ICカード保健・医療・福祉システムの地域医療経済に及ぼす影響に関する研究

文献情報

文献番号
199700349A
報告書区分
総括
研究課題名
ICカード保健・医療・福祉システムの地域医療経済に及ぼす影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
松浦 覺(兵庫県総合保健協会)
研究分担者(所属機関)
  • 柳澤潤子(柳澤診療所)
  • 松尾武文(兵庫県立淡路病院)
  • 松浦尊麿
  • 後泰年
  • 大橋正典(五色町健康福祉総合センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 情報技術開発研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成元年3月1日より地域施行に入ったICカード保健・医療・福祉システムは数年を経ずして、地域試行の段階から社会システムとして定着し、平成4年度からは町民の半数以上がシステムに加入する迄に至った。そこで、このシステムの評価を定めるため運営状況の実体把握、住民・医師に対するアンケート調査などを行い、次いで地域医療に及ぼす経済的評価を明らかにするため本研究を計画した。カードシステム加入グループと未加入グループに別け、医療費の分析、調査を行い、さらに五色町医療費の在り方を調査し、兵庫県、淡路島1市10町と比較検討し、カードシステムの全体的影響を明らかにしようと考えた。又カードシステムにより住民の医療を受ける在り方、姿勢に変化を生じたか否かも、数値的に明らかにしようと考え、この研究を計画した。
研究方法
調査対象としては老人保健医療の受給者を選んだ、これは、年齢層が一定の幅の中にあり、有病者は殆どいわゆる生活習慣病患者であり、均質化している。又、老人保健医療のレセプトは全て町に返還されるため、その実体把握が容易であり、かつ正確であるためである。1)カードシステム運用開始前の1988年から年度ごとにレセプト内容を全て入力し、診療行為別、医療機関別、カードシステム加入グループ、未加入グループなどに分けて分析、調査した。2)1995年度までは1人で年間レセプト24枚以上、1996年度は1人で10枚以上有している者を頻回受診者とし、レセプト内容から同時期に、同様な疾患で複数の医療機関で同種の治療を受けた者を重複受診者と判断し、その数を調査し、頻回受診者、年間総受診者に対する率を算出した。3)「兵庫の国保・老健」から五色町および隣接し、人口規模の近似した一宮町、淡路島1市10町、兵庫県の医療費を様々の観点から分析、調査し、比較検討した。上記の調査成績からカードシステムが五色町医療費の在り方に及ぼした経済的影響を明らかにしようと計画した。
結果と考察
1)ICカードシステム加入者の1件当たり医療費は常に未加入者より10数%以上低額であった。入院、外来医療費に分けてみると、1996年度では両方とも未加入者の方が加入者より高額であった。とくに入院医療費においてその差が顕著であり、外来医療費ではその差は僅少であった。1996年度はカードシステム加入者グループで手術件数が多かった事による一時的減少と推定している。2)各種診療行為の医療費を算出し、加入者グループと未加入者グループとの差を調査したが、いずれも加入者の方が低額であった。このデータから町内医療機関と県立淡路病院を比較してみると町内医療機関では投薬重視の医療であり、県立淡路病院では検査費用が多額で医療の主点が検査に置かれていることが明らかであり、医療機関の機能分担の実体が明らかになった。3)入院日数、外来診療日数をICカードシステム加入グループと未加入グループに別けて調査してみると、何れも加入グループの方が短く、この事が加入グループの医療費の低額化の大きな要因と考えられる。情報の共有化による効率的医療の成果とも考えられる。4)「兵庫の国保・老健」より分析、調査した医療費の実体をみると、老人医療費の増加率(伸び率)は五色町では当初伸び率が高かったがその後低率となり1996年には兵庫県・淡路島1市10町より低率となっている。又1人当たり、1件当たり医療費は全て、兵庫県、淡路島1市10町より、明らかに低額であった。5)五色町民の1件当たり入院日数、外来診療日数なども県、1市10町に比し短縮していた。又、これらの結果は医療の効率的運営の成果と考えられ、医療費低額化の大
きな要因になっているものと考えられる。又、受診率も入院、外来とも非常に低率であったが、これまた医療費の低額化の要因と考えれる。6)重複受診の実体調査を行ったが、年を逐って重複受診率が減少し、1996年度にはカードシステム運用開始前の総受診者数の0.20%あったものが、1996年度には0.02%に迄下がった。以前実施したアンケート調査では医師側の意見としてカードシステム導入後、特定の医師を自己ならびに家族の主治医として定める、いわゆる「かかりつけ医-家庭医制度」の在り方が自然に育成されて来たという意見があったが、それを立証するものとして貴重なデータと言えよう。
結論
カードシステム導入により重複受診が減り医療機関の機能分担が明瞭になってきた、即ち一次医療機関からより高次医療機関という効率的な診療体制が整備されて来たように思われる。その結果が入院日数、外来診療日数の短縮をもたらし、カードシステム加入者の1件当たり医療費の低額化という結果に結びついているのではなかろうか。五色町の老人医療費が淡路島1市10町、隣接した一宮町、兵庫県と比較して低額であったのは、五色町の多年にわたる健康づくり活動、健康診断活動あるいは医療体制の整備などの努力の結果であろが、その中の中心的施策であるICカードシステムの貢献も評価されるべきものと考えている。

公開日・更新日

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