ゲノム医学を活用した統合失調症及び気分障害に対する個別化治療法の開発

文献情報

文献番号
200730002A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム医学を活用した統合失調症及び気分障害に対する個別化治療法の開発
課題番号
H17-こころ-一般-002
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
染矢 俊幸(新潟大学医歯学系精神医学)
研究分担者(所属機関)
  • 兼子 直(弘前大学医学部神経精神医学講座)
  • 尾崎 紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科精神医学分野)
  • 山田 光彦(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
統合失調症およびうつ病の薬物治療においては、薬剤反応不良例や副作用による中断例が多く、治療早期から薬剤の効果を得ること、副作用を回避することが重要であり、それらを可能とする生物学的マーカーの獲得が期待されている。本研究では、統合失調症およびうつ病を対象に、精神科医療における個別化治療の確立に向けて、向精神薬の反応性および副作用とゲノム情報との関連についてのデータベースの構築およびその検討を進めることを目的とした。
研究方法
本研究では、統合失調症患者および大うつ病性障害患者を対象として、共通のプロトコールと評価尺度を用いて向精神薬の投与前、投与後に臨床症状および副作用に関する臨床データを収集し、得られた臨床データと、向精神薬の代謝系および薬理効果に関連した各種遺伝子多型との関連について検討した。
結果と考察
H19年度までに抗精神病薬関連約900、抗うつ薬関連約500のサンプルを収集した。
抗精神病薬の治療反応性については、リスペリドンの臨床効果とドパミンD2受容体遺伝子、Multiple Drug Resistance 1遺伝子多型との関連が示唆された。抗うつ薬の反応性に関しては、フルボキサミン(FLV)血中濃度と臨床効果との関連について検討を行い、FLV血中濃度61.4 ng/mlがFLV治療の寛解を予測する目安になると考えられた。また、ミルナシプラン(MIL)の治療反応性と機能的遺伝子多型であるTH Val81Met、COMT Val158Met、BDNF Val66Met多型との関連について検討し、COMT Val158Met のMet/Met遺伝子型、BDNF Val66MetのVal/Met遺伝子型ではMIL反応性が良好であるという結果を得た。抗精神病薬の副作用については、血中プロラクチン(PRL)上昇とDRD2遺伝子-141C Ins/Del多型との関連、オランザピンが惹起する体重増加とアディポネクチン遺伝子45T/G多型との関連が示唆された。
結論
本研究では、薬理ゲノム研究の進展により、これまで明らかにされなかった臨床効果のばらつき、副作用の個人差などに関して、有益な所見が蓄積された。安全かつ無駄のないテーラーメイド薬物治療の確立に向けた有用な知見が得られたと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2008-04-04
更新日
-

文献情報

文献番号
200730002B
報告書区分
総合
研究課題名
ゲノム医学を活用した統合失調症及び気分障害に対する個別化治療法の開発
課題番号
H17-こころ-一般-002
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
染矢 俊幸(新潟大学医歯学系精神医学)
研究分担者(所属機関)
  • 兼子 直(弘前大学医学部神経精神医学講座)
  • 尾崎 紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科精神医学分野)
  • 近藤 毅(琉球大学医学部高次機能医科学講座精神病態医学分野)
  • 山田 光彦(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
統合失調症およびうつ病の薬物治療においては、薬剤反応不良例や副作用による中断例が多く、治療早期から薬剤の効果を得ること、副作用を回避することが重要であり、それらを可能とする生物学的マーカーの獲得が期待されている。本研究では、統合失調症およびうつ病を対象に、精神科医療における個別化治療の確立に向けて、向精神薬の反応性および副作用とゲノム情報との関連についてのデータベースの構築およびその検討を進めることを目的とした。
研究方法
本研究では、統合失調症患者および大うつ病性障害患者を対象として、共通のプロトコールと評価尺度を用いて向精神薬の投与前、投与後に臨床症状および副作用に関する臨床データを収集し、得られた臨床データと、向精神薬の代謝系および薬理効果に関連した各種遺伝子多型との関連について検討した。
結果と考察
研究期間内に抗精神病薬関連約900、抗うつ薬関連約500のサンプルを収集した。
向精神薬の反応性予測に関しては、抗精神病薬ではドパミンD2受容体遺伝子多型の有用性が示唆され、抗うつ薬については、セロトニン(5HT) 1A受容体遺伝子多型、COMT遺伝子多型との関連が見出された。また、フルボキサミン(FLV)血中濃度とCYP2D6遺伝子型、MDR1遺伝子多型との関連、FLV血中濃度と臨床効果との関連についても有用な知見が得られた。さらに、うつ病モデル動物を用いて抗うつ薬奏効機転に関与する分子を探索・検出し、これら分子の遺伝子多型と実際の臨床データとの関連についても予備的な検討を進めている。抗うつ薬の副作用に関しては、5HT2A、5HT3B受容体遺伝子多型、CYP2D6遺伝子型との関連が確認された。また、遺伝情報以外にも、オランザピン、リスペリドンはインスリン抵抗性を惹起すること、新規抗精神病薬は低血糖をもたらす危険性があること、リスペリドンは致死的不整脈の原因となるQT延長の危険性が高いことなど、新規抗精神病薬の副作用に関する臨床的に重要な知見が得られた。
結論
本研究では、薬理ゲノム研究の進展により、これまで明らかにされなかった臨床効果のばらつき、副作用の個人差などに関して、有益な所見が蓄積された。安全かつ無駄のないテーラーメイド薬物治療の確立に向けた有用な知見が得られたと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2008-04-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200730002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、研究期間内に抗精神病薬関連約900、抗うつ薬関連約500のサンプルを収集し、当初の目標数を達成した。また、向精神薬の反応性および副作用とゲノム情報との関連についてのデータベースの構築が順調に進められ、多角的かつ包括的な解析により有益な知見が得られた。これらの研究成果を国内外の学会にて発表するとともに、多くの論文が国際一流専門誌に掲載された。
臨床的観点からの成果
本研究では、向精神薬の反応性及び副作用に関連するゲノム情報との関連を解析し、有用な向精神薬の反応性、副作用予測に関わる遺伝子多型の発見と新しい診断法、治療法の開発のための基盤的知識が獲得された。これらの成果をもとに、個々の症例に即した薬物の選択、投与量の調節が可能となり、個別化薬物療法が実現可能となるであろう。
ガイドライン等の開発
本研究の成果を厚生労働省委託費班研究「感情障害の治療ガイドラインを用いた臨床実証的研究」研究報告会で発表し、薬物反応性の個人差を考慮に入れたガイドラインの構築が求められることを提言した。本研究の成果はうつ病患者の治療期間を短縮し、自殺率の減少につながると考えられる。
その他行政的観点からの成果
本研究の成果により、統合失調症およびうつ病の症状・社会機能低下の持続期間が短縮し、自殺数の減少、患者の生活の質(QOL)の改善、患者の休職期間の短縮・社会全体における労働力の向上、入院期間の短縮による医療費の削減、精神科病床数の削減、向精神薬の副作用に関する医療費の削減など、わが国の精神科医療における保健施策上の利益が期待できる。
その他のインパクト
統合失調症およびうつ病はいずれも非常に有病率の高い疾患であり、薬物治療の個別化を目指す本研究は社会的な期待も高い。本研究班は、これまで国内はもちろん世界的にもこの分野における成果を報告してきた専門的グループから構成されており、当該領域における成果については大きな関心を集めた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
39件
その他論文(和文)
15件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
68件
学会発表(国際学会等)
24件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sugai T, Suzuki Y, Sawamura K, et al.
The effect of 5-hydroxytryptamine 3A and 3B receptor genes on nausea induced by paroxetine.
The pharmacogenomics journal , 6 (5) , 351-356  (2006)
原著論文2
Sawamura K, Suzuki Y, Fukui N, et al.
Gender differences in prolactin elevation induced by olanzapine in Japanese drug-naive schizophrenic patients.
Progress in neuro-psychopharmacology & biological psychiatry , 30 (8) , 1511-1514  (2006)
原著論文3
Fukui N, Suzuki Y, Sawamura K, et al.
Dose-dependent effects of the 3435 C>T genotype of ABCB1 gene on the steady-state plasma concentration of fluvoxamine in psychiatric patients.
Therapeutic drug monitoring , 29 (2) , 185-189  (2007)
原著論文4
Yasui-Furukori N, Saito M, Nakagami T, et al.
Different serum concentrations of steady-state valproic acid in two sustained-release formulations.
Psychiatry and clinical neurosciences , 61 (3) , 308-312  (2007)
原著論文5
Yasui-Furukori N, Tsuchimine S, Saito M, et al.
Association between major Multidrug Resistance 1 (MDR1) gene polymorphisms and plasma concentration of prolactin during risperidone treatment in schizophrenic patients.
Progress in neuro-psychopharmacology & biological psychiatry , 31 (6) , 1230-1234  (2007)
原著論文6
Yamada M, Iwabuchi T, Takahashi K, et al.
Identification and expression of frizzled-3 protein in rat frontal cortex after antidepressant and electroconvulsive treatment.
Journal of pharmacological sciences , 99 (3) , 239-246  (2005)
原著論文7
Yoshida K, Higuchi H, Kamata M, et al.
The G196A polymorphism of the brain-derived neurotrophic factor gene and the antidepressant effect of milnacipran and fluvoxamine.
Journal of psychopharmacology , 21 (6) , 650-656  (2007)
原著論文8
Saito S, Takahashi N, Ishihara R, et al.
Association study between vesicle-associated membrane protein 2 gene polymorphisms and fluvoxamine response in Japanese major depressive patients.
Neuropsychobiology , 54 (4) , 226-230  (2006)
原著論文9
Yoshida K, Higuchi H, Takahashi H, et al.
Influence of the tyrosine hydroxylase val81met polymorphism and catechol-O-methyltransferase val158met polymorphism on the antidepressant effect of milnacipran.
Human psychopharmacology , 23 (2) , 121-128  (2008)
原著論文10
Ji X, Takahashi N, Saito S, et al.
Relationship between three serotonin receptor subtypes (HTR3A, HTR2A and HTR4) and treatment-resistant schizophrenia in the Japanese population.
Neuroscience letters  (2008)
原著論文11
Suzuki Y, Fukui N, Sawamura K, et al.
Concentration-response relationship for fluvoxamine using remission as an endpoint. A receiver operating characteristics curve analysis in major depression.
Journal of clinical psychopharmacology  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-