広汎性発達障害・ADHDの原因解明と効果的発達支援・治療法の開発―分子遺伝・脳画像を中心とするアプローチ―

文献情報

文献番号
200730003A
報告書区分
総括
研究課題名
広汎性発達障害・ADHDの原因解明と効果的発達支援・治療法の開発―分子遺伝・脳画像を中心とするアプローチ―
課題番号
H17-こころ-一般-004
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 進昌(昭和大学医学部精神医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木司(東京大学保健管理センター)
  • 笠井清登(東京大学医学部附属病院精神神経科)
  • 金生由紀子(東京大学医学部附属病院こころの発達診療部)
  • 難波栄二(鳥取大学生命機能研究支援センター遺伝子探索分野)
  • 松本英夫(東海大学医学部内科学系精神科学部門)
  • 山本賢司(北里大学医学部精神神経科)
  • 金井裕彦(滋賀医科大学精神医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
広汎性発達障害(PDD)とADHDについて、脳画像、分子遺伝、の2分野を中心として病因・病態の解明をさらに進め、発達支援の方策の改善・開発への応用を図ることを目的とした。
研究方法
1)臨床評価は、東大病院「こころの発達」診療部を初診した患者163名について診療で得られたデータを体系的に収集して解析した。2)脳画像研究は、①近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)については、ADHDにおけるメチルフェニデートの効果の予測のための計測の準備をした。②PDDについて、中心部と辺縁部における視覚刺激課題に対する注意転導性について事象関連電位法で測定した。③prepulse inhibition(PPI)について、高機能PDD者7名を対象に健常者と比較した。3)分子遺伝研究は、①15q領域について一塩基置換多型(SNP)を自閉症との関連性について検討する方法と、同領域を網羅的にカバーするカスタムアレイによる微小遺伝子欠損や重複を検出する方法の二つで検討した。②2q領域の中でCACNB4とSCN1A遺伝子について自閉症との関係を検討した。③自閉症におけるエピジェネティクスの関与に着目し、メチル化の差異を検討した。
結果と考察
1)臨床評価:自閉症状、特にコミュニケーションの質的障害がADHD症状、特に不注意症状と独立していると再確認された。2)脳画像研究:①ADHDに特異的なストップシグナルタスクを開発し、NIRSによる予備的計測を行った。②PDDでは辺縁部への視覚刺激に対する眼球サッケードに伴う脳機能賦活の異常が認められた。③PDDではPPIの減弱を認め、fMRIによってこの異常が大脳辺縁系の機能異常と関連していると推測された。3)分子遺伝研究:①15q領域において、自閉症と健常者で差のあるSNP、および遺伝子の微小欠損・重複部位が認められ、現在その確認を行っている。②2q領域についてはこれまで有意な差は認められなかった。③メチル化の差異が自閉症で5遺伝子について認められた。
結論
PDDやADHDでNIRSなどの簡便で小児にも応用可能な客観的診断法が開発されれば、今後の早期診断と早期介入に向けて大きな前進が期待される。さらに、遺伝子が同定されれば、その精度は飛躍的に高まるが、そのためには最近の進歩を取り入れた大規模解析法の導入も必要かもしれない。以上の研究成果は、平成20年1月の公開シンポジウムで発表した。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200730003B
報告書区分
総合
研究課題名
広汎性発達障害・ADHDの原因解明と効果的発達支援・治療法の開発―分子遺伝・脳画像を中心とするアプローチ―
課題番号
H17-こころ-一般-004
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 進昌(昭和大学医学部精神医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木司(東京大学保健センター)
  • 笠井清登(東京大学医学部附属病院精神神経科)
  • 金生由紀子(東京大学医学部附属病院「こころの発達」診療部)
  • 難波栄二(鳥取大学生命機能研究支援センター遺伝子探索分野)
  • 松本英夫(東海大学医学部内科学系精神科学部門)
  • 山本賢司(北里大学医学部精神神経科)
  • 金井裕彦(滋賀医科大学精神医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
広汎性発達障害(PDD)及び注意欠陥多動性障害(ADHD)について、脳画像検査法の開発、原因候補遺伝子群の解明、モデル動物の検討を総合して、科学的アプローチに基づく発達支援・治療法の開発・改善につなぐことを目的とした。当事者・家族との協力関係を深め、研究結果を社会に還元することで、発達障害及びその研究に関する啓発も目指した。

研究方法
1)脳画像研究:PDD当事者を対象として、マルチモダリティ非侵襲的神経画像法(MRI・NIRS・MEG・EEG)を用いた研究を行った。神経画像指標に対する遺伝環境相互作用の検討のため、双生児やPDD健常同胞の検討も加えた。ADHDについては、メチルフェニデートの効果を予測するNIRS指標を開発する自主臨床試験を計画した。
2)遺伝子研究:自閉症当事者200例とその家族、健常対照者400例を対象として、候補遺伝子多型を用いた関連解析、エピジェネティクスに注目した研究、HOX遺伝子群の解析を行なった。
3)動物実験:新生児期に低甲状腺状態にした自閉症モデルラットについて検討した。



結果と考察
1) 脳画像研究:MRIでは、当事者1名ごとに脳形態異常を自動的に描出する方法を開発し、PDD双生児で妥当性を確認した。NIRSでは、語流暢性課題施行時の前頭葉賦活を得る標準パラダイムを考案した。MEGでは聴覚性注意異常を、EEGでは空間的注意異常を捉える神経生理検査法を開発した。ADHDについては治験の承認を得たが、その後メチルフェニデート中止のため、期間内に結果を得られなかったが、ADHDの脳機能障害を鋭敏に捉えるNIRS検査法を確立した。
2) 遺伝子研究:関連解析から、NRCAM, RELN遺伝子と自閉症の関連可能性を示唆する結果を得た。エピジェネティクス解析では、151遺伝子のメチル化の検討から、自閉症に関連する1遺伝子を見出した。
3)動物実験:自閉症モデルラットでセロトニンニューロン形成異常を認めた。
4)公開シンポジウムを開催した。H17「発達障害の治療と支援をめざして」、H18「治療教育を考える」、H19年「発達障害の理解と支援」を各テーマとして600~1000名の参加を得た。
結論
非侵襲脳計測であるMRI・NIRS・MEG・EEGを用いてPDDとADHDの診断・治療に有用な検査法を開発するとともに、自閉症に関連する分子遺伝異常について示唆を得た。

公開日・更新日

公開日
2008-03-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200730003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
画像研究では、近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)について、広汎性発達障害(PDD)に特異的な課題で、健常同胞がPDDと健常対照との中間的なレベルを示し、この課題がtrait markerとして有用と示唆された。遺伝子研究では、15q領域でカスタムアレイによる網羅的な遺伝子検索で発見された一箇所の微小欠損は、ある自閉症関連遺伝子のeditingに関わる部位の可能性が高く注目される。遺伝子発現機構に対する環境要因の関わりを検討するためDNAメチル化を解析し、その異常の可能性のある部位を発見した。
臨床的観点からの成果
NIRSを用いてADHDを特異的に診断することが可能と思われるストップシグナルタスクを開発した。この課題を用いてADHDにおけるメチルフェニデートの効果の予測を客観的に行う自主臨床試験の準備を整えた時に、それまで用いられてきたメチルフェニデート製剤(リタリン)のADHDへの使用が禁止となって計画の変更を余儀なくされたために、当該年度内に実施できなかったが、予備的検討から臨床的な有用性が大いに期待される。
ガイドライン等の開発
PDD症状やADHD症状などに関するチェックリストを中心とする臨床評価、NIRS、神経心理検査などを組み合わせることによって発達障害の理解と支援により役立つ評価が可能になり、発達障害の診断・治療ガイドラインの開発につながると期待される。特に、ADHDにおけるメチルフェニデートの効果の予測の研究が本格的に実施されてその有用性が証明されると、ADHDの治療のガイドラインを充実させると思われる。
その他行政的観点からの成果
発達障害の脳画像研究は、病因・病態の解明を主目的とするものが多いが、本研究ではNIRSを用いて安全かつ簡便にPDDやADHDの客観的検査を行って、診断補助や治療の効果の評価を可能とする道を開いた。これによって、発達障害の当事者1名1名に役立つ検査法の確立への見通しが得られ、発達障害の早期発見および早期介入を大きく推進する可能性が高まったことは、行政的意義を持つと考えられる。
その他のインパクト
平成20年1月に「発達障害の理解と支援」と題した公開シンポジウムを東京大学安田講堂で開催して、ADHDの脳科学、自閉症と遺伝子などの5題の講演及び質疑応答を行い、発達障害の当事者や家族に加えて、医療・心理・教育・福祉など多様な分野の関係者など1000名以上が参加した。活発な意見交換が行われて、病因・病態の解明を目指した生物学的研究の重要性および発達支援の改善・開発に寄与する可能性についての理解が促進された。

発表件数

原著論文(和文)
12件
原著論文(英文等)
26件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
毎年のシンポジウムの開催

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Floricel F, Higaki K, Maki H, Nanba E, et al.
Antisense suppression of TSC1 gene product, hamartin, enhances neurite outgrowth in NGF-treated PC12h cells.
Brain Dev , 29 , 502-509  (2007)
原著論文2
Yasui S, Tsuzaki K, Ninomiya H, et al.
The TSC1 gene product hamartin nteracts with NADE.
Mol Cell Neurosci , 35 , 100-108  (2007)
原著論文3
Kawakubo Y, Kasai K, Okazaki S, et al.
Electrophysiological abnormalities of spatial attention in adults with autism during the gap overlap task.
Clin Neurophysiol , 118 , 1464-1471  (2007)
原著論文4
Itaba-Matsumoto N, Maegawa S, et al.
Imprinting status of paternally imprinted DLX5 gene in Japanese patients with Rett syndrome.
Brain Dev , 29 , 491-495  (2007)
原著論文5
Kuwabara H, Kasai K, Takizawa R, et al.
Decreased prefrontal activation during etter fluency task in adults with pervasive developmental disorders: a near-infrared spectroscopy study.
Behav Brain Res , 172 , 272-277  (2006)
原著論文6
Koishi S, Yamamoto K, Matsumoto H, et al.
Serotonin transporter gene promoter polymorphism and autism : a family-based genetic association study in Japanese population.
Brain Dev , 28 , 257-260  (2006)
原著論文7
Sadamatsu M, Kanai H, Xu X, et al.
A review of animal models for autism: implication of thyroid hormone.
Congenital Anomalies , 46 , 1-9  (2006)
原著論文8
Paraguison RC, Higaki K, Sakamoto Y, et al.
Polyhistidine tract expansions in HOXA1 result in intranuclear aggregation and ncreased cell death.
Biochem Biophys Res Commun , 336 , 1033-1039  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-