新型インフルエンザへの事前準備と大流行発生時の緊急対応計画に関する研究

文献情報

文献番号
200726001A
報告書区分
総括
研究課題名
新型インフルエンザへの事前準備と大流行発生時の緊急対応計画に関する研究
課題番号
H17-新興-一般-017
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
田代 眞人(国立感染症研究所ウイルス第3部)
研究分担者(所属機関)
  • 喜田宏(北海道大学大学院獣医学研究科)
  • 河岡義裕(東京大学医科学研究所分子ウイルス学分野)
  • 岡部信彦(国立感染症研究所感染症情報センター)
  • 高橋宜聖(国立感染症研究所免疫部)
  • 山田章雄(国立感染症研究所獣医科学部)
  • 小林睦生(国立感染症研究所昆虫医科学部)
  • 長谷川秀樹(国立感染症研究所感染病理部)
  • 小田切孝人(国立感染症研究所ウイルス第3部)
  • 西藤岳彦(独立行政法人農業食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所人獣感染病研究チーム感染症疫学解析ユニット)
  • 押谷仁(東北大学大学院医学研究科微生物分野)
  • 滝澤剛則(富山県衛生研究所ウイルス部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
222,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2003年後半以来、東アジアからアフリカにかけて、高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)が流行拡大しており、新型インフルエンザの出現と大流行が危惧されている。その際には未曾有の健康被害と社会機能の麻痺・崩壊が予想される。新型インフルエンザ大流行に備えて、健康被害を最小限にとどめ、社会機能の維持を目的として、事前準備と緊急対策の行動計画の策定とその実施に必要な理論的、技術的な基盤を確立・提供し、危機管理体制の確立に寄与することを目的とした。
研究方法
1.新型インフルエンザ出現機序の解明とそれに基づく出現予測方法の開発
2.新型インフルエンザ出現の予想方法および早期検知する監視体制の確立
3.新型インフルエンザウイルス迅速診断キットの開発・改良・普及
4.新型ワクチンの緊急開発・増産・供給・接種体制の確立
5.抗ウイルス剤の有効な備蓄方法と使用方法の確立
6.感染病理機構の解明に基づく経鼻投与ワクチン、組織培養ワクチンの開発
7.ウイルス解析及び各国の新型インフルエンザ対策計画の比較検討と調整
結果と考察
1.世界各地の遺伝子解析から、H5N1ウイルスはヒト型へ近づいている。2.新型インフルエンザ出現予測の感度と特異性を検討し、症例定義、診断検査ガイドラインを改定した。3.全H5N1ウイルスを検出するRT-PCR標準プライマーを設計、公開した。4.ベトナム株ワクチンを作製した。アルミアジュバント添加全粒子不活化ワクチンの非臨床、第1、2+3相臨床試験を行い、製造承認を得て、備蓄ワクチン製造に用いた。5.2001年以来タミフル耐性株は2%未満である。6.人のH5N1感染は全身感染であり、サイトカインストームと多臓器不全をもたらす。2重鎖RNA添加経鼻ワクチン、NA欠損組織培養ワクチンを開発した。
結論
現在のH5N1型高病原性ウイルスは依然トリ型だが、一旦感染すると致死率60%を超す重症疾患となる。徐々にヒト型への遺伝子変化が生じており、トリの間での流行が続けば、突然変異が蓄積し新型ウイルスへの変化が懸念される。その際、現在のトリ型ウイルスと同様に、インフルエンザとは異なる重症全身性疾患(ウイルス全身感染と、サイトカインストームによる多臓器不全)をもたらす可能性があり、未曾有の健康被害が危惧される。健康危機管理、公衆衛生上の事前準備と緊急対応体制の整備によって、新型インフルエンザ大流行による健康被害の最小化と、社会・経済機能の崩壊を防止することが必須である。

公開日・更新日

公開日
2008-05-02
更新日
-

文献情報

文献番号
200726001B
報告書区分
総合
研究課題名
新型インフルエンザへの事前準備と大流行発生時の緊急対応計画に関する研究
課題番号
H17-新興-一般-017
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
田代 眞人(国立感染症研究所ウイルス第3部)
研究分担者(所属機関)
  • 喜田宏(北海道大学大学院獣医学研究科)
  • 河岡義裕(東京大学医科学研究所分子ウイルス学分野)
  • 岡部信彦(国立感染症研究所感染症情報センター)
  • 高橋宜聖(国立感染症研究所免疫部)
  • 山田章雄(国立感染症研究所獣医科学部)
  • 小林睦生(国立感染症研究所昆虫医科学部)
  • 長谷川秀樹(国立感染症研究所感染病理部)
  • 小田切孝人(国立感染症研究所ウイルス第3部)
  • 西藤岳彦(独立行政法人農業食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所人獣感染病研究チーム感染症疫学解析ユニット)
  • 押谷仁(東北大学大学院医学研究科微生物学分野)
  • 滝澤剛則(富山衛生研究所ウイルス部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2003年後半以来、東アジアからアフリカにかけて、高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)が流行拡大しており、新型インフルエンザの出現と大流行が危惧されている。その際には未曾有の健康被害と社会機能の麻痺・崩壊が予想される。新型インフルエンザ大流行に備えて、健康被害を最小限にとどめ、社会機能の維持を目的として、事前準備と緊急対策の行動計画の策定とその実施に必要な理論的、技術的な基盤を確立・提供し、危機管理体制の確立に寄与することを目的とした。

研究方法
1.新型インフルエンザ出現機序の解明とそれに基づく出現予測方法の開発
2.新型インフルエンザ出現の予想方法および早期検知する監視体制の確立
3.新型インフルエンザウイルス迅速診断キットの開発・改良・普及
4.新型ワクチンの緊急開発・増産・供給・接種体制の確立
5.抗ウイルス剤の有効な備蓄方法と使用方法の確立
6.感染病理機構の解明に基づく経鼻投与ワクチン、組織培養ワクチンの開発
7.各国の新型インフルエンザ対策計画を比較検討
結果と考察
1.世界各地の遺伝子解析から、H5N1ウイルスはヒト型へ近づいている。2.新型インフルエンザ出現予測の感度と特異性を検討し、症例定義、診断検査ガイドラインを改定した。3.全H5N1ウイルスを検出するRT-PCR標準プライマーを設計し公開した。4.ベトナム株ワクチンを作製した。アルミアジュバント添加全粒子不活化ワクチンの非臨床、第1、2+3相臨床試験を行い、製造承認を得て、備蓄ワクチン製造に用いた。5.2001年以来タミフル耐性株は2%未満である。6.人のH5N1感染は全身感染であり、サイトカインストームと多臓器不全をもたらす。2重鎖RNA添加経鼻ワクチン、NA欠損組織培養ワクチンを開発した。7.国のガイドラインの策定・改定を行った。
結論
現在のH5N1型高病原性ウイルスは依然トリ型だが、一旦感染すると致死率60%を超す重症疾患となる。徐々にヒト型への遺伝子変化が生じており、トリの間での流行が続けば、突然変異が蓄積し新型ウイルスへの変化が懸念される。その際、現在のトリ型ウイルスと同様に、インフルエンザとは異なる重症全身性疾患(ウイルス全身感染と、サイトカインストームによる多臓器不全)をもたらす可能性があり、未曾有の健康被害が危惧される。健康危機管理、公衆衛生上の事前準備と緊急対応体制の整備によって、新型インフルエンザ大流行による健康被害の最小化と、社会・経済機能の崩壊を防止することが必須である。

公開日・更新日

公開日
2008-05-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200726001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
世界各国のH5N1ウイルスの性状を詳細に比較検討し、鳥ウイルスのヒト型への変身要因として、HAレセプター認識部位の変異とRNAポリメラ―ゼ変異による低温増殖性を示した。流行ウイルスの遺伝子の解析から、H5N1型はヒト型へ近づいていることを示した。またクロバエとネコについて、捕食と飛翔行動からクロバエ類がウイルス拡散に果す役割と、ネコ体内では効率よくH5N1ウイルスが増殖してウイルス感染伝播に関与する可能性を示した。
臨床的観点からの成果
鳥と人の全H5N1ウイルスを検出するRT-PCRプライマーを設計し、WHO標準法として公表した。簡易迅速診断キットLAMP法を開発し国内で市販された。H5N1感染症例、予想される新型インフルエンザの症例定義、診断検査方針を検討し、ガイドラインとしてまとめた。2001年以来の流行ウイルスの薬剤感受性と遺伝子変異を調べ、現時点での耐性ウイルスは1%未満であったが、治療後に剤耐性が出現する可能性を示唆した。H5N1ウイルスに対しては、治療にはタミフル通常量の2倍量で8日以上投与する必要を示唆した。
ガイドライン等の開発
本研究の成果は、すべて国の新型インフルエンザ対策行動計画(H17)、新型インフルエンザ対策ガイドラインの策定・改訂(H19)に提供された。また、感染症法、検疫法の改正(H20)の議論にも活用された。更に、WHOによる多くの勧告、ガイドラインの策定に応用された。
その他行政的観点からの成果
2004年ベトナム分離株に基づき、リバースジェティクスを用いて弱毒ワクチン製造候補ウイルスを作出した。アルミアジュバント添加全粒子不活化ワクチンを作製し、非臨床試験、第1相臨床試験を行った結果、免疫原性、安全性には問題はなく、ウイルス抗原の節約が可能であった。第2+3相試験を実施し、製造承認を申請した。この成果はWHO会議でも高く評価され、他国でも同方式による新型ワクチン開発を進めている。さらに2005年インドネシア分離株由来の備蓄用ワクチン(1千万人分)の製造に応用した。
その他のインパクト
H5N1型不活化全粒子ワクチンの中和抗体誘導能は低いが、マウスでは感染防御効果を付与でき、この因子は血清抗体であった。また、TLR3を標的とした2重鎖RNA添加経鼻ワクチンを開発し、マウスとサル実験で高い有効性および異なる亜型間での交叉免疫誘導を確認した。組織培養ワクチン開発を進め、MDCK細胞高増殖性のNA欠損A/VietNam/1194/2004株を作出した。弱毒化と高増殖性を兼ね備えた次世代ワクチン製造株開発の可能性が示された。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
92件
その他論文(和文)
34件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
73件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ichinohe T, Ito S, Hasegawa H* etal.
Protection against influenza virus infection by intranasal vaccine with Surfclam Powder as a mucosal adjuvant.
J Med Virol, , 78 , 954-963  (2006)
原著論文2
Asahi-Ozaki Y., Itamura S.,Hasegawa H*.etal.
Hasegawa H*., Intranasal administration of adjuvant- combined recombinant influenza virus HA vaccine protects mice from the lethal H5N1 virus infection.
Microbes and Infection , 8 (12) , 2706-2714  (2006)
原著論文3
Ichinohe T, Nagata N, Hasegawa H*,etal.
Prophylactic effects of chitin microparticles (CMP) on highly pathogenic H5N1 influenza virus.
J Med Virol. , 79 (6) , 811-819  (2007)
原著論文4
Ichinohe T, Kawaguchi A, Hasegawa H*,etal. 
Intranasal immunization with H5N1 vaccine plus Poly I:Poly C12U, a Toll-like receptor agonist, protects mice against homologous and heterologous virus challenge.
Microbes and Infection , 9 (11) , 1333-1340  (2007)
原著論文5
Noda T, Sagara H, Kawaoka Y. etal.
Architecture of ribonucleoprotein complexes in influenza A virus particles.
Nature , 439 , 490-492  (2006)
原著論文6
Muramoto Y, Takada A, Kawaoka Y. etal.
Hierarchy among vRNA segments in their role in vRNA incorporation into influenza A virions.
J Virol , 80 , 2318-2325  (2006)
原著論文7
Muramoto Y, Le TQ, Kawaoka Y. etal.
Molecular characterization of the hemagglutinin and neuraminidase genes of H5N1 influenza A viruses isolated from poultry in Vietnam from 2004 to 2005.
J Vet Med Sci , 68 , 527-531  (2006)
原著論文8
Ozawa M, Fujii K, Kawaoka Y.etal.
Contributions of two nuclear localization signals of influenza A virus nucleoprotein to viral replication.
J Virol , 81 , 30-41  (2007)
原著論文9
Hatakeyama S, Sugaya N, Kawaoka Y.
Emergence of Influenza B Viruses with Reduced Sensitivity to Neuraminidase Inhibitors.
JAMA , 297 , 1435-1442  (2007)
原著論文10
Horimoto T, Murakami S, Kawaoka Y.etal.
Enhanced growth of seed viruses for H5N1 influenza vaccines.
Virology , 366 , 23-27  (2007)
原著論文11
Ozawa M, Goto H,Kawaoka Y.etal.
An Adenoviral Vector-Mediated Reverse Genetics System for Influenza A Virus Generation.
J Virol , 81 , 9556-9559  (2007)
原著論文12
Hatta M, Hatta Y, Kawaoka Y. etal.
Growth of H5N1 influenza A viruses in the upper respiratory tracts of mice
PLoS Patho , 3 , 1374-1379  (2007)
原著論文13
Rigoni M, Shinya K, Kawaoka Y, etal.
Pneumo- and eurotropism of avian origin Italian highly pathogenic avian influenza H7N1 isolates in experimentally infected mice.
Virology , 364 , 28-35  (2007)
原著論文14
Shinya K, Watanabe S, Kawaoka Y. etal.
Adaptation of an H7N7 equine influenza A virus in mice.
J Gen Virol , 88 , 532-547  (2007)
原著論文15
Komagata O, Kasai S, Kobayashi M,etal.
Insecticide susceptibility of the blow fly, Calliphora nigribarbis Vollenhoven, collected in Yamaguchi Prefecture
Japan. Med. Entomol. Zool. , 57 , 205-209  (2006)
原著論文16
K.Sawabe, K. Hoshino, M. Kobayashi.etal.
Detection and Isolation of Highly Pathogenic H5N1 Avian Influenza A Viruses from Blow Flies Collected in the Vicinity of an Infected Poultry Farm in Kyoto, Japan, 2004.
Am. J. Trop. Med. Hyg. , 75 (2) , 327-332  (2006)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-