病院における震災後の診療機器等の復旧による診療機能の回復に関する研究

文献情報

文献番号
199700357A
報告書区分
総括
研究課題名
病院における震災後の診療機器等の復旧による診療機能の回復に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
河口 豊(国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 災害時支援対策総合研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大震災時にその直後から診療機能を復帰させるため、診療機器等の早期復旧が可能なように病院の職員が日常的に診療機器等を点検するためのリストを作成し、その実用性を検証することを目的とする。
研究方法
阪神・淡路大震災の被災地中心部の近くで、震災直後から積極的な診療活動を展開した病院及び診療機器の復旧に直接携わった企業を中心に次の研究協力者で研究組織を構成した。内藤秀宗(財団法人甲南病院 副院長)、永井国男(財団法人甲南病院 薬剤部長)、山田鈴子(財団法人甲南病院 手術部婦長)、松山文治(財団法人甲南病院 事務部長)、菊池正幸(鐘紡記念病院 臨床検査科長)、川端和彦(鐘紡記念病院 中央放射線部)、岡西 靖 (横浜国立大学 大学院)、長谷川昇((株)セントラルユニ大阪支社長)、杉野芳光(東芝メディカルサービス関西サービス株式会社 神戸営業所長)。まず、震災時、病院に期待する条件の設定、およびその条件下で診療機能を発揮するために必要となる診療機器の選別を、それぞれ災害時の活動経験から研究班員の討論によって決めた。次ぎに平成8年度研究「医療機関における震災後の診療機器等の復旧手法に関する研究」の結果、および本年度行った被害を受けた対象機器に関するメーカーへの調査をもとに、機器の特性に応じた震災対策をまとめ、病院職員が自ら点検を行うことを前提に日常点検リストの作成を試みた。その点検リストで災害拠点病院における実地調査を試行しリスト内容の見直しを行った。
結果と考察
まず、検討条件の設定に際し、次の7項目を取り上げた。(1)対象病院として被災地中心部にある災害拠点病院および隣接の中継病院とする。(2)対象期間は震災直後~2日(緊急搬入期)および3~5日(患者搬送期)とした。その後は外部条件が大きく変わると考える。(3)外部環境としては水、電気の一部が使用可能またはそのどちらかが一部使用可能とした。全くライフラインが途絶えた場合は病院としては機能しない。(4)対象傷病は緊急搬入期では各種傷害・尿閉・クラッシュ症候群・循環器疾患・分娩(外来)、呼吸器疾患・循環器疾患・術後患者・未熟児管理(入院)とし、患者搬送期は慢性疾患の急性増悪・在宅医療患者の緊急対応(外来)、術後患者・慢性疾患の急性増悪・未熟児保育(入院)とした。(5)職員は不十分であるがある程度確保できることを前提とした。全く職員がいない病院ではこれも機能しないといってよい。(6)薬剤・器材など物品はほぼ確保できるとした。阪神・淡路大震災後もこれら物品がなくて医療活動が中断したということはなかった。(7)診療機能のレベルは平時よりかなり低下する。大震災を経験していない関係者には通常の診療レベルを提供することを前提に考える者もいるが、そのためには莫大な資本投下を考えなければならず、非現実である。次いで、対象機器の選別を行い、阪神・淡路大震災後の診療経験や各種の資料から次の10分野52種類を選定した。1.分析用機器(6種)、2.救命機器(5種)、3.放射線機器(3種)、4.診断・治療用機器(6種)、5.血液浄化用機器(7種)、6.分娩・保育機器(3種)、7.薬剤部機器(4種)、8.手術・中材機器(5種)、9.情報処理用機器(6種)、10.情報伝達用機器(7種)。情報処理用機器や情報伝達用機器も、診療を進めるに当たってなくてはならない機器と考えリストに入れた。次ぎに診療機器メーカーに対する被害状況調査を行い、機器の設置条件と被害の有無などを調べた。阪神地区に営業拠点をもつ21社に依頼して、19社から回答を得た。質問項目は機器の被害状況・設置条件、被害を受けなかった場合の設置条件、病院に望む防災対策である。機器と配管の接続部での被害が多い、高い重心の機器の転倒、重量物の移動は少ないが制御部分の異常発生、カウンター等に設置した非固定機器の落下、などが確認できた。これらは平成8年度研究による医療施設への調査でもある程度判明し
ていた。今回震災直後に補修などで病院に入ったメーカー側からも確認できたといえる。そこで、診療機器の特性に応じた震災対策を考えるに当たり、まず(1)設備配管との接続関係から常時接続した状態の機器と使用時に接続する機器に分け、それを(2)重心の高低で2分類し、さらに(3)重量の軽重に分け、それらを(4)電気と水・ガスとの接続関係、という4段階で機器類を分類した。緊急時使用の機器類は電気あるいは電気・水との接続使用が多いことが明らかで、機器本体の安全性確保とともに電気・水との接続部対策が重要であることが改めて確認できた。そしてこれら日常の点検リスト対象機器となる計52種について、次のような方針で点検リスト用紙を作成した。(1)診療機器を使用目的別に分類、(2)阪神・淡路大震災の被害状況を例示、(3)点検項目は点検手順に配列、(4)点検結果での不備には補助手段(代替え手段を含む)を提示、補助手段でも機能維持対策として認める、というものである。この日常点検リスト案の検証を災害拠点病院において行った。実際に病院の各部門の現場で使えるか、使いやすいかをみたのである。平成9年12月から10年2月にかけて、北海道・東北・関東・東海・近畿地区の災害拠点病院から8病院を選択し、点検リストの試行を行った.予め点検リストを郵送しておき、調査当日は研究班員が院内の関係部門を巡回しながら、現場の医師、看護婦、技師等から回答をえ直接点検した.その結果、点検リストの質問項目は部分的に詳細な説明を要する項目があるものの、ほとんど問題なかった。病院側も災害マニュアルを作成するのに参考にでき比較的使用しやすいという意見が多かった.また、いくつかの意見が出たので点検リスト修正に当たり検討した.この調査は災害拠点病院の評価ではないが、いくつか指摘できる点を上げると、実際の病院側の体制はまだ災害時医療に対する計画・組織作りがなされておらず、災害時にはこの場所のこの機器は生き残るように処置しているというものがない。東海地域のある調査対象病院では東海地震対策のため機器の耐震固定や防災対策が充実していたが、他のほとんどの病院では機器の耐震固定等は実施されていない。防災という視点から組織の再点検をしている段階であったり、院内防災マニュアルも見直しをしている病院が多い。その他、酸素等の医療ガス配管が柔軟性のある銅管となっていたのは3病院と少なく、診療用機器類のメーカーを統一している部門も多くなかった。また血液浄化装置を備えていない病院もあり、クラッシュ症候群への対応が困難と考える。このような状況から、この点検リストは防災整備計画の標準としても利用できると考える。
結論
研究班の検討結果による機器点検リストおよび病院職員による点検方法は、防災拠点病院でも有用性が高いといえる。さらに防災整備計画の参考としても利用価値があると考える。しかし、この点検リストを有効に働かせるための前提条件として、緊急医療活動のための病院建築の確保、最低限のライフラインの状況、院外ネットワークを挙げているが、これらの条件とともに院内体制の整備が大きな要素である。災害拠点病院の現状は院内の組織体制の面での整備が未だ整っていない病院も多く、柔軟な体制を組まなければ日常的に行う機器点検リストも使われないし、いわんや災害の際に機器の復旧やそれに伴う診療機能も回復できない。今後は机上の組織体制でなく、実際的な柔軟な組織体制など点検リストを使用する側の研究を行う必要があると考える。

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