衛生仮説を含めたアレルギー性疾患の発症関連環境要因の解明に関する前向きコホート及び横断研究

文献情報

文献番号
200729003A
報告書区分
総括
研究課題名
衛生仮説を含めたアレルギー性疾患の発症関連環境要因の解明に関する前向きコホート及び横断研究
課題番号
H17-免疫-一般-003
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
三宅 吉博(福岡大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 廣田 良夫(大阪市立大学大学院医学研究科)
  • 大矢 幸弘(国立成育医療センター第一専門診療部)
  • 佐々木 敏(東京大学大学院医学系研究科)
  • 横山 徹爾(国立保健医療科学院技術評価部)
  • 田中 景子(福岡大学医学部)
  • 清原 千香子(九州大学大学院医学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
28,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アレルギー疾患のリスク要因に関するエビデンスを蓄積することである。
研究方法
大阪母子保健研究では、1,002名の妊婦がベースライン調査に参加した。生後4ヶ月時第一回追跡調査、1歳6ヶ月時第二回追跡調査、2歳6ヶ月時第三回追跡調査及び3歳6ヶ月時第四回追跡調査にはそれぞれ867組、763組、586組、494組の母子が参加をした。第四回追跡調査参加者の318組の母子から遺伝情報を得た。4歳6ヶ月時第五回時追跡調査を実施している。
今年度から第二の出生前開始前向きコホート研究として九州・沖縄母子保健研究を開始した。ベースライン調査では、生活習慣等の質問調査票、食事歴法質問調査票、寝具ダニ及びエンドトキシン量の情報を得ている。出生時、生後1ヶ月時、4ヶ月時、1歳時に追跡調査を実施し、以後、毎年追跡を行う。4ヶ月時に母子から遺伝情報を得る。
横断研究である琉球小児健康調査では、沖縄県那覇市と名護市全公立小中学生28,897名が調査に参加した。福岡・吹田・川越小児健康調査には公立小中学生18,931名が調査に参加した(23.2%)。福岡市3歳児健康調査には2,109名(25.5%)が調査に参加し、参加者の中から、ISAACの診断基準で過去1年アトピー性皮膚炎有りと判断された幼児を症例群とした遺伝子多型に関する症例対照研究も実施した。症例群140名、対照群258名から遺伝子検体を得た。
結果と考察
大阪母子保健研究のベースラインデータを用いた解析では、子数が多いほど妊婦の血清総IgE値が低下したが、その傾向性P値は統計学的に有意ではなかった。年上兄弟なしに比較して年上兄弟1人は生後1歳半時の喘鳴のリスクを有意に高めた。
琉球小児健康調査のデータでは、総兄弟数が多いほど、全てのアレルギー疾患の有症率が低かった。福岡・吹田・川越小児健康調査のデータでは、総兄弟数と明らかな負の関連を認めたのは喘鳴のみであった。福岡市3歳児健康調査では、総兄弟数は喘息・喘鳴と有意な正の関連を認めた。1歳未満中耳炎既往はアトピー性皮膚炎及びアレルギー性鼻結膜炎と有意な正の関連を認め、風邪及びインフルエンザ既往は喘鳴と有意な正の関連を認めた。症例対照研究では、ADAM33 SNPがアトピー性皮膚炎の発症に関連した。
結論
衛生仮説を全面的に支持することは難しい。胎児期の曝露要因とアレルギー発症との関連に関するエビデンスを蓄積すべきである。

公開日・更新日

公開日
2008-04-04
更新日
-

文献情報

文献番号
200729003B
報告書区分
総合
研究課題名
衛生仮説を含めたアレルギー性疾患の発症関連環境要因の解明に関する前向きコホート及び横断研究
課題番号
H17-免疫-一般-003
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
三宅 吉博(福岡大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 廣田 良夫(大阪市立大学大学院医学研究科)
  • 大矢 幸弘(国立成育医療センター第一専門診療部)
  • 佐々木 敏(東京大学大学院医学系研究科)
  • 横山 徹爾(国立保健医療科学院技術評価部)
  • 田中 景子(福岡大学医学部 )
  • 清原 千香子(九州大学大学院医学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アレルギー疾患のリスク要因に関するエビデンスを蓄積することである。
研究方法
大阪母子保健研究では、1,002名の妊婦がベースライン調査に参加した。生後4ヶ月時、1歳半時、2歳半時及び3歳半時追跡調査には各867組、763組、586組、494組の母子が参加した。九州・沖縄母子保健研究も開始した。
琉球小児健康調査では、全公立小中学生28,897名、福岡・吹田・川越小児健康調査では、公立小中学生18,931名が調査に参加した。福岡市3歳児健康調査では、2,109名が参加した。アトピー性皮膚炎の幼児を症例群とした遺伝子多型に関する症例対照研究も実施し、症例群140名、対照群258名から遺伝子を得た。
結果と考察
大阪母子保健研究のベースラインの解析では、能動喫煙と喘息との正の関連、受動喫煙とアレルギー性鼻炎との正の関連、ホルムアルデヒド曝露とアトピー性皮膚炎との正の関連、海草、イソフラボン及び魚介類由来n-3系不飽和脂肪酸摂取とアレルギー性鼻炎との負の関連を認めた。子数が多いほど妊婦の血清総IgE値が低下したが、傾向性P値は有意ではなかった。妊娠中のダニ抗原曝露や台所のカビが生まれた子供の乳児期アトピー性皮膚炎疑いのリスクを高めた。母乳摂取期間は1歳半時の喘鳴、喘息及びアトピー性皮膚炎のリスクと関連がなかった。年上兄弟なしに比較して年上兄弟1人は1歳半時の喘鳴のリスクを高めた。
琉球小児健康調査のデータでは、総兄弟数が多いほど、全てのアレルギー疾患の有症率が低かった。受動喫煙と喘息・喘鳴と有意な正の関連を認めた。ツベルクリン陽性と喘息及びアトピー性皮膚炎との間に負に関連を認めた。う蝕経験とアレルギーとの関連はなかった。リノール酸摂取と喘鳴との間に正の関連を認めた。福岡・吹田・川越小児健康調査のデータでは、総兄弟数と負の関連を認めたのは喘鳴のみであった。台所のカビと年1回以上の風邪罹患は、全てのアレルギー疾患有症率と正の関連を認めた。福岡市3歳児健康調査では、総兄弟数は喘息・喘鳴と正の関連を認めた。1歳未満中耳炎既往はアトピー性皮膚炎及びアレルギー性鼻結膜炎と正の関連を認め、風邪及びインフルエンザ既往は喘鳴と正の関連を認めた。症例対照研究では、ADAM33がアトピー性皮膚炎の発症に関連していた。
結論
衛生仮説を全面的に支持できない。胎児期の曝露とアレルギー発症との関連に関するエビデンスを蓄積すべきである。

公開日・更新日

公開日
2008-04-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200729003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
全ての疫学研究プロジェクトをあわせると5万人以上よりデータを収集した。原著論文としてアレルギーに関する17編の論文を投稿し、12編の論文が受理された。受理されたアレルギー疾患に関する原著論文全て2006年のインパクトファクターが2点以上の欧米の英文学術誌であり、国際的かつ学術的な価値は高い。また、日本アレルギー学会の英文誌にアレルギー疾患のリスク要因をまとめた総説2編が受理され、日本においてアレルギー疾患のリスク要因の解明に関する疫学研究の重要性を周知することに貢献できた。
臨床的観点からの成果
本邦において、アレルギー疾患のリスク要因に関するエビデンスを体系的に蓄積する土台を築いたところであり、臨床の場面で確たる根拠を提示できるまでには至っていない。ただ、これまで日本人におけるアレルギー疾患のリスク要因に関する学術論文としてのエビデンスがほとんどなかった状況からは大きな進歩であり、今後の成果が期待されるところである。臨床においては「根拠に基づく医療」が重要視されている中、アレルギー疾患の「根拠に基づく予防医学」を実践できるよう、努力しなければならない。
ガイドライン等の開発
これまで世界で行われたアレルギー疾患の分析疫学研究の結果をまとめた総説を日本アレルギー学会誌に報告した。また、遺伝子多型とアトピー性皮膚炎との関連に関する系統的な総説も日本アレルギー学会誌に報告した。過去に非常に多くの疫学研究が世界中で実施されているが、それぞれの疫学研究の結果は一致しておらず、確たる結論を得るまでに至っていない。日本人のエビデンスはとても少ない状況である。今後、我々の研究成果を可能な限り多く公表することにより、何らかの指針を示さなければならないと考えている。
その他行政的観点からの成果
本邦では、国民の3割近くが何らかのアレルギー疾患に悩まされている。アレルギー疾患と関連する根拠に基づかない諸説情報が溢れており、結果として、国民のアレルギー疾患に対する不安感が高まっている。このような状況において、行政的な観点から、人を対象とした疫学研究の結果である根拠に基づくアレルギー疾患のリスク要因に関する情報を国民に提供することは極めて意義のあることである。また同時に、疫学研究結果は先進的なアレルギー疾患の治療、予防方法の礎を供することができる。
その他のインパクト
2007年7月19日の「メディカル・トリビューン」に日本アレルギー学会で報告したツベルクリン反応とアレルギー疾患との関連に関する記事が掲載された。また、ツベルクリン反応とアレルギーの関連の論文は2008年3月号の「Clinical and Experimental Allergy」に掲載されただけでなく、その号のEditorialとしても取り上げられた。2008年3月号の「公衆衛生」でアレルギー疾患の特集が組まれ、「アレルギー疾患の発症関連要因」のタイトルで総説を執筆した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
16件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Miyake Y, Miyamoto S, Ohya Y, et al.
Association of active and passive smoking with allergic disorders in Japanese pregnant females: baseline data from the Osaka Maternal and Child Health Study.
Ann Allergy Asthma Immunol. , 94 (6) , 644-651  (2005)
原著論文2
Miyake Y, Sasaki S, Ohya Y, et al.
Soy, isoflavones, and prevalence of allergic rhinitis in Japanese females: the Osaka Maternal and Child Health Study.
J Allergy Clin Immunol. , 115 (6) , 1176-1183  (2005)
原著論文3
Tanaka K, Miyake Y, Sasaki S, et al.
Active and passive smoking and tooth loss in Japanese women: baseline data from the Osaka Maternal and Child Health Study.
Ann Epidemiol. , 15 (5) , 358-364  (2005)
原著論文4
Miyake Y, Sasaki S, Ohya Y, et al.
Dietary intake of seaweed and minerals and prevalence of allergic rhinitis in Japanese pregnant females: baseline data from the Osaka Maternal and Child Health Study.
Ann Epidemiol. , 16 (8) , 614-621  (2006)
原著論文5
Miyake Y, Sasaki S, Yokoyama T, et al.
Risk of postpartum depression in relation to dietary fish and fat intake in Japan: the Osaka Maternal and Child Health Study.
Psychol Med. , 36 (12) , 1727-1735  (2006)
原著論文6
Miyake Y, Sasaki S, Tanaka K, et al.
Dietary folate and vitamins B12, B6, and B2 intake and the risk of postpartum depression in Japan: the Osaka Maternal and Child Health Study.
J Affect Disord. , 96 (1) , 133-138  (2006)
原著論文7
Tanaka K, Miyake Y, Sasaki S, et al.
Magnesium intake is inversely associated with the prevalence of tooth loss in Japanese pregnant women: the Osaka Maternal and Child Health Study.
Magnes Res. , 19 (4) , 268-275  (2006)
原著論文8
Miyamoto S, Miyake Y, Sasaki S, et al.
Fat and fish intake and asthma in Japanese women: baseline data from the Osaka Maternal and Child Health Study.
Int J Tuberc Lung Dis. , 11 (1) , 103-109  (2007)
原著論文9
Miyake Y, Sasaki S, Tanaka K, et al.
Fish and fat intake and prevalence of allergic rhinitis in Japanese females: the Osaka Maternal and Child Health Study.
J Am Coll Nutr. , 26 (3) , 279-287  (2007)
原著論文10
Miyake Y, Ohya Y, Tanaka K, et al.
Home environment and suspected atopic eczema in Japanese infants: The Osaka Maternal and Child Health Study.
Pediatr Allergy Immunol. , 18 (5) , 425-432  (2007)
原著論文11
Miyake Y, Arakawa M, Tanaka K, et al.
Cross-sectional study of allergic disorders associated with breastfeeding in Japan: The Ryukyus Child Health Study.
Pediatr Allergy Immunol. , 18 (5) , 433-440  (2007)
原著論文12
Tanaka K, Miyake Y, Arakawa M, et al.
Prevalence of asthma and wheeze in relation to passive smoking in Japanese children.
Ann Epidemiol. , 17 (12) , 1004-1010  (2007)
原著論文13
Tanaka K, Miyake Y, Sasaki S, et al.
Relationship between intake of vegetables, fruit, and grains and the prevalence of tooth loss in Japanese women.
J Nutr Sci Vitaminol. , 53 (6) , 522-528  (2007)
原著論文14
Matsunaga I, Miyake Y, Yoshida T, et al.
Ambient formaldehyde levels and allergic disorders among Japanese pregnant women: baseline data from the Osaka Maternal and Child Health Study.
Ann Epidemiol. , 18 (1) , 78-84  (2008)
原著論文15
Miyake Y, Arakawa M, Tanaka K, et al.
Tuberculin reactivity and allergic disorders in schoolchildren, Okinawa, Japan.
Clin Exp Allergy. , 38 (3) , 486-492  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-