunit detected in a subgroup of patients with reversible autoimmune limbic encephalitis
Eur Neurol , 58 (3) , 152-158  (2007)
原著論文8
Nakajima H, Hosoya M, Takahashi Y, et al.
A chronic progressive case of enteroviral limbic encephalitis associated with autoantibody to glutamate receptor ε2
Eur Neurol , 57 , 238-240  (2007)
原著論文9
Tanaka K., T. Tani, M. Tanaka, et al.
Anti-aquaporin 4 antibody in Japanese multiple sclerosis with long spinal cord lesions
Multiple Sclerosis , 13 , 850-855  (2007)
原著論文10
Ichiyama T, Matsubara T, Furukawa S, et al.
Serum levels of matrix metalloproteinase-9 and its tissue inhibitor (TIMP-1) in acute disseminated encephalomyelitis
J Neuroimmunol , 172 , 182-186  (2006)
原著論文11
Ichiyama T, Maeba S, Furukawa S, et al.
Analysis of serum and cerebrospinal fluid cytokine levels in subacute sclerosing panencephalitis in Papua New Guinea
Cytokine , 33 , 17-20  (2006)
原著論文12
Ishizu T, Ichiyama T, Furukawa S, et al.
CSF cytokine and chemokine profiles in acute disseminated encephalomyelitis
J Neuroimmunol , 175 , 52-58  (2006)
原著論文13
Ito H, Morishima T, Umenishi F, et al.
Interleukin-1 beta induces the expression of aquaporin-4 through a nuclear factor-kappa B pathway in rat astrocytes
J Neurochem , 99 , 107-118  (2006)
原著論文14
Ichiyama T, Morishima T, Furukawa S, et al.
Analysis of serum soluble CD40 ligand in patients with influenza virus-associated encephalopathy
J Neurol Sci , 239 , 53-57  (2005)
原著論文15
Nunoi H, Morishima T, et al.
Apoptosis under hypercytokinemia is a possible pathogenesis in influenza-associated encephalopathy
Pediatr Int , 47 (2) , 175-179  (2005)
原著論文16
Okumura A, Watanabe K, Morishiama T, et al.
Delirious behabior in children with influenzaits clinical features and EEG findings
Brain Dev , 27 (4) , 271-274  (2005)
原著論文17
高橋幸利、久保田裕子、山崎悦子、他
ラスムッセン脳炎と非ヘルペス性急性辺縁系脳炎
臨床神経学 , 48 (3) , 163-172  (2008)
原著論文18
高橋幸利、山崎悦子
抗グルタミン酸受容体抗体と急性脳炎・脳症
医学の歩み , 223 (4) , 271-275  (2007)
原著論文19
Hayashi S, Takatama M, Okamoto K, et al.
Morphometric and topographical studies of small neurons in sporadic amyotrophic lateral sclerosis spinal gray matter
Neuropathology , 27 (2) , 121-126  (2007)
原著論文20
Hayashi S, Yamazaki T, Okamoto K
Nonapoptotic cell death caused by the inhibition of RNA polymerase disrupts organelle distribution
J Neurol Sci , 256 (1) , 10-20  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-