男性同性間のHIV感染対策とその評価に関する研究

文献情報

文献番号
200727003A
報告書区分
総括
研究課題名
男性同性間のHIV感染対策とその評価に関する研究
課題番号
H17-エイズ-一般-004
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
市川 誠一(名古屋市立大学看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤未光(ひかりクリニック)
  • 内海 眞(高山厚生病院)
  • 鬼塚哲郎(京都産業大学文化学部)
  • 山本政弘(国立病院機構九州医療センター免疫感染症科)
  • 伊藤俊広(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
71,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
男性同性間(MSM)のHIV感染対策を促進することを目標に、当事者参加型の研究体制により、大都市部(東京、大阪、名古屋)、地方都市部(仙台、福岡、沖縄)での予防対策体制の構築、啓発資材・手法の確立とその効果評価、自治体の施策との連携、MSMの検査・受療行動促進要因の把握、MSMの受検動向の把握、ネット利用層の行動疫学調査を実施した。
研究方法
啓発資材の開発、普及活動をCBO(THCGV、Rainbow Ring、Angel Life Nagoya、MASH大阪、Love Act Fukuoka)が担い、啓発プログラムの評価や予防・検査行動に関する調査を研究者が担当した。
結果と考察
仙台ではゲイコミュニティへの啓発活動体制が整備され地域独自の資材配布が行われた。
東京では新宿の商業施設を介した啓発資材普及がコミュニティセンターaktaを中心に展開され、陽性者の手記朗読を軸とした「Living Together計画」は毎月100名前後の集客となり、他地域でも実施された。質問紙調査では新宿来訪頻度が多い者ほど啓発資材認知、感染リスク自認が高かった。
名古屋ではMSM対象のHIV検査会を継続し537人が受検した。受検者の過去1年HIV検査受検率は43%で、その内の約70%はこの検査会を受検していた。東海地域エイズ拠点病院受療者ではCD4陽性細胞数200/μl以下が全体の36%を占めていた。
大阪のドロップインセンターdistaの総来場者数は3年間で1.6倍となり目標を達成した。バー顧客対象の質問紙調査ではdista認知率、啓発イベントPLUS+の参加率が著しく増加していた。
福岡ではコミュニティセンターhacoを開設したことで、啓発活動が可視化するようになった。
沖縄ではHIV陽性者の質問紙調査からインターネットを介した予防介入の必要性が示された。
新たな調査手法としてRDS法を援用した携帯電話調査が開発され各地域共通の調査が可能となった。インターネット行動疫学調査では有効回答6,282件を得た。HIV陽性者の調査から予防、検査、医療、NGOの支援等へのアクセスを妨げる要因にエイズへの偏見や恐怖、自らのセクシュアリティへの否定的感情が挙げられた。
結論
CBOとの協働により啓発普及プログラムを評価する調査が新に開発・実施された。啓発に接触したMSMは検査や予防の行動に変化が見られ、コミュニティセンターは地域の啓発活動を定着し自治体との連携を促進した。本年度は沖縄の現状が把握でき、3年間の計画はほぼ達成した。

公開日・更新日

公開日
2008-06-04
更新日
-

文献情報

文献番号
200727003B
報告書区分
総合
研究課題名
男性同性間のHIV感染対策とその評価に関する研究
課題番号
H17-エイズ-一般-004
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
市川 誠一(名古屋市立大学看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤未光(ひかりクリニック)
  • 内海 眞(高山厚生病院)
  • 鬼塚哲郎(京都産業大学文化学部)
  • 山本政弘(独立行政法人国立病院機構九州医療センター免疫感染症科)
  • 伊藤俊広(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
男性同性間(MSM)のHIV感染対策を促進することを目標に、当事者参加型の研究体制により、大都市部(東京、大阪、名古屋)、地方都市部(仙台、福岡、沖縄)での予防対策の構築と促進、啓発普及の確立とその評価、自治体の施策との連携、MSMの検査・受療行動促進要因の把握、MSMの受検動向の把握、ネット利用層の行動疫学調査を実施した。
研究方法
啓発資材の開発、普及活動をCBO(THCGV、Rainbow Ring、Angel Life Nagoya、MASH大阪、Love Act Fukuoka)が担い、啓発プログラムの評価や予防・検査行動に関する調査を研究者が担当した。
結果と考察
各地域のCBOは独自の啓発資材を開発し、商業施設等を介して啓発普及を行った。東京、大阪のコミュニティセンター事業は啓発普及の拠点となり、名古屋、福岡にも事業が拡大された。ゲイCBOの当事者参加型研究により、HIV予防介入プログラム、アウトリーチ等の成果を評価する新たな調査(ゲイバー顧客対象の精密調査、MSM人口規模調査、携帯電話による社会的ネットワーク調査、プログラム参加者のインタビュー調査、エイズ拠点病院受療者の動向調査)が実施できた。質問紙調査によれば、東京、大阪では啓発資材は20-30歳代層に訴求し、検査行動、予防行動が促進されていた。名古屋ではMSM対象の啓発イベントとHIV検査会が継続され、過去7回の延べ受検者数は2671名で内69名がHIV陽性(2.6%)であった。東京で開発された「Living Together計画」は陽性者の視点を含めたHIV感染対策として他の地域にも拡大し、厚労省のエイズ対策キャンペーンにも活用された。沖縄ではエイズ動向調査と異なり同性間感染の割合が高い実情にあった。地方でもMSMのHIV/AIDSは増加しており、当研究班のCBOと他地域のゲイコミュニティとのネットワーク構築が必要であり、研究事業の継続が望まれる。
結論
MSMの現状を把握しコミュニティに基盤をおくCBOが研究者と協働して感染拡大への対応を担った。コミュニティセンターは地域の啓発活動を定着し自治体との連携を促進した。啓発に接触したMSMは検査や予防の行動に変化が見られた。Living Together計画は他の施策層にも有用と評価される。啓発普及プログラムを評価する新たな調査が開発・実施された。

公開日・更新日

公開日
2008-06-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200727003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
年間のHIV/AIDS報告数で最多を占める男性同性間の性的接触によるHIV感染について、当事者参加型の研究体制を構築し、訴求性の高い啓発プログラムを展開した。MSM(男性と性行為をする男性)への質問紙調査から、コンドーム使用行動やHIV検査受検行動は大阪、東京、名古屋で変化が見られ以前より高くなっている。啓発普及プログラムを評価する新たな調査法として、バー顧客対象の精密調査、RDS法を援用した携帯電話によるソーシャルネットワーク調査などが開発され、MSMを対象とした調査研究が大きく進展した。
臨床的観点からの成果
東京、名古屋、大阪のMSM対象の質問紙調査では、過去1年間のHIV抗体検査受検率が10-15%上昇していることが示され、一部のMSMでは早期にHIV感染を知る状況になりつつある。また、東京、大阪の一部のMSMでは予防行動が上昇している。これらのことは当面は検査によりHIV感染がわかりその報告が増え、AIDS発症のケースが抑えられ、そして将来的にHIV感染が抑えられるものと期待している。早期検査、早期治療、そして予防啓発が進むことで、医療費の抑制につながるものと考える。
ガイドライン等の開発
研究成果に基づき下記のガイドライン等を作成し全国の自治体・保健所エイズ担当者、拠点病院、NGO、養護教諭、研究成果発表会参加者に配布した。「男性同性間のHIV感染対策に関するガイドライン-地方自治体における男性同性間のHIV感染対策への対応とコミュニティセンターの役割と機能」(英文を国際エイズ会議、アジア太平洋エイズ会議にて配布)。「ゲイ・バイセクシュアル男性の健康レポート(2005年)」「ゲイ・バイセクシュアル男性の健康レポート2(2007年)」
その他行政的観点からの成果
厚生労働省エイズ施策評価検討会(2006年9月15日)会議資料を提示した。
研究班のプログラム拠点であるコミュニティセンターakta(東京)、dista(大阪)の成果は重点都道府県エイズ対策担当者連絡協議会(第2回、3回)やJICA主催のアジアエイズ担当者研修のプログラムに導入された。東京で開発されたNGO啓発プログラム“Living Together”は、厚生労働省のエイズ対策キャンペーン(2007年)の標語に活用された。
その他のインパクト
東京で開発されたNGO啓発プログラム“Living Together”は、2007年12月放送のFM東京の放送プログラムに取り上げられ、著名芸能人が陽性者の手記を朗読し、放送された。
研究成果発表会を日本エイズ学会総会(2005年-2007年)、日本公衆衛生学会総会(2005年/2007年)で行い、また愛知県内の養護教諭を対象にした講演会(2006年/2007年)、当事者コミュニティ向けの成果発表会を郡山(2006)、仙台、東京、沖縄(2007)で実施した。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
47件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
厚労省エイズ対策推進事業としてコミュニティセンター事業、およびLiving Togetherを標語としたキャンペーン、重点自治体エイズ対策担当課長連絡協議会への成果の紹介など。
その他成果(普及・啓発活動)
15件
各地域のNGOが複数の啓発普及活動を毎年繰り返している。5地域のNGO啓発普及活動×3年間で15回とした。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
市川誠一、張由紀夫、佐藤未光
MSMコミュニティにおけるコミュニティセンターaktaの役割と活動
保健医療科学 , 56 (3) , 203-234  (2007)
原著論文2
金子典代、内海眞、市川誠一
東海地域のゲイ・バイセクシュアル男性のHIV抗体検査の受検動機と感染予防行動
日本看護研究学会雑誌 , 30 (4) , 37-43  (2007)
原著論文3
市川誠一
わが国の男性同性間のHIV感染対策について-ゲイNGOの活動を中心に-
日本エイズ学会誌 , 9 (1) , 23-29  (2007)
原著論文4
Hidaka, Y., Ichikawa, S., Koyano, J.
Substance use and sexual behaviours of Japanese men who have sex with men: A nationwide internet survey conducted in Japan
BMC Public Health , 6 , 239-246  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-