犯罪被害者の精神健康の状況とその回復に関する研究

文献情報

文献番号
200730011A
報告書区分
総括
研究課題名
犯罪被害者の精神健康の状況とその回復に関する研究
課題番号
H17-こころ-一般-014
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
小西 聖子(武蔵野大学 人間関係学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中島 聡美(国立精神・神経センター精神保健研究所 成人精神保健部 犯罪被害者等支援研究室)
  • 大山 みち子(武蔵野大学 人間関係学部)
  • 堀越 勝(筑波大学大学院 人間総合科学研究科)
  • 山下 俊幸(京都市こころの健康増進センター)
  • 竹之内 直人(愛媛県西条地方局健康福祉環境部・西条保健所)
  • 有園 博子(兵庫教育大学大学院)
  • 柑本 美和(城西大学 現代政策学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)犯罪被害者等の心身の健康状態と関連要因
2)医療、保健福祉分野における治療や支援の実態の把握
3)PTSDの心理治療の効果検証等
を目的として総合的な研究を行った。
研究方法
主な研究のみ挙げる。
1)犯罪被害者遺族等193名に対して質問紙調査を行い、約80名に対して面接調査を行った。
2)a)全国精神保健福祉センター63機関、b)全国精神科医師840名、c)全国の臨床心理士約200名、d)民間被害者団体41団体、を対象に質問紙調査等をおこなった。
3)PTSDと診断された犯罪被害者20名に対し、PTSDの認知行動療法であるprolonged exposure法(PE療法)を実施した。
倫理面の配慮に関しては、各研究ごとに、研究所、大学等において倫理審査委員会の承認を得た。
結果と考察
1)遺族の精神健康は、現在の精神科への通院、刑事裁判での意見陳述経験、および主観的二次被害等と関連があった。面接調査において、PTSD、大うつ病、複雑性悲嘆などの精神障害、およびQOLの不良が慢性化に関連していた。
2)精神保健福祉センターでは、犯罪被害者の相談が全体に占める割合は約1%にすぎなかったが、精神科医師を対象とした調査では、約7割の医師に過去に犯罪被害者の治療経験があった。医師は被害者に関わる他機関の情報不足、司法関連の知識不足を感じていた。被害者を多く見る医師の特徴は、女性、被害者にかかわる活動を行ったり他機関との連携が多い等であった。
3)PE療法は犯罪被害者のPTSDに対して有効であり、薬物治療の効果が限定的であっても奏功することが示唆された。
このように、研究の目的はほぼ計画通り達成された。
これまで犯罪被害者に関する知見は極めて限られていたが、本研究において、被害者の精神健康の悪化に関連する要因が初めて分析された。また、犯罪被害者に対するPE療法の効果がオープン試験で確認されたこと、各関係機関の犯罪被害者への関与の状態が初めて明らかになったことにも意義があると考えられる。さらに、精神保健福祉センター、保健所における支援の実践的ガイドラインを作成することができ、今後の専門家養成の効果的な方向づけ等が可能となった。なお、本研究の成果は書籍として出版し、一部はWEB上に公開し広く普及に努めた。
結論
精神保健領域での犯罪被害者支援では、症状の長期化を防ぐことが肝要である。そのためには、各機関が犯罪被害者治療等に関する実践的知識を持つこと、二次被害の防止に努めるとともに、治療、司法に関する知識等を獲得する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2008-07-18
更新日
-

文献情報

文献番号
200730011B
報告書区分
総合
研究課題名
犯罪被害者の精神健康の状況とその回復に関する研究
課題番号
H17-こころ-一般-014
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
小西 聖子(武蔵野大学 人間関係学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中島 聡美(国立精神・神経センター精神保健研究所 成人精神保健部 犯罪被害者等支援研究室)
  • 大山 みち子(武蔵野大学 人間関係学部)
  • 堀越 勝(筑波大学大学院 人間総合科学研究科)
  • 山下 俊幸(京都市こころの健康増進センター)
  • 竹之内 直人(愛媛県西条地方局健康福祉環境部・西条保健所)
  • 有園 博子(兵庫教育大学大学院)
  • 柑本 美和(城西大学 現代政策学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.メンタルヘルス領域における犯罪被害者の現状を明らかにする。
2.重度トラウマ反応と回復に関連する要因について調査する。
3.重度ストレス反応の治療について、認知行動療法の効果研究を進める。
4.犯罪被害者等にかかわる司法とメンタルヘルス領域におけるかかわりを明確にする。
5.研究班で得られた成果を社会に還元する。
研究方法
1.精神保健福祉センター、精神科医療機関医師 、臨床心理士、民間支援団体を対象として犯罪被害者の実態について調査を行った。
2.被害者当事者団体、自助グループに所属している犯罪被害者とその家族を対象に、郵送によるアンケート調査と面接調査を行った。
3.もっとも効果の実証されているProlonged Exposure法(PE療法)について、オープン試験による効果研究を行い、さらに他の療法について導入の活動を行った。
4.弁護士に対して犯罪被害者のメンタルヘルスにかかわる調査を行った。海外の犯罪被害者支援の制度とその課題を検討した。
5.精神保健福祉センター、保健所での犯罪被害者支援マニュアルの作成、専門研修への内容の反映、マニュアルの作成、webサイトの作成、書籍の刊行などを行った。
結果と考察
1.過去一年間に、精神科医師、臨床心理士の約半数が犯罪被害者の相談、治療を経験していた。「連携」が行えているかどうかが、犯罪被害者支援のカギを握っているが、実際には特定の関係、特定の個人レベルに連携が限られていることが推測された。
2.遺族の面接調査では、対象の約60%がPTSD、部分PTSD、大うつ病、小うつ病のいずれかの疾患に該当する時期があった。また、精神症状の持続には、二次被害など被害後の処遇が関わっていることが示唆された。
3.PTSD患者17名を対象とした効果研究の結果、PE療法前後でPTSDの症状に差があることがわかった。3か月後も効果は持続していた。
4.弁護士とメンタルヘルス領域との連携課題としては、関連支援機関の共通情報の不足とシステム整備(紹介網の整備や支援体制構築等)が示された。
結論
メンタルヘルス領域における支援の対象には、第一に、比較的少数の刑事犯罪となった事件の被害者、遺族の人たちがおり、さらにそうではないが裁判と高頻度でかかわりを持つ広義の犯罪被害者等がいると考えられる。「連携」は本研究班で行われた複数の研究結果におけるキーワードであったが、現実にはこれからの課題である。

公開日・更新日

公開日
2008-07-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200730011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
犯罪被害者のメンタルヘルス領域における疫学研究、介入研究はいずれも数が少ない。本研究では、複数の視点から犯罪被害者の実態を示し、有効な介入方法を知ることを目的とした。メンタルヘルス諸領域における犯罪被害者像は司法におけるそれとは異なっていること、しかし裁判とのかかわりが多いことがはじめて多角的に実証的に示され、支援のためには連携と研修が必要であることが示された。また有効な介入方法について、臨床、地域保健の観点から検討し、有効な方法を提示した。
臨床的観点からの成果
海外で最もエビデンスの蓄積されているProlonged Exposure法は、17名の患者の治療前後の比較により初めて日本のPTSD患者にも有効であることが示唆された。また、犯罪被害者遺族73名への、我が国では初めての構造化面接により、遺族の長期的メンタルヘルスの悪化要因として主観的二次被害などが影響を与えていることが示された。
ガイドライン等の開発
精神保健福祉センターや保健所など地域精神保健福祉機関で使うことのできる、資料も備えた「犯罪被害者等支援のための地域精神保健福祉活動の手引-精神保健福祉センター・保健所等における支援-」を作成した。PTSDの診断を含むメンタルヘルスの問題への対応のポイントと、関連機関や可能な支援の情報を具体的に掲載した。資料も含め93ページとなったので、すぐに使えることを目指してさらに概要版(11ページ)を作成した。全国精神保健福祉センターに配布する。
その他行政的観点からの成果
犯罪被害者メンタルケア研修への内容の反映させた精神保健研究所における「犯罪被害者メンタルケア研修」を二回実施し、今後も継続予定である。
犯罪被害者基本計画検討会、分科会で本研究の成果が報告された。
その他のインパクト
研究成果を元に、メンタルヘルス専門家および当事者向けにwebサイト「犯罪被害者のメンタルヘルス情報ページ」を開発した。
http://www.ncnp.go.jp/nimh/seijin/www/index.html
Prolonged Exposure法の創始者であるEdna Foaを招いてのワークショップ、講演会をおこなった。
書籍「犯罪被害者のメンタルヘルス」小西聖子編著(誠信書房)を研究班の研究者で分担執筆した。現在、校正作業中であり、間もなく出版される予定である。

発表件数

原著論文(和文)
13件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
12件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
犯罪被害者等基本法に基づく基本計画に定められた犯罪被害者支援の研究として、厚生労働省の施策として紹介された。また精神保健福祉センターや保健所などのガイドラインを作成した。
その他成果(普及・啓発活動)
4件
http://www.ncnp.go.jp/nimh/seijin/www/index.html

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
吉田博美、小西聖子、加茂登志子
わが国における慢性外傷後ストレス障害に対するProlonged Exposure Therapyの試み
総合病院精神医学 , 20 , 55-62  (2008)
原著論文2
吉田博美、小西聖子、井口藤子 他
Prolonged Exposure Therapyの効果研究―暴力の被害を受けた女性10名に対して―
心理臨床学研究  (2008)
原著論文3
中島聡美、橋爪きょう子、辰野文理 他
精神科医療機関における犯罪被害者の診療の実態と今後の課題.
被害者学研究 ,  (18)  (2008)
原著論文4
橋爪きょう子、辰野文理、中島聡美 他
精神科医による犯罪被害者の診療と法的な問題に対する関与-全国精神科医療機関調査から‐
司法精神医学雑誌  (2008)
原著論文5
有園博子
犯罪被害者支援における司法と医療の連携
被害者学研究 ,  (18)  (2008)
原著論文6
吉田博美
心理相談室におけるProlonged Exposure Therapyの適用.
武蔵野大学心理臨床センター紀要  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-