筋強直性ジストロフィーの病態解明とRNAを介した治療

文献情報

文献番号
200730012A
報告書区分
総括
研究課題名
筋強直性ジストロフィーの病態解明とRNAを介した治療
課題番号
H17-こころ-一般-016
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
石浦 章一(東京大学 大学院総合文化研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 西野一三(国立精神・神経センター)
  • 清水輝夫(帝京大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
筋強直性ジストロフィー(DM)は全身性の症状が特徴であるが、これらは、塩素チャネル(筋強直)、トロポニンT(筋分化異常)、インスリン受容体(耐糖能異常)などのスプライシング異常で起こることが明らかになってきた。発症は、DM患者の伸びたCUGまたはCCUGリピートRNAにMBNL1をはじめとするスプライシング調節因子が結合することによって、本来のスプライシング機能が損なわれ、全身症状として出現するものと考えられている。我々は昨年度、ヒトDM筋でのスプライシング活性を定量した結果、正常筋に比べてトロポニンTやインスリン受容体で胎児型の有意な発現上昇を認めた反面、MBNL1自体の発現には患者と正常との差違は認めなかった。また平成17年からの研究により、9種類のスプライシング遺伝子を単離し生理機能を明らかにしたが、本年度はその中でも大きな役割を担っていると考えられるMBNL1依存性のスプライシングに焦点を絞り、スプライシングパターンを変える薬剤がないかどうかについてスクリーニングを行った。
研究方法
筋強直に一番関係が深いと考えられている塩素チャネルのミニジーンを用いて、試験管内スプライシングアッセイを行った。マウス塩素チャネルのエキソン6,7A,7を含むコンストラクトを使ったこのアッセイは、エキソン7Aを含む胎児型(6-7A-7)と7Aを含まない成熟型(6-7)の比を検出するものである。胎児型では停止コドンが入るため、機能のない遺伝子が作られる。このミニジーンをトランスフェクトしたCOS細胞に各種因子を添加し、時間を追ってmRNAを抽出して、PCR法によってスプライシング活性を検討した。
結果と考察
まず塩素チャネルのスプライシングを指標に、DM患者で認められる酸化ストレスに対して防御的効果のあるビタミンE、Nアセチルシステインの効果を見たが効果は認められなかった。次に、二糖類であるトレハロースの効果を調べた。その結果、100mM以上の濃度で、塩素チャネルの正常型スプライシングを促進することが明らかになった。残念ながら、C2C12を用いたアッセイによって、はっきりと筋分化を促進させる因子は現在のところ見つかっていない。
結論
本研究によって、ネオマイシンをはじめとする抗生物質の添加によっては、塩素チャネル遺伝子のスプライシングパターンは変化しなかった。しかし、二糖類のトレハロースは明らかに塩素チャネルの成熟型スプライシングを促進した。今後は、これ以外に効果のあるものはないかを探索する予定である。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200730012B
報告書区分
総合
研究課題名
筋強直性ジストロフィーの病態解明とRNAを介した治療
課題番号
H17-こころ-一般-016
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
石浦 章一(東京大学 大学院総合文化研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 西野 一三(国立精神・神経センター)
  • 清水 輝夫(帝京大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
筋強直性ジストロフィーは、我が国で一番多い筋ジストロフィーである。難治性疾患である本症に対する効果的な薬剤の開発は、厚生労働行政上、重要なものと考えられる。平成17-19年の研究では、原因遺伝子から転写されたCUGまたはCCUGのRNAリピートに結合するタンパク質の機能を明らかにする目的で、塩素チャネルやインスリン受容体のスプライシングがDM特有のミオトニア、耐糖能異常の原因であるかどうかを調べた。またモデル動物を作り、最後に、スプライシングパターンを変える薬剤をスクリーニングした。
研究方法
ヒトcDNAライブラリーより、MBNLとCELFあわせて9種のリピートRNA結合タンパク質(MBNL1、MBNL2、MBNL3、CUG-BP、CUG-BP2、CELF3、CELF4、CELF5、 CELF6)をクローニングした。スプライシング・アッセイ系には、塩素チャネル、インスリン受容体、αアクチニン、c-srcなどのmini-geneを用い、HEK細胞で発現を確認した。DM生検筋におけるMBNL1、CELF1の発現量は、リアルタイムPCRを用いて測定した。モデルとして、線虫にGFPと融合させたCTG5、CTG130、CCTG100をインジェクションし、筋肉細胞に発現させた。また、ヒトMBNLのホモログであるK02H8.1遺伝子をクローニングするとともに、K02H8.1が欠損した線虫を作出した。
結果と考察
リアルタイムPCRを用いてRNA結合タンパク質(MBNL1、MBNL2、CELF1、CELF2)の発現量を、DM患者21例と疾患対象者12例の骨格筋で調べた。その結果、どのmRNAの発現も患者と対照との間で有意差は認められなかった。線虫からK02H8.1遺伝子(CeMBLと命名)をクローニングした。CeMBLのエキソン1を含む511塩基の欠失を持つ変異体Tm1563の寿命は14日と短かった。マウス塩素チャネルのスプライシングを指標に、薬剤の効果を見た結果、トレハロースが、100mM以上の濃度で、塩素チャネルの正常型スプライシングを促進することが明らかになった。
結論
筋強直性ジストロフィーの示す全身症状のほとんどが、塩素チャネル(ミオトニア)、インスリン受容体(糖耐能の異常)、トロポニンT(心筋異常)など種々の遺伝子のスプライシング異常に起因することが明らかになった。そのため、胎児型を正常型に変える薬剤があれば治療として有用である。その結果、トレハロースという候補が見つかった。今後は、モデル生物である線虫でのスプライシング調節が可能かどうかについて検討していきたい。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200730012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
線虫からK02H8.1遺伝子(CeMBLと命名)をクローニングし、それがヒトMBNL1のホモログ(37%の相同性)であることを発見した。しかし、ヒトのように4つのRNA結合モチーフは持たず、N末端に2つ存在するのみであった。CeMBLはヒトMBNL1同様、CUGやCCUGリピートに結合することが、酵母three-hybrid法によって明らかになった。また、CeMBLのエキソン1を含む511塩基の欠失を持つ変異体Tm1563を分離した。この変異体の寿命は14日と短かった。
臨床的観点からの成果
リアルタイムPCRを用いて筋強直性ジストロフィー発症に関わる種々のRNA結合タンパク質の発現量を、DM患者21例と疾患対象者12例の骨格筋で調べた。患者筋で調べたのは、世界で初めてである。その結果、筋にはMBNL3の発現がほとんど見られなかた。また、MBNL1とMBNL2、CELF1とCELF2を定量したところ、どのmRNAの発現も患者と対照との間で有意差は認められなかった。一方、塩素チャネルやインスリン受容体のスプライシングを測定したが、患者で有意に胎児型の発現が上昇していた。
ガイドライン等の開発
DM筋は、未熟であることがいわれており、分化を促進させれば症状を改善する可能性がある。そこで各種薬剤を細胞に添加し、分化を促進する因子のスクリーニングを行った。その過程で、マイオチューブラリン関連タンパク質1の発現が分化依存性であることが判明した。多くの化合物をC2C12筋細胞培溶液に添加してみたが、C2C12を用いたアッセイによって、はっきりと筋分化を促進させる因子は現在のところ見つかっていない。特に、カテキン、アスタキサンチンなどの分子の効果は認められなかった。
その他行政的観点からの成果
マウス塩素チャネルのスプライシングを指標に、DM患者で認められる酸化ストレスに対して防御的効果のあるビタミンE、Nアセチルシステインの効果を見た。ビタミンEや Nアセチルシステインでは、100mMまで効果が認められなかった。この他に、抗生物質のネオマイシンも効果がなかった。次に、二糖類であるトレハロースの効果を調べた。その結果、100mM以上の濃度で、塩素チャネルの正常型スプライシングを促進することが明らかになった。
その他のインパクト
世界筋強直性ジストロフィー会議(ミラノ、2007年9月)において発表し,注目を集めた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Onishi, H., Kino, Y., Morita. T., et al
MBNL1 associates with YB-1 in cytoplasmic stress granules.
J.Neurosci.Res.  (2008)
原著論文2
Dhaenens , M-C., Schraen-Maschke , S., Tran, H., et al.
Overexpression of MBNL1 fetal isoforms and modified splicing of tau in the DM1 brain: two individual consequences of CUG trinucleotide repeats.
Exp.Neurol.  (2008)
原著論文3
Mori, D., Sasagawa, N., Kino, Y., et al.
Quantitative analysis of CUG-BP1 binding to RNA repeats.
J.Biochem.  (2008)
原著論文4
Nezu, Y., Kino, Y., Sasagawa, N., et al.
Expression of MBNL and CELF mRNA transcripts in muscles with myotonic dystrophy.
Neuromuscular Disorders , 17 , 306-312  (2007)
原著論文5
Sasagawa, N. & Ishiura, S.
A simple, one step cloning method to obtain long artificial triplet repeats.
Anal.Biochem. , 357 , 308-310  (2006)
原著論文6
Sasagawa, N. & Ishiura, S.
Molecular basis of myotonic dystrophy: A new molecular mechanism called RNA gain-of-function.
Frontiers in Life Sciences  (2006)
原著論文7
Ishiura, S., Kino, Y., Nezu, Y., et al.
Regulation of splicing by MBNL and CELF family of RNA-binding protein.
Acta Myologica , 14 , 74-77  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-