災害時における自衛隊の初動医療の在り方に関する研究

文献情報

文献番号
199700354A
報告書区分
総括
研究課題名
災害時における自衛隊の初動医療の在り方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
桑原 紀之(自衛隊中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 箱崎幸也(自衛隊中央病院)
  • 山田憲彦(空幕首席衛生官付)
  • 畑田淳一(海幕首席衛生官付)
  • 後藤達彦(陸上自衛隊衛生学校)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 災害時支援対策総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、災害発生時における初動医療体制のうち、特にヘリコプターによる患者空輸時の搬送基準や管理要領を研究し、災害発生時の自衛隊の派遣システムや能力(特に医療救護活動)を自治体・国民等に広く提供する『自衛隊災害派遣小冊子』(仮称)を作成することにより、今後の災害医療活動を効果的に実施し広く国民に寄与するものである。
研究方法
(1) 自衛隊の災害派遣に関する全国アンケート調査
地方自治体(各都道府県・政令指定都市)59カ所、保健所 100カ所、都道府県医師会47カ所、国立病院 100カ所、日赤病院 47カ所の計 353カ所に郵送にて、『自衛隊災害派遣小冊子』(仮称)を同封しアンケート調査を依頼した。アンケート項目は、災害時の自衛隊派遣への具体的手続きが理解されているか, 災害時に自衛隊衛生活動に期待する事項等17項目と自由記入欄で自衛隊への期待・要望等に関して、アンケートを依頼した。
(2) 全国アンケート調査結果を基にした『自衛隊災害派遣小冊子』(仮称)の改訂
『自衛隊災害派遣小冊子』(仮称)の必要性、自衛隊の災害出動の要請方法・自衛隊医療活動の理解しやすさや各項目の削除・追加事項に関して全国アンケート調査を行い、調査結果を基に小冊子の改訂を行った。
(3) 全国ネット患者広域搬送の推進
諸外国の災害救急医療では、医療救援チームの派遣と共に、被災地から被災外への被災患者の搬送が重要視されているが、本邦では患者搬送の概念がはっきりしていない。今回は、本邦での被災患者の搬送 を行うための、問題点、解決方法の整理を行った。
結果と考察
(1) 全国アンケート集計結果
郵送回収率は、全体で69%(243ヶ所)であり各機関別の回収率の差はなかった。
・ 自衛隊への要請の必要性・具体的手続きの理解度
各機関とも、「自衛隊への災害派遣は都道府県知事からの要請が必要である」ことへの認識は80~95%であった。具体的要請手続きを「知っている」と回答した地方公共団体は、80%と高率であった。しかし、他の医療関係機関での「知っている」との回答は約10%前後と低率であった。
・ 災害時における自衛隊到達希望時刻
各機関とも約 60%の機関で 6時間以内での派遣を望むとの回答であった。12時間以内との回答を合わせると、 90%の施設が12時間以内での自衛隊の災害派遣を要望していた。
・ 災害派遣時自衛隊衛生に期待する事項
243施設からの複数回答の集計では、患者搬送, 衛生器材・医薬品の補給, 救護所の開設, 救命処置が7割以上の施設が期待する事項であった。また自衛隊衛生活動の中でも、災害時にも活動可能な臨床検査・放射線検査・歯科治療等に関しては、各機関の期待度は10%以下の低率であった。
・ 地域防災訓練に参加・自衛隊との共同訓練に参加
地域防災訓練に参加・自衛隊との共同訓練に参加に関しては、地方公共団体では100%であった。日赤病院・医師会では、地域防災訓練に参加では90, 70%、自衛隊との共同訓練に参加では50, 30%と高率であったが、国立病院・保健所ではいずれも50%以下であった。
・ 自衛隊との共同訓練実施内容
共同訓練が行われている114機関では、炊飯及び給水,人員と物資の緊急輸送,避難救助,被害状況の把握等が半数以上で行われていた。しかし、医療救援活動の実施は半数以下の機関であった。
・自衛隊との連携を強化するための必要事項
各機関とも、多機関での定期協議の開催が重要であるとの意見が多かった。地方公共団体では、地域防災訓練への自衛隊の参加がより必要との回答であった。
今回のアンケート集計から、地方公共団体の自衛隊災害派遣への理解・期待度は非常に高く、平常時の自衛隊との共同訓練も多くの自治体で定期的に行われており、自衛隊との連携は良好と考えられた。しかし、保健所や医療機関への自衛隊, 特に衛生活動に関しての理解は不十分であった。多くの機関の理解・期待度の高い項目は、患者搬送, 衛生器材・医薬品の補給, 救護所の開設等であった。阪神淡路大震災等の大規模災害を経験した地域からの回答では、災害時実際に支援を受けたり必要とした歯科治療や臨床・放射線検査の期待度も高かった。今後は、保健所や医療機関へのより一層の自衛隊衛生活動(臨床, 放射線検査や歯科応急治療等も含む)の広報に努め、衛生隊との連携強化や定期的な共同訓練を行うことも重要と考えられた。
(2) 『自衛隊災害派遣小冊子』(仮称)の改訂
243施設から回答では、自衛隊の災害出動要請方法, 自衛隊災害派遣活動, 自衛隊医療活動, 患者空輸時のより具体的な記載方法の要望が多く認められた。特に、災害派遣活動時の詳細な時程呈示と患者空輸時必要条件の要望が多かった。
災害派遣時の時程呈示に関しては、北海道南西沖地震・小谷村土石流災害時の時程呈示を行い、迅速な要請が効果的な災害派遣活動を可能にすることを強調記載した改訂を行った。ヘリコプター患者空輸時では、自衛隊のヘリコプターの能力, 各地方公共団体が日頃から準備すべきヘリポート, 患者空輸適応基準の記載,改訂を行った。
(3) 全国ネット患者広域搬送に関する研究
災害時の患者後方搬送においては、被災地から近隣地域への同心円状のヘリコプターを中心とした患者搬送が基本である。特殊な治療や治療に多大なマンパワーを要する病態が多発する事態においては、全国の専門施設の活用を念頭に置いた患者搬送システムが必要である。広域患者搬送の計画・実施に際しは、・ ~・ の諸問題がある。
・ 対象患者の選別基準。・ 搬出元及び受入空港における、病状安定化処置及びトリアージ。・ 航空機内の患者監視能力・治療能力。・ 受入空港地域の受け入れ病院の組織化。・ 医療情報(需要と供給)から、適切な飛行計画立案の方法論。
十分に機能する患者広域搬送を構築するには、上記問題の解決とともに多機関との密接な連携による現実的な計画作成が必須と考えられた。今後は、対象患者の選別基準, 搬出元及び受入空港における, 病状安定化処置及びトリアージ, 受入空港地域の受け入れ病院の組織化等に対する対応を検討し、現実的な飛行運用計画の作成を早急に行う必要がある。
結論
次年度以降今回作成した『自衛隊災害派遣小冊子』(仮称)をもとに、地方自治体・保健所・医師会・各医療機関との共同訓練を行い、小冊子の有用性の検証が必要である。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)