農村における栄養問題と消化器系諸病態に関する研究

文献情報

文献番号
199700368A
報告書区分
総括
研究課題名
農村における栄養問題と消化器系諸病態に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
登内 真(総合病院土浦協同病院)
研究分担者(所属機関)
  • 寺井継男(帯広厚生病院)
  • 大久保俊治(平鹿総合病院)
  • 佐々木公一(長岡中央綜合病院)
  • 樫木良友(岐北総合病院)
  • 市川正章(安城更生病院)
  • 明石光伸(鶴見病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康増進研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
4,550,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の農村地域は現在著しい変貌を遂げている経過にあり、この生活環境の変化に伴って、食生活などの生活習慣も変化してきている。この研究の目的は、このような状況のもとでのわが国の農村地域における中高年層の消化器系諸病態を、その食生活・栄養問題との関連において追求して問題点を明らかにすることにある。
研究方法
各地に調査を担当する7つの病院を設定した。調査対象は農村地域における40歳以上の年齢層とした。調査方法は次の2つからなる。1.栄養状態の調査:栄養状態の把握には検査成績(BMI、赤血球数、血色素量、総蛋白量、血清アルブミン値など)をパラメーターとして用いた。2.食生活の調査:食生活については、食物摂取状況調査を行なった。調査に当たっては主として細谷らによる食物摂取状況調査票を利用した。
結果と考察
健常者の食物摂取状況:1991年岐阜県の都市型農村で、総カロリー1579Cal、蛋白質73g、糖質222g、脂質43g(総カロリーの24.5%)、山村型農村で、総カロリー1630Cal、蛋白質64g、糖質269g、脂質32g(17.7%)であったのが、1996-1997年には、都市型農村で、総カロリー1801Cal、蛋白質82g、糖質250g、脂質51g(24.8%)、山村型農村でも、総カロリー1851Cal、蛋白質82g、糖質250g、脂質51g(24.8%)と両地域で総カロリー、蛋白質、脂質の摂取量、脂質エネルギー比率が増加し、両地域の差異が小さくなっていた。他の地域での現状の食物摂取状況をみると、大分県、茨城県では、蛋白質が70~80g、脂質が50g前後となっていたが、愛知県では脂質は60g前後と多いのに、蛋白質の摂取量はまだ比較的に少なく57g前後であった。秋田県では蛋白質50.9g、脂質39.6g、北海道帯広では男性が蛋白質65g、脂質35g、女性が蛋白質68g、脂質37gと両者とも低い傾向であった。
脂肪肝について:北海道帯広の寺井は、脂肪肝の所見を呈する者が年々増加していることを指摘した。1996年度には男性の受診者の24.2%、女性では10%が脂肪肝であった。栄養パラメーターではBMI、中性脂肪値が有意に高値であり、食物摂取状況では、総カロリー、蛋白質、脂質、糖質のいずれも摂取量が多く、とくに糖質は有意差であった。また脂肪肝においては潜在的な糖代謝異常が問題であることをも指摘した。秋田県の大久保らの1997年の調査では男性の35%、女性の7.1%が脂肪肝の所見を呈し、体重、BMI、拡張期血圧、FBS、HbA1c、赤血球数、血色素量、総蛋白量、血清アルブミン値が有意に高値であり、HDL-Cは有意に低値であった。この結果から脂肪肝は単に肝臓疾患と考えるよりも動脈硬化促進因子として評価するべきであることを強調した。新潟県の佐々木は1991年と1996年の調査において脂肪肝の所見が前期(+)から後期(-)となった群では、BMIと中性脂肪値が下がっていたことから、この2つのパラメーターが脂肪肝に密接な関連のあることを示した。茨城県の登内らは1996~1997年の調査で、男性では受診者の26.8%、女性では17.2%が脂肪肝の所見を呈し、男性ではBMI、赤血球数、血色素量、血清アルブミン値、中性脂肪値、総コレステロール値、FBSが高値であり、女性ではBMI、血清アルブミン値、中性脂肪値、FBSが高いという結果であった。しかし、食物摂取状況の調査では、いずれも健常者と有意差がなかった。愛知県の市川ら、岐阜県の樫木らの調査でも、栄養パラメーターでは高値を示して有意差があるが、食物の摂取量では健常者と比して有意差がなかった。大分県の明石らの調査結果では、高度脂肪肝群では総カロリー摂取量が健常者に比べて有意に多かった。
大腸ポリープについて:北海道帯広の寺井は、大腸ポリープでBMI、総コレステロール値、中性脂肪値が健常者よりも高い傾向であったが食物摂取量では差がなかったとしている。茨城県の登内らの報告では大腸ポリープでBMI、赤血球数、血色素量、中性脂肪値が健常者より高値であり、食物摂取量では総カロリー、糖質、穀類、油脂類の摂取量が多かった。岐阜県の樫木らの調査では、大腸ポリープではむしろ低栄養状態であり、総蛋白量、血清アルブミン値、総コレステロール値は健常者より低値であった。蛋白質、脂質の摂取量も健常者より少なかった。大分県の明石らの調査では大腸ポリープではBMI、血色素量が有意に高く、総カロリーの摂取量、喫煙係数が高かった。これらの調査結果は大腸ポリープと過栄養の関連を示唆するものと考えられた。
胆嚢ポリープについて:北海道の寺井は胆嚢ポリープについて栄養パラメーターでも、食物摂取状況でも健常者と有意差がなかったとしている。秋田県の大久保は胆嚢ポリープでは健常者に比して肥満度、赤血球数、血色素量が有意に高値であり、食物では穀類の摂取量が有意に多かったとしている。茨城県の登内らは男性の胆嚢ポリープではBMI、血清アルブミン値、総コレステロール値が有意に高値であり,油脂類の摂取量が有意に多く、総カロリー、脂質の摂取量が有意ではないが多かったこと、女性の胆嚢ポリープでは赤血球数,血色素量が低値であり、総カロリーの摂取量も有意に少なかったことを示した。大分県の明石らは胆嚢ポリープで赤血球数が高く、総カロリーの摂取量が有意に多かったとしている。これらの結果から胆嚢ポリープもやはり過栄養との関連性があるものと考えられた。
胆石症について:北海道の寺井、茨城県の登内ら、新潟県の佐々木は胆石症では食物摂取状況、栄養パラメーターに健常者と有意差がなかったとしている。岐阜県の樫木らの報告では胆石症においては蛋白質、脂質の摂取量が少なく、赤血球数,血色素量,総蛋白量、血清アルブミン値も低値であった。大分県の明石らは胆石症においては肥満度が高い傾向があったが、有症状の胆石症では血色素量,総蛋白量,血清アルブミン値、総コレステロール値が低値であり、食物の摂取量には差がなかったとしている。これらは胆石症と食生活,栄養状況との関連を示す結果ではなかった。
その他の消化器系の病態について:茨城県の登内らの報告では、人間ドック受診者で栄養摂取量が多かったのは、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、大腸ポリープ、アルコール性肝障害であり、大腸ポリープでは穀類の摂取量が多かった。入院例にみられた消化器系病態においては概して赤血球数、血色素量、総蛋白量、血清アルブミン値が低値であり、これらは疾患の結果とも考えられた。
血清ペプシノーゲン検査について:秋田県の大久保の報告では、血清ペプシノーゲン強陽性者は男性では穀類の摂取量が少ない傾向、女性では大豆の摂取量が多い傾向が認められた。パラメーターとしては血色素量、血清アルブミン値が低値を示す傾向があった。これらの結果は現段階では意味付けが困難である。
ヘリコバクター・ピロリ菌感染について:大分県の明石らの報告によると、陽性者では糖質の摂取量が少ないこと、赤血球数、血色素量、総蛋白量、血清アルブミン値の低値なこと、喫煙係数が高いことが示されたが、これも現段階では解釈が困難である。
結論
1.農村の生活環境の変化に伴う食生活と栄養状態の変化として、総カロリー、蛋白質、脂質の摂取量の増加、BMI、総コレステロール値、中性脂肪値の上昇がある。
2.これに伴う消化器系病態として、脂肪肝、大腸ポリープ、胆嚢ポリープがある。
3.脂肪肝は、肥満、潜在的糖代謝異常と密な関連がある。
4.血清ペプシノーゲン検査の成績、ヘリコバクター・ピロリ菌感染状況と食生活・栄養状態との関連については今後の検討が必要である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)