化学物質による集団災害に関する研究

文献情報

文献番号
199700361A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質による集団災害に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
杉本 侃(日本中毒情報センター理事長)
研究分担者(所属機関)
  • 前川和彦(東京大学)
  • 小栗顕二(香川医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 災害時支援対策総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
分担研究1では適切な対象を選び、東京地下鉄サリン事件後2年を経過した時点での、サリンによる 身体的、精神医学的影響を患者対照研究によって明らかにする ことを目的とした。分担研究2では大規模化学災害において中心的役割を担う消防・救急機関に対し、危険箇所とその内容の把握、災害発生を想定した場合の現状を問い、今後の体制整備に役立つ情報を整理し、公開することを目的とした。
研究方法
分担研究1では(株)花王の曝露者7名と、性、年齢、職場のマッチした対照7名を対象に、東京消防庁でも曝露群27 名、対照群29名を対象に調査を実施した。基本健康情報、精神医学的評価、心的外傷性ストレ ス症状尺度、モーズレイ性格調査等によるneuropsychiatric assessmentを行った。 分担研究2では平成8年11月末に発送し平成9年3月末までに回収された全国925消防本部に対する、危険箇所の現状把握と災害発生時の対応についての文書によるアンケート調査の回答を詳細に分析した。
結果と考察
結果:分担研究1では34例中3例は悪夢、睡眠障害、回避反応などのPTSDの診断基準を満たしてい た。調 査した変数の内、神経行動評価テストで単純反応速度が曝露群で有意に延長していた。 また、聴覚脳幹誘発反応(III-V波間隔)、重心動揺検査での開眼時総軌跡長は生理学的 に期待される結果と相反した。また心電図上のQT間隔は、有機リン中毒に際して見 られる所見(延長)と相反するものであった。分担研究2では全国の消防本部のアンケート有効回答数は476であった。各消防本部が把握している危険箇所は化学工場・その他2190施設、その危険箇所において貯蔵蓄積されている危険物の種類は約300種類にも及んだ。消防法の危険物等に関する政令別表第1~第3に記されている物質と高圧ガス取り締まり法で規制されている特殊ガスの他多数の品名が挙げられた。考察:分担研究1では神 経行動検査の内、単純反応速度は検定基準をp=0.1とした場合、被曝群は対照群に比 して有意に延長しており(p=0.079)、かつ曝露の指標と正の相関を呈した。単純反応 速度は視覚、末梢神経伝導速度、中枢での情報処理能力、運動反応などのいくつかの 要素を反映している。同じ神経行動検査での数列記銘(逆唱)において、曝露群が対 照群に比して延長していた結果とを考え合わせると、サリンの長期の影響として広い 意味での記銘力障害があるものと考えられた。分担研究2ではアンケート調査で明らかとなった危険物の関与する事故が発生した場合には、その対応に高度な化学的専門知識と特殊な消火方法・器材などを要すと考えられ、既に調査した一般に消防署に配備されている装備では対応は容易ではない。物質の同定と正しい処理方法の情報入手に如何に対応するべきかとの課題が浮き彫りとなった。
結論
分担研究1ではサリンの長期的影響と考えられる結果がいくつか得られたが、統計学的に有 意な差を見出すには十分なものではなかった。今後は更に検討症例数を増やして、結 果の意味付けを確認する必要がある。分担研究2では事故当事者からの情報がないと危険物の内容の把握は現状では極めて困難である。この点を含め種々の問題を解決する方法に関し、解決策を提唱する必要がある。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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