農山村における中高年女性の健康実態把握と健康増進対策に関する研究

文献情報

文献番号
199700367A
報告書区分
総括
研究課題名
農山村における中高年女性の健康実態把握と健康増進対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
山根 洋右(島根医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 杉村厳(旭川厚生総合病院)
  • 林雅人(平鹿綜合病院)
  • 野尻雅美(千葉大学看護学部)
  • 松島松翠(佐久綜合病院)
  • 山根洋右(島根医科大学)
  • 小山和作(日赤熊本健康管理センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康増進研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
4,550,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本の農山村が多様化し高齢化するなかで、農業の主幹労働力は益々女性農業者、とりわけ中高年女性に依存している。さらに、農業労働、兼業労働に加えて、家事、育児、老人の介護に従事しており、肉体的精神的負担は極めて大きいものがある。国際的に女性の「健康と権利」(Reproductive Health and Rights)が重要な社会問題として取り上げられていることと、日本が急速に超高齢社会へ進んでいることを考え、日本の農山村、漁村における中高年女性の健康実態とヘルスプロモーション対策のあり方を明らかにした。
研究方法
1996年から2年間にわたり、日本を縦断する調査研究チームを編成し、永年、各研究者が健康づくり支援活動を続けている都市近郊農村、農山村、農漁村を対象に、農山村の中高年女性の健康実態把握と健康増進対策に関する調査研究を行った。
1.日本を縦断して調査対象農村を設定し、農村、中山間農村、平地農村、地方都市近郊農村などの地域特性別比較を行った。調査対象地域は、北海道鷹栖町、秋田県大雄村、静岡県西伊豆村及び賀茂村、長野県臼田町、島根県佐田町、熊本県豊野村を対象とし、40-69歳の女性7、711名、コントロールとして40-69歳の男性6、311名について調査を行った。た。
2.農村の地域特性は、本研究グループにより「コミュニティ・プロフィール」調査票を作成し、地域特性把握と分析を行った。
3.農村コミュニティを対象に、中高年女性に関する既存資料、死亡小票、健康診断結果などを収集分析し、死因構造、死亡場所、疾病構造、健康構造などを明らかにした。
4.共通のライフスタイル調査票を用い、農村中高年女性の健康とライフスタイルの調査を、各調査対象地域で配布アンケート調査方式で行った。
5.「農村中高年女性ヘルスチェック調査票」を作成して、健康実態、特に更年期障害とその背景を共同調査し、その実態を解析した。
6.農山村地域特性別、年齢階層別「ヘルスケア・マネージメントチャート」を作成し調査結果を具体的なマネージメントのガイドラインとして地域医療福祉支援のため集約した。
7.中高年女性の健康問題の多角的に調査するため、各分担研究者が独自の中高年女性の健康問題調査テーマを設定し、調査班で研究結果の交流を行うとともに、対象地域の地域健康福祉政策に反映させた。
結果と考察
1.多様化する農村の実態とコミュニティ特性を明らかにするため、コミュニティ・プロフィールに関する調査票を作成した。対象とする農山村町村の特性をこれにより把握し、変貌する農村コミュニティの実態把握と問題の分析に有効であることを明らかにした。2.「農村中高年女性ヘルスチェック調査票」を作成した。また、地域特性別、年齢階層別の「中高年女性コミュニティヘルスケア・マネージメントシート」を作成し、農村女性の健康増進計画策定に有効であることを明らかにした。3.農村地域における中高年女性の全国縦断的健康実態調査を行った。1)中高年女性の健康状態は、加齢と共に「大変健康」「健康」と答える人が減少し、「やや不健康」「大変不健康」が増加していた。肥満度は、60歳代をピークに加齢と共に増加し、総コレステロール値は、40歳代から50歳代に顕著な増加が認められた。さらに、収縮期血圧も拡張期血圧も加齢と共に増加し、生活習慣病の危険因子が、中高年女性で増加していた。老後の心配については、各年代とも半数以上が「身体の病気」をあげ、ついで「心の病気」20%、「介護」10%、「経済」6%となっていた。50-60歳代では、「介護」が他の年代よりも多かった。女性の健康増進対策を40-50歳代に焦点を合わせて行う必要があり、合わせてメンタルヘルス、介護労働支援体制を強める必要を明らかにした。2)50歳前後で大多数の農村女性が閉経するものと推定された。肥満度や血圧では月経周期による群間の差は同じ年代間では認められなかったが、総コレステロール値では、40歳代、50歳代共に閉経群が月経有り群よりも高値を占めした。更年期障害は、血管運動神経障害5%、睡眠障害・神経症・知覚障害タイプがそれぞれ1%を占めた。強度の更年期障害は少数であった。更年期スコア(Kuperman Menopausal Index 安部変法)の増加と共に、生活習慣中、睡眠が顕著に低下していた。更年期スコア群別では、年齢および月経周期の有意な差は認められなかった。更年期スコアが高くなるに連れて、自覚的健康度、生活満足度は低下したが、血圧値、肥満度や総コレステロールとの関連を認めなかった。更年期スコアが高い人ほど「秘密を打ち明ける人の存在」の割合が減少していた。ソーシャルサポートが低いことが更年期障害度を高めているのかもしれない。また、更年期スコアの上昇とともに介護者の割合が増加し、専業農家の割合が減少していた。また、更年期障害にともなう精神的不安定さが影響しているのか「心の病気」を老後の心配とする割合も増加していた。3)更年期障害について共分散構造分析法を用いて解析した結果、更年期スコアが、月経周期、すなわち血清エストロゲン濃度よりも、生活役割における社会的心理的因子によって更年期障害症候群が影響されている可能性が強いことが明らかにされた。農山村中高年女性にみられる閉経期前後の愁訴については、ていねいな生活心理的要因の解析とカウンセリングが極めて重要と考えられる。4.各分担研究者により、共同調査と平行して個別テーマを設定し、調査研究を行った。個別研究テーマは、北海道「農村中高年女性の頭部CT健診と痴呆予防対策」「中高年女性農業従事者と酪農従事者の健康実態と対策」、秋田「農村中高年女性の経年的脂質動態と脂質上昇に関する経年的解析」、千葉「農村中高年女性の健康と生活習慣」、長野「農村中高年女性の生活と健康実態、特に健康度判定と社会的文化的要因」、島根「農村中高年女性の健康実態とヘルスプロモーション」、熊本「農村健康長寿者の実態と中高年女性の健康増進対策、特に住民参加型健康増進活動」である。
結論
1.全国縦断調査により、農村のコミュニティ機能、生活実態が多様化していることが明らかになった。今後、地域特性別に農村社会機能を追跡し、中山間地域の問題について総合的対策を検討する必要がある。2.中高年女性では、ライフスタイル、
生活意識、健康状態、地域健康福祉活動に、コミュニティの特徴、健康福祉対策、世代間ギャップなどの影響が顕著であり、世代別の対策や問題別ケアマネージメントが必要とされる。3.高年女性では、ADL低下、生活の質の低下、老人性痴呆への不安、虚弱老人への社会的サポート、社会的孤立などの問題を抱え、中年女性は、子どもの教育問題、農業労働と経営問題、後継者問題、多様化する就業問題、高齢者の介護問題、地域社会への参画などの問題を抱えており、総合的な健康福祉対策の樹立が課題となっている。4.中高年女性の更年期をめぐる愁訴群について解析し、共分散構造分析により更年期障害に関する行動モデルを明らかにした。内分泌機能のアンバランスよりも女性に関する心理的社会的諸要因の関与が愁訴群に大きな影響を与えていることが判明した。女性の全生活誌、ライフステージを包括した総合的な女性健康福祉増進政策(Woman Health and Rights)が農山村で展開される必要がある。5.本研究班により作成された市町村特性を把握する「コミュニティ・プロフィール」調査票、女性の更年期をめぐる愁訴群を把握する「女性ヘルスチェック」調査票、地域の年代階層別ヘルスケアを効果的にする進める「年代階層別ヘルスケアマネージメント・シート」が、農山村のみならず、地域の保健・医療・福祉の一体化、総合的健康増進(ヘルスプロモーション)政策に効果的であることを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)