情報技術を用いた医療技術評価に関する研究

文献情報

文献番号
199700350A
報告書区分
総括
研究課題名
情報技術を用いた医療技術評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤尚子(九州大学教育学部)
  • 宮崎久義(国立熊本病院)
  • 阿南誠(国立病院九州医療センター)
  • 平林茂幸(麻生医療研究所)
  • 石塚隆男(亜細亜大学)
  • 田村義保(文部省統計数理研究所)
  • 川村治子(杏林大学)
  • 武藤正樹(国立長野病院)
  • 小泉俊三(佐賀医科大学)
  • 佐藤恵((財)医療情報システム開発センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 情報技術開発研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「情報技術応用」については、現在電子化されている診療報酬のデータ等を最新繁用情報技術を用いて患者個人別に時系列データベース化し、パス法等の共用情報フォーマットに落とし込めるシステムの開発を試みた。また、パス法に代表される構造的情報が医療の技術評価に応用可能かどうか分析した。「医療技術評価」については評価の指標を病院の平均在院日数に絞り込み、その現状、原因、対策の分析を行った。
研究方法
「情報技術応用」については現存のシステムにあるデータベースを読み込むソフトを構築した。またパス法のあり方、欠点、利点について文献レビューした。実際にパス法を上記データに適用した。「医療技術評価」については患者調査の入院票、退院票と医療施設調査を病院IDで連結し、平均在院日数と医療施設の特徴を統計分析した。またOECD97データベースと医療施設調査から平均在院日数と投入看護婦数の相関を分析した。経営技術・社会の3側面及び外来から入院、そして退院までのプロセスのマトリックスを作成し、九州の国立病院を中心とした事務長にそのマトリックスに従って在院が長引く理由についてアンケートした。その結果をまとめその対策を検討した。過去数年間に急速に平均在院日数が低下した2病院をフィールドにし、回数が低下した疾病を取り上げ、その理由をマトリックスに従って考察した。
結果と考察
結果と考察は下記の通りである。
1.「情報技術応用」
1)データベース作成システム
鹿児島大学のトータルオーダリングを前提としたTHINKシステムの中にしく瀬帰された医事、看護、疾病名システムの中のファイルのうち入院歴情報を持つデータを自動抽出するツールをUNIX上で開発した。次いでこれらの情報をPC上に横軸に時間、縦軸にケアのカテゴリーの2次元構造で展開できるViewerを作成した。過去のケースについて疾患別に比較検討することが可能となった。国立九州医療センターの医事データをPCに選択的に落とし込むシステムにより名前、年齢、疾患名、手術の有無等の基本情報のデータの抽出とデータベースの構築が可能となった。
2)パス法文献レビュー
パス法は手書きの簡単なものから電子カルテと連動したプルダウン方式の表示システムと多様で、医療チームのみならず患者経営者用のフォーマットもつくられている。
パス法が推進された背景としては、医療の効率化と質の向上、透明性の必要性、国際的な評価科学やマネージドケアの発展が考えられる。
パス法に求められる課題は職種や立場によっても異なっている。患者や家族に診療内容を理解させることにより主体的に医療に参加することが可能となり、看護婦やコメディカルには診療過程の把握が容易で業務の効率化や質の向上に資すると考えられ、医師には質の管理やインフォームド・コンセントの応用が考えられ、経営者や保険者には診療の無駄が省け、在院日数が減らされ、質の管理が可能となることが考えられ、行政や社会にとっては医療費総体が削減でき、集団での失意の管理が可能となることが考えられる。
実際には、慢性疾患や外来は適用が難しく疾病数も限られ、突発的な事情に対応し難く、運用にも手間や経費がかかる欠点があり、期待をすべて満たす方法論とはいい難い。
情報を関係者全員が共有することにより、各部門の自立性が保証され、かつ社会へ情報が公開されるという意味では大きな可能性を持っていると考えられる。
2.「医療技術評価」
1)日本及び国際比較によるの平均在院日数の分析
平均在院日数から総合病院、老人病院、外来入院比3以上の病院、それ以外の病院の4つに分類すると平均在院日数の分布は外来総合病院と老人病院と明確に区分され、その他の病院はなだらかな分布を示している。しかし平均在院日数が30日以下の短い病院でさえもが約15%の3カ月以上長期入院者を抱えている。このように日本の病院は未分化で、OECDデータでも看護婦の投入量は最も低いグループに属する。OECDや日本の総合病院のデータによると、平均在院日数と看護婦投入量は負の相関を示しており、平均在院日数の短縮には人材の投入の必要性が示唆される。
2)在院日数長期化理由と対策の分析
病院のアンケート結果からは、在院日数長期化理由として以下の問題点が考えられる。
? 管理的側面 i)検査機器等のスケジュール管理が不十分で待機が多い、等6項目
? 技術的側面 i)診療のガイドライン、診療基準スクリーニングガイドラインが不備である、等6項目
? 社会的側面 外来通院で治療を行うとして家族のサポートをえることが難しい、等6項目
それに対する改善方策は経営の強化、技術の向上、住民や患者の意識の変容が求められるが具体的な対策としては、増患対策、病床管理室の設置等の7点が考えられた。
3)成功2病院分析
平成6年の平均在院日数42.5日から平成9年の26.8日までほぼ半減した国立熊本病院ではまず院長の強いリーダーシップによってあらかじめ増患対策が用意され、院内で以下の対策が立てられた。?退院の促進 i)長期退院患者の転院、ii)長期臨床患者の治療間欠期の退院の促進、?入院の促進 i)新救急診療への積極的な取り組み ii)病診連携の促進 iii)人間ドック、脳ドックの再開、開始、?その他 i)手術前検査を外来で実施 ii)診療科別、病棟別の在院患者数、在院日数を院内で公開
同様に開院時に34.1日でほぼ1年間で24.1日まで平均在院日数が低下した国立九州医療センターの場合、各疾患毎に分析を試みた。その結果、有意に平均在院日数が低下したのは脳梗塞と慢性リウマチ疾患であった。共に入院時における退院計画の策定、後方病院の確保等各診療科での努力の結果と考えられる。しかし、病院としても各診療科毎の平均在院日数や、長期入院患者の存在等院内に公表するなど病院全体の意識づくりも並行して行われた。
結論
従来存在する電子情報をコンピュータ上で連携し、医療の技術評価に資するデータベースを作成することは可能であり、近年のPC並びに簡易ソフトの発達で普及したExcel等の分析ツールが使用可能であることが判明した。その際、パス法といわれる近年発達した技術評価の一手法は有用であるとの印象を得たが、まだ解決すべき課題は残っている。技術評価の焦点として平均在院日数を取り上げた結果、日本は世界の例外ぐらい長く、病院が老人福祉施設として機能していることが示唆され、平均在院日数の短縮にはその機能分化が求められる。しかし急性期病床においても日本の平均在院日数は長く、その点からは医療の質は相対的に低いと判断される。その改善方策としては人材の投入等が考えられるが、経営や技術、社会の側面から様々な長期化理由が考えられ、これらの課題を総合的に解決していく必要が認められた。中でも経営のリーダーシップが重要でトップダウンとボトムアップ、院内の経営の諸改善が必須の要素と考えられる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)