変形性関節症の治療・予防の標的分子の同定とその臨床応用

文献情報

文献番号
200729009A
報告書区分
総括
研究課題名
変形性関節症の治療・予防の標的分子の同定とその臨床応用
課題番号
H17-免疫-一般-009
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
中村 耕三(東京大学医学部附属病院 整形外科・脊椎外科)
研究分担者(所属機関)
  • 越智 光夫(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科 運動器機能再建学)
  • 山田 治基(藤田保健衛生大学 整形外科)
  • 片岡 一則(東京大学 大学院工学系研究科・医学系研究科(併任))
  • 大森 豪(新潟大学 超域研究機構)
  • 川口 浩(東京大学医学部附属病院 整形外科)
  • 福井 尚志((独)国立病院機構相模原病院 臨床研究センター 病態総合研究部)
  • 吉村 典子(東京大学 大学院医学系研究科 関節疾患総合研究講座)
  • 佐粧 孝久(千葉大学 大学院医学研究院 整形外科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
62,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
変形性関節症(osteoarthritis; OA)の予防・治療法の確立に対する社会的ニーズの高まりは疑いの余地がない。しかしながら、国民はOAに対して良質かつ適切な医療の提供を受けていない。これは、OA研究が他の生活習慣病はもとより、関節リウマチや骨粗鬆症などの他の運動器疾患に比べても明らかに遅れているからである。その病因は殆ど解明されておらず、したがって治療法は対症療法の域を出ていない。基本的な疫学指標も確立されておらず、診断基準も曖昧なままである。我々は、OAの細胞・分子レベルでのメカニズムの解明と、画期的な治療・予防法の開発を目指して、その系統的・統合的研究体制ROADプロジェクトを樹立し、本研究費補助金事業を軸として活動を行っている。
研究方法
ROADプロジェクトの調査により、都市型、山村型、漁村型からなる総計3,040人の参加を得た大規模住民データベースが完成した。同時に、マウスジェネティクス、ヒトOA手術標本での発現解析からOAの分子背景を解明を目指す。これと並行して、上記標的分子関連シグナルの軟骨再生医療への応用、OA病変部に遺伝子導入するためのベクターとしてのナノミセル人工ウイルスの開発を進めることによって、画期的な治療・予防法の開発を行う。更にMRI画像および生化学マーカーによるOAの正確な診断法の開発を目指す。
結果と考察
ROADプロジェクトでは既に3,000例を超える世界最大規模のベースライン調査を終了し、本ベースライン調査において、OAの有病率が従来の試算を遙かに超えているものであることが明らかとなった。標的分子に関しては、マウスジェネティクスとLCM摘出ヒトサンプルから、永久軟骨である関節軟骨に軟骨内骨化シグナルが誘導されることがOAの発症メカニズムである可能性が示された。これらの関連分子を標的とした治療への応用のために、高分子ナノミセルによる効率的・非侵襲的な遺伝子導入システムを開発し、今後の軟骨再生医療における新機軸としてのcell delivery systemが創成された。OAの診断に関しても、その重症度を数値化するためのMRIによる画期的なシステムが確立され、また血清マーカーがOAの進行を予測するのに有用であることが示された。
結論
本課題は本年度が最終年度であるが、すべてのサブテーマで世界に先駆けて本格的なOA研究の基盤を構築することが出来た。本課題の各サブテーマで得られた知見を更に発展させるべく、来年度以降はサブテーマ毎に細分化した複数の申請課題に更新して、集中的・発展的な研究へと繋げたいと考えている。

公開日・更新日

公開日
2008-04-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2009-01-22
更新日
-

文献情報

文献番号
200729009B
報告書区分
総合
研究課題名
変形性関節症の治療・予防の標的分子の同定とその臨床応用
課題番号
H17-免疫-一般-009
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
中村 耕三(東京大学医学部附属病院 整形外科・脊椎外科)
研究分担者(所属機関)
  • 越智 光夫(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科 運動器機能再建学)
  • 山田 治基(藤田保健衛生大学 整形外科)
  • 片岡 一則(東京大学 大学院工学系研究科・医学系研究科(併任))
  • 大森 豪(新潟大学 超域研究機構)
  • 川口 浩(東京大学医学部附属病院 整形外科)
  • 福井 尚志((独)国立病院機構相模原病院 臨床研究センター 病態総合研究部)
  • 吉村 典子(東京大学 大学院医学系研究科 関節疾患総合研究講座)
  • 佐粧 孝久(千葉大学 大学院医学研究院 整形外科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
変形性関節症(osteoarthritis; OA)の予防・治療法の確立に対する社会的ニーズの高まりは疑いの余地がない。しかしながら、国民はOAに対して良質かつ適切な医療の提供を受けていない。これは、OA研究が他の生活習慣病はもとより、関節リウマチや骨粗鬆症などの他の運動器疾患に比べても明らかに遅れているからである。その病因は殆ど解明されておらず、したがって治療法は対症療法の域を出ていない。基本的な疫学指標も確立されておらず、診断基準も曖昧なままである。我々は、OAの細胞・分子レベルでのメカニズムの解明と、画期的な治療・予防法の開発を目指して、その系統的・統合的研究体制ROADプロジェクトを樹立し、本研究費補助金事業を軸として活動を行ってきた。
研究方法
観察疫学研究によって疫学指標や診断基準を確立して予防・治療の確固たるエビデンスとする。同時に、マウスジェネティクス、ヒトOA手術標本での発現解析からOAの分子背景を解明を目指す。これと並行して、上記標的分子関連シグナルの軟骨再生医療への応用、OA病変部に遺伝子導入するためのベクターとしてのナノミセル人工ウイルスの開発を進めることによって、画期的な治療・予防法の開発を行う。更にMRI画像および生化学マーカーによるOAの正確な診断法の開発を目指す。
結果と考察
ROADプロジェクトでは3,000例を超える世界最大規模のベースライン調査を終了し、本ベースライン調査において、OAの有病率が従来の試算を遙かに超えているものであることが明らかとなった。標的分子に関しては、マウスジェネティクスとlaser capture microdissection(LCM)によって摘出したヒトサンプルから、永久軟骨である関節軟骨に軟骨内骨化シグナルが誘導されることがOAの発症メカニズムである可能性が示された。これらの関連分子を標的とした治療への応用のために、高分子ナノミセルによる効率的・非侵襲的な遺伝子導入システムを開発し、今後の軟骨再生医療における新機軸としてのcell delivery systemが創成された。OAの診断に関しても、その重症度を数値化するためのMRIによる画期的なシステムが確立され、また血清マーカーがOAの進行を予測するのに有用であることが示された。
結論
3年間の活動によって、すべてのサブテーマで世界に先駆けて本格的なOA研究の基盤を構築することが出来た。本課題の各サブテーマで得られた知見を更に発展させるべく、来年度以降はサブテーマ毎に細分化した複数の申請課題に更新して、集中的・発展的な研究へと繋げたいと考えている。

公開日・更新日

公開日
2008-04-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2009-01-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200729009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
3,000例を超える世界最大規模の変形性関節症(OA)統合臨床データベースの構築を達成した。ここでのデータベースは我が国のみならず、今後の世界のOA研究のための貴重な知的財産となることは間違いない。また学術的にも、本研究の成果はNature Medicine、EMBO reportなどの国際的一流紙において公表してきた。
臨床的観点からの成果
本研究で確立された知的基盤に基づいて根本的治療法が開発されれば、高齢者の健康寿命の延伸、QOLの向上に繋がるのみならず、労働力の確保という社会的恩恵をもたらす。医療経済的にも、膝、股関節、腰椎OAの手術に要する医療費総額は年間5000億円を超過している。また、米国の試算を我が国の膝と腰の有症患者数だけに当てはめても年間約4兆円の費用が必要となる。根本的治療法が実現して、OA罹患率、手術件数が半減すれば年間2兆円以上の医療費削減につながることが期待される。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
世界最大規模のOA統合臨床データベースの解析によってOAの有病率が従来の試算を遙かに超えていることが明らかとなった。この数は今後の高齢化社会の加速によって益々増え続けるであろう。このような大きな社会的要請課題にも拘わらず、その公的な研究支援規模は余りにも小さい。厚労省の中でも本研究課題は唯一の包括的OAプロジェクトであり、OA研究支援規模の拡大を望むものである。
その他のインパクト
東大でのROADプロジェクト樹立にあたり平成18年6月にプレスリリースを行い。4大新聞に大きく取り上げられた。また、マウスジェネティクスの成果であるcarmimerinの論文がNature Medicine誌に掲載され、多くの新聞、テレビニュース、雑誌で紹介された。ROADプロジェクトでは、4回の市民公開講座を開いて、膝と腰椎のOAの社会への啓蒙に努めた。

発表件数

原著論文(和文)
45件
原著論文(英文等)
118件
その他論文(和文)
119件
その他論文(英文等)
18件
学会発表(国内学会)
323件
学会発表(国際学会等)
143件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計10件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Moro T, Ogasawara T, Chikuda H, Ikeda T, et al.
Inhibition of Cdk6 expression through p38 MAP kinase is involved in differentiation of mouse prechondrocyte ATDC5.
J Cell Physiol , 204 , 927-933  (2005)
原著論文2
Kamekura S, Hoshi K, Shimoaka T, et al.
Osteoarthritis development in novel experimental mouse models induced by knee joint instability.
Osteoarthritis Cartilage , 13 , 632-641  (2005)
原著論文3
Kugimiya F, Kawaguchi H, Kamekura S, et al.
Involvement of endogenous bone morphogenetic protein (BMP)2 and BMP6 in bone formation.
J Biol Chem , 280 , 35704-35712  (2005)
原著論文4
Kizawa H,KouI,Iida A, Sudo A, et al.
An aspartic acid repeat polymorphism in asporin inhibits chondrogenesis and increases susceptibility to osteoarthritis.
Nature Genet , 37 , 138-144  (2005)
原著論文5
Yamada T, Kawano H, Koshizuka Y, et al.
Carminerin contributes to chondrocyte calcification during endochondral ossification.
Nature Med , 12 , 665-670  (2006)
原著論文6
Kamekura S, Kawasaki Y, Hoshi K, et al.
Contribution of runt-related transcription factor 2 to the pathogenesis of osteoarthritis in mice after induction of knee joint instability.Runx2 contributes to pathogenesis of osteoarthritis in mice after induction of knee joint instability.
Arthritis Rheum , 54 , 2462-2470  (2006)
原著論文7
Saito T, Ikeda T, Nakamura K, et al.
S100A1 and B, transcriptional targets of SOX trio, inhibit terminal differentiation of chondrocytes.
EMBO Rep , 8 , 504-509  (2007)
原著論文8
Ikeda T, Saito T, Ushita M, et al.
Identification and characterization of the human SOX6 promoter.
Biochem Biophys Res Commun , 357 , 383-390  (2007)
原著論文9
Liu G, Kawaguchi H, Ogasawara T, et al.
Optimal combination of soluble factors for tissue engineering of permanent cartilage from cultured human chondrocytes.
J Biol Chem , 282 , 20407-20415  (2007)
原著論文10
Kugimiya F, Kawaguchi H, Ohba S, et al.
GSK-3β controls osteogenesis through regulating Runx2 activity.
PLoS ONE , 2 , 837-  (2007)
原著論文11
Shimizu S, Asou Y, Itoh S, et al.
Prevention of cartilage destruction with intraarticular osteoclastogenesis inhibitory factor / osteoprotegerin in a murine model of osteoarethritis.
Arthritis Rheum , 56 , 3358-3365  (2007)
原著論文12
Kano MR, Bae Y, Iwata C, et al.
Improvement of cancer-targeting therapy, using nanocarriers for intractable solid tumors by inhibition of TGF-beta signaling.
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. , 104 , 3460-3465  (2007)
原著論文13
Lee Y, Fukushima S, Bae Y, et al.
A protein nanocarrier from charge-conversion polymer in response to endosomal pH.
J. Am. Chem. Soc. , 129 , 5362-5363  (2007)
原著論文14
Itaka K, Ohba S, Miyata K, et al.
Bone regeneration by regulated in vivo gene transfer using biocompatible polyplex nanomicelles.
Molecular Ther , 15 , 1655-1662  (2007)
原著論文15
Masago K, Itaka K, Nishiyama N, et al.
Gene delivery with biocompatible cationic polymer:Pharmacogenomic analysis on cell bioactivity.
Biomaterials , 28 , 5169-5175  (2007)
原著論文16
Murata R, Nakagawa K, Ohtori S, et al.
The effects of radial shock waves on gene transfer in rabbit chondrocytes in vitro.
Osteoarthritis Cartilage , 15 , 1275-1282  (2007)
原著論文17
Ochiai N, Ohtori S, Sasho T, et al.
Extracorporeal shock wave therapy improves motor dysfunction and pain originating from knee osteoarthritis in rats.
Osteoarthritis Cartilage , 15 , 1093-1096  (2007)
原著論文18
Kawaguchi H
Endochondral ossification signals in cartilage degradation during osteoarthritis progression in experimental mouse models.
Mol Cells , 25 , 1-6  (2008)
原著論文19
Yamakawa K, Kamekura S, Kawamura N, et al.
Association of microsomal prostaglandin E synthase 1 deficiency with impaired fracture healing, but not with bone loss or osteoarthritis, in mouse models of skeletal disorders.
Arthritis Rheum , 58 , 172-183  (2008)
原著論文20
Fukui N, Ikeda Y, Ohnuki T, et al.
Regional differences in chondrocyte metabolism in osteoarthritis. A detailed analysis by laser capture microdissection.
Arthritis Rheum , 58 , 154-163  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-