施設内感染に係る赤痢アメーバ症等の原虫疾患の感染経路及び予防法の開発に関する疫学研究

文献情報

文献番号
200726012A
報告書区分
総括
研究課題名
施設内感染に係る赤痢アメーバ症等の原虫疾患の感染経路及び予防法の開発に関する疫学研究
課題番号
H17-新興-一般-028
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
竹内 勤(慶応義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 野崎 智義(群馬大学大学院 医学系研究科)
  • 橘 裕司(東海大学 医学部)
  • 牧岡 朝夫(東京慈恵会医科大学)
  • 所 正治(金沢大学大学院 医学系研究科)
  • 鈴木 淳(東京都 健康安全研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
11,050,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
明瞭な増加傾向を示す赤痢アメーバ感染のハイリスクグループである各種施設内居住者,及び異性愛感染が懸念される女性について原虫感染疫学調査を行うとともに、感染径路解明、予防法確立のため,遺伝子/抗原/タンパクの多様性解析法を確立する。併せて、持続性感染の形成機構、非定型アメーバの検索を行い,人獣感染の可能性を探る。以上を予防ガイドライン作成に反映させる。
研究方法
施設内疫学調査は糞便検査と特異抗原検出によった。女性はELISAによる抗体検出にて調査した。公衆衛生面での介入は同一のモデル施設において行った。培養法の改良、持続性感染機構の解明は従来同様に実施した。遺伝子多型性解析はtRNA-linked short tandem repeat (STR)を、表面抗原遺伝子はレクチンであるIgl1遺伝子を標的とし,塩基配列比較によった。タンパク網羅的解析はLC-ESI-MS/MSによって行った。サイクロスポーラ遺伝子多型解析は18SrRNAについて行った。霊長類の非定型アメーバはmultiplex PCRによって疫学調査を行い、併せて分離株の生物学的性状の解析を行った。
結果と考察
施設内アメーバ感染については、2施設のフォローを行ったが赤痢アメーバは見いだせず、ディロキサニド併用治療が優れている事が示された。女性の抗体値上昇は昨年に比してみられなかったが、陽性者の約70%はクラミジア抗体陽性で,異性間の性感染となりつつある事が示唆された。培養法の改良では嫌気性細菌の混合培養により、試験管内嚢子形成を初めて再現できた。tRNA-STRの多様性の検索では、アメーバ症の病型に対応する遺伝子多型を検出できた。Igl1遺伝子の多型解析では、従来の所見を更に強化し、5タイプに分類された。タンパク多型性解析ではMascot解析を用いて、タンパクの同定までをも行う事が可能となり,複数のタンパクのemPAI値も示され、株間等の明瞭な際が明らかになった。サイクロスポーラの遺伝子解析ではすべてのサンンプルが混合感染のパターンを示した。霊長類からは47頭中6頭で非定型赤痢アメーバが検出できた。これらのアメーバは赤痢アメーバとE. disparとの中間に位置している事が示された。
結論
各種施設内は確かに赤痢アメーバ感染のリスクを有するが,確実な治療法を確定できたので、ガイドラインの再改訂に記載する予定である。また、女性の赤痢アメーバ感染が異性愛行為による新しい感染経路であること、霊長類からも非定型赤痢アメーバのヒト感染の可能性が見いだされた事は重要であろう。赤痢アメーバの多様性の研究成果も,疫学調査上重要と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2008-05-02
更新日
-

文献情報

文献番号
200726012B
報告書区分
総合
研究課題名
施設内感染に係る赤痢アメーバ症等の原虫疾患の感染経路及び予防法の開発に関する疫学研究
課題番号
H17-新興-一般-028
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
竹内 勤(慶応義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 野崎 智義(群馬大学大学院 医学系研究科)
  • 橘 裕司(東海大学 医学部)
  • 牧岡 朝夫(東京慈恵会医科大学)
  • 所 正治(金沢大学大学院 医学系研究科)
  • 鈴木 淳(東京都 健康安全研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
知的障害者などの施設,及び女性の赤痢アメーバ感染疫学調査を行い、感染径路解明、制圧/予防法確立のため,遺伝子/タンパクの多型解析法を確立する。併せて、持続性感染の形成機構と治療法の策定を試み、非定型アメーバの感染状況と性状の解明を図る。以上を感染予防ガイドライン作成に反映させる。
研究方法
施設内感染疫学調査は糞便検査と特異抗原検出、時にPCRによった。女性はELISAにて調査した。公衆衛生介入は衛生教育を主体として行った。培養法改良、持続性感染機構解明は無菌培地、マウスモデルを基礎に実施した。遺伝子多型解析はDNAマイクロアレイ解析、tRNA-linked STR解析に、表面抗原遺伝子はIgl1遺伝子の塩基配列比較によった。Iglのワクチン能はハムスターの系で調べた。タンパク網羅的解析はProteinChip SELDI-TOF MSとLC-ESI-MS/MSによって行った。霊長類の非定型アメーバはmultiplex PCRによって疫学調査を行い、遺伝子を18SrRNA解析によって調べた。
結果と考察
新規8施設について原虫感染調査を実施したが、赤痢アメーバ以外の腸管寄生原虫のみが検出できた。フォローアップ延べ8施設ではアメーバは全く検出できず、ディロキサニド併用治療の優越性が示された。女性の抗体値は2007年に下降したが、全陽性者の約60%はクラミジア抗体陽性で,アメーバの異性間性感染は確実であろう。作成した持続感染マウスモデルではアメーバが粘膜表層に存在した。また嫌気性細菌の混合培養により、非定型アメーバの培養と赤痢アメーバ試験管内嚢子形成に初めて成功した。DNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子解析法を確立し、病原性に対応して変化する遺伝子群を同定した。tRNA-linked STR検索では、病型に対応する遺伝子型を検出できた。Igl1遺伝子は日本独自のものを含む5タイプに分類された。Iglのワクチン効果も優れていた。タンパク多型性解析では、タンパクの同定まで可能となり,株間等の明瞭な差異が示された。霊長類からは47頭中6頭で非定型赤痢アメーバが検出できた。これらのアメーバは赤痢アメーバとE. disparとの中間に位置している事が示された。
結論
施設内赤痢アメーバ感染の治療法はガイドラインに反映させる。女性の赤痢アメーバ感染が異性愛行為による感染によること、霊長類からの非定型赤痢アメーバヒト感染の可能性があることも感染径路を考える上で無視してはならない。赤痢アメーバの遺伝子/タンパク多型性の研究も,今後広く応用されよう。

公開日・更新日

公開日
2008-05-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200726012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
赤痢アメーバ感染のハイリスク2グループを同定し、疫学的な状況を解明し、感染径路を明らかにした。これにより女性における感染が異性愛行為による新しい性感染である事を示し、また赤痢アメーバのトレーシングのため遺伝子/表面抗原/タンパクの多様性解析の新規方法を確立し、ヒト型モノクロナル抗体作成等,種々の解析法の改良も行った。アメーバの持続性感染機構をも解明し、更に霊長類から遺伝子に変異がある新規な非定型赤痢アメーバを検出,同定し,人獣アメーバ感染の可能性を初めて具体性をもって示した。
臨床的観点からの成果
施設内赤痢アメーバ感染が多くは持続性感染の形をとる事を初めて示し、そのような例におけるアメーバの存在様態をマウスモデルを開発して解明した。また、治療に難治性であったこれらの持続性感染をディロキサニドなどの導入によって完全に治療できる事を初めて示し,体系化した。
ガイドライン等の開発
前回までの厚生労働科研による研究で、寄生虫の院内(施設内)感染防止のガイドラインを発表した(平成15年にメジカルフレンド社より、改訂2版として、アメーバ感染防止策を改訂した)。しかし,その後に持続性感染の実態が明らかになるにつれ、第1選択薬剤であるフラジールのみでは完治不可能という事が確認され、今期の研究でようやくフォロアーアップを完了し,治療体系を変更した。この内容を含み,一部改訂された公衆衛生対策をも取り込んだ3訂ガイドラインを作成中である。
その他行政的観点からの成果
感染症法改定以来の赤痢アメーバ症の増加は注目の的となっており、厚生労働科研評価委員会等のコメントで重要であるとのご指摘は何度か頂いたが、国の審議会レベル(厚生科学審議会など)での話題になったとは聞いていない。しかし、研究分担者の一人が東京都の職員であるため,東京都の衛生部では本研究分担者との話し合いが続いており、対応策の策定に向かう準備が始まる可能性がある。
その他のインパクト
日本経済新聞に施設内赤痢アメーバ感染が取り上げられたことがある。また、アメーバは同性愛者にも感染が広がっているため,毎年エイズ予防財団の補助で実施する「エイズに伴う日和見原虫感染症に関する講習会」で日本中から参加者を寄生虫学会、熱帯医学会、エイズ学会、感染症学会、臨床検査学会を通し、またエイズ診療拠点病院を通して募集し、年に200名に対して施設内アメーバ感染、同性/異性間の性行為によるアメーバ感染についても,他の事項共々講義をおこない、基本的な実技も実習で伝えている。

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
25件
アメーバで開発された方法を他種原虫に応用し,方法そのものの改良を加え,アメーバ研究に還元を図っている論文を含む
その他論文(和文)
26件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
47件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
クリプトスポリジウム症の治療または予防薬、特許第04061410号
その他成果(施策への反映)
1件
東京都での検討が準備されつつある段階にある。
その他成果(普及・啓発活動)
1件
国立感染症研究所の病原微生物検出情報に本研究班の成果を纏めて示し、啓発活動に寄与した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kobayashi S, Tachibana H, Takeuchi T et al.
Axenic cultivation of Entamoeba dispar in newly designed yeast extract-iron-gluconic acid-dihydoxyacetone-serum medim
J Parasitol , 91 (1) , 1-4  (2005)
原著論文2
Khalifa SAM, Kobayashi S, Takeuchi T et al.
Growth-promoting effect of iron-sulfur proteins on axenic cultures of Entamoeba dispar
Parasite , 13 , 51-58  (2006)
原著論文3
Makioka A, Kobayashi S, Takeuchi T et al.
Entamoeba invadens: cysteine protease inhibitors block excystation and metacystic development
Exp Parasitol , 109 (1) , 27-32  (2005)
原著論文4
Makioka A, Takeuchi T, Nozaki T et al.
Characteriztion of protein geranylgeranyltransferase I from the enteric protist Entamoeba histolytica
Mol Biochem Parasitol , 145 , 216-225  (2006)
原著論文5
Nozaki T, Takeuchi T, Haghighi A et al.
Diversity of clinical isolates of Entamoeba histolytica in Japan
Arch Med Res , 37 , 277-279  (2006)
原著論文6
Razmjou E, Kobayashi S, Nozaki T et al.
Genetic diversity of glucose phosphatse isomerase from Entamoeba histolytica
Parasitol Int , 55 , 307-311  (2006)
原著論文7
Makioka A, Kobayashi S, Takeuchi T et al.
Effect of artificial gastrointestinal fluids on the excystation and metacystic development of Entamoeba invadens
Parasitol Res , 98 , 443-446  (2006)
原著論文8
Takano J, Tachibana H, Fujimoto K et al.
Entamoeba histolytica and Entamoeba dispar infections in cynomologus monkeys imported into Japan for research
Parasitol Res , 97 , 255-257  (2005)
原著論文9
Suzuki J, Kobayashi S, Takeuchi T et al.
Profiles of a pathogenic-like variant with variations in the nucleotide sequence of the small subunit ribosomal RNA isolated from a parimate (De Brazza's Guenon)
J Zoo Wildlife Med , 38 , 471-474  (2007)
原著論文10
Mitra BN, Saito-Nakano Y, Nozaki T et al.
Rab11B small GTPase regulates scretion of cyteine protease in the enteric protozoan parasite Entamoeba histolytica
Cell Microbiol , 9 (9) , 2112-2125  (2007)
原著論文11
Chen Y, Cheng X, Tachibana H et al.
Seroprevalence of Entameoba histolytica infection in HIV-infected patients in China
Am J Trop Med Hyg , 77 (5) , 825-828  (2007)
原著論文12
Tachibana H, Yanagi T, Kobayashi S et al.
An Entamoeba sp. strain isolated from rhesus monkey is virulent but genetically different from Entamoeba histolytica
Mol Biochem Parasitol , 153 , 107-114  (2007)
原著論文13
Takano J, Tachibana H, Fujimoto K et al.
Comparison of Entamoeba histolytica DNA isolated from a cnomolgus monkey with human isolates
Parasitol Res , 101 , 539-546  (2007)
原著論文14
Tachibana H, Cheng X, Takeuchi T et al.
Primary structure, expression and localization of two intermediate subunit lectins of Entamoeba dispar that contain multiple CXXC motifs
Parasitology , 134 , 1989-1999  (2007)
原著論文15
Makioka A, Kumagai M, Takeuchi T et al.
Differences in protein profiles of the isolates of Entamoeba histolytica and E. dispar by surface-enhanced laser desorption ionization time-of-flight mass spetrometry (SELDI-TOF MS) ProtenChip assays
Parasitol Res , 102 , 103-110  (2007)
原著論文16
Tokoro M, Nakamoto K, Hussei AIA
Genotyping of Cryptosporidium species: current status and future direction
Parasitic zoonoses in Asian-Pacific regions , 3-7  (2006)
原著論文17
Hussein AIA, Nakamoto K, Tokoro M et al.
Technical notes for the genotyping of Giardia intestinalis
Parasitic zoonoes in Asian-Pacific region , 10-13  (2006)
原著論文18
Suzuki J, Kobayashi S, Takeuchi T et al.
Seroprevalence of Entamoeba histolytica infection in female outpatients at a sexually transmitted disease sentinel clinic in Tokyo, Japan
Jpn J Inf Dis , 61  (2008)
原著論文19
Suzuki J, Kobayashi S, Takeuchi T et al.
A survey of amoebic infections and differentiation of an Entamoeba histolytica-like varient (JSK2004) in nonhuman primates by a multiplex polymerase chain reaction
J Zoo Wildlife Med , 39  (2008)
原著論文20
Cheng X, Hayasaka H, Tachibana H et al.
Production of high-affinity human monoclonal antibody Fab fragments to the 19-kilodalton C-terminal merozoite surface protein 1 of Plasmosium falciparum
Infect Immun , 75 (7) , 3614-3620  (2007)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-