民間ボランティアネットワークの活用に関する研究

文献情報

文献番号
199700355A
報告書区分
総括
研究課題名
民間ボランティアネットワークの活用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
菅波 茂(菅波内科医院院長、AMDA代表)
研究分担者(所属機関)
  • 早川達也(市立札幌病院救命救急センター、AMDA日本支部緊急救援委員会委員長)
  • 鎌田裕十朗(かまた医院、AMDA日本支部ロジスティックス委員会委員長)
  • 中西泉(町谷原病院院長、AMDA日本支部副代表)
  • 山本秀樹(岡山大学医学部公衆衛生学助手、AMDA日本支部副代表)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 災害時支援対策総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
阪神大震災を契機に、災害時の救援活動における医療ボランティアの有用性が認識された。AMDAは、神戸市長田区において、医療ボランティアの受け皿の一つとして機能したが、この経験をもとに医療行為をはじめとする救援活動の責任の所在を明確にし、医療ボランティアを系統的に組織化することを目的に、1996年2月に全日本病院協会(以下全日病)及び日本医師会と共に地域防災民間緊急医療ネットワークを発足させた。この研究は、防災訓練への参加等を通じ、このネットワークの問題点を明らかにし、より効果的な医療ボランティアの展開と運用方法について検討することを目的とした。尚、1996年は、東京都足立区合同防災訓練に、1997年には、東京都立川市合同防災訓練への参加の他、複数の地方自治体による防災訓練への参加を行った。また、民間医療防災フォーラムを1997年、1998年に開催した。
研究方法
地域防災民間緊急医療ネットワークとして、1997年は東京都立川市合同総合防災訓練への参加、茨城県守谷町総合防災訓練への参加、七都県市合同防災訓練(埼玉会場)への参加、板橋中央総合病院防災訓練への参加、白鬚橋病院院内全館停電時防災訓練への参加を行った。また、全日病及び日本医師会と共に、第2回民間医療防災フォーラムを開催した。そして、AMDA緊急救援委員会及びロジスティックス委員会は、国内災害対応活動指針の検討を行い、またAMDA航空局、AMDA緊急救援委員会及びロジスティックス委員会は、国内災害対応活動におけるヘリの利活用について検討した。さらに、AMDA情報通信委員会は、国内災害対応活動における情報通信のあり方について検討した。
結果と考察
防災訓練では、トリアージ等傷病者対応訓練、ヘリを使った医療ボランティア派遣及び患者搬送訓練、情報通信訓練を実施した。民間医療防災フォーラムでは、関係団体と医療ボランティアの搬送のみならず、重症患者の広域搬送についての議論を行った。これらを通じて、まず医療ボランティアの役割について考察した。災害医療の主体は被災地内医療機関であることを銘記し、これの診療及び復旧支援こそが医療ボランティアの役割であることを確認する必要がある。その結果、医療ボランティアには、発災後迅速な展開が望まれるのみならず、被災地内医療機関の復旧が軌道に乗った暁には、可及的早期に撤収する姿勢が望まれることになる。また、災害医療の実践は、被災地内の災害拠点病院を中心として行われることが予想されるが、これを補完する活動としての他の医療機関の活動も重要である。医療ボランティアは、いずれにも展開し、柔軟に対応することが望まれる。これらを踏まえ、AMDA医療ボランティアによる災害支援活動を予想してみると、発災直後は、被災地近隣在住者による災害拠点病院への個人的支援が開始され、次いで地域防災民間緊急医療ネットワークを含む組織的支援が開始されることになる。現実的な対応を考えた場合、トリアージ及び初期治療だけではなく、発災後3日間を見据えた医療機関支援の具体策を見いだす必要がある。これには、受け入れ医療機関の側にも医療ボランティアの受け入れの具体策を求めていくことが必要である。一方、医療機関のみならず、行政及び医師会との連携が不可欠となるが、このような連携を行うためには、医療ボランティア自身が責任と社会性を持つことが必要であり、さらに行政、医師会が医療ボランティアを理解することによ
る相互信頼関係の確立が求められる。医療ボランティアの具体的な展開方法については、国内災害対応活動指針において、18名からなる救援医療チームのひな型を作成した。具体的な移動手段としては、ヘリを使用することが望ましいが、現在、主要ヘリ事業会社による輪番制での対応を推進中である。ヘリの利活用については、ヘリポートの確保が課題となるが、現在、全国展開の流通量販店の協力を得、店舗併設駐車場を場外離着陸場(臨時ヘリポート)として設置整備することを検討中である。大規模自然災害時における救援活動を円滑に遂行するためには、通信手段の確保が必要である。防災訓練の際、災害現場及び訓練実施医療機関から、衛星携帯電話等を用いて、情報発信を行った。その結果、特に衛星回線は、被災地の通信回線に負荷を掛けることなく運用できることから、災害時の通信手段として、有用であることが期待できることが明らかとなった。また、インターネットを介した汎用機器を用いての動画画像の発信、また可搬性のある機器での通信も可能となった。一方、具体的な運用方法の検討が必要である。また、被災地内で活動する医療ボランティア間、あるいは行政その他関係機関との連絡方法についても検討されるべきである。今後の課題としては、国内災害対応活動指針に沿ったシミュレーションが必要である。特に社会的責任を明確にする上で、AMDA本部における発災時のシュミレーションは重要である。また、派遣医療ボランティアチームの各地の防災訓練への参加により各地の行政機関との連携を強化していくことが望ましい。全日病救急委員会はじめ関係各機関との協議の上、積極的に推進していくことが必要である。
結論
医療ボランティアと行政、医師会の連携を確実なものとするためには、医療ボランティアが責任と社会性を持つことが求められるほか、行政及び医師会が医療ボランティアを理解することによる相互信頼関係の確立が必要である。具体策として、防災訓練や研修会、フォーラムなどの更なる充実と継続により"顔の見える関係"を構築することが重要である。次いで、医療機関の側に医療ボランティアの受け入れ方策の確立を求めることが必要である。医療ボランティアの展開には、ヘリの使用が望ましい。主要ヘリ事業会社による輪番制での対応を推進中である。通信手段の確保については、被災地内からの発信のみならず、被災地外からの発信、被災地内の救援組織間の情報交換においても重要である。具体的な手段としては、衛星回線を積極的に使用することが望ましいが、一方でバッテリーの問題や、使用についての習熟度の問題についても明らかとなった。地域防災民間緊急医療ネットワークの運用にあたって、特に情報の共有が有効になされるためには、医療ボランティアのみならず、電気・通信関係などの専門ボランティアとの連携が重要である。

公開日・更新日

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