健康を阻害する問題飲酒の構造に関する研究

文献情報

文献番号
199700371A
報告書区分
総括
研究課題名
健康を阻害する問題飲酒の構造に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
樋口 進(国立療養所久里浜病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康増進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
-円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
一般に50歳をすぎれば、年齢が高くなるに従って飲酒量は減少していく。欧米における平均飲酒量の低下は、この人口の老齢化によるところが大きいといわれている。我が国は、過去10年近く男女ともに平均寿命が世界で最も高く、したがって、世界で最も人口の高齢化が進んでいる国である。しかし、我が国の国民一人当たりの平均飲酒量は、欧米と異なり減少する傾向が認められない。これは、伝統的にあまり飲酒しなかった人口集団の飲酒量が急増しているためと考えられる。この集団とは、若年者、女性、高齢者である。本研究では、現在も増加しつつあり、 将来さらにその深刻化が強く危惧される若年者および高齢者の飲酒問題に焦点を当てている。本研究の目標は、まずこの集団の飲酒問題に関する現状を把握し、飲酒問題に影響を与えている要因を検討することにある。
研究方法
1. 中学生・高校生に対する実態調査
中学生の対象者は、3県、13の公立中学校生3,162名である。高校生の対象者は、1都1府7県の44の高校に在籍する15,222名である。調査票は、Adolescent Alcoholism Involvement Scale (AAIS)の日本語版に、タバコ・シンナー使用歴、酒類の自動販売機や酒類に関するテレビのCM等に関する項目を加えた21項目の質問からなる。調査は自記式で、ホームルームの時間に担任の先生に実施してもらった。有効回答数は、中学生2,936、高校生14,438であった。
2. 中学生の追跡飲酒調査
今年は中学生と両親の双方に対して子供の飲酒問題についての調査を行なった。調査内容は、中学生が飲酒行動、学校生活、家庭状況、親子関係などである。両親に対しては、子供の飲酒に関する認識、子供に飲酒を勧めた経験、飲酒の害、親の飲酒状況等について尋ねている。中学生および両親用の調査票を生徒に家庭に持って帰ってもらい、記入後学校単位で回収した。約1,000名の中学生と彼らの両親に調査票を配布したが、有効であると認められた回答数は、827であった。両親からもほぼ同数の回答があった。今後、1年毎に中学生に飲酒行動等に関する調査票を送り、追跡調査をしていく予定である。
3. 高齢者の飲酒行動とライフスタイル
調査地は、宮城県仙台市、神奈川県横須賀市、佐賀県佐賀市の3地点である。対象者は主に地域の老人クラブのメンバーであり、標本数は915名(男性493名、女性422名)である。これらの対象者に対して、訓練された調査者が、本人の生活状況、病歴、食べ物・余暇等を含めたライフスタイル、飲酒パターン等について所定の調査票を用いて、聞き取り調査した。また、この調査の後に、飲酒問題のレベルを評価する目的で、自記式の久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(KAST)に回答してもらった。
結果と考察
1.中学生・高校生に対する実態調査
1) 中学生に対する実態調査
少なくとも1年に1回以上飲酒している者の割合は、男子62.8%、女子50.4%、合計で57.2%であった。週に1回以上飲酒する者は約8%に認められる。飲酒問題のレベルを評価する目的で、飲酒頻度と1回飲酒量を組み合わせたQFスケールを導入した。この得点が4点以上の者を「問題飲酒者」と判定した。このスケールに従った場合、問題飲酒者の割合は、男子生徒7.3%、女子生徒3.0%、合計で5.4%であった。中学生の飲酒を助長する要因として、酒類の自動販売機の使用、テレビの酒類に関するCMについても調査した。その結果、すでに中学生でも、自動販売機を使う者がかなりおり、テレビのCMが彼らの飲酒を助長していることが強くうかがわれる調査結果となっている。
2) 高校生に対する実態調査
高校生の飲酒者割合は、中学生のそれよりかなり高く、男子生徒の76.5%、女子生徒の67.9%、合計で74.7%に達する。高校生の4人に3人は飲酒経験がある訳である。QFスケール4点以上の問題飲酒者の割合は、男子生徒の24.8%、女子生徒の10.5%、合計で17.3%と高かった。高校生の飲酒を助長している要因は何であろうか?先に中学生について述べた酒類の自動販売機、テレビのCMは、高校生においても重要な要因であることは間違いない。本調査でも約42%の高校生が自動販売機を使用していると答えている。他の要因として、親や先生を含めて大人の未成年者の飲酒に対する寛容な姿勢を挙げなければならない。子供の飲酒に甘い傾向は学校の先生にも認められる。
2.中学生に対する追跡調査
この調査は、まだ開始したばかりで、1年後の追跡も行なわれていない。調査へのエントリー時の調査結果を以下に示す。対象の中学生の約64%は飲酒経験を持っていた。飲酒機会としては、家族と食事の時やお祭りの時が多かった。子どもの64%は飲酒経験があると答えていたが,自分の子どもが飲酒していると認識していた親はわずかに23%であった。高校生同様に、親が自分の子供の飲酒状況を過小に認識しているのが良く分かる。また子どもの27%は親からお酒を勧められたことがあると回答していたが、子どもにお酒を勧めたことがあると回答した親はわずかに12%であった。
3.高齢者の飲酒行動とライフスタイル
飲酒量に関する総合的な値として、飲酒頻度と1回飲酒量から1ヵ月の平均飲酒量の推定値を計算した。それによると、男性の1ヵ月平均飲酒量は純アルコール換算で約670ミリリッター、女性は77ミリリッター、男女合わせて401ミリリッターであった。以前に我々が行なった平均約40歳の男女に対する調査結果と比べると、男性の平均はやや低かったが、女性の値はほとんど同じレベルであった。本調査では対象者に各種のアルコール依存症スクリーニングテストを実施した。KASTの重篤問題飲酒群に属する者は、男性8.7%、女性0.5%、合計で4.9%存在する。前述の日米共同研究調査では、この値がそれぞれ、7.0%、0.5%、3.6%であった。女性はほぼ同レベルのにあるが、男性の割合はむしろ今回の調査で高くなっている。次に、飲酒問題を有する者のライフスタイル、病歴、体力、血液検査の値等について検討した。具体的には飲酒問題を有する者(KAST得点が0.0以上の者)とそうでない者との間でこれらの要因を比較した。女性の問題飲酒者はほとんどいなかったので、この分析は男性に限って行なった。社会活動への参加や食生活等のライフスタイルの比較では両群にほとんど差を認めなかった。種々の病歴についても差を認めなかった。体力検査として、握力、Up and Go Test (普段の歩行スピード)、開眼片足立ちテストを行なった。その結果、問題飲酒群で、片足立ちの時間が両足とも有意に短縮していた。血圧も収縮期、拡張期ともに問題飲酒群で有意に高かった。血液検査では、問題飲酒群で、γGTP値、コレステロール値、HDL-コレステロール値が有意に高かった。
結論
久里浜病院で実施された中学生・高校生に対する調査やその厚生省で実施された調査等から、未成年者の飲酒が我々の予想をはるかに越えて深刻化していることが明らかになった。また、彼らの飲酒を助長している要因もある程度明らかになった。本研究の一環として開始された中学生の飲酒追跡調査から、どのような環境にある、どのような特徴を持った子供が将来飲酒問題を引き起こすのかが明らかになる可能性があり多いに期待される。我が国の平均寿命は世界で最も高い。その分いわゆる老後が長くなってきている。飲酒問題は、もともとは高齢者の問題ではなかった。しかし、高齢者といえども、この問題を避けて通れない現状にあることが、今回の調査で明らかになった。すなわち、飲酒量は増加していることが強く示唆され、飲酒問題も若年者に匹敵するレベルまできていた。また、過量飲酒は高齢者の健康を確実に障害している事実が明らかになった。
これらを踏まえて以下の提言を行ないたい。
1) 未成年者の飲酒は増加しているが,そのことに対する社会の認識は低い。特に日頃家庭で子どもと接している親たちの認識の低さがある。このため,子どもの飲酒についての社会的啓発を行う必要性がある。
2) 未成年者の飲酒を促進している酒の自動販売機やコンビニの深夜販売,テレビのコマーシャルについては,社会的規制を行っていく必要がある。
3) 未成年者のみならず、高齢者に対しても、老人クラブや他の活動を通じて、飲酒の害とその予防等についての教育・啓蒙を実施していく必要がある。
4) 医療従事者は、高齢者の健康問題に対する飲酒の影響をよく理解し、適切な治療とともに指導・教育を行なっていく必要がある。
5) 高齢者の飲酒と健康障害に関する大規模な調査が必要である。それは、一般人口に対する調査の一環でもよい。未成年者や女性も含めて、このような調査はその後も定期に実施されなければならない。
6) 今後、前述の実態調査研究と平行して、教育・啓蒙など飲酒問題の一次予防の方法やその効果、さらに飲酒問題の早期発見・早期治療導入の技術開発等についての研究を奨励していく必要がある。

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