生活習慣病のリスクファクターの同定及びその対策に関する研究

文献情報

文献番号
199700372A
報告書区分
総括
研究課題名
生活習慣病のリスクファクターの同定及びその対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
松沢 佑次(大阪大学医学部第二内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 北徹(京都大学医学部成人老年病病態学)
  • 河盛隆造(順天堂大学医学部代謝内分泌内科学)
  • 藤田敏郎(東京大学医学部第四内科学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康増進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
-円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、生活習慣病のリスクファクターとして糖代謝異常、高脂血症、高血圧、肥満を有する病態の特徴を分析し、ハイリスク状態を同定するとともに、その特性や動脈硬化に寄与するメカニズムを臨床的観察あるいは細胞及び分子生物学的手法を用いて解明し、有効な予防法や治療法の指針を確立することを目的とした。
研究方法
結果と考察
(1)糖代謝異常:我が国において、食生活や生活習慣の変遷により糖代謝異常の特徴も急激に変化している可能性がある。そこで、現代の日本人におけるインスリン分泌の特徴を検討すると、発症初期の糖尿病者では初期分泌低下と分泌総量保持の二点であった。また、40才未満の若年耐糖能異常者は高度なインスリン分泌能を獲得している可能性があり、米国でも提唱されているインスリン抵抗性症候群に合致する症例が我が国でも増加していることが予想された。空腹時血糖値で糖尿病を診断する際の診断率は、現行の140 mg/dlでは31%と非常に低率であり、診断率を向上させるために診断基準の改定を我が国でも検討するべきであることが明らかとなった。(2)高脂血症:動脈硬化惹起リポ蛋白代謝異常である高レムナント血症は、食事性の因子等生活習慣の影響を強く受ける病態であり、その治療法の開発は、生活習慣病特に動脈硬化性疾患の予防・治療に極めて重要である。そこで、高レムナント血症を呈するアポE欠失マウスにLDL受容体を過剰発現させ、その効果を検討した。LDL受容体トランスジェニックマウスでは、LDL及びIDL分画が低下しており、粥状動脈硬化が抑制されていたことから、LDL受容体がレムナントリポ蛋白の代謝にかかわることが示唆され、高レムナント血症に対するLDL受容体誘導治療の有用性が推察された。(3)高血圧:高血圧の中でも食塩感受性高血圧は、生活習慣の影響を受けやすい病態と考えられるが、同一環境下でもその感受性は個体によって差が大きく、遺伝的因子の関与が考えられる。そこで、食塩感受性モデルであるDahlの食塩感受性(S)ラットと食塩抵抗性(R)ラットにおいて正常食と高食塩食で4週間飼育し、4群のラットの腎臓を用い、differential display法により食塩感受性原因遺伝子の検索を行い、三種類の遺伝子(SA遺伝子、ニュートロフィン3受容体(trk C)遺伝子、近位尿細管局在LTR型レトロトランスポゾン(REPT1))を見出し、高血圧におけるハイリスク例の原因遺伝子の解明にむけた新たな展開への基盤を確立した。(4)肥満症:肥満は前述した種々の因子を生ずる基盤であり、過剰栄養や運動不足といった生活習慣と密接に関わる。我々は、特に腹腔内の内臓脂肪の蓄積が生活習慣病、中でも動脈硬化性疾患の発症に強く関連することを明らかにしてきた。そこで、脂肪蓄積と動脈硬化との関連を明らかにするため、まず、脂肪組織の大規模遺伝子解析を行うことにより、脂肪組織の分子生物学的特性をあきらかした。それによると、脂肪細胞には分泌蛋白をコードする遺伝子頻度が高く、その多くはサイトカイン、増殖因子、補体等の生理活性物質であり、アディポサイトカインと総称した。そのなかで動脈硬化と関連する既知の遺伝子としてPAI-1やHBEGFを見出し、さらに、新しい脂肪組織特異的コラーゲン様蛋白発現遺伝子であるapM1をクローニングした。この遺伝子産物は強い血管平滑筋細胞増殖抑制能を持ち、脂肪蓄積時や動脈硬化症症例で血中レベルが低下しており、動脈硬化性疾患の発症に関与することが示唆された。
結論
生活習慣病である動脈硬化性疾患の主なリスクファクターである、糖代謝異常、高脂血症、高血圧、肥満症におけるハイリスク状態を同定しその特徴を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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