地域の健康づくり活動における経済的分析・評価に関する研究

文献情報

文献番号
199700373A
報告書区分
総括
研究課題名
地域の健康づくり活動における経済的分析・評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
太田 壽城(国立健康・栄養研究所健康増進部)
研究分担者(所属機関)
  • 太田壽城(国立健康・栄養研究所健康増進部)
  • 有坂實((財)太田市総合健康増進事業団)
  • 川久保清(東京大学医学部保健学科)
  • 久繁哲徳(徳島大学衛生学教室)
  • 前田清(あいち健康の森健康科学総合センター)
  • 瀧本秀美(国立健康・栄養研究所母子健康栄養部)
  • 古川文隆((財)日本ウェルネス協会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康増進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
9,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域の健康づくりはその地域の特色や事情によって異なる。本研究では特徴的かつ代表的な地域の健康づくりをすでに開始し、実績をあげている市町村をフィールドにして、モデル的な健康づくり活動の経済的な効果について分析・評価した。また、全国の市町村における老人医療費の適正化に寄与する要因を分析した。
研究方法
特徴的かつ代表的な地域の健康づくりを行い、実績をあげている市町村を対象に、(1)健康増進施設、(2)老人福祉施設、(3)健診受診率の向上、(4)健康づくり活動(データ収集が市町村では困難なため職域を利用)、5)保健婦による高齢者訪問活動等のモデル的な健康づくりについて経済的分析・評価を行うと同時に(6)愛知県と全国の市町村における老人医療費の適正化に寄与する要因を分析した。さらに、昨年度の研究については別の分担研究者による理論的な評価を行い、その結果を本年度の研究にフィードバックした。
結果と考察
1.健康増進施設:厚生大臣の認定する健康増進施設のうち、G県O市とK県M市の施設はその会員数が同市の利用可能者の10%を超えている。これらの健康増進センターの設立(H3年)によってO市とM市では翌年は国保1人あたり医療費が増加したが、3年目以後はむしろ県全市平均に比し相対的に減少した。同じ地区の組合健保でも同様の医療費の変化がみられ、市民全体の利用者に対する経済効果は年間 16564 万円と試算され、健康増進施設の建設費を約11年で補えると考えられた。現在、健康増進センター利用者と非利用者の医療費の推移を設立前までさかのぼって経時的に検討中である。
2.高齢者福祉施設:A県O市において平成元年に設立された老人福祉センターの利用者と非利用者の国保医療費を経時的に比較した。平成2~5年の3年間に1年でも年12回以上利用した利用者では全く利用しなかった非利用者に比し、入院医療費と入院日数が抑制された。一方、外来医療費は非利用者と差がなく、外来日数は非利用者に比し増加した。この事は、利用者において入院に至らない外来通院で保たれていることが推測された。
3.健診受診率向上:Y県S村では出張人間ドックを開始し、受診率が 50 %を越えると医療費が県全町村平均に比し相対的に徐々に減少し、この理由として老人医療費の相対的減少(県平均町村に比し約 10 万円も低い)があげられた。検診の1人あたりの費用は 35,000円であり、 18 歳以上の受診者全体の費用と老人医療費の減少を比較しても年間約 1,000万円の効果が試算された。極めて類似した経過をたどるO府T町の事例も認められた。
4.健康づくり活動(職域):以前より健康診断を従業員全員に行っており、1991年度より体力測定とその後の指導を毎年1回従業員全員に行っている従業員数約10,000名(平均年齢39歳)の現業系企業を対象として、運動習慣の有無と、健診データ、医療費の変化を比較した。運動の継続者では運動をしていない者に比べ、特に40歳代、50歳代で収縮期血圧や中性脂肪、血糖などの異常の出現率が低く保たれ、その差は年々拡大していた。また運動の継続者では医療費が特に1993年から1995年にかけて抑制されていた。
5.保健婦による高齢者家庭訪問活動:A県O町における保健婦の高齢者に対する家庭訪問活動は平成元年開始後、3年間は寝たきり者を発掘したが、その後は高齢者の寝たきり減少に役立った。平成3年と8年度に高齢者全員の実態を調査したところ、高齢者人口は増加しているにもかかわらず、102名から57名(不明を含めると86名)に減少した。平成元年以降7年間に及ぶ訪問活動と寝たきり者の減少に伴う介護費用の減少を比較したところ、1000 ~ 36110 万円の成果が見込まれた。 平成8年~10年はO町の人的都合で家庭訪問を行っていないため、平成10年度に再度寝たきり者の調査を行い、家庭訪問中止の影響を検討する。
6.愛知県及び全国市町村の老人医療費に関連する要因:愛知県及び全国における健康づくり事業を経済的に評価するため、全国及び愛知県の全市町村を対象に老人医療費に関する要因を断面的に分析した。老人医療費の適正化に寄与する要因を重回帰分析で検討すると、愛知県では高齢者労働人口比、基本健康診査受診率、人口当たり診療所数があげられ、単相関では人口当たり市町村保健婦数があげられた。一方、全国データではその他の項目として高齢人口当たり老人クラブ会員数、100人当たり訪問指導年間利用日数(人口1万人未満町村)が重回帰分析で選択された。
1と3に示した健康増進施設と健診受診率向上の事例はその市町村に特定の結果ではなく、類似の成果が得られている他の市町村が確認された。今後、種々の健康づくりを行っている市町村を抽出し、その効果を含めて類型化することが望まれる。同時に、全国市町村データに基づいて健康づくりとその経済効果に関係する要因や指標を整理し、具体的な事例とつきあわせる事によって事例の妥当性や健康づくりとその経済効果のフレーム全体が明確化すると考えられた。
ハード、ソフト、マンパワー別に健康づくりのモデル的事例を分類し、全国市町村データから求めた老人医療費を抑制する要因と比較した。ハードウェアの健康増進施設、老人福祉施設はモデル事例から、ソフトウェアの健診受診率はモデル事例と統計データの両方で、運動を中心とする健康づくり活動は職域のモデル事例から、老人クラブ会員数と高齢者労働人口比は統計データより得られた。マンパワーに関するものでは、主に保健婦の活動が医療費や寝たきり予防に有効と考えられた。本研究では未だモデル的事例と統計データの両方からその経済的有効性が確かめられるものは少ないが、今後さらに事例や統計のデータベースを増やし、両面から検討していく必要性が示された。
また、健康づくりの経済効果を検討する場合には健康づくりに要したすべての費用(コスト)の積算と同時に、経済効果と考えられるデ-タをさらに幅広く集積することが重要と考えられた。同時にこのような事例の分析にあたってはコントロールの設定、交絡要因の調整、費用及び経済効果の抽出等をさらに詳細に検討する必要があると考えられた。
結論
ハード、ソフト、マンパワー別に健康づくりのモデル的事例を分類し、全国市町村データから求めた老人医療費を抑制する要因と比較した。ハードウェアの健康増進施設、老人福祉施設はモデル事例から、ソフトウェアの健診受診率はモデル事例と統計データの両方で、運動を中心とする健康づくり活動は職域のモデル事例から、老人クラブ会員数と高齢者労働人口比は統計データより得られた。マンパワーに関するものでは、主に保健婦の活動が医療費や寝たきり予防に有効と考えられた。本研究では未だモデル的事例と統計データの両方からその経済的有効性が確かめられるものは少ないが、今後さらに事例や統計のデータベースを増やし、両面から検討していく方向性が示された。

公開日・更新日

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